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LZX Industries、第3世代のビデオ・シンセサイザー「Gen3」シリーズの販売を開始…… ビデオ・シンセも遂にHD対応に
LZX Industriesが新型ビデオ・シンセサイザー、「Gen3」シリーズの出荷を開始。ビデオ・シンセサイザーも遂にHDに対応(!)、次なるタームへと突入しました。

LZX Industries「Gen3」シリーズ
LZX Industriesが満を持して販売を開始した「Gen3」シリーズは、第1世代のVisionaryシリーズ(2010〜2013年)、第2世代のExpeditionシリーズ(2014〜2019年)に次ぐ、“第3世代”のビデオ・シンセサイザー。両シリーズで培われた技術とノウハウを元に、ビデオ・シンセサイザーの新しいスタンダードとなるべく開発された、LZX Industries渾身の新製品です。
「Gen3」シリーズが発表されたのは2019年11月のことで、その少し前からExpeditionシリーズの販売が段階的に終了になったため、約2年間、ビデオ・シンセサイザーに興味があっても始められない(モノが手に入らない)状況が続いていました。しかし「Gen3」シリーズの発売によって、そんな状況もようやく改善されることになります(ちなみにICONでは一昨年、『ビデオ・シンセサイザーの世界』という新連載をスタートしたのですが、その直後にExpeditionシリーズとVidiotが販売終了になってしまっため、2回目以降の掲載を見送っていました。しかし「Gen3」シリーズが発売になったことで、ようやく再開できそうです)。

第1世代のVisionaryシリーズ (Image via LZX Community)

第2世代のExpeditionシリーズ
「Gen3」シリーズは、Visionary/Expedition両シリーズと同じく、Eurorack・3Uフォーマットのモジュラー・シンセサイザーです。ケースや電源は、(変な表現ですが)“音のモジュラー”と共通で、既にモジュラーシンセをやられている方であれば、手持ちのモジュールをそのまま利用することが可能。ただしLZX Industriesのビデオ・モジュラーは、電圧のレンジが0〜1Vと低く規定されているので、必要に応じてアッテネートする必要があります。このあたりの話はいずれ詳しく解説しますが、重要なのは、ビデオ・モジュラーと言っても音のモジュラーと何ら変わらない、“モジュラー・シンセサイザー”であるということ。両者の間に隔たりは無く、ケースや電源、パッチ・ケーブルは共通であり、たとえばDoepfer A-110の矩形波をエンコーダーに入力すれば、モニターにはスクエアな模様が表示されます。

ビデオ・レート周波数に同期した波形
新しい「Gen3」シリーズは、あらゆる点で先代のExpeditionシリーズから大きな進化を遂げています。複合的な機能を持つモジュールが多かったExpeditionシリーズに対し、Gen3シリーズではVisionaryシリーズのようなシンプルで単機能なモジュールに回帰。『エンコーダー』『ミキサー』『キーヤー』と、各モジュールの機能が分かりやすくなっているのがポイントです。また、ビデオ・シンセサイザーの新しい標準として、“末長く使用できる”ことも大きなコンセプトになっているようで、ポットやジャック、スイッチ類には耐久性のあるパーツを採用。また、入手が難しくなってしまうようなパーツは使用しないなど、生産性も十分に考慮されており、サスティナビリティのある製品に仕上げられています。
Expeditionシリーズと比較した機能面での大きな進化としては、何と言ってもHDへの対応が挙げられるでしょう。“4K/8Kの時代に、今さらHD?”と思われた方もいるかもしれませんが、「Gen3」シリーズはVisionary/Expedition両シリーズ同様、非デジタル=アナログ回路で信号を生成するビデオ・シンセサイザーです。ご存じのとおり、アナログの映像にはデジタル生成では得られない独特の味があり、それがHD解像度で出力できるというのは「Gen3」シリーズの大きな魅力。具体的には、「Gen3」システムの核となるエンコーダー/シンクロナイザーの「ESG3 Encorder」は、最高1080i/pのHDコンポーネント出力/シンクをサポートしており、他のモジュールも基本的にHDレートの信号処理に対応する設計になっています(LZX Industriesによれば、Visual Cortex以外のExpeditionモジュールも、その多くがHDをサポートするとのことです)。加えて、超低ノイズ設計のパワー・サプライを内蔵しているというのも「Gen3」シリーズの大きな特徴。背面には12VDCの電源端子が備わっており、LZX Industriesが新たに発売したDC Distro(電源モジュール)や、対応するアダプターを使って電源を供給できる仕様になっています(もちろん、Eurorack標準のパワー・ヘッダーも備えているので、ケースやパワー・モジュールから電源供給することもできます)。ビデオ・モジュールは電力の消費量が非常に大きく、また電源ノイズの影響も受けやすいため、専用のパワー・サプライが内蔵されたのはHD対応と同じくらい大きな進化と言っていいでしょう。

パワー・サプライを内蔵しているのは「Gen3」シリーズの大きな特徴 (Image via LZX Community)
「Gen3」シリーズの第一弾として発表されたのは、システムの核となるエンコーダー/シンクロナイザーの「ESG3 Encorder」、デュアル・シェイプ・ジェネレーターの「DSG3 Dual Shape」、フェーダー/キーヤーの「FKG3 Keyer」、マトリクス・ミキサーの「SMX3 Matrix Mixer」、アフィン・トランスフォーマーの「ART3 Affine Morph」、デュアル・オシレーターの「DWO3 Dual OSC」という6種類のモジュール。いずれも横幅12HPというパネルに、厳選されたノブ/スイッチ/入出力が整然と配され、高機能ながら操作性も十分に考慮されたデザインになっています。HPあたりの機能も大幅に向上しており、たとえば「DWO3 Dual OSC」は、完全に独立したビデオ・オシレーターを2基搭載。ExpeditionシリーズのPrismatic Rayが16HPでシングル・オシレーターだったことを考えると、HPあたりの機能は実に2.6倍以上の計算になります(84HPで14オシレーター!)。フェーダー/キーヤーの「FKG3 Keyer」も、ExpeditionシリーズのDoorway(10HP)とMarble Index(16HP)を組み合わせたRGB信号のキーイングが単体で行えるので、その“HPパフォーマンス”(つまりはコスト・パフォーマンス)は相当高いと言っていいでしょう。なお、今後も続々と新しいモジュールが発売になる予定で、LZX Industriesによれば、現時点で21〜27種類(!)のモジュールが計画されているとのことです。
ビデオ・シンセサイザーのニュー・スタンダード、LZX Industries「Gen3」シリーズ。販売価格は6種類のモジュールすべて399ドルで、「ART3 Affine Morph」と「DWO3 Dual OSC」を除く4種類のモジュールはプリ・オーダー受付中、「FKG3 Keyer」は2021年10月22日から出荷が開始されています。さらなる詳細は、LZX IndustriesのWebサイトをご覧ください。
