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製品開発ストーリー #16:コルグ minilogue 〜 4ボイスでフル・プログラマブル、そしてMOTION SEQUENCE対応!開発者が語り尽くす、新型アナログ・シンセの全貌
コルグは本日、来週開催のNAMM Showに先駆けて、新製品「minilogue(ミニローグ)」を発表しました。アルミ素材の美しい筐体が印象的な「minilogue」は、4ボイス・ポリフォニック仕様の新型アナログ・シンセサイザー。ここ数年、MS-20やARP Odysseyといった名機の復刻に力を入れていたコルグですが、今回発表された「minilogue」は、完全にゼロから開発されたまったく新しいシンセサイザーです。
内部は、VCO×2、VCF×1、EG×2、VCA×1、LFO×1という典型的な減算シンセサイザーの構成で、4つのボイスの発音方法は、“POLY”や“DUO”、“CHORD”など、8種類のモードから選択可能。MIDIディレイのような効果が得られる“DELAY”や、直前のボイスの音量を下げる“SIDE CHAIN”といったユニークなモードも用意されており、4つのボイスをフルに活用できる仕様になっています。
さらにパラメーターはフル・プログラマブル(!)で、作成した音色は最大100種類まで保存することが可能。「minilogue」のポテンシャルを生かしたファクトリー・プリセットも100種類用意されています。そして凄いのが、MOTION SEQUENCE対応(!!)の16ステップ・シーケンサーを搭載している点。これによりノブやスイッチの操作を記録し、完璧に再現することが可能になっています。これはかなり強力なフィーチャーと言っていいでしょう。
“新しいヴィンテージ”をテーマに開発されたというコルグの新世代シンセサイザー、「minilogue」。4ボイス仕様でフル・プログラマブル、ステップ・シーケンサー搭載、MOTION SEQUENCE対応と、正直、機能とスペックにここまで不満のないシンセサイザーも久々という印象です。しかも実売価格はなんと55,000円前後(!!!)。制作系の人はもちろんのこと、バンド系プレーヤーも大注目のシンセサイザーと言えそうです。
そこでICONでは、「minilogue」の開発を手がけた株式会社コルグ商品企画室所属の坂巻匡彦氏、開発1部所属の高橋達也氏、商品企画室所属の小林匡輔氏の3氏にインタビュー。その開発コンセプトと機能についてたっぷり語っていただきました。
minilogueの開発テーマは、“新しいヴィンテージ”
——— このところMS-20やARP Odysseyなど、アナログ・シンセの開発に積極的に取り組んできたコルグですが、昔の製品のリヴァイヴァルではない新しいアナログ・シンセはかなり久々だと思います。まずは「minilogue」開発のスタート・ポイントからおしえていただけますか。
坂巻 ぼくらはmonotronから再びアナログ・シンセに取り組み始めたわけですけど、あの製品の開発に着手した時点で、一つのマイルストーンというか最終目標としてMS-20の復刻というのがあったんです。それはMS-20 miniやMS-20Mで達成することができたので、次はまったく新しいオリジナルのアナログ・シンセをやりたいねと。MS-20と昨年のARP Odysseyによってアナログ・シンセの歴史をアーカイブして、過去の名機を真新しい状態で皆さんに提供するという役割を果たすことができたので、次は新しい歴史を作っていきたいなと、ごく自然な流れでスタートした感じでしたね。
高橋 プロジェクトがスタートしたのが1年半くらい前で、実際に開発作業に入ったのは1年ちょっと前のことです。一昨年(2014年)の暮れですね。
——— 今、新しいアナログ・シンセを開発するとして、その方向性はいろいろあったのではないかと思います。例えば、Dave Smith Instrumentsの製品に対抗できるような30万円超のシンセや、流行のEurorackモジュラーなど……。「minilogue」を開発するにあたっては、どのようなことを考えましたか?
高橋 monotronシリーズやMS-20でモノ・シンセはたくさんやりましたし、他社さんからもいろいろ出ているので、今回はポリ・シンセを作りたいなと思ったんです。ポリ数に関しては、8音とかにするとシンセというよりはガンガンに弾くキーボードという感じになってしまうので、4音くらいが制作にも使えて弾けるシンセとしてもちょうどいいかなと。あとはプリセットできるというのも最初から考えていたことで、4ボイスのポリ・シンセで、なおかつフル・プログラマブルというのが「minilogue」の大きなコンセプトでした。
坂巻 それとポリ・シンセのおもしろさをたくさんの人に知っていただきたかったので、リーズナブルな価格というのも最初からありましたね。ぼくも学生時代、DoepferのMS-404が欲しかったんですけど、あの値段でも高くて手が出なかったので(笑)、できるだけ価格は抑えたいなと。この値段(市場予想価格:55,000円前後)だったら制作の人たちをはじめ、シンセに興味あるギター・バンドの人たちとかにも使ってもらえるんじゃないかなと。
高橋 良いポリ・シンセ、イコール高価というイメージがあると思うんですけど、それって中古市場によって作られた価値観なんですよね。昔のポリ・シンセはレアでヴィンテージなわけですから、高価なのは当然で。でも、今回はポリ・シンセは高価というイメージはあまり意識せず、とにかくリーズナブルな価格で出したいと思ったんです。それによってポリ・シンセの良さを広めたいなって。
——— デジタル・シンセだったらともかく、アナログ回路の製品で、クオリティを維持しながら価格を落とすのは難しいのではないですか?
坂巻 いや、今の時代、それはやり方次第なんです。
高橋 コルグはmonotronからアナログ・シンセをリスタートしたわけですけど、一連のmonotronシリーズやMS-20シリーズ、そしてARP Odysseyに至る過程で、アナログ・シンセの設計と生産についてかなり学びました。この部分は単純化できる、効率化が図れるというノウハウを蓄積して、それに伴って生産体制もどんどんアップデートしていったんです。
坂巻 やろうと思えばmonotronやMS-20などを経ずに、最初から「minilogue」のような本格的なポリ・シンセを作ることもできたんですよ。でも、その場合価格はかなり高くなってしまったのではないかと思います。monotronシリーズ、MS-20シリーズ、そしてARP Odysseyがあったからこそ、この価格が実現できたということですね。アナログ・シンセをやっていないメーカーが、いきなりこの価格でやるのは無理です。
——— アナログ・シンセを謳いながら、一部はデジタル回路という製品もあったりしますが、そのあたりはどうなっていますか?
高橋 ディレイを内蔵しているんですけど、その遅延素子以外、音が通る部分はすべてアナログです。ディレイもエフェクト音を生成する素子だけなので、メインのシグナル・パスに関してはフル・アナログですね。
——— 37鍵で、この筐体サイズに落ち着いたのは?
高橋 置いて気持ちいいサイズということを考えました。一番気持ちいいサイズを考えたらこうなったという感じですね。
——— キーボードはARP Odysseyと同じスリム鍵盤が採用されているようですね。
坂巻 ARP Odysseyとまったく同じものです。タッチも一緒ですね。このスリム鍵盤って、凄くコードが弾きやすいんですよ。だから4音ポリの「minilogue」にはバッチリかなと。
——— 4ボイス仕様のポリ・アナログ・シンセでフル・プログラマブル、37鍵の置いて気持ちいいサイズ、そしてリーズナブルな価格。その他に考えたことというと?
坂巻 “新しいヴィンテージ”ということですかね。これはデザイナーに筐体イメージを伝えるときのワードだったんですけど、“新しいヴィンテージ”という言葉に「minilogue」のコンセプトが集約されている気がします。
音を重ねたときに気持ちいいコードが“ジュワっ”とくるシンセを目指した
——— 肝心のサウンドに関しては、どんな感じを狙ったんですか?
高橋 コードを鳴らして気持ちいいシンセを作りたいと思ったんです。コードでなくともオクターブ違いで音を重ねただけで、“ジュワっ”とくるサウンドというか(笑)。各音がよく馴染んでくれるポリ・シンセを狙ったんです。あと今回考えたのが、オシレーターが美味しいシンセということ。具体的にはウェーブシェイプで波形を変えられて、モジュレーションが充実したVCO。倍音の変化が楽しめるようなオシレーターを搭載したいなと思ったんです。
——— 回路的にはmonotronシリーズやMS-20シリーズ、あるいはARP Odysseyが叩き台になっているんですか?
高橋 いいえ。今回は「minilogue」のために完全にゼロの状態から設計を行ったんです。今の時代の新しい音源回路を作りたいなと思って、スクラッチから開発したというのは大きなポイントかもしれないですね。例えばmonotronシリーズも、フィルターに関してはMS-20をベースにしていて、言ってみればシンセ史から回路を借りているんですが、今回はそういうことは一切やっていません。すべて「minilogue」のために開発したものです。
坂巻 今回、音の方向性に関して、チームでコンセンサスを取ってないんですよ。monotronからアナログ・シンセの開発をスタートして、社内の知識やノウハウはすべて高橋くんに継承されていると思うので、もう彼にすべて任せてしまおうと。実際、開発途中の音をほとんど聴いてないですし(笑)。volcaのときはちょこちょこ彼のところに行って、試作機の音を聴かせてもらったんですよ。でも今回は本当に1回くらいしか聴いていない。ですからサウンドに関しては、完全に高橋くんの音世界ですね。
——— 先ほど音を聴かせてもらいましたが、確かにコードが“ジュワっ”として気持ちいいなと感じました。コーラスが入っているわけでもないですし、この“ジュワっ”とした感じの肝は何なんですか?
高橋 いや、何が肝というのはなくて、試して直して、試して直しての繰り返しです。もうチューニングしかないですね。
坂巻 でもそれって適当というのとは違って、長年シンセを作ってきた開発者の勘なんですよ。彼くらいになると、“こうすると良くなるんじゃないか”という勘が働いてくるんですよね。
高橋 こういう製品って、一度基板を起こしてしまうと、後で設計を変えるのが難しいんです。だから最初の試作機の段階から、後でいじりたくなりそうな部分は変更できる余地を残しておく。そして試作を重ねていくごとに、そういった部分がどんどん固まっていくというか。
——— VCOが2基、VCOとは独立したノイズ・ジェネレーター、VCFが1基、EGが2基、VCAが1基、そしてLFOが1基という典型的な減算シンセイザーという構成になっていますね。パネル・レイアウトもわかりやすく、マニュアルを読まずにすぐに使えそうです。
高橋 そうですね。直球な構成になっています。
坂巻 こういうハード・シンセの場合、構成でおもしろくするのって違うんじゃないかなと思っているんです。複雑なシンセはプラグインでたくさんありますし、あまりに構成が煩雑だと操作していて混乱してきますしね。こういう基本的な構成の方が音作りに集中できて、かえっておもしろいサウンドを作れるんじゃないかなと。
——— オシレーター波形は、鋸波、三角波、矩形波の3種類が用意されています。
高橋 “SHAPE”つまみを操作すれば、矩形波のPWと同じような変化が鋸波や三角波でも得られるのが特徴ですね。
坂巻 オシレーターの仕上がりにはよっぽど自信があるのか、社内プレゼンでも鋸波の音を何度も聴かせてましたね。“ほら、いいでしょ?”って(笑)。でも実際、かなりいいですね。鋸波って難しくて、派手すぎても使いづらいですし、逆に抑えた感じにすると物足りないですし。「minilogue」の鋸波は、ブライトさと暖かみが両立していて、ちょうどいい匙加減になっているんじゃないかと思います。
——— フィルターはスロープが2段階で切り替えられるようになっています。音作りの肝になる部分だと思うんですが、どのようなかかり具合を狙いましたか?
高橋 フィルターの設計は二転三転しましたね。やっぱりスクラッチで作ると、音を出してみないとわからない部分もあるので、途中でがっつり設計を変えたりして。開発途中での変更が一番多かった部分かもしれません。技術的な話をすると、ノートン・アンプ(電流差動型のOPアンプ)を4段重ねていて、ARP OdysseyのRev3に近い回路構成になっています。この回路の特徴としては、フィードバックが2系統あって、発振したときや発振直前に生じる歪みが独特なんですよ。あとは原音の下がり方にも特徴がありますね。
——— やはりポリ・シンセに合わせたフィルター回路ということになるのでしょうか。
高橋 そのとおりです。モノ・シンセの良いフィルターをそのまま持ってきても、あまり良い結果は得られないんですよ。同時に音がたくさん鳴ってもグシャグシャにならないフィルター回路になっています。
——— ARP OdysseyのRev3に近い回路構成とのことですが、かかり具合も似ていたり?
高橋 いや、構成は近くてもかかり具合は全然違いますね。言葉で説明するのは難しいんですが、カットオフを開いたときはしっかり音が抜けて、原音がない状態でレゾナンスを上げたときはきれいなサイン波が出る感じ。2ポールに切り替えると、ピークの立ち上がりがグッとなります。
坂巻 MS-20みたいな凶悪なフィルター(笑)ではないんですけど、かといってポリ・シンセにありがちな上品でつまらないフィルターとも違う。ぜひ実際にかかり具合を聴いていただきたいですね。
——— エンベロープ・ジェネレーターは、アンプ用とモジュレーション用で2基備わっていますね。
高橋 先ほど、シンセとしての構成は直球と言いましたが、エンベロープ・ジェネレーターでLFOのレートとインテンシティをモジュレートできるのは珍しいかもしれないですね。
坂巻 確かにプラグインとかではありますけど、ハード・シンセでは珍しいかも。特にレートをモジュレートできるというのは珍しいかもしれません。
——— ディレイを搭載したのはなぜですか?
高橋 自分がシンセを使うときに必ず欲しくなるからです(笑)。
坂巻 ディレイはmonotronとvolcaにも搭載して、シンセとディレイの良い部分を合体させておもしろくするというノウハウがあるので、入れなきゃもったいないかなと。でもmonotronやvolcaとは違うディレイですよ。
高橋 ディレイ・タイムは1秒くらいで、もちろんフィードバックを上げれば発振します。そして音が発振したところでハイパス・フィルターがかけられると。遅延素子以外、フィードバックやハイパス・フィルター、原音とエフェクト音のサミングなどはすべてアナログ回路です。なので“ジャリ”っという初期デジタル・ディレイのような質感と、アナログならではの暖かみのある音が上手くミックスしたディレイに仕上がっているんじゃないかなと。
ステップ・シーケンサーを搭載、MOTION SEQUENCEにも対応
——— 4ボイスの発音方法を決めるボイス・モードもたくさん用意されているようですね。
高橋 8種類から選べるようになっています。普通にポリ・シンセとして使える“POLY”をはじめ、2ボイスずつユニゾンで使うことができる“DUO”、4ボイス全部ユニゾンの“UNISON”、1ボイスをメイン・オシレーター、残りの3ボイスをサブ・オシレーターにしてモノ・シンセとして使える“MONO”、他にも“CHORD”や“DELAY”といったボイス・モードが用意されています。
坂巻 企画段階ではボイス・モードがおもしろいものになるか不安だったんですよ。こういう機能って、頭の中では“使えそうだな”と思っても、音色によってはあまり意味がなかったりするんです。しかし高橋くんがデザインした“ジュワっ”というサウンドのおかげで(笑)、どのボイス・モードでも良い感じに鳴ってくれますね。複数のボイス・モードを搭載した価値があったかなと。
高橋 ちなみに“DELAY”は、エフェクトのディレイとは関係なく、発音トリガーのディレイですね。MIDIディレイのような感じで、タイムを短くするとアタック部分が“ジャリ”っという感じになったり、逆にタイムを長くするとリズミカルな感じになったり、なかなかおもしろいと思います。
——— そしてこの「minilogue」、フル・プログラマブルというのが凄いですね。なおかつ16ステップ仕様のステップ・シーケンサーを搭載していて、すべてのパラメーターがMOTION SEQUENCEにも対応しているという。これはかなり凄い仕様なのではないかと思います。
高橋 プログラム非対応のシンセを後から対応させるのは大変ですけど、今回は最初からフル・プログラマブルにしようと思って設計したので。プリセットは200種類まで保存できて、ファクトリー・プリセットも100種類入っています。
坂巻 プログラマブルに関しては、volcaの開発で培ったノウハウが活きているんじゃない?
高橋 それはあるかもしれないですね。
坂巻 volcaってオートメーションが書けるじゃないですか。あれって言ってみればプログラマブルということなんですよ。
高橋 MOTION SEQUENCEに関しては、ノブだけでなくスイッチなどもすべてオートメーションできます。
——— 素晴らしい。今の時代、シーケンサーを搭載するならMOTION SEQUENCEできないとダメだと思うんですよ。現代のシンセサイザーならではの機能というか。海外の展示会に行くと、欧米のシンセサイザー・メーカーはMOTION SEQUENCEを使ったライブ・プレイを凄くアピールしていますよね。例えばELEKTRONとか。
坂巻 あそこのデモは狂ってますよね(笑)。
高橋 その点、「minilogue」のシーケンサーはかなり遊べると思います。パラメーターに1対1でノブやスイッチが用意されているので。
——— パラメーターの解像度は?
高橋 10bit/1,024段階なんですが、中で補完したりいろんな技を使っているので、パラメーターによって違います。基本的にはノブをグッと回した際、アナログ・シンセのように滑らかに変化するよう設計しました。
——— ということは、外部からMIDIでコントロールするのではなく、内蔵シーケンサーでコントロールした方がパラメーターを滑らかに変化できるということですね。
高橋 そういうことになりますね。ちなみにプリセットは音色だけでなくシーケンスも持っているのでかなり楽しめると思います。
坂巻 プリセット全体を作っているスタッフにはまだ入社2年目の新人もいて、普段はHercelotというアーティスト名で活動しているんですよ(笑)。その他、Jimmy Edgar、Richard Devineといった有名テクノアーティストも音色作りに参加しているので、プリセットにもそういう今風な音色がたくさん入っています。
高橋 そのあたりも“新しいヴィンテージ”という感じですよね。トラディショナルなアナログ・シンセなんですが、入っているプリセットは今風という。
アルミと木材を組み合わせた“プロト・タイプ感”のあるデザイン
——— 有機ELディスプレイのオシロスコープがいい感じですね。
高橋 これ、ずっとやりたかったんですよ。開発しているときって、オシロスコープで波形を見ながらやっているわけじゃないですか。それってユーザー体験としてもいいじゃんと前から思っていたので(笑)。
——— オシロスコープには出力信号の波形が表示されるんですか?
高橋 いや、実は何パターンかあって、操作しているパラメーターによって表示が自動的に変わるようになっているんです。例えば、ディレイを操作しているときは出力信号の波形が表示されて、ボイスを操作しているときはオシレーター波形が表示されるんです。
——— 筐体デザインについてもおしえてください。
坂巻 “新しいヴィンテージ”というテーマをデザイン・チームに投げて。最初は“そんなのできません”とか言われたんですけど(笑)、デザイン・チーム全員にアイディアを出してもらって何とかやってもらいました。
——— “新しいヴィンテージ”というテーマを貰って、デザイン・チームはどのようなことを考えましたか?
小林 まず、新しさをどのように表現したらいいのか、いろいろ考えましたね。新しさの出し方って、素材を変えたり、構造を変えたり、もちろん形状を変えたり、たくさんあると思うんですけど。
坂巻 本当にむちゃ言って、たくさんラフを描いてもらいました。どの案もシンセサイザーのヴィンテージの要素を一度分解して、それを再構築する案だっったんですけど、このデザインが一番“新しいヴィンテージ”っぽいということで採用されました。あまりデザインデザインしていなくて、プロト・タイプ感があるところも気に入ってますね。
——— そのプロト・タイプ感のおかげで、リーク画像が出回っても“これは偽物だ”と言う人がいました(笑)。
坂巻 そうそう(笑)。でも確かにフラットに見ると、プロト・タイプなのかなと感じてしまうと思うんですよ。でも実際は曲面を活かしたプロト・タイプらしからぬ仕上がりになっている。そのあたり、いいバランスになったのではないかと思います。
——— 筐体の素材は何ですか?
高橋 アルミです。このアルミにもかなりこだわりましたね。アルミって、液に浸すと被膜反応を起こすんですけど、その液の配合や浸す時間によって色が変わるんですよ。それと表面はサンド・ブラストで処理してあるんですが、それも砂の粗さや磨く時間によって光沢感やザラつき感が変わってくる。いい感じになるようにかなり試行錯誤しましたね。
小林 光沢を消しすぎてマットにしてしまうとMacBookというかデジタル機器っぽい感じになってしまうんです。だから今回はちょっと艶を出して、ブラストを粗めに仕上げました。
——— 最初から塗装するのではなく、アルミの素材感を生かそうと。
小林 そうですね。表面のアルミは曲げようと思っていたので、塗装をしてしまうとアルミの板が曲がっている感じが出ないのではないかと。
——— そしてリア・パネルには木材が採用されています。
小林 テーマが“新しいヴィンテージ”ということで、ヴィンテージ感を出すには木材だろうということで。でもサイドに付けたのでは普通になってしまうので、今回は大胆にリアに付けることにしました。
ポリ・シンセの魅力が凝縮されていて、サウンド的にも今の時代の音楽によく合う
——— 「minilogue」というネーミングに関しては?
坂巻 ミニでアナログだから「minilogue」なんですけど、ぼくらMinilogueのファンなので、この名前に決めました(笑)。もう開発の最初の段階から「minilogue」と呼んでましたね。もちろんアーティスト・サイドにも許可を取りましたよ。最後の最後で“使っていい?”とお願いして(笑)。
——— シンセの名前を冠したアーティストはいますけど、アーティスト名を冠したシンセというのは珍しいですね。
坂巻 確かにそうかもしれませんね(笑)。でも、昔は機材が音楽を引っ張るというのがあったと思うんですけど、もうそういう時代ではないじゃないですか。楽器が音楽を引っ張るなんて大それたことを考える時代ではないんじゃないかと。そろそろアーティストからインスパイアされたシンセがあってもいいんじゃないかって。
——— 完成して、満足度は高いですか?
坂巻 開発を始めた時点では正直、不安だったんですよ。ポリ・シンセって難しいじゃないですか。モノ・シンセだったら極端な話、いかに派手な音にするか、強烈な音にするかということだけ考えればいいんですけど、ポリ・シンセは強烈な音にしすぎると良くないですし、逆に地味にするとそれだったらDSPシンセでいいんじゃないのってことになりますし。凄く良い塩梅に落とし込めていると思いますね。高橋くん、さすがです(笑)。
高橋 ぼく自身、けっこう満足しているので、早く世に出してみなさんの反応が見たいですね。
坂巻 これは触ると欲しくなるシンセだと思いますよ。ポリのアナログ・シンセって、いざ買おうと思うと難しかったりするじゃないですか。中古で昔のを買おうと思っても、かなり値段出さないと良いものは手に入らなかったり。でも、これからは「minilogue」があるから大丈夫ですね(笑)。アナログ・ポリ・シンセの魅力が凝縮されていますし、サウンド的にも今の時代の音楽によく合う。繰り返しになりますが、“新しいヴィンテージ”になっているんじゃないかと思います。