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INTERVIEW

NAMM 2019: コルグ開発チームが語る、ディープな“DSPリズム・マシン”、「volca drum」のすべて

1月の『The NAMM Show』直前に発表されたコルグの新製品、「volca drum」の出荷が遂に開始されました。volcaシリーズのニュー・カマーである「volca drum」は、新開発のDSPシンセ・エンジンを搭載した、まったく新しいタイプのリズム・マシン。シンプルなトリガー波形を元に、ピッチ・モジュレーターやアンプ・エンベロープなどで音作りを行うという、リズム・マシンらしからぬアルゴリズムが採用されているのが特徴です。注目は、音源部の後段に“ウェーブガイド・レゾネーター”と呼ばれる物理モデリング・プロセッサーが搭載されている点で、これにより音色に管楽器や弦楽器のような響き/鳴りを付加することが可能。ヴィンテージ・マシンの再現ではなく、デジタルならではのディープな音作りを追求した“DSPリズム・マシン”、それが「volca drum」なのです。複雑なパターンにも対応した強力なシーケンサーも備え、エレクトロニック・ミュージック/IDM系のクリエイターにはベスト・マッチな新製品、「volca drum」。そこでICONでは、「volca drum」の開発を手がけた、コルグのノロ・エーベル エティエン氏(コンセプト・デザイン)と山田嘉人氏(開発グループ・マネージャー)のお二人に、開発コンセプトと機能について話を伺ってみることにしました(同時に発売になった「volca modular」の開発者インタビュー記事は、こちらに掲載しています)。

KORG - volca drum

新開発のDSPエンジンを搭載したディープなリズム・マシン、「volca drum」

——— 発表時には「volca modular」が大きな話題になった新型volcaですが、海外のフォーラムやFacebookグループを見ると、「volca drum」も負けず劣らず注目を集めている印象です。まずは「volca drum」開発のスタート・ポイントからおしえてください。既にvolca beatsがあるのにも関わらず、新しいリズム・マシンを開発しようと思ったのはなぜですか?

エティエン volca beatsは、とても良くできた製品だと思っているんですが、アナログ音源回路を積んだクラシックなリズム・マシンなので、音色の幅があまり広くないんです。なので、音色のバリエーションが広いリズム・マシンを作ろうと思ったのがそもそものきっかけですね。そのときにふと思い出したのが、初代ELECTRIBEのER-1(ELECTRIBE・R)のことだったんです。ER-1は、バーチャル・アナログのデジタル音源回路を積んだリズム・マシンで、デジタル・シンセシスならではの柔軟性に富んだ音色が、個人的にかなり気に入っていたんです。それでER-1のようなデジタル音源回路を搭載した新しいリズム・マシンを作れば、現行のvolcaのラインナップに足りない音色を補う良いマシンになるのではないかと思いました。「volca drum」の開発は、ER-1にインスピレーションを受けてスタートした感じですね。アイディアが固まったのは、1年くらい前のことです。

KORG - volca drum

「volca drum」の開発にあたって、インスピレーションを受けたという初代ELECTRIBE、ER-1(Vintage Synth Explorerより)

——— 「volca drum」は、どのような音源回路を積んでいるのですか?

エティエン 今回、「volca drum」のためにDSPエンジンを新規で開発しました。音源となるのは、サイン波/鋸波/3種類のフィルタード・ノイズ(LP/BP/HP)を選択できるオシレーターで、それをピッチ・モジュレーターとアンプ・エンベロープで変調するというのが基本的なアルゴリズムになっています。これを2レイヤー重ねて音色を作り、それを「volca drum」では計6パート利用できます。

山田 内部的には、まったく同じ音源回路が12音ポリ分あるイメージですね。音色ごとに2つのレイヤーを使っているので、6パート仕様となっています。

エティエン クラシックなリズム・マシンの場合、キック用の回路、スネア用の回路、ハイハット用の回路と、音色ごとに異なる音源回路を積んでいるのですが、「volca drum」では6パートすべて同じ音源なんです。それだけ音色のバリエーションが広いというわけですが、パラメーターはとてもシンプルなので心配しないでください。オシレーター波形同様、ピッチ・モジュレーター波形とアンプ・エンベロープのカーブは、それぞれ3種類用意されたプリセットの中から選択し、ピッチ・モジュレーターはアマウントとレート、アンプ・エンベロープはアタックとディケイを調整します。例えばアンプ・エンベロープのカーブは、シンプルなカーブ、アタックはエクスポネンシャルのカーブ、ピークが3つある少し複雑なカーブの3種類の中から選択できます。

——— エフェクトは搭載していますか?

