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INTERVIEW

SUPERBOOTH19: コルグ開発陣が語る、DAWとの組み合わせに最適なデスクトップ・シンセ、「minilogue xd module」

ドイツ・ベルリンで開催された世界最大のシンセサイザーの祭典、『SUPERBOOTH19』。開幕直前、新型volca「volca nubass」を発表して話題をさらったコルグですが(volca nubassの開発者インタビュー記事は、こちら)、同社の新製品はそれだけではありません。「minilogue xd」のバリエーション・モデル、「minilogue xd module」もお披露目しました。

1月の『The NAMM Show』でデビューした「minilogue xd」は、アナログ音源にprologue直系のデジタル・マルチ・エンジンを融合した新型シンセサイザー。prologue同様、ユーザーがプログラムしたオシレーターやエフェクトをロードすることが可能で、自由にカスタマイズできる点が大きな特徴になっています(prologueの開発者インタビュー記事は、こちら)。コンパクト・サイズながら4ボイス・ポリフォニック仕様で、モーション・シーケンスに対応した高機能ステップ・シーケンサーも搭載。一見すると、minilogueの改良版・後継機という印象の「minilogue xd」ですが、その中身は大きく異なっており、ここ数年のコルグ製シンセサイザーの集大成的な製品と言ってもいいでしょう。

そして今回発表された「minilogue xd module」は、その名のとおり「minilogue xd」をデスクトップ・モジュール化した製品。サウンドや機能、パネル・レイアウトはそのままに、鍵盤を省いて筐体をスリムにすることで、コンピューター中心の制作環境にフィットする使い勝手の良い製品に仕上げられています。そこでICONでは、開発を手がけた株式会社コルグの山田嘉人氏(開発リーダー/電子回路設計担当)と、ノロ・エベール エティエン氏(OS/DSP開発担当)にインタビュー。新世代シンセサイザー「minilogue xdminilogue xd module」のコンセプトと機能について、じっくり話を伺ってみました(記事の中では、両機を総称して「minilogue xd」と呼ぶことにします)。

KORG - minilogue xd module

minilogue/monologue/prologueの良い部分をすべて盛り込んだ「minilogue xd」

——— 2016年に発売されたminilogueは、本格的なポリフォニック・アナログ・シンセとして今でも高い人気を誇っています(minilogueの開発者インタビュー記事は、こちら)。そのminilogueを「minilogue xd」としてアップデートしたのはなぜですか?

山田 単純に、昨年発売したprologueのハイブリッド音源を1機種だけにとどめておくのはもったいないと思ったからです。prologueの開発は、アナログ・シンセにデジタル・オシレーターを融合したらおもしろいんじゃないかと見切り発車的にスタートしたのですが、実際に取り組んでみたら想像以上に感触が良かったんです。例えばベースなんかでも、FMオシレーターにはデジタルならではの音の太さがあるので、それにアナログの音を足すと、とても存在感のある音になる。倍音の無いピュアなサイン波も、アナログ回路では絶対に出せませんし、両者には違った強みがあるんです。“ハイブリッド・シンセ”という言葉は昔からありますが、prologueの開発を通してその可能性の大きさを再認識したので、より多くの方に触れていただけるように、minilogueのハイブリッド音源バージョンを企画しました。

エティエン 加えて、ユーザー・オシレーター/ユーザー・エフェクトの開発者の裾野を広げたかったというのも動機の一つです。prologueは、ユーザーがプログラムした自作のオシレーターやエフェクトをロードできるのが大きな特徴なのですが、対象機種がprologueだけではプログラマーのモチベーションが上がらないのではないかと感じていました。プログラムしたオシレーターやエフェクトがminilogueでもロードできるようになれば、開発に取り組む人の数がもっと増えるのではないかと思ったんです。

——— prologueのデジタル・マルチ・エンジンを搭載すること以外に、何か新しいアイディアはありましたか?

