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INTERVIEW

teenage engineeringの創設者、ヤスパー・コウトフ氏インタビュー 〜 美しく独創的な電子楽器は、いかにして生まれるのか

今からちょうど20年前、2005年に産声をあげたteenage engineeingは、北欧最大の都市、スウェーデン・ストックホルムに拠点を置く電子機器メーカーです。ゲーム・デザイナーとして活躍していたJesper Kouthoofd、David Eriksson、Jens Rudberg、David Möllerstedtの4氏によって設立された同社は、2010年の『The NAMM Show』で最初の製品、ポータブル・シンセサイザー OP-1を発表。カシオ VL-1にインスパイアされたというデザイン性の高い小型筐体に、複数の異なるシンセ・エンジン、サンプラー、バーチャル・テープ・レコーダーといった機能を凝縮したOP-1は、新しい世代の電子楽器として大ヒットを記録しました。

その後も、ゲーム&ウォッチ・スタイルの電子楽器 pocket operatorシリーズ、ビジュアル生成機能も備えたシンセサイザー OP-Z、DIYモジュラーシンセ pocket operator modular、録音スタジオをモジュール化したfield systemなど、独創的な電子楽器を次々に世に送り出してきたteenage engineeing。はたしてそのアイディアの源泉はどこにあるのか、来日したCEOのヤスパー・コウトフ(Jesper Kouthoofd)氏にインタビューを試みました。最新作のOP-XYfield systemの開発ストーリーはとても興味深いと思いますので、ぜひご一読ください。(Special Thanks to Mr. Yuri Suzuki

teenage engineering - Jesper Kouthoofd interview

teenage engineeringの共同創業者の一人でCEOのヤスパー・コウトフ(Jesper Kouthoofd)氏

私は若い頃に、“イタリア、ドイツ、日本の要素をミックスしたい”と決めたんだ

——— ヤスパーさんは、日本に来られるのは今回で何度目ですか?

ヤスパー・コウトフ(以下、JK) 50回以上は来ていると思います。

——— 50回以上!

JK ‘90年代はまだインターネットが発展していなかったので、マンガとか雑誌とか、日本の物を(スウェーデンで)見つけるのが難しかったんですよ。実際に足を運んでみるしかなかった。いざ訪れてみると、それまで見たことがないような新しいものばかりで、カルチャーショックを受けましたね。いま、世界はとても便利になっていますけど、街を散策して、本屋やショップを巡り、自分の足で探すしかなかったあの時代が懐かしい。インターネットのせいで、ちょっとつまらなくなった気もします。だって、実際に訪れる前から、何でも知れちゃうわけじゃないですか。でも、私は旅が好きですし…… 環境には良くないのかもしれないですけど…… こうして人と直に会って、話をするのが好きなんです。

——— ‘90年代の日本から、どのような刺激を受けましたか?

JK 日本の若い人たちの自由なカルチャーが好きで、実際にそういうデザイナーたちと会ったりもしたのですが、彼らの仕事の幅の広さにはとても刺激を受けましたね。グラフィック・デザインだけでなく、プロダクト・デザインを手がけたり、自分たちでショップまで作ってしまったり……。他の国にも同じようなカルチャーはありましたけど、特に東京は活気に満ちていました。明和電機フレイムグラフィックスTycoon Graphics……。彼らは音楽のアートワークからパチンコ台のデザインまで(笑)、何でもやってましたよね。それとフラミンゴ・スタジオのキング・テリーもそう。

——— 湯村輝彦さんですね。

JK その頃、彼の家に行く機会があったんですよ。当時、彼はギャングスタ・ラップに夢中で、机の上に金色の銃が置いてあったことを憶えています(笑)。DJブースや地下室があって……。確か、奥さん(注:湯村タラ氏)はエッチなイラストを描いていましたよね。とてもフレンドリーな人でした。他にはもちろん横尾忠則さん。老若男女、いろいろなスタイルのデザイナーがいて、私にとっては皆、魅力的でした。

日本のグラフィック・デザイナーは、単に職業としてではなく、人生を賭けて仕事をしているというところが日本的というか、スウェーデンとの違いを感じましたね。スウェーデンのデザイナーは、仕事場でデザインをして、それで終わり。でも日本のデザイナーは、仕事が人生に根付いていて、すべての物事に気を配り、1つのことに完全に打ち込む。その姿勢は、仕事以外の部分にも現れていて、私はそんな日本のデザイナーの生き方にすごく感銘を受けたんです。

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昨年末のデザイン・イベント『DESIGNTIDE TOKYO』に展示されたteenage engineering製品