エティエン 音源の後段に、ウェーブガイド・レゾネーターという新開発のプロセッサーを搭載しています。ウェーブガイド・レゾネーターは、物理モデリングのテクニックを元に開発したプロセッサーで、胴鳴りやパイプの響きを付加できるチューブと、弦楽器のような金属的な響きを付加できるストリングスの2つのアルゴリズムを選択できます。なぜこのようなプロセッサーを搭載したかと言えば、従来のリズム・マシンには無い音色変化を取り入れたかったからです。具体的には、単純なデジタル音源回路では難しい倍音が変化するようなサウンドというか。あくまでも音源の後段にあるプロセッサーではありますが、インパルス・ノイズを音源として使えば、物理モデリング的なパーカッション・サウンドを作ることもできます。

山田 今回、デジタル音源回路の後段にディレイやリバーブを搭載するという、ありがちなアプローチにはしたくなかったんです。せっかくなので、少し捻ったアルゴリズムにしたいと思い、この仕様に決めました。

エティエン ウェーブガイド・レゾネーターでは、DECAY/BODY/TUNEという3種類のパラメーターを設定できるのですが、TUNEを小さい値にすることによってディレイのような効果を得ることもできます。

山田 それと波形そのものにかかるビット・リダクションやウェーブ・フォルダー、ドライブも備えていて、これによって音色をザラつかせることもできるようになっています。

——— とてもおもしろそうな音源という印象ですが、お話だけでは一体どのようなサウンドが出るのか、イメージが付かない人も多いのではないかと思います。ズバリ「volca drum」は、どんなサウンドのリズム・マシンなのでしょうか?

エティエン 難しい質問ですね(笑)。本当に音色のバリエーションは広いので、とりあえずはデモ・ビデオを見ていただければ……。

山田 ファクトリー・プリセットに関して言えば、今回はあえてIDM系の音色に寄せてみました。クラシックなアナログ・シミュレーション系の音色は入ってないですね。

エティエン プリセットと言えば、「volca drum」では従来のvolcaには無かった新しい概念を取り入れています。シーケンス・パターンはプログラムとして16種類保存できるのですが、それとは別に音色のプリセットを“キット”として16種類保存できるようになっているんです。プログラムには音色パラメーターは保存されずに、使われているキットの番号が保存されるイメージでしょうか。キットはプログラム同様、16種類保存することができ、出荷時はそのうち10種類がファクトリー・プリセットになっています。

KORG - volca drum

写真右がコンセプト・デザインを手がけたノロ・エーベル エティエン氏、写真左が開発グループ・マネージャーの山田嘉人氏

複雑なパターンを組むことができる強力なシーケンサーを装備

——— 音源と並んでリズム・マシンの重要な要素であるシーケンサーについておしえてください。

山田 これまでのvolcaも、機種によってシーケンサーの機能は変えてあるんですけど、今回は「volca drum」のために完全に新規で開発しました。非常に強力なシーケンサーを積んでいます。

エティエン 基本的には6パート/16ステップという仕様で、最大16個のパターンをチェインすることができ、もちろんモーション・シーケンスにも対応しています。「volca drum」のシーケンサーで新しいのが、ステップの抜き差しが行えるACTIVE STEPがパートごとに可能になっている点です。例えば、ハイハットだけ13ステップにしたりすることができる。これによってポリリズム的なパターンも簡単に作り出せるようになっています。また、各ステップは16段階でアクセントが設定できるだけでなく、発音確率も0〜100%の範囲で設定することができます。50%に設定すれば、そのステップは1/2の確率で発音する。これもかなり使える機能です。

山田 今回、1つのステップを最大16個のスライスに刻むことができる機能も新たに搭載しました。16ステップのシーケンサーではあるんですが、このラチェット的な機能によって、IDMのような複雑なパターンも作り出すことができます。これはランダマイズ機能とも相性の良い機能ですね。

エティエン モーション・シーケンスも、かなりリッチになっています。パートごとにモーション・シーケンスを記録でき、パラメーター数は全部で69種類あります。

——— volcaシリーズでは初めて、ディスプレイを搭載していますね。

エティエン かなりディープなマシンなので、今回は必要かなと思い、採用しました。ディスプレイがあることで、デジタル感も出ているのではないかと思います。

山田 スピーカー内蔵、電池駆動対応、SYNC入出力を装備している点など、足回りの部分は従来のvolcaと同じです。

KORG - volca drum

volcaシリーズでは初となるディスプレイを装備

——— 見た目はvolcaですが、中身は相当強力なリズム・マシンという印象です。もう少し筐体サイズを大きくして、最近のElektronのようなフォーマットで出した方が良かったのでは?

山田 ディープなマシンではあるんですが、ノブの数はこれまでのvolcaと変わらない規模にまとめました。ぜひ気軽に手にとってもらい、たくさんの人に使っていただけたらと思っています。

エティエン 第三世代のvolcaということで、音源回路もシーケンサーも一切手を抜いていません。一緒に発表した「volca modular」ともども、ぜひとも使いこなして楽しんでほしいですね。

山田 ゼロからキットを作るのは大変だと思ったので、今回かなり良いファクトリー・プリセットを10種類用意しました。その中から好みの音色を選んで、適当にシーケンスをエディットするだけでも相当楽しめると思いますので、ぜひショップでチェックしてみてください。

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