山田 minilogue、monologue、prologueと、アナログ・シンセを3機種続けて開発してきたわけですが、実は製品ごとにアプローチは異なっていたんです。minilogueは、microKORGのように普段は鍵盤を弾かないギタリストやヴォーカリスト、プロデューサーの方などをターゲットにしていました。monologueは、ガジェット系楽器を組み合わせてマシン・ライブを行なっているような、“シーケンスありき”の人がターゲット(monologueの開発者インタビュー記事は、こちら)。そしてprologueは、しっかり鍵盤が弾けるキーボーディストがターゲットで、実は3機種ともあえてフォーカスを絞っていたんです。しかしそれぞれに良さがあるので、今回の「minilogue xd」ではあえてフォーカスを絞り込まずに、過去3機種の良い部分をすべて盛り込んだ製品にしようと考えたんです。なので「minilogue xd」は、1台であらゆる用途に対応する、とても柔軟な楽器に仕上がっています。

KORG - minilogue xd module

prologueとminilogue、そして「minilogue xd」

——— それではその機能と仕様を詳しく伺っていきたいのですが、アナログ音源部はminilogueと同じなのですか?

山田 VCOが2基、VCFが1基、EGが2基、VCAが1基、LFOが1基という基本構成は一緒ですが、サウンドは大幅に変わっています。最も違うのがVCFで、2ポール仕様ではあるんですが、レゾナンスを上げたときのピークが立ちやすい派手なタイプの回路を搭載しています。 ざっくりと言えばブライトなサウンドで、minilogueのややダークな音作りとは対極にある感じですね。minilogueには無いドライブも追加しているので、prologueに近いタイプのVCFと言えます。

——— デジタル音源が追加されただけで、アナログ音源部は完全にminilogueと同じなのかなと思っていました。アナログ音源部が違うということは、ユーザーは「minilogue xd」購入後もminilogueを手放せませんね。

山田 そうですね。minilogueの後継機と思っている方もいらっしゃるようですが、引き続きminilogueの販売は行いますし、まったく別のシンセとして捉えていただいた方がいいかもしれません。minilogueは、デジタル成分がほぼ無いシンプルかつクラシカルなサウンドのアナログ・シンセ、今回の「minilogue xd」は、prologueのデジタル・マルチ・エンジンを搭載したモダンなハイブリッド・シンセという棲み分けです。

——— アナログ音源部は、VCF以外はどのような違いがあるのですか。

山田 VCOはほぼ同じですが、EGなども微妙に異なっています。我々は最近、毎年新しいアナログ・シンセを開発しているので、各ブロックの設計やシグナル・パスなどは地道に改良を重ねているんです。従って「minilogue xd」の回路は、よりブラッシュ・アップされたものになっていて、それはサウンドにも現れていると思います。

ユーザーがプログラムしたオシレーター/エフェクトをロードし、カスタマイズすることが可能

——— 「minilogue xd」の肝であるデジタル・マルチ・エンジンについておしえてください。

エティエン prologueとまったく同じものを搭載しています。ノイズ・ジェネレーター、VPM(Variable Phase Modulation)オシレーター、ユーザー・オシレーターの3種類の音源タイプを使い分けることができ、処理能力やできることはprologueと完全に同一です。

山田 VPMオシレーターは、2オペレーターのFMオシレーターで、アナログ音源では難しい金属的な音を生成することができます。ノイズ・ジェネレーターは、4タイプのノイズを切り替えることができ、パーカッションやSEのサウンド・ソースにバッチリですね。ユーザーはこのデジタル・マルチ・エンジンを、2基のアナログVCOと同時に、3基目のオシレーターとして使用することができます。

——— デジタル・エフェクトもprologueと同じですか?

エティエン 32bit浮動小数点処理の高品位なデジタル・エフェクトで、基本的には同じなんですが、「minilogue xd」ではモジュレーション・エフェクト、リバーブ、ディレイの3種類を同時に使用できるようになりました。もちろん、ユーザー・エフェクト・スロットも用意されており、SDKを用いて開発したエフェクト・プログラムをロードできるようになっています。

KORG - minilogue xd module

——— ユーザー・カスタマイズ機能について、あらためておしえていただけますか。

エティエン 「minilogue xd」のデジタル・マルチ・エンジンには16個の“ユーザー・オシレーター・スロット”、デジタル・エフェクトにも16個の“ユーザー・エフェクト・スロット”が用意されており、オリジナルのオシレーターやエフェクトをロードすることが可能になっています。“logue SDK”と呼ばれるSDKはprologueと共通で、プログラマーはC言語でオシレーターやエフェクトをプログラムするというフレームワークになっています。ゼロからハードウェア・シンセサイザーを作るのは難しいですが、「minilogue xd」ではオシレーターとエフェクト以外の環境はすべて整っているので、プログラマーは波形生成と音処理のプログラムに集中できるというのがポイントですね。

山田 ユーザー・オシレーターは、その名のとおり本当に単なるオシレーターなんです。プログラマーは、その後段のVCFやVCAのことや、それをポリフォニックで鳴らすためにはどうしたらいいかとか、余計なことは一切考えなくていい。そういった機能はすべて「minilogue xd」が持っているわけですからね。プログラマーは、1波形分のループをプログラムするだけでいいんです。もちろん、C言語でプログラムする必要があるので、一般の人には少し敷居が高くなってしまいますが、自分で作ったオシレーターをハードウェアで鳴らすのは、とてもおもしろいですよ。

——— prologue用にプログラムされたオシレーターやエフェクトもロードできるのですか?

エティエン 完全互換なので、もちろんロードできます。prologueの発売から約1年が経つので、ユーザー・オシレーター/ユーザー・エフェクトはどんどん増えていますね。FMオシレーターのバリエーションや、ウェーブシェイピングを元にした特殊なオシレーター、ウェーブテーブルFMオシレーターなどなど……。

山田 プログラムに取り組む人たちは徐々に増えている印象です。公開されているユーザー・オシレーター/ユーザー・エフェクトはフリーのものが多いですが、中には有償のものもあったりします。それらはコルグのWebサイトで紹介していて、ユーザーはダウンロードして使用することができます。「minilogue xd」へのロードも、専用のライブラリアン・ソフトウェアにドラッグ&ドロップするだけなので、とても簡単です。

KORG - minilogue xd module

ユーザーがプログラムしたオリジナルのオシレーター/エフェクトをロードできる点は「minilogue xd」の大きな特徴

monologueに搭載されているものをベースに、ポリフォニック化した高機能ステップ・シーケンサーを搭載

——— シーケンサーは、どのような仕様になっていますか?

山田 monologueのシーケンサーがかなり評判が良かったので、あれをポリフォニック化したものを搭載しています。リアルタイムRECとステップRECの両方に対応した16ステップ仕様のシーケンサーで、monologueのように16個のステップ・ボタンを使った音の差し替えやエディット、パフォーマンスなどが行えます。もちろんモーション・シーケンス対応で、連続的な変化だけでなく、ステップ単位の断続的な値も記録できるのがポイントです。

エティエン 好評のマイクロ・チューニングも利用できます。機能的にはmonologueと同じですが、新たにDorian Conceptが作成したプリセット・チューニングが追加され、ファクトリー・チューニングは23種類に増えました。もちろん、Aphex Twinが作成したプリセット・チューニングも引き続き搭載しています。

山田 実際に使ってみると、モノのマイクロ・チューニングとポリのマイクロ・チューニングって、けっこう耳障りが違うんですよ。マイクロ・チューニングが好きな方には、ぜひそのあたりも体験していただきたいですね。マイクロ・チューニングはアナログ音源部だけでなく、デジタル・マルチ・エンジンにももちろん適用されます。

——— その他、minilogueとの違いというと?

