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PRODUCT STORY

製品開発ストーリー #45:Arturia DrumBrute Impact 〜 フレデリック社長が語る、Arturiaのハードウェア戦略

先月発表されたArturiaの新製品、「DrumBrute Impact(ドラムブルート・インパクト)」の国内販売が、いよいよ明日(2018年8月26日)から開始されます。人気の“Brute”シリーズの最新作となる「DrumBrute Impact」は、パンチのあるサウンドを信条とする新型ドラム・マシン。兄弟機のDrumBrute(開発者インタビュー記事は、こちら)とはまったく異なる音色を10種類搭載し、アグレッシブで存在感のあるビートを生み出す新世代グルーヴ・マシンです。独特な音色が特徴のFMドラムも備え、このマシンのために開発されたというディストーションも装備。DrumBruteがTR-808/TR-909の流れを汲んだ伝統的なドラム・マシンだとするなら、「DrumBrute Impact」は、よりダンス・ミュージック/エレクトロニック・ミュージックに最適化された現代的なドラム・マシンと言えるでしょう。

そこでICONでは、「DrumBrute Impact」の発表に合わせて来日したArturiaの社長、フレデリック・ブルン(Frédéric Brun)氏にインタビュー。「DrumBrute Impact」の話はもちろんのこと、Arturiaのハードウェア製品への取り組みや、RackBrute(製品レビュー記事は、こちら)で遂に参入をはたしたモジュラー製品の展開など、様々な話を伺いました。

Arturia DrumuBrute Impact - Interview

よりパンチのあるサウンドを目指して開発した新製品「DrumBrute Impact」

——— 今日はフレデリックさんにいろいろな話を伺いたいと思っているのですが、まずは新製品「DrumBrute Impact」についておしえてください。これはDrumBruteのバリエーション・モデルということでいいのでしょうか?

フレデリック・ブルン(以下、FB) DrumBruteの兄弟機ではありますが、ライト・バージョンではありません。「DrumBrute Impact」とDrumBruteの音源はまったくの別物であり、よりパンチのあるサウンドを目指して開発したのが今回の製品になります。また、DrumBruteには『Steiner Parker』フィルターが備わっていますが、「DrumBrute Impact」にはフィルターではなくディストーションが備わっていたりと、機能面も異なります。DrumBruteと「DrumBrute Impact」 の関係性は、MiniBruteMicroBruteによく似ており、既にDrumBruteを持っている人にとっても魅力的なマシンに仕上がっています。実際、DrumBruteと「DrumBrute Impact」は最高のコンビと言えます。

——— 以前、DrumBruteについてインタビューした際、“音色的にはTR-808とTR-909を元にした”とおっしゃっていましたが、今回の「DrumBrute Impact」は、そういったクラシックなドラム・マシンをベースにしていないということでしょうか。

FB 今回はよりダンス・ミュージック/エレクトロニック・ミュージックを意識した音色になっています。DrumBruteが“音楽の一部としてのリズムを鳴らすマシン”だとしたら、「DrumBrute Impact」は“強く主張するビートを刻むマシン”というイメージでしょうか。とにかくパンチのあるサウンドを目指して開発を行いました。

DrumBrute Impact」の音源部は、キック、2種類のスネア、ハイタム、ロータム、シンバル、カウベル、クローズド・ハット、オープン・ハット、FMドラムという10種類の音色で構成されています。すべてアナログ回路で、FMドラムもアナログでサウンドを生成しています。各音色にはディケイやピッチ、トーンといったパラメーターが用意され、好みの音色にエディットすることができます。これだけでも十分、幅の広い音色を作り出すことができるのですが、「DrumBrute Impact」にはさらに『Color』という機能が備わっています。『Color』は、音色ごとに“別レイヤー”に切り替えられる機能で、言ってみれば違うタイプのキック、違うタイプのスネアを選択できるというわけです。カウベル以外の音色はすべて『Color』機能が使えるので、先ほど音色数は10種類と言いましたが、実際には19種類入っていると捉えてもらった方がいいかもしれませんね。

Arturia DrumuBrute Impact - Interview

——— 『Color』機能では、一体何を変化させているのですか?

