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WORKSHOP

ビデオ・シンセサイザーの世界 〜 World of Video Synthesizer #001:ビデオ・シンセサイザーの基礎知識

ビデオ・シンセサイザーの始まり

ここ最近、アメリカを中心に世界的に人気が高まっているビデオ・シンセサイザー。楽器の世界でシンセサイザーと言うと、音を生成/合成するための機器のことを指しますが、ビデオ・シンセサイザーは、その名のとおり音ではなく映像を生成/合成するための機器。オーディオ・シンセサイザーがサウンドを出力するのに対し、ビデオ・シンセサイザーは視覚的な要素をリアルタイムに生成/合成して、映像信号として出力します。機械を使った映像生成/合成は、1960年代からパフォーマンス・アートの世界で手法の一つとして用いられるようになり、同時に教育機関や個人による研究開発も盛んに行われるようになりました。

ビデオ・シンセサイザーの最大の特徴は、パフォーマンス・アートで用いられたことからも分かるとおり、そのリアルタイム性にあります。CG制作におけるレンダリングのような待ち時間無しで、リアルタイムに映像を生成/合成する機器のことをビデオ・シンセサイザーと呼ぶと言ってもいいでしょう。アナログ・シンセサイザーのツマミを回して音色を作るかのように、映像を直感的かつダイナミックに操ることができる機器、それがビデオ・シンセサイザーなのです。

World of Video Synthesizer
World of Video Synthesizer

ビデオ・シンセサイザーの歴史

半世紀以上の歴史があるビデオ・シンセサイザーですが、オーディオ・シンセサイザーと違い、製品として世に出たものは決して多くありません。代表的なものとしては、VCS 3Synthiシリーズで有名な英EMS(Electronic Music Studios)が1974年に発表した「Spectre(後にSpectronに改称)」、CMIシリーズで一世を風靡した豪Fairlightが1984年に発表した「CVI(Computer Video Instrument)」が挙げられます。「Spectre」は、デジタル処理/アナログ制御のハイブリッド回路を採用したビデオ・シンセサイザーで、パネル左側にはVCS 3/Synthiシリーズのようなマトリクスのパッチ盤を備え、内部処理を縦横無尽に変えられるのが大きな特徴。「CVI」も同じデジタル回路のビデオ・シンセサイザーで、映像をサンプリングするフレーム・バッファーを搭載し、その機能を活かした斬新なエフェクトは当時のミュージック・ビデオで好んで使われました。また、製品として世に出たものではありませんが、「Sandin Image Processor」もビデオ・シンセサイザー史を語る上で外せない機器と言えます。アメリカのビデオ・アーティスト/教育者であるダン・サンディン(Dan Sandin)が1971年から1973年にかけて開発した「Sandin Image Processor」、通称“IP”は、アナログ・コンピューターを元に製作されたビデオ・シンセサイザー。単機能のモジュールをケーブルでパッチすることによって映像処理を行うモジュラー設計が採用され、ダン・サンディンは、Moogのモジュラー・シンセサイザーからアイディアを得て開発したと言われています。まさに現在のLZX Industriesの製品(後述)の原点とも言えるビデオ・シンセサイザーです。

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EMS「Spectre(Spectron)」 (Image via Encyclotronic)

EMS「Spectre(Spectron)」の映像

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Fairlight「CVI」 (Image via The Holmes Page)

Fairlight「CVI」の映像

1970年代から1980年代にかけて、専用機が販売されるにまで至ったビデオ・シンセサイザーですが、1990年代は活躍の場を失ってしまった冬の時代と言っていいでしょう。ビデオ・シンセサイザーと同じような機能を持ったソフトウェアが続々と登場し、映像の生成/合成はパソコンを使って行うのが主流に。そもそもビデオ・シンセサイザーという機器自体、ユーザーや用途が限られたマイナーなものであり、瞬く間に市場から姿を消してしまったのです。

ビデオ・シンセサイザーの復活

しかし2000年代に入ると、そんな冬の時代にも変化が生じます。クラブ・ミュージック・シーンに現れた映像のパフォーマー=VJをターゲットに、ローランドコルグという日本の楽器メーカーが映像機器市場に参入したのです。ローランドが2005年にEdirolブランドで発売した「CG-8」は、静止画や音から動的な3D映像を生成する“ビジュアル・シンセサイザー”。XYパッドやDビームといったコントローラーも搭載し、レイヤーやエフェクトといった機能も備えていました。一方のコルグは、2003年にビデオ版KAOSS PADと言える「KAOSS PAD entrancer」、2005年には“ダイナミック・ビデオ・ステーション”を謳った高機能なビデオ・シンセサイザー「kaptivator」を発売。「KAOSS PAD entrancer」は、XYパッドを使って映像をリアルタイムに処理できるビデオ・エフェクター的な製品で、「kaptivator」はハードディスクを内蔵し、本体だけで映像のサンプリングにも対応する強力なビデオ・シンセサイザーでした。いずれも楽器メーカーの製品らしく、音楽(DJプレイ)との連携が考えられていたのが特徴で、MIDI端子が備わっていたのもポイント。コルグは数年後に映像機器市場から撤退してしまいましたが、「kaptivator」は他には無いユニークなビデオ・シンセサイザーだったため、中古市場では今でも高額で取り引きされています。

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ローランド「CG-8」

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コルグ「kaptivator」 (Image via CDM)

「CG-8」や「kaptivator」は、言ってみればVJソフトウェアの機能をハードウェア化した現代的な機器でしたが、同時期にアメリカでは、昔のビデオ・シンセサイザーに注目する人たちが現れました。YouTubeで1970〜1980年代のビデオ作品/テレビ番組が簡単に見れるようになったことも大きかったのでしょう。そういったマニアの間で人気を集めたのが、1977年にゲーム会社のAtariが発売した「Atari Video Music」です。「Atari Video Music」は、入力音から抽象的な映像を生成するハイファイ・オーディオ・システム向けのビデオ・ジェネレーターで、独自の改造を施すサーキットベンダーたちも登場(LZX Industriesの設立者であるラース・ラーセンもその一人)。改造だけでは飽き足らずに、オリジナル・マシンを製作するギークも現れるなど、“ビデオ・シンセサイザー”というニッチな映像生成/合成専用機に再び脚光が集まるようになったのです。

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Atari「Atari Video Music」 (Image via Atari History Museum)

Atari「Atari Video Music」の映像

LZX Industriesのビデオ・モジュラー

そこに登場したのが、アメリカのモジュラー・メーカー、LZX Industriesです。アメリカでアナログ・テレビ放送が終了した2009年、アメリカ人のラース・ラーセン(Lars Larsen)、オーストラリア出身のエド・レッキー(Ed Leckie)という2人のギークによって設立されたLZX Industriesは、ビデオ・シンセサイザー専門のガレージ・メーカー。同社が2010年に初披露した「Visionary」シリーズは、アナログ回路の映像生成/合成装置をEurorackフォーマットでモジュール化した、大変ユニークな“ビデオ・モジュラー・シンセサイザー”です。その発表時はビデオ・シンセサイザー愛好家の間ではもちろん、音のシンセサイザーの世界でも大きな話題になりました。「Visionary」シリーズが画期的だったのは、当時ブームに火が付き始めていたEurorackフォーマットを採用していた点。これによって、オーディオ・シンセサイザーのアンプ・エンベロープに合わせて映像を変化させたり、手持ちのオーディオ・オシレーターをLFOや“映像波形生成器”として使用することが可能だったのです。

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LZX Industries「Visionary」シリーズ(2012年の『The NAMM Show』にて

LZX Industries「Visionary」シリーズの映像

「Visionary」シリーズ以降のLZX Industriesの製品展開を見ると、同社はある種の使命感を持ってビデオ・シンセサイザーの開発を行なっていることが伺えます。最初の製品ラインである「Visionary」シリーズは、1970年代のアナログ回路による映像生成/合成にフォーカスしており、開発者のラース・ラーセンは製品マニュアルの中で以下のように語っています。

アナログ・ビデオ信号は、20世紀の最も刺激的なイノベーションの一つで、その本質は人工的であり有機的です。人間の眼球が自然界の色と光を知覚するのとは乖離した処理という意味で人工的で、ブラウン管の表示の位置や輝度を連続した電圧でリアルタイムに動かすという意味で有機的です。デジタルの映像はフリーズしているため、読み込みや改変、書き換えが数値ベースで正確に行えるのに対し、アナログの映像は絶えず動いており、同じ映像を再描画してもわずかな違いが生じます。デジタル・ビデオでの作業は、彫刻や外科手術のようなもので、アナログ・ビデオでの作業は、乗り物を操縦するようなものです。どちらの方式にも異なる用途や長所があり、芸術の媒体としてアナログ・ビデオを失うことは大きな損失です。

LZX Industriesは「Visionary」シリーズの後、同シリーズに新しいアイディア/機能を取り入れ、より使いやすいデザインで再構成した「Expedition」シリーズ、1970年代のアナログ映像生成/合成の基本機能をDIYキットでモジュール化した「Cadet」シリーズ、デジタル回路による映像生成/合成の基本機能をDIYキットでモジュール化した「Castle」シリーズと、続々と製品をラインナップ。昨年からは、Fairlight「CVI」やAmiga用のNewTek「Video Toaster」などを叩き台に、1980年代のデジタル映像生成/処理にフォーカスした「Orion」という新しいシリーズを展開しています。ラース・ラーセンによれば、「Orion」シリーズが一区切りした2020年以降、1台である程度のことが行える多機能な製品を“インストゥルメント”、「Cadet」シリーズや「Castle」シリーズのようなコンパクトで単機能の製品を“モジュール”として、製品ラインを改めて整理する予定とのこと。LZX Industriesのこれまでの歩みを振り返ると、まるで1970〜1990年代の映像生成/合成技術を、Eurorackというフォーマットでライブラリー化しているようにも思えます。

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LZX Industries「Expedition」シリーズ

LZX Industries「Orion」シリーズ

現代のビデオ・シンセサイザー

この10年の間に、ビデオ・シンセサイザーに取り組み始めたメーカーは、LZX Industriesだけではありません。米Critter & Guitariは、2011年に「Video Scope」、2013年に「Rhythm Scope」、2014年に「Black & White Video Scope」と立て続けにスタンドアローンのビデオ・シンセサイザーを発売。いずれも先述の「Atari Video Music」の流れを汲む、入力音に反応して映像を生成するビデオ・シンセサイザーで、ライブやDJイベントで手軽に映像を流したいという人たちの間で人気を博しました。2017年にはHDMI出力/MIDI入力を装備し、Pythonを使ったプログラミングにも対応したビデオ・シンセサイザー「ETC」を発売し、こちらはショップに入荷してもすぐに完売になってしまうほどのヒット商品になっています。また、オランダの奇才、Gijs Gieskesも絶大な支持を集めているビデオ・シンセサイザー・メーカー。アーティストとしても知られるGijs Gieskesは、「3TrinsRGB+1c」や「Oscillatoscope2b+1c」、「Schele-mixer2b+1c」といった個性的なビデオ・シンセサイザーを次々に発表し、中でも「3TrinsRGB+1c」は、CV入力を備えていることからモジュラー・ユーザーの間でも人気があります。そして最近大きな注目を集めているのが、アメリカのモジュラー・メーカー、Erogenous Tonesが満を待して出荷を開始した「Structure」。Eurorackモジュールの「Structure」は、OpenGLを使ったノード・ベースのビデオ・シンセサイザーで、GLSLで記述したグラフィックスをCV/オーディオでコントロールすることが可能になっています。その他、Unity対応のビデオ機能を備えたTeenage EngineeringOP-Z」も立派なビデオ・シンセサイザーと言えますし、ビデオ・モジュラーをソフトウェア化したParacosm「Lumen」という製品もあります。

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Critter & Guitari「ETC」

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Erogenous Tones「Structure」

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Teenage Engineering「OP-Z」

ビデオ・シンセサイザー入門機「Vidiot」

そして2017年の暮れ、LZX Industriesから新機軸の製品が登場しました。「Vidiot(ヴィディオット)」と名付けられたこの製品は、セミ・モジュラー・タイプのビデオ・シンセサイザー。コンパクトでかわいい筐体に、基本的な映像生成/合成機能が凝縮されており、ビデオ・シンセサイザー(ビデオ・モジュラー)の入門機として最適な製品に仕上げられています。スタンドアローンで使用できる「Vidiot」ですが、合計13基のCV入力を備えているため、LZX Industriesの製品をはじめとするEurorackモジュールと組み合わせることも可能。Make Noise0-Coast」やMoogMother-32」といったセミ・モジュラー・シンセサイザーのビデオ版とでも言えば分かりやすいでしょうか。LZX Industriesの「Expedition」シリーズは、ミニマムなシステムでも1,300ドルくらいしてしまいますが(プラス、Eurorackケースなども必要)、「Vidiot」の価格は799ドル。その敷居の低さは大きな魅力です。

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LZX Industries「Vidiot」

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必要なケーブルなどが一式含まれているのも「Vidiot」の特徴

「Vidiot」の機能を簡単に紹介しておくと、視覚的な要素を生成する『パターン・ジェネレーター』、映像の輝度やコントラストを調整する『ルミナンス・プロセッサー』、映像に色付けを行う『カラライザー』という大きく3つのセクションで構成されています。『パターン・ジェネレーター』には、垂直パターンと水平パターンを生成する2基のアナログ・オシレーターが含まれ、矩形波/三角波/サイン波の基本波形のほか、双方の出力をミックスしたサークル/ダイアモンド/クロスハッチといった複合パターンを取り出すことも可能。テレビ放送の砂嵐のような映像を生成できるホワイト・ノイズ・ジェネレーターや、入力音のアンプ・エンベロープをCVとして出力するエンベロープ・フォロワーも『パターン・ジェネレーター』の機能として含まれています。『ルミナンス・プロセッサー』と『カラライザー』には、独立したハード・キーヤーが備わり、背面のビデオ出力端子も個別に搭載。そして「Vidiot」の大きな特徴と言えるのが、8種類の“モジュレーション・プリセット”が用意されている点で、これによってパッチ・ケーブルを差し替えることなく、主要パラメーターに任意のモジュレーション・ソースを割り当てることが可能になっています。

LZX Industriesによれば、「Vidiot」のデザインにはアメリカ人ビデオ・アーティストのダン・ブッチャーノ(Dan Bucciano)が深く関わっているとのこと。14歳でビデオ・アートに目覚めたというダン・ブッチャーノは、1970年代にニューヨークに移ってパフォーマーとして活動し、同時に若き技術者として、エリック・シーゲル(Eric Siegel)やビル・エトラ(Bill Etra)といったビデオ・シンセサイザーのパイオニアたちをサポートした人物。そんなダン・ブッチャーノにとって、オリジナルのビデオ・シンセサイザーを世に送り出すのは長年の夢でしたが、「Vidiot」によって遂に実現したとのことです。冒頭、ビデオ・シンセサイザーの人気が世界的に高まっていると記しましたが、「Vidiot」の登場は間違いなくそのトリガーになっていると言っていいでしょう。

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