——— 日本のプロダクト・デザインからも影響を受けましたか。

JK もちろんです。’80年代のソニー、それと私はホンダのオートバイの30年来のファンで、いろいろとコレクションしているんです。MOTOCOMPOMonkeyDax…… 他にも持っていると思います。

——— ヤスパーさんが初めて訪れたときとは、東京の景色はかなり変わったのではないですか。

JK うーん、どうでしょう。東京だけが変わったのではなく、どの街も同じような感じだと思いますよ。結局、みんな何か意味があるものを見つけようとして、もがいているんじゃないかと思うんです。でも、それを見つけるのは簡単なことではない。これは東京に限ったことではなく、世界全体の話です。

私は人と直に会って話をするのが好きだと言いましたけど、人と人とが同じ場所に座って、一緒に時間を過ごすことがいちばん大切なんじゃないかと考えているんですよ。物質よりも魂と魂のつながりというか。ただ、その場所にいなければいけなくて、その場所にいれば何かが起こるんです。私は今でも東京はそういう場所だと思っています。パンデミック後、東京には多くの外国人が訪れているみたいですけど、東京はいま、良い時期にあるんじゃないですか。世界中からいろいろな人が集まって、この街からきっと何かが起こるんじゃないかなと思います。

——— Danz CM『Synth History』のインタビューを読んだのですが、ある時期のイタリアとドイツのデザインから影響を受けたとおっしゃっていましたね。

JK 私は若い頃、“イタリア、ドイツ、日本の要素をミックスしたい”と決めたんです。’70年代のイタリアのデザイン、ドイツは’30年代まで遡って、最初のサイン・システムなど、そして遊び心のある日本的な考え方……。このアイディアは、私が作ったプロダクトに反映されていると思います。私にとって重要なのは、自分がおもしろいと思ったものを取り込んで、いかにそれを消化するかということなんですよ。私は常に、おもしろい組み合わせを探していて、だからデザイン・コミュニティには意図的に関わらないようにしているんです。なぜならコミュニティの人たちは皆、同じ方向を向いていますから。

アウトプットはコントロールできないけれども、インプットは自分でコントロールできますよね。つまり、インプットするものを変えれば、新しい視点を得ることができるということです。私はこれを意図的にやっているんです。私は、自分の頭の上には漏斗(じょうご)がのっかっていると考えているんですよ。その漏斗の中にいろいろなものが入って、それが自分の手を通じて表に出てくる。これを常にイメージすると、人生の過ごし方が違ってくると思いますよ。

OP-XYは、十代の頃にシンセサイザー音楽を聴いていて揶揄われた経験を、率直に表現しただけ

——— 新製品のOP-XYのプロダクト・デザインについておしえてください。

JK 私はモノを作るとき、“一体何を作ろうとしているのか?”ということを深く考えます。つまり、作ろうとしているモノにどのようなストーリーを持たせるかが重要で、OP-XYの場合はプロダクト・デザインと並行して、マシンとの感情的な繋がりを模索しました。そして思い浮かんだアイディアがグレースケールで、グレースケール・デザインを探求しているうちに、ミニマルで無駄を省いたドイツ的なデザインに自然と行き着いたのです。そこからさらに、そのデザインは私の過去の記憶と結びついていきました。

私は15歳の頃、シンセサイザー音楽を好んで聴いていました。当時のスウェーデンでは、ハードロック派とシンセサイザー派という2つの派閥しかなく、シンセサイザー音楽を聴いていると、ハードロック派の連中からよく揶揄われたんです。でも、シンセサイザー音楽を聴いていたおかげで、ベルリンのゲイ・カルチャーとその美学に辿り着くことができた。黒いシンセサイザー、黒いレザー、ゲイ・カルチャーの中で流れるミニマルな音楽、そして独特のダンス……。OP-XYを発売する2週間くらい前に、このイメージが浮かんで、“ああ、これだ!”と確信したのです。

私は以前、広告業界で働いていたのですが、あの業界では既に存在する商品のプロモーションを考えるしかなかったんです。しかし今は、製品そのもののコンセプトとプロモーションを同時進行で作ることができます。OP-XYではベルリンのゲイ・カルチャーとその美学というアイディアにたどり着くまで時間がかかってしまいましたが、普段はマシンの回路設計と並行して、その世界観を構築しています。そうすることで、製品にいろいろな要素を盛り込むことができるわけです。

OP-XYのコンセプトは、シンプルそのものです。若い頃、シンセサイザー音楽を聴いていて、ハードロック派から揶揄われた経験を率直に表現しただけというか。きっと私と同世代の人には、この気持ちがすぐに伝わるのではないでしょうか。私の兄に伝えたら、“そうそう、すごく分かるよ!”と言ってくれました。彼も’80年代半ば、当時のスタイルで着飾ってましたからね(笑)。私は自分の気持ちを理解してくれる人が一人でもいれば、それで十分だと思っているんです。誰かが、“うんうん、分かるよ”と感じてくれればそれで十分というか、それが私にとっての喜びなんです。

——— OP-XYは、OP-Zの発展形なのでしょうか。

JK そうですね。OP-Zをより成熟させたものを作りたいなとずっと考えていたんです。OP-ZOP-1 fieldのプラットフォームに落とし込んで、ディスプレイを搭載し、もう少しユーザー・フレンドリーにできるか試してみようかなと。

OP-Zについて少し話すと、あのマシンはTexas Instrumentsの科学計算機からインスピレーションを受けて作ったものなんです。ボタンに記号が付いた、エンジニア向けのシンセサイザーを作ってみようと思ったのが始まりでした。その結果、OP-Zはちょっと使いにくいマシンになってしまった…… 私も操作方法をすべて覚えているわけではありません(笑)。でも、すごくおもしろいマシンなのにもったいないなと。ですから、かなり早い段階で、OP-Zの次のステップとして、ディスプレイを搭載した後継機を作るという構想があったんです。より実用的で、ビルド・クオリティを向上させたOP-Zというか。しかしそのアイディアを具現化するのは、一筋縄でいきませんでした。そもそもOP-ZのUIは、ディスプレイを使う前提で設計していませんでしたので、すべてを再考しなければならなかったのです。それは本当に難しい作業でしたね。“これでOK”と思える形になるまで、3〜4回は作り直したと思います。

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teenage engineeringの最新作、OP-XY

——— OP-Zのユーザーからの“ディスプレイを搭載してほしい”という要望も多かったのですか?

JK いいえ。ディスプレイの搭載については、ユーザーからのフィードバックを反映させたわけではなく、会社としての判断です。インターネットのフォーラムを読んだり、ユーザーからのフィードバックが耳に入ることもありますが、正直に言うと、私は人の意見に耳を傾けません。なぜなら、ユーザーは常に“もっと、もっと”と言って、決して満足することがないからです。私は自分が満足できるものを作れれば、それで十分です。私たちは自分たちが欲しいものを作っているだけなんです。たとえば、OP-1の初期のPCBボードには、ニューヨークのマンハッタンの地図をプリントしたんですよ。もちろん、ユーザーには関係のないこだわりなんですが、OP-1の回路に問題が起きたとき、社内では“ユニオン・スクエアのあたりがおかしいぞ”とか、そんな会話になったりして(笑)。そういうのってすごく楽しいですし、イースターエッグもよく組み込みます。組み込んでおきながら、どんなイースターエッグだったか、忘れてしまうこともあるんですけど(笑)。

——— 製品開発の過程で、社内で意見がぶつかったときはどうするのですか?

JK teenage engineeingの製品開発は、最も重要なリード・プログラマーを中心に、デザイナーや他のプロダクト・オーナーが加わって進行します。デザインやユーザー・インターフェースに関しては、これまでの製品のほとんどを私が手がけてきました。

OP-XYOP-Zは、私とヨナス・オーバーグ(Jonas Åberg)というスタッフが中心になって取り組みました。しかし私とヨナスは、非常にタイプが異なります。正直に言うと私はOP-1派で、OP-XYOP-Zはほとんどヨナスの手によるものです。ただ、ヨナスはユーザー・インターフェースに関してはあまり得意ではないので、私はその部分を担いました。私は基本的に、電源を入れればすぐに使える、ユーザー・フレンドリーでクリアな製品を目指しているのですが、ヨナスはたくさんの機能を盛り込みたがるのです(笑)。機能を盛り込み過ぎるとユーザー・インターフェースが壊れてしまうので、そこではもちろん議論になりますね。私たちはとても小さなチームで動いていますので、そこでの議論は大変です。

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OP-XYの原形と言えるシーケンス・シンセサイザー OP-Z

——— OP-Zはビジュアル・ジェネレーター機能を搭載していたのがとても斬新でした。

JK あれは実験でした。音楽とビジュアルを同時に作れるようなマシンを試してみたくて、Unity用のツールを開発したんです。

——— OP-XYでビジュアル・ジェネレーター機能を省いたのは?

JK OP-XYでは、単体で完全なライブ・パフォーマンスを行うことができる、非常にタイトな音楽的体験を目指していたので、まずはユーザー・インターフェースの開発に集中する必要があったんです。OP-Zの機能を搭載することもできましたが、OP-XYに古いソフトウェアをそのまま実装したくはありませんでした。でも、OP-XY用に新しいビジュアル・エンジンを開発する計画はあります。何年後になるかは分かりませんが、それはOP-Zとは少し違ったものになるでしょう。

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ビジュアル・ジェネレーター機能も搭載していたOP-Z

field systemでは、長い付き合いのあったAppleのデザイン・チームに、私たちのスキル・レベルを見せたかった

——— OP-1 fieldTX-6TP-7CM-15で構成されるfield systemは、どのようなアイディアを元に開発された製品なのでしょうか。

JK 私は自分のキャンピング・カーを持っているくらいキャンプやアウトドア・ライフに夢中になっているのですが、あるとき自然の中でOP-1を使っている人を見かけたんです。人は静けさを求めて森に行くはずなのに、なぜそんな場所で音を作るのだろうと、その行為にとても興味を持ちました。でも、その人だけではなく、多くの人が自然の中でOP-1を使っていたので、これはアウトドア用の楽器を作るチャンスかもしれないと思ったんです。そしていろいろと調べていた過程で、私はSnowPeakのキャンプ用品を見つけました。SnowPeakは日本のメーカーですよね? 私はSnowPeakのキャンプ用品がとても気に入っていて、あまり有名ではないんですが、アウトドア用のキッチン・モジュールがあるんですよ。そのモジュールにはいろいろな種類があるんですが、実はfield systemの製品は、その中の1つにぴったり合うサイズになっているんです(笑)。ですからfield systemのコンセプトの1つは、森の中で音楽を作りながらバーベキューをするというものだったんです。

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“外に持ち出せる完全な録音スタジオ”、field system

——— コンセプトの1つということは、他にもコンセプトがあったのですか。

JK field systemの開発に着手したとき、友人たちと“いつの日か火星に行けたらいいね”という話をしていたので、宇宙でも使える楽器ということも何となく考えていましたね。それと長い付き合いのあったAppleのデザイン・チームに、私たちのスキル・レベルを見せたかったんです。彼らとは多くの時間を共にしていたので、私たちもあなたたちのレベルに達していて、高品質な製品を作れるということを見せたかった。ですから、エンコーダー、スイッチ、ジャック、すべてをカスタムで製作するなど、一切の妥協を排して開発を行ったんです。field systemの各製品のボックスを見たことがありますか? 本当に完全に妥協なしのプロジェクトでした。その結果、予想よりも遥かに大きなコストがかかってしまい、会社はほとんど倒産寸前のところまでいきました(笑)。ボックスの型取りだけでも100万ドルくらいかかりましたからね。それでも、これは絶対に成し遂げなければならないプロジェクトだったんです。

——— 満足のいく仕上がりになるまで、相当時間がかかったのではないですか。

JK TP-7は、完成までに10年かかっています。モーターまで自分たちで作らなければなりませんでしたからね。一番複雑だったのはマイクで、その開発には2年くらいかかりました。でもfield systemの開発は、私にとっても、teenage engineeingのエンジニアにとっても、自分たちがどこまでできるかチャレンジする良い機会だったんです。’80年代のカセット・サイズのウォークマンを憶えていますか? あの製品も大きなインスピレーションだったのですが、当時のソニーのエンジニアにとっては、“コンパクト・カセットと同じサイズのウォークマンを作れるだろうか?”というチャレンジだったと思うんです。私たちはfield systemで、“外に持ち出せる完全な録音スタジオ”を作るというチャレンジに挑んだんですよ。本当に難しくて大変なプロジェクトでしたが、私たちはやり遂げましたし、完成できたことを心の底から嬉しく思っています。

システムを構成する個々のコンポーネントと、その組み合わせが最終的な音に大きな影響をもたらすと考えている

——— “DIYモジュラーシンセ”のpocket operator modularは、どのようなアイディアから生まれたのですか?

JK 『The NAMM Show』にガレージ・メーカーが出展しているモジュラーシンセ・コーナーがあって、“あれは何だろう?”とずっと気になっていたんです。そのコーナーが年々大きくなっていたので、一体何が人々を惹きつけているのか、その理由を探りたくなったんですよね。それと手頃な価格で、IKEAの製品のように自分で組み立てるスタイルのモジュラーシンセを試してみたくて、出来上がったのがpocket operator modularなんです。

でもモジュラーシンセって、私も持っていますし、今でも好きですが、あまり楽しさを感じません。モジュラーシンセ、どれくらい使います? あまり使わないですよね? 買って1週間くらいは使うと思いますが、その後は放置してしまうんです。モジュールを買って2日くらい使い、パッチを組んで1年くらい放置し、また触ってみるかとなる(笑)。まぁ、現代のカルチャーの一部というか、家具みたいなもので、私にとっては毎日使う楽器ではないんです。だから毎日手に取るOP-1とはまったく違うものだと思っています。

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“DIYモジュラーシンセ”、pocket operator modular

——— 現在主流のDAWについては、どのようなスタンスですか?

JK 多くの人たちがMacとDAWやプラグインといったソフトウェアを使っていると思うのですが、私はそういったシステムを構成する個々のコンポーネントと、その組み合わせが最終的な音に大きな影響をもたらすと考えています。ヴァイオリンも、木材や弦、様々なパーツが組み合わさって、その楽器固有の音を生み出しますが、ほとんどの人はそんなことを気にしません。その昔、あるレコーディング・エンジニアから、“Pro Toolsに移行したら命を失ってしまったような音になって、雰囲気が台無しになってしまった“という話を聞いたことがあります。これはPro Toolsというソフトウェアが問題だったのではなく、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせに問題があったのではないかと私は考えているんです。古いMPCやLinnDrumも、本物のマシンを鳴らしてみると、サンプルでは得られないパンチがあって、雰囲気のある音がする。“うわぁ、何でこんなに違うんだろう”という感じですよ。これはソフトウェアとハードウェアの組み合わせに“何か”があって、それは決してエミュレートできるものではないんです。私は最近、Fairlight MFXを手に入れたんですよ。かなり昔のDAWですが、単に録音しただけでも、Pro ToolsやLogicとはまるで違う音がするんです。楽器もシステムも個々のコンポーネントが重要で、またそれらが組み合わさって全体の音を生み出す。私たちは今、まさしくこの部分に取り組んでいるんです。

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PO-33 K.O.発展させたサンプラー/シーケンサー、EP-133 K.O. II

——— いま、注目している電子楽器があればおしえてください。

JK 実は最近、’80年代のヤマハの電子楽器にハマっているんです。たとえば1984年くらいに作られたエレクトーンとか、FMサウンドやサンプルが入っていて、楽器としての構造もとても気に入っています。これはエレクトーンという楽器の良さだと思うんですけど、スピーカーを搭載していて、楽器として完結しているじゃないですか。私は、すぐに音が出る完結している楽器が好きで、だからteenage engineeingの製品も基本スピーカーを搭載しているんですよ。ヤマハのオルガンも18個くらいスピーカーを搭載していて、なぜだか分からないけれども、とても魅力を感じます。ただ、ヤマハらしいところと言えばそうなんですが、出音がクリア過ぎるんですよね(笑)。だからストンプのディストーションやオーバードライブをかけてキャラクターを出して…… そういったテクスチャーを少し加えるだけで、“ああ、これはすごい!”という感じの音になるんです。ハッキングされたエレクトーンは、おそらく私たちの楽器よりも魅力的かもしれません。

私には、いずれ取り組んでみたいと考えているミッションが1つあるんですよ。何かと言うと、ヤマハのVP1なんです。ご存じですか? ごくわずかな台数しか生産されなかったフィジカル・モデリング・シンセで、ものすごく複雑なんですが、めちゃくちゃおもしろい音を作れる可能性を秘めているんです。

——— teenage engineeringを代表する製品、OP-1が発売になったのは2010年のことです。発売から15年も経っているのに、市場ではいまだに大人気で、2023年のReverb.comでは電子楽器の売り上げランキング1位でした。次から次へと新製品が登場する中、これだけ長く支持されるシンセサイザーも珍しいと思うのですが、インタビューの最後に、製品のサスティナビリティについての考えをお聞かせください。

JK すばらしい質問ですね。私たちは自分たちの製品が、50年間使い続けられるように設計しています。しかしこれは簡単なことではなく、あらゆるディテールを考慮して設計しなければ達成できません。コンポーネントは時間の経過とともに劣化し、いつの日か必ず交換が必要になりますしね。でも、50年間使い続けられるというのはとても重要なことで、’80年代の機材の電源を入れて、問題なく動くのを目の当たりにすると、まるでタイムマシンのように感じるじゃないですか。今後世界は、クラウドにあるものと実在するものの二極化がますます進むと思いますけど、実在する機材は“本物”でなければ意味がないと思っているんです。

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