FB サウンドを生成する回路自体を切り替えています。本当に“別レイヤー”の回路に切り替えているんです(笑)。もちろん、『Color』によるレイヤー切り替えは、ステップ単位で行うこともできます。

——— FMドラムが入っているのは良いですね。

FB “トゥーン”というFMドラム独特のサウンドは、伝統的なダンス・ミュージックに欠かせません。この音色にはかなりこだわりましたね。私の一番のお気に入りの音色でもあります。

——— シーケンサーはDrumBruteと同一ですか?

FB ほとんど一緒です。ですのでDrumBruteのユーザーであれば、すぐに使うことができると思います。全体的なデザインやパネルのレイアウトもDrumBruteを継承していますし、両者の違いは何よりもサウンドと言っていいでしょう。DrumBruteには備わっていない「DrumBrute Impact」ならではの機能と言えるのがディストーションです。このマシンのために新たに開発したこのディストーションは、きっと多くの方に気に入っていただけると思います。

——— 出力段に備わっているのですか?

FB そうです。DrumBruteの『Steiner Parker』フィルターが、「DrumBrute Impact」ではディストーションに置き換えられています。なぜ今回、ディストーションを搭載したかと言えば、昨今のダンス・ミュージックで欠かせないエフェクトになっているというのもありますが、音色のバリエーションを増やすのに本当に効果的だからです。ディストーションを少しかけることで、サウンドは荒々しくなり、野性味も増します。もの凄く使い勝手のいい機能です。

——— Arturiaでは、音色やエフェクトの音決めは、すべて社内で行なっているのですか。

FB 基本的には社内で行なっています。社員のほとんどがミュージシャンやDJですし、皆で試行錯誤しながら音色を詰めていきます。ある程度製品が出来上がった段階で、社外の人物、著名なミュージシャンやプロデューサーに意見を訊くこともありますけどね。

——— 『The NAMM Show』でも『SUPERBOOTH』でもなく、このタイミングで「DrumBrute Impact」を発表したのはなぜですか?

FB 単純に製品が完成したからです(笑)。『The NAMM Show』は依然として影響力のある展示会ですし、我々も1月のアナハイムに向けて新製品を準備することもありますが、昔ほどは展示会というイベントを重視していません。『Musikmesse』は残念なことにかなり縮小してしまいましたし、『Summer NAMM』も然りです。最近は、製品が完成したときが発表のタイミングだと思っています。

Arturia DrumuBrute Impact - Interview

Arturia製シンセサイザーの一番の強みは“エクスペリエンス”

——— Arturiaには現在、社員はどれくらい在籍しているのですか?

FB 72人です。でも来月には75人になっているでしょうし、きっと来年の今頃は100人を超えているでしょうね(笑)。社員のうち、約半数が開発者です。

——— ソフトウェア・メーカーとしてスタートしたArturiaですが、最近はもっぱらハードウェア製品に注力している印象を受けます。現在、ソフトウェア製品とハードウェア製品の売り上げ比率はどんな感じですか。

FB ハードウェア製品の売り上げは右肩上がりに増加しており、現在はソフトウェア製品が25%、ハードウェア製品が75%という感じでしょうか。ただ、我々はソフトウェア・メーカーからハードウェア・メーカーへと、意図的にシフトしていっているわけではありません。我々が作るシンセサイザーやUSBコントローラーの人気が高く、結果的にハードウェア製品の売り上げ比率が高くなっているというだけです。最近の若い人たちを見ると、昔以上に直感的に使えるハードウェアを求めているような感じがします。すぐに音を出せて、そのまま曲作りに入れるツールを求めている。皆、面倒で煩わしいことはしたくないんです…… 特にヨーロッパの人たちはそうですね(笑)。そういった人たちに、我々の製品は上手くフィットしたのではないでしょうか。

——— 興味深いのは、Arturiaはソフトウェア・メーカーとしてスタートした会社でありながら、今では本物のアナログ・シンセサイザーを製造している点です。ソフトウェア・メーカーだったら、たとえばNative InstrumentsやAbletonのように、ソフトウェアとハードウェアを融合した製品を開発するのが自然な流れだと思うのですが、なぜ本物のアナログ・シンセサイザーを作ろうと思ったのですか。

FB 我々の顧客がコンピューター無しで使える楽器を求めていたからです。電源を入れればすぐに音が出て、オーガニックなフィールのある“本物の楽器”を多くの人たちが求めていました。だったらそういう楽器を作ればいいんじゃないかと思ったのです。動機はいたってシンプルです。

誤解のないように言っておくと、我々はコントローラー製品の開発に積極的に取り組んでいますし、ソフトウェアとハードウェアの融合にもとても興味を持っています。我々は既にSparkという製品を持っていますが、今は別の方向性を模索しているところです。

Arturia DrumuBrute Impact - Interview

——— Moog MusicやDave Smith Instruments、Novation、Elektronなど、名だたるメーカーが名を連ねる市場に、後発で参入することに迷いはありませんでしたか?

FB ありませんでした。それに我々がMiniBruteを発表した時期は、大手メーカーはハードウェア・シンセサイザーの開発/販売にあまり積極的ではなかったんです。2,000〜3,000ドルのワークステーションはあったものの、1,000ドル以下の本格的なシンセサイザーというと、市場にはほとんど見当たりませんでした。これは、我々にとってとてもラッキーなことだったんです。

MiniBruteでの我々のチャレンジは、ハードウェア・シンセサイザーへの需要をいかにして掘り起こすかということでした。実際に触れば誰もが気づきますが、ハードウェアにはソフトウェアには無い魅力があります。我々はできるだけ手頃な価格で本格的なシンセサイザーを提供し、多くの人たちにその魅力に気づいてほしかったのです。結果、このチャレンジは大きな成功を収めました。Bruteシリーズは現在までに、MicroBrute、MatrixBrute、DrumBrute、そして新しいMiniBrute 2MiniBrute 2Sと、どんどんラインナップを増やしています。

——— 他社のシンセサイザーと比較したBruteシリーズの強みというと?

FB 一番は、“エクスペリエンス”でしょうね。我々の製品は音が良いだけでなく、現代的な機能を備え、誰もが扱いやすく、なおかつコスト・パフォーマンスにも優れています。それらのバランスが、とても絶妙なのではないかと自負しています。Moog Musicも新しいチャレンジをしているのでしょうが、どうしても伝統的なシンセサイザーというイメージが強く残っています。先ほどあなたが名前を挙げた中では、Elektronはとても興味深いメーカーです。若い人たちの間で、非常に人気がありますしね。実際、彼らの製品は素晴らしく、とても奥深いものです。しかしその奥深さが、すべての人たちに受け入れられるかと言ったらそうではないと思っています。我々の製品は取っ付きやすさを重視しており、それでいて奥深さも併せ持った製品を目指して開発を行なっています。

Arturia DrumuBrute Impact - Interview

エコ・システムをもっと強化し、各製品をシームレスに連携できるようにしていきたい

——— ここ数年のモジュラー・ブームをどう見ていますか。

FB とても興味深く見ています。好みのモジュールを選んで、人とは違う自分だけのシンセサイザーを構築できるというのは、モジュラーの大きな魅力です。モジュラーは敷居が高いと思っている人も多いかもしれませんが、シンプルなシステムだったらそれほど高価ではありません。最初から大きなケースを買って、一気に埋めようとすれば話は別ですけどね(笑)。ただ、個人的な意見を言わせてもらうと、モジュラーと音楽が結びついていない人も少なくないような印象を受けます。これはもっとモジュラーが普及していけば、変わってくるのかもしれませんけどね。

