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プラグインを教材に、ヴィンテージ機材の音色変化と使いこなし術を学ぶことができるセミナーが開催…… 大阪は20日、東京は27日
Universal AudioのUADプラグインを教材に、ヴィンテージ機材の音色変化と使いこなし術を学ぶことができるセミナーが開催。講師を務めるのはエンジニア/プロデューサーの杉山勇司氏で、東京(6月27日)と大阪(6月20日)の2会場で開催されます。
DAW全盛の現在でも、多くのエンジニア/クリエイターが愛してやまない1950年代から1980年代に製造されたレコーディング機材。その音色変化と使いこなし術について、実機ではなくUniversal AudioのUADプラグインを使って解説するという、大変ユニークなセミナーが開催されます。講師を務めるのは、ヴィンテージ機材を知り尽くしたエンジニア/プロデューサーの杉山勇司氏で、名機と言われている機材の挙動やクセ、DAW上でのサウンドメイク術を詳しく解説するとのこと。杉山氏は2025年の今、ヴィンテージ機材をあらためて理解する意義について、以下のように語っています。
デヴィッド・ボウイなど、いわゆるレジェンドの音楽が現在のヒット曲と同列にいまだに聴かれているのには、“録音”の力が大きいと僕は考えているんです。つまり、ヒット・アルバムで使用された機材を研究する行為は、“次に来る音楽”を研究する行為と何ら変わらないんじゃないかと思っているんです。
セミナー『UADプラグインが引き継ぐビンテージ機材の真価』は、大阪会場(Rock oN 梅田店)は2025年6月20日(金)、東京会場(Rock oN 渋谷店地下のLUSH HUB)は2025年6月27日(金)に開催。開始時刻は18時で、受講料は5,500円(税込)、両会場とも限定20名での受付となっています。セミナーの開催概要と受講申し込みは、こちらのページをご覧ください。
セミナー開催を前に、講師を務める杉山勇司氏にUADプラグインを使い始めたきっかけと、お気に入りのプラグインについてお話を伺いました。
杉山勇司氏に訊く、UADプラグインの魅力と今回のセミナーの狙い
——— 杉山さんがUADプラグインを使い始めたきっかけは何だったのですか?
杉山 普段ライブ中継のミックスをする際は、できるだけ多くのNeve 33609を用意してもらっているのですが、某バンドのライブ中継をミックスするときに33609の台数の不足分の代わりにUAD-2 Live Rackを用意してもらったことがあって、そのときに初めてUADプラグインを使ってみたんですよ。そうしたらめちゃくちゃ良くて、DSPとチャンネルが許す限りたくさん使えるし、これは最高だなと。ほぼ同時期に自宅のLexicon 480Lの調子が悪くなってしまったこともあり、480Lなどのヴィンテージ機材の入れ替えができるのではないかと考えて、すぐにショップに行ってUAD-2を購入しました。最初、いちばん安いやつを買うつもりだったんですが、ショップの人から、“みんなDSPが足りなくなってすぐに買い換えるので、最初からOCTOにしておいた方がいいですよ”というアドバイスがあったので(笑)、UAD-2 Satellite OCTOを選びましたね。そこからどんどんプラグインを買い足していって、今はUAD-2 Satellite OCTOを4台使っています。

今回のセミナーで講師を務めるエンジニア/プロデューサーの杉山勇司氏
——— ヴィンテージ・モデリング系のプラグインは各社からリリースされていますが、UADプラグインはどのあたりが秀でているのですか?
杉山 僕はUADプラグインがモデリングしている実機を現場で使ってきた世代で、気に入っているアウトボードは自分でも所有して今も使ってていますけど、UADプラグインは本当に再現度が高いと思っています。いちばん感じるのが、入力レベルの違いによる音の変化。僕は0dB FSではなく0VUで仕事をしてきた世代なのですが、昔の感覚のままDAWにアナログ機材をインサートすると、赤は点灯していなくても音がデカ過ぎるせいで、音の印象がかなり違うんです。最初は、デジタルだし、こんなものかなと思っていたんですが、ある日ふと、“これはレベルを突っ込み過ぎなんじゃないか”と思って、0VUの感覚で入力レベルを下げていったら、以前の感覚の音になってくれて。つまり、アナログ・ハードウェアは動作レベルが重要ということなんですが、UADプラグインは入力レベルの違いによる挙動の変化が、本当によく再現されているんですよ。それとバイパスが、完全にスルーのバイパスではなく、しっかり回路を通ったバイパスになるのもいい。昔の機材は、通すだけでもかなり音が変わりますからね。UADプラグインは、そういった部分までしっかり再現されているんです。

Fairchild 670の実機

UADプラグインのFairchild Tube Limiter Collection
——— お気に入りのUADプラグインをおしえてください。
杉山 Fairchild Tube Limiter Collectionの660と、Teletronix LA-2A Leveler Collectionのシルバー。あとはNeve Dynamics Collectionの33609C、AKGのスプリング・リバーブ BX 20 Spring Reverb、それともちろんLexicon 480L Digital Reverb and Effects、AMSのRMX16 Expanded Digital ReverbとDMX Digital Delay & Pitch Shifterの両方…… もうたくさんありますね(笑)。最近気に入っているのが、実機も持ってますけど、Korg SDD-3000 Digital Delay。Korg SDD-3000 Digital Delayは、めっちゃいいです。実機は入力のヘッドアンプが良いんですけど、あの感じがちゃんと再現されてますよ。

杉山氏の作業中のPro Toolsセッション
——— Pro Tools | HDXシステムを使用されている杉山さんですが、最近Apolloも入手されたようですね。
杉山 そうなんですよ。Nav Katzeのボーカル録音でTelefunkenのV76を使いたいなと思ったんですが、UADプラグインにもラインナップされていることに気づいて、どうせだったらUnisonで使おうと思い、Apolloを導入したんです。もちろん、Pro Tools | HDXシステムとApolloを併用することはできないので、メインのMac Studioとは別にMacBook Proを用意し、それでボーカル録音をしています。Pro Tools | MTRXはそれほどでもないですけど、HD I/Oはファンの音がうるさいので、無音のApolloはボーカル録音用インターフェースとして最高ですね(笑)。ボーカリストの傍に置いても全然大丈夫。ちなみに、そのボーカリストを録るときのマイクは、今も昔もAKGのC-12Aで、30年前に録音したときはV76の実機を使っていたわけですけど、それが今はApolloとUADプラグインに変わったという感じですね。

Tektronix LA-2Aの実機

UADプラグインのTeletronix LA-2A Leveler Collection
——— 6月20日にRock oN 梅田店、27日にLUSH HUB(Rock oN 渋谷店の地下)で行われるセミナーは、どのような内容になるのでしょうか。
杉山 UADプラグインを教材に、ヴィンテージ機材がなぜ今も使われているのか、それが音楽制作にどのように役立つのかという話をしたいと思っています。デヴィッド・ボウイなどいわゆるレジェンドの音楽が現在のヒット曲と同列にいまだに聴かれているのには、“録音”の力も大きいと僕は考えているんですよ。つまり、ヒット・アルバムで使用された機材を研究する行為は、次に来る音楽を研究する行為と何ら変わらないんじゃないかと思っているんです。
コンプレッサーも、LA-2Aだったり1176だったり、みんな名前は知っていると思うんですけど、今回のセミナーでは、それらの違いを実際に音を聴きながら詳しく解説しようと思っています。たとえばオプティカル・コンプレッサーのLA-2A、光を使っているということは何となく知っている人でも、光で一体何をやっているのかというところまでは知らないと思うんですよ。有名なFairchildは、真空管で増幅率を変えるバリ・ミュー・コンプレッサーですし、“ゲインを変える”という処理ひとつを取ってみても、本当にたくさんの手法がある。そういった手法を理解すれば、プラグインの使い方が変わってくると思うんですよ。
限られた時間にはなりますが、ヴィンテージ機材の魅力を再発見できる良い機会だと思いますので、興味のある方はぜひ参加していただければと思います。当日は、僕が手がけたいろいろな曲を題材に使う予定なので、そちらもお楽しみに。