山田 ダンパー端子が備わり、出力がステレオ仕様になるなど、入出力が充実しています。アサイナブルのCV入力端子も2基備わり、Eurorackモジュールなどを接続できるようになりました。CV入力端子はprologueにも備わっていないので、シリーズ初搭載ということになります。CV入力端子では外部からモジュレーションなどが行えるほか、一方をGateに設定すれば、外部シーケンサーで内蔵音源を鳴らすこともできます。

エティエン あとは有機ELディスプレイのサイズも大きくなっていますね。1インチから1.3インチになったので、面積的には60%くらい大きくなったことになります。minilogueを知っている人は、かなり大きくなったと感じると思います。

KORG - minilogue xd module

「minilogue xd」では、minilogueと比較して有機ELディスプレイのサイズが約60%拡大

——— ブラック・カラーになったこと以外、筐体デザインはminilogueと同じですか?

山田 minilogueのデザインは各所で好評でしたので、筐体は基本的にそのまま生かしました。ただ、内部の回路はかなり増えているので、それを同じフォーマットに収めるのが大変でしたね。それと細かいところですが、「minilogue xd」ではノブに指標が入っています。プリセットをロードした直後などは、ノブの値とパラメーター値が必ずしも一致しないので、minilogueではあえてノブに指標を入れなかったんですが、ユーザーから“指標があった方が操作しやすい”という意見がたくさん寄せられましたので、今回採用しました。

——— minilogueでデザイン的なアクセントになっていたスライダーは、「minilogue xd」ではジョイ・スティックに変更になっていますね。

山田 ユーザーからモジュレーション用の操作子が欲しいという要望が多く寄せられていたので、4方向に操作できるジョイ・スティックに換装しました。左右がピッチ・ベンド、上下がアサイナブルという仕様になっています。

minilogueでスライダーを採用したのは、操作面というよりデザイン的な理由が大きかったんです。今回も同じく未来的な佇まいにしたかったので、曲線的なパネルとスライダーの組み合わせを採用しました。このジョイ・スティックは金属製で、小型ながらも操作感がとても良いのが特徴です。

KORG - minilogue xd module

4方向に操作できるジョイ・スティックを新たに搭載

——— 開発で苦労したことというと?

山田 いろいろありますが、一番はパネル上のレイアウトですかね。minilogueと比べて圧倒的に機能が増えているので、それらを小さなパネルの中に使いやすくレイアウトするというのは苦労しました。でも苦労した甲斐あって、マニュアルを読まなくても直感的に使えるインターフェースになっているのではないかと思います。

——— これからショップで「minilogue xd」をチェックする人に、“ここに注目してほしい”という点があればおしえてください。

山田 何よりも音です。minilogueとはまったく違う世界が広がっていますので、ぜひチェックしてみてください。プリセットには敏腕アーティストによる作り込まれたシーケンスも入っていますので、新しいアルバムを聴くような感じで楽しんでいただけると思います。

エティエン プリセットは全部で200種類入っているんですが、minilogueとは完全に違う内容になっています。どれもイチオシなので、“このプリセットが一番”というのは決められないですね(笑)。ちょこっとシーケンスを聴き始めると、ずるずると聴き続けてしまうと思いますよ。

山田 ハイブリッド音源なので、プリセットのバリエーションも豊かになってますね。いかにもアナログというファットな音から、FM的なサウンドもたくさん入っていますし……。おすすめなのは、「minilogue xd」を2台繋いで、1台をシーケンス、1台をリズムとして使うシステムです。ちょっと贅沢ですけど、ELECTRIBEのような感覚で、かなり遊べると思います。

KORG - minilogue xd module

向かって左から、開発リーダー/電子回路設計担当の山田嘉人氏、OS/DSP開発担当のノロ・エベール エティエン氏

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