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INTERVIEW

大注目の新製品、コルグ「NTS-1」のすべて 〜 自作オシレーターのロードにも対応、1万円で買える新感覚ガジェット・シンセ

今年5月の『SUPERBOOTH 19』でお披露目され、大きな注目を集めた「NTS-1 digital kit(以下、NTS-1)」の国内販売が、いよいよ明日(2019年11月23日)開始されます。コルグのDIYブランド、“Nu:Tekt”初のシンセサイザー製品となる「NTS-1」は、prologueminilogue xd直系の音源回路を搭載した、手のひらサイズのガジェット・シンセ。シンプルな見た目ながら、中身はかなりパワフルで、新開発のアナログ・モデリング・フィルターや3種類のデジタル・エフェクト、最大24ステップのアルペジエーターなどを搭載。monotronライクなリボン・コントローラー鍵盤やスピーカーも内蔵し、もちろんMIDI入力端子も装備しています。これだけでも十分魅力的な「NTS-1」ですが、なんとprologue/minilogue xd用の開発ツール、“logue SDK”にも対応。prologue/minilogue xdは、“logue SDK”を使用することによって、オリジナルのオシレーターやエフェクトをプログラムできるのが大きな特徴ですが、「NTS-1」でもまったく同じことが可能になっているのです。つまりプログラムができる人なら、パソコン上で開発した自作のオシレーターやエフェクトを「NTS-1」上で使用することができ、非プログラマーも、既に多数出回っているカスタム・オシレーター/エフェクトを利用することが可能。手のひらサイズのガジェット・シンセでありながら、“logue SDK”の開発ツールでもあるユニークな製品、それが「NTS-1」なのです。これだけの機能を持ちながら、税別の販売価格が1万円(!)というのは、間違いなく破格と言っていいでしょう。そこでICONでは、「NTS-1」の開発を手がけたコルグの山田嘉人氏、三浦和弥氏、ノロ・エーベル エティエン氏、山口宏司氏の4氏にインタビュー。「NTS-1」の開発コンセプトとこだわりポイントについて、じっくり話を伺いました。

KORG - Nu:Tekt NTS-1 digital kit

無限の可能性を秘めた新感覚ガジェット・シンセ、NTS-1

——— 間もなく発売になる「NTS-1」は、monotronライクなガジェット・シンセでありながら、“logue SDK”の開発ツールとしての機能も併せ持ったユニークな製品です。まずは開発のスタート・ポイントからおしえてください。

エティエン 昨年発売したフラッグシップ・シンセサイザーのprologueと、今年発売したminilogue xd/minilogue xd moduleは、“logue SDK”という開発ツールを使用することで、ユーザーが自分でオシレーターやエフェクトをプログラムできる点が大きな特徴になっています。しかし“logue SDK”に興味があっても、prologueやminilogue xdが手元にないと開発することができないので、プログラマーにとっては少々敷居が高かった。そこで実機が無くてもオシレーターやエフェクトをプログラムできる開発ボードを提供しようということになり、昨年の『SUPERBOOTH 18』で無料で配布したんです。その開発ボードが「NTS-1」のベースになっています。

——— それは一体どのようなものだったのですか?

山田 prologueのMULTI ENGINEを1ボイス分、取り出したようなボードです。オシレーター用のICとエフェクト用のICが積んであり、パソコンとUSBで接続することで、“logue SDK”を使って開発が行えるボードですね。アナログのオーディオ入出力も搭載していますが、すべてパソコン側から操作する仕様になっているので、単体ではシンセサイザーとして機能しません。あくまでも開発用のツールです。個人的にはprologueの開発段階から、こういったボードが必要だなと思っていたんですが、急遽『SUPERBOOTH 18』で配布することが決まり、1ヶ月半くらいで作りました(笑)。

KORG - Nu:Tekt NTS-1 digital kit

「NTS-1」の原型となった“logue SDK”の開発ボード。昨年の『SUPERBOOTH』会場で配布された

エティエン 開発ボードを配布した後、私たちが期待していたとおり、カスタム・オシレーターとエフェクトの数が増えたんです。同時に“開発ボードが欲しい”という要望も寄せられるようになりました。

山田 それで開発ボードを製品化しようということになったのですが、そのまま出したのではおもしろくない。“logue SDK”の開発ツールでありながら、単体でも使える製品というコンセプトで去年の夏頃に開発をスタートし、完成したのがこの「NTS-1」なんです。でも、私はその頃別の製品の開発で忙しかったので、後は三浦を中心に開発を進めてもらいました。彼はガジェット好きですし、こういった小さな楽器を上手くまとめるセンスに長けているんです。

——— “logue SDK”の開発ボードに鍵盤やノブを搭載して、単体でもシンセサイザーとして使用できる製品というイメージですか?