——— モジュラー・プレーヤーの間では、BeatStep Proの人気が非常に高いですね。

FB はい。単にCVが出力できるというだけでなく、トラディショナルなシーケンサーで、なおかつとても使いやすいところが受けているのではないかと思っています。

——— 一昨年の『SUPERBOOTH 2016』会場でフレデリックさんとお会いしたとき、“日本ではモジュラーはどうですか? 流行ってますか?”と逆に質問されたのを憶えています。そのときに、“あ、Arturiaはモジュラーをやるんだな”と思ったんですが、予想どおりArturiaはモジュラー市場に参入してきました。しかし最初の製品がモジュールではなくケースだったのには驚きました。

FB モジュラー市場への参入はずっと検討していたんですが、最初は明確なアイディアがまったくありませんでした。100を超えるメーカーが、様々なモジュールを販売している中で、我々として一体何ができるのか。そのときにふと思いついたのが、セミ・モジュラー・シンセとEurorackモジュールを融合できる、新しいスタイルのケースというアイディアだったんです。世の中にはモジュラーに興味を持っているのに、最初にたくさんのモジュールを揃えなければならないと思って、尻込みしてしまっている人が多くいます。しかしセミ・モジュラー・シンセとEurorackモジュールを融合できるケースがあれば、MiniBrute 2/MiniBrute 2Sをスタート・ポイントにして、少しずつモジュラーの世界に入っていくことができます。なおかつ、フォルダブル型で、持ち運びにも優れたケース。我々は常に、新しい需要を掘り起こすということに一番の興味があります。ユニークな機能を持ったRackBruteなら、新しい需要を掘り起こせるのではないかと考えたのです。

Arturia DrumuBrute Impact - Interview

——— MiniBrute 2/MiniBrute 2SとRackBruteを連結できる『Link System』は凄く良いですね。

FB 最初は、スーツケース型のシンセサイザーにモジュラーを融合した製品というイメージだったんです。ただ、両者を単純に同じケースに収めたのではおもしろくないということで、試行錯誤の結果、あのデザインに落ち着きました。RackBruteに関しても、デザインを手がけたのはアクセル・ハートマン(Axel Hartmann)です。

RackBruteは発売以来、売れ行きはかなり好調ですが、購入者の多くは既にモジュラーをやっている人なんです。我々としては、RackBruteをきっかけにモジュラーの世界に入る人をもっと増やしていきたい。そういう人たちをどうやってモジュラーの世界に引き込めばいいのか、今後の大きな課題だと思っています。

——— モジュール単体を開発する予定はありませんか?

FB 常に様々な可能性を検討しているというのが現時点での答えです(笑)。

——— 今後の展開について、お話しできる範囲でおしえてください。

FB もっともっと我々のエコ・システムを強化し、各製品をシームレスに連携できるようにしていきたいと考えています。RackBruteでのEurorackフォーマットの採用や、RackBruteやMiniBrute 2/MiniBrute 2Sで導入した『Link System』などは、その方向性を明確に表しています。今後の計画を具体的に明かすことはできませんが、コンピューターとハードウェア、シンセサイザーはこれまで以上に密接に連携していくようになるでしょう。DAWを中心としたコンピューター・ベースの音楽制作と、モジュラーを使った曲作りや演奏は、近しい世界のようで実はかけ離れています。Apple GarageBandを使っている人にとっては、モジュラーというのはとても難解で、興味を持っている人もきっと少ないでしょう。しかしエコ・システムが進化することによって、かけ離れた両者の関係性も変わってくると思っています。さらに将来のエコ・システムでは、インターネットやAIも重要な役割を果たすようになります。ぜひ楽しみにしていてください。

——— 最後にこの記事を読んでいる日本のArturiaファンにメッセージをお願いします。

FB 日本の皆さんの熱心なサポートには心から感謝しています。我々はこれからもより良い製品を作り、皆さんのクリエイティビティを刺激していきたいと思っています。もし何か要望や不満がありましたら、すぐにお知らせください。我々は皆さんからのフィードバックには可能な限り応えたいと思っています。

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