Feature Image

FEATURE ARTICLE

EVENT REPORT:『Patching for Modular』 〜 “国産モジュラーシンセ”にスポットをあてたイベントが初めて開催

2025年7月20日、“国産モジュラーシンセ”をフィーチャーしたリアル・イベント、『Patching for Modular』が東京・渋谷のCIRCUS TOKYOで開催されました。当日は日本に拠点を置くモジュラー・メーカーが18ブランド、モジュラーシンセを扱うショップが2店舗出展し、最新のモジュールや開発中のプロト・タイプを展示。また、モジュラー・メーカーによる実演やセミナー・スタイルでのマシン・ライブなども行われ、大盛況のうちに幕を閉じました(150枚用意された前売りチケットは、ソールド・アウトだったとのこと!)。はるばるロンドンから、ALM/Busy Circuitsの総帥、Matthew Allumさんも来場していたモジュラー・イベント、『Patching for Modular』。ここでは各メーカーのブースのもようを簡単にレポートしたいと思います(滞在時間および会場混雑の関係で、すべてのブースをチェックできませんでした……。取り上げることができなかったメーカーのみなさま、申し訳ありません)。

Patching for Modular Report
Patching for Modular Report

centrevillage

海外でも人気を集めるcentrevillageは、最新作の「Trigger HaCer 2」をメインに展示。Trigger HaCerの後継モデルである「Trigger HaCer 2」は、5トラック仕様のゲート・シーケンサーで、2系統のCV出力も備えた多機能モジュールです。5×5のマトリクス・ボタンは、外周がステップ操作(最大16ステップ)、その内側の周がパターン・セレクト(最大8パターン)として機能し、カラー表示のLEDと相まって、直感的に操作することが可能。ゲート長の設定やラチェット、クロック・モジュレーションにも対応し、2系統のCV出力はピッチ・シーケンスだけでなく、LFOやエンベロープ、ランダムなどのモジュレーション用としても使用することができます。また、5つのトラックと5つの出力の接続は固定されておらず、自由にルーティングできるというのもユニーク(たとえば、トラック1を出力5に割り当てることも可能)。12HPとコンパクトながら、かなり高機能なシーケンサーと言えそうです。販売価格は49,500円(税込)で、Clockfaceでは既に販売中です

Patching for Modular Report

centrevillageの最新作、「Trigger HaCer 2」。5トラック仕様のゲート・シーケンサー

centrevillageは他にも、超小型サイズのパッシブ・マルチプル「MLT」を展示していました(会場価格は、2個でなんと1,000円!)。

Patching for Modular Report

超小型サイズのパッシブ・マルチプル「MLT」

Hikari Instruments

ジャパニーズ・シンセ・ビルダーの雄、Hikari Instrumentsは、新作の「VCO Controller」と「4ch Mixer」を中心に展示。この2つの製品は、新機軸のスタンドアローン・デバイスで、「VCO Controller」はアナログ・オシレーター/アッテネーター、「4ch Mixer」は名前のとおりの4ch入力のオーディオ・ミキサーです。EMSスタイルのバーニア・ダイアルが特徴的な「VCO Controller」は、鋸波/矩形波/三角波/サイン波の4つの波形を同時に取り出すことが可能で、もちろん外部からのピッチ・コントロールにも対応。背面にはアッテネーターも備わっており、入力端子に何も接続していないときは、スタテイックなCVジェネレーターとしても機能します。ユニークなのが、アッテネーター/CVジェネレーターもバーニア・ダイアルを使ってコントロールする仕様(つまりはピッチ・コントロールと共用)になっている点で、アイディア次第でおもしろいプレイが考えられそうです。

Patching for Modular Report

“モノ”としての完成度も高い「VCO Controller」と「4ch Mixer」

またHikari Instrumentsは、2chパッシブ・アッテネーターのDIYキットも会場限定で販売。ユーロラックの新作はありませんでしたが、複数の出力を備えたLFOモジュールを開発中とのことでした。

Patching for Modular Report

会場限定販売の2chパッシブ・アッテネーター

Hügelton Instruments

神戸発のガレージ・メーカー、Hügelton Instrumentsは2種類のデジタル・オシレーターを展示。デザイン性の高いパネルが印象的な「K102E 電子式複合發振試験機」は、プライマリー/セカンダリー/LFOと3基のオシレーターを備えたサウンド・ソースで、メインのプライマリー・オシレーターは、基本波形に加えて金属倍音波形やフォルマント波形など、さまざまな波形をウェーブテーブル形式で収録。プライマリー・オシレーターとセカンダリー・オシレーターは、内部接続でのフェイズ・モジュレーション/リング・モジュレーション/クロスフェードにも対応した、非常に高機能なデジタル・オシレーターです。サイズは20HPで、ホワイト・パネルとブラック・パネルの2色展開。とにかくパネルのデザインが秀逸で、ルックスだけで物欲がそそられるモジュールでした。

Patching for Modular Report

デジタル・オシレーター・モジュール、「K102E 電子式複合發振試験機」

Patching for Modular Report

美しいパネル・デザインの「K102E 電子式複合發振試験機」は、ホワイト/ブラックの2色展開

Hügelton Instrumentsは他にも、8HPのデジタル・オシレーター「Wren」、CVジェレネーター「The Earth Module」、4chのゲート・シーケンサー「Rhythm Computer Quex」といった新作モジュールを展示。「The Earth Module」は、Wi-Fiでインターネットから取得したデータ(たとえば、NASAが発信している地球の天気や自転のデータなど)を元にCVを生成するというとてもユニークなモジュールです。こちらは来月発売とのこと。

Patching for Modular Report

4chのゲート・シーケンサー、「Rhythm Computer Quex」

n.p.Devices

今回の『Pathing for Modular』を機にローンチしたという新興メーカー、n.p.Devicesは、ユーティリティ・モジュールの「banaur」を販売。10HPの「banaur」は、ユーロラック標準の3.5mmのミニ端子と、Buchlaなどで採用されているバナナ端子の変換を実現するフォーマット・ジャンブラーです。電源不要のパッシブ・モジュールで、白パネルと黒パネルの2色展開。ちなみにブランド名の“n.p.”は、フランス語で“途方に暮れる”という意味のnord perduの頭文字とのことで、“一体どうしたらいいの?”と思える製品を目指して開発を行っているとのことです。

Patching for Modular Report

パッシブ仕様のフォーマット・ジャンブラー、「banaur」

P4L

80KIDZのJUNさんが主宰するP4Lは、最新作の「PIKOCOREURO」を初披露。「PIKOCOREURO」は、Infinite Digitsのオープン・ソース・マングラー、“pikocore”をユーロラック化したモジュールです。Raspberry Pi Picoベースの“pikocore”は、入力音を8bit/33kHzでサンプリングし、チョップして再生できるローファイ・マングラー。サンプルは、設定したテンポ/外部クロックに同期して再生することができ、フィルターや最大128ステップのシーケンサーなども搭載しています。P4Lの「PIKOCOREURO」は、“pikocore”のコンセプト/機能はそのままに、コンパクトにユーロラック化。大型のボタンをメインに据えることで、よりライブ・プレイに最適化されたデザインになっているのが特徴です。

Patching for Modular Report

オープン・ソース・マングラー“pikocore”をユーロラック化した「PIKOCOREURO」

SUIGADOU

劇作家・舞台音響家の神田川雙陽さんが主宰するSUIGADOUは、20HPのCVシーケンサー「Tropico」のプロト・タイプを展示。「Tropico」 は、8本のスライダーで設定した8つのCVをクロックで順々に取り出せるCVシーケンサーですが、ユニークなのがスライダー下のノブ/外部CVを使って“優先度”を設定できる点。すべての“優先度”がゼロの場合、CVは左から右に順々に出力されますが、特定のスライダーの“優先度”を下げると、そのCVは後回しで出力されます。つまり優先度の設定次第で、『1→5→3→4』や『8→7→4→3』など、さまざまな順番でCVを取り出すことが可能に。1つのシーケンスから、新しいバリエーションを次々に生み出すことができる、これまでに無かったタイプのCVシーケンサーです。

Patching for Modular Report

ステージごとに“優先度”を設定できるCVシーケンサー、「Tropico」

また現在、Antumbraのフィルター・バンク BANK用のエキスパンダー・モジュールも開発中とのこと。このエキスパンダー・モジュールは、フィルターごとに出力を取り出せるだけでなく、エンベロープ・フォロワーとしても機能するとのことです。

Patching for Modular Report

開発中というAntumbra BANK用のエキスパンダー

Synthernet

超小型ベース・シンセサイザー ParipiDestroyerで注目を集めたSynthernetは、鋭意開発中という新製品のプロト・タイプを多数展示していました。中でも注目は、ローランド TB-303をモデリングによって完全に再現した上で、Devil Fishのようなモディファイを“デジタル領域で”施したベース・シンセサイザー「HYP3(ハイプ)」。たとえばTB-303のオシレーター波形のパルス幅をノブで連続可変したり、内部で使用されているコンデンサーの値を変えたり(!)といったモデリングならではの音色変化が可能で、さらにはTB-303の特徴である内蔵シーケンサーもオリジナルを元に大幅に強化されています。そのこだわり方は半端ではなく、完成が非常に楽しみな新型シンセサイザーでした。

Patching for Modular Report

TB-303をデジタル領域で進化させた新デバイス、「HYP3(ハイプ)」

Patching for Modular Report

「HYP3」の小型版、「HYP3 MICRO」

ParipiDestroyerで注目を集めたSynthernetは他にも、手のひらサイズのオーディオ・インターフェースの「AIF22」、そのユーロラック・バージョンである「AIF22 Module」、パッシブ回路のミキサー/スプリッターである「MIXSPLIT」などを展示。どの製品も安価で、モジュラー・レベルに対応した2HPのオーディオ・インターフェース・モジュールが14,000円というのだから驚きです。

Patching for Modular Report

手のひらサイズのオーディオ・インターフェース、「AIF22」

Tokyo Tape Music Center

Tokyo Tape Music Centerは、デュアル・オシレーター、LPG、VCF、ディレイといった自社製モジュールで組み上げたコンパクトなモジュラー・システムを展示。左端の14HPのモジュールは、5ステージのステップ・シーケンサーで、その右側のパルサー(クロック・ジェネレーター)・モジュールでドライブされていました。左上には、Buchla用のDual Square Wave Generator 144 Cardの姿も。

Patching for Modular Report

左端にマウントされているのが5ステージのシーケンサー・モジュール

Toppobrillo

現在は東京に拠点を置く老舗モジュラー・メーカーのToppobrilloは、最新作の「Matrixplexer」をフィーチャー。“4×4 2D スキャニング・マトリクス・ミキサー”を謳う「Matrixplexer」は、4入力/4出力のマトリクス・ミキサー/VCAに、マルチプレクサ/スキャナー機能を融合したモジュールです(24HP)。スキャナーは、横方向(X)と縦方向(Y)の両方に備わり、スライダーと外部CVでコントロールすることが可能。スキャン時のクロスフェード・スロープを調整できるシェイプ・コントロールも備え、ミックスせずにいずれかのチャンネルを排他的に出力する“Dot”、通常のスキャナー動作の“Bar”、内蔵LFOでスキャンを繰り返す“Scroll”という3種類の動作モードが用意されています。

Patching for Modular Report

マトリクス・ミキサーにマルチプレクサ/スキャナー機能を融合した「Matrixplexer」

またToppobrilloは、新機軸のコンパクト・モジュレーター「AXA」シリーズも展示していました。

Patching for Modular Report

新機軸のコンパクト・モジュレーター「AXA」シリーズ

Ult-Sound

1978年に東洋楽器が発売したシンセ・ドラム、Ult-Sound DS-4のリイシューである「DS-4M」。初期型を再現したモデル(ブラック)、その後のリビジョンを再現した“ProMuzer”モデル(ホワイト)、最終リビジョンを再現した“CUSTOM”モデル(ブルー&イエロー)の3モデルが用意されており、外観だけでなくパラメーターも微妙に異なっています。1ch分の音源を16HPでユーロラック・モジュール化した「DS-1」も展示されていました。

Patching for Modular Report

シンセ・ドラムの名機、Ult-Sound DS-4をリイシューした「DS-4M」

Patching for Modular Report

EVENT REPORT:『Patching for Modular』 〜 “国産モジュラーシンセ”にスポットをあてたイベントが初めて開催

IK Multimedia、ヴァン・ヘイレンの“ブラウン・サウンド”を再現するTONEX Brown Soundシリーズの最新作を発表…… 『Eruption』や『Panama』の音色が超小型ペダルの中に

AD

Arturia、小型アナログ・シンセの限定モデル、「MicroBrute UFO」を発売…… 黒一色の筐体に緑色のUFOを配したスペシャルMicroBrute

teenage engineeringの創設者、ヤスパー・コウトフ氏インタビュー 〜 美しく独創的な電子楽器は、いかにして生まれるのか

嵐や星屑の音響を生成できるハリウッド御用達のソフト、Sound ParticlesがV3にアップデート…… 遂にプラグインに対応、間もなくソフト音源も使用できるように

ローランド、“ハンドパン”に着想を得た新しい電子楽器「Mood Pan」を発表…… プリセットされた環境音楽や自然音をバックに演奏することも可能

Waves、すべてのプラグインをV16にアップデート…… 待望のウィンドウのリサイズに対応、CLA-2AやCLA-76にはオート・メイクアップ・ゲイン機能が追加

書籍『NHKの電子音楽』が刊行…… 日本で初めて電子音楽スタジオが設置されたNHKを中心に、我が国の電子音楽の歩みに迫った1冊

Cycling 74、Max 9を初めてプロモーション価格で販売中…… RNBOやアップグレードも対象、22日まで

Avid、Pro Toolsの最新バージョン、2025.6をリリース…… Spliceが統合され、ARAでSynthesizer Vを利用可能に

ALM/Busy Circuitsから4HPフィルター Pip Filterと、4HPオシレーター Pip LFOがデビュー…… わずか12HPでアナログ・シンセ・ボイスを組むことが可能に

AD

プラグインを教材に、ヴィンテージ機材の音色変化と使いこなし術を学ぶことができるセミナーが開催…… 大阪は20日、東京は27日

Ableton、Live 12.2を正式リリース…… 待望のバウンス・インプレイス機能を搭載、表現力豊かなコード演奏を実現する『Expressive Chords』も登場

teenage engineering field systemのブラック・モデルの国内販売がスタート…… 7月18日まではプロモ価格で販売

teenage engineering、OP-1 fieldの大幅ディスカウント・プロモをスタート…… 国内では最安値/約41%OFFの220,000円で販売

立体音響対応の“空間シンセサイザー”に、ライト版「MiniDust」が登場…… 3Dアルペジオを実現する“空間シーケンサー”も搭載

teenage engineeringの円高還元セールがスタート…… OP-XYやOP-1 fieldといった人気のマシンが最大44,000円OFFで販売中

“国産モジュラーシンセ”に焦点を当てたイベント、『Patching for Modular』が開催…… 日本のモジュラーシンセ・メーカーが集結、即売やライブも

ICON