三浦 まさにそんな感じですね。最初の段階で、monotronのリボン・コントローラー鍵盤を搭載するというアイディアも既にありました。

——— “logue SDK”の開発ツールという側面を抜きにして、ガジェット・シンセとしての「NTS-1」の機能についておしえてください。

エティエン デジタル・オシレーター、マルチモード・フィルター、エンベロープ・ジェネレーター、3基のLFO、3種類のエフェクト、アルペジエーターといった機能を備えたモノフォニック仕様のシンセサイザーです。音源はリボン・コントローラー鍵盤やアルペジエーターのほか、MIDIで鳴らすこともでき、アルペジエーターは外部シンクにも対応しています。オシレーター波形は、鋸波/三角波/矩形波/VPM波形のプリセット波形と、16スロットのユーザー・オシレーターから選択でき、購入時のカスタム・オシレーター用スロットには、複数のウェーブテーブルをミックスした波形が収録されています。

フィルターは、ローパス(2/4ポール)/ハイパス(2/4ポール)/バンドパス(2/4ポール)/オープンという7種類の中から選択できるマルチモード仕様で、完全に新規で開発したアナログ・モデリング・タイプのものを搭載しています。エンベロープ・ジェネレーターはループさせることも可能で、他にLFOが3基備わっているので、モジュレーションだけでもかなり遊ぶことができますね。最大24ステップのアルペジエーターも新規で開発したもので、volca modularで好評だった千鳥足でステップが進む“ストカスティック・モード”など、様々なモードを選択することができます。

——— エフェクトはどのようなものを?

エティエン モジュレーション・エフェクト、ディレイ、リバーブの3種類を搭載しており、モジュレーション・エフェクトはインサーション、ディレイとリバーブはセンド・エフェクトとして使用することができます。ディレイとリバーブは、minilogue xdのエフェクトに似た感じですね。モジュレーション・エフェクトは、コーラス/アンサンブル/フェイザー/フランジャーという4種類の中から選択でき、ユーザーが開発したカスタム・エフェクトをロードした場合は、フランジャーの後に追加される形になります。

山田 エフェクトはかなり優秀で、単に鋸波を鳴らしただけでも、リッチな音が出るようになっています。この価格帯のガジェット・シンセとは思えないサウンドですね。

エティエン 「NTS-1」はオーディオ入力も備わっているのですが、どの部分にオーディオ入力をアサインするか、選択できる仕様になっているのもポイントです。例えばエフェクトの前段にオーディオ入力をアサインすれば、「NTS-1」をエフェクターとして使用することもできる。volcaの出力をオーディオ入力に接続すれば、volcaの音をエフェクト処理し、「NTS-1」の音とミックスして出力することが可能です。

山田 MIDI入力が、ステレオ・ミニのTRS端子というのも特徴です。ステップ・シーケンサーのSQ-1も同じ端子なので、ステレオ・ミニのケーブル1本で直結することができます。

三浦 もちろんスピーカーも内蔵しています。パワー的にはvolcaとほぼ同じですが、基板に取り付けなければいけなかったので、パーツは違うものを採用しています。

——— オシレーターをエディットする場合は“OSC”ボタンを押してノブを回す、フィルターをエディットする場合は“FILTER”ボタンを押してノブを回すという操作性が分かりやすくて良いですね。

三浦 初期のプロト・タイプでは、ボタンを押しながらノブを回さなければならなかったりとか、少々操作が煩雑だったんです。それが嫌だったので、できるだけシンプルな操作にしました。

山田 シグナル・フローは固定ですし、機能面も分かりやすいと思います。

プリント基板をイメージしたこだわりのデザイン

——— なぜ今回、完成品ではなく、“DIYキット”という形態で発売することにしたのですか?

山田 プログラムを書いて、さらにハードウェアも組み立てれば、自分だけのシンセサイザーという感じがするじゃないですか。“作ることの掛け算”というか。なのであえてDIYキットという形態で発売することにしました。

山口 それと完成品として専用の筐体を作る場合、新たに金型を起こす必要があり、そうなるとかなりの数を生産しなければならないという理由もあります。DIYキットであれば、一部のパーツだけを新規で作ればよく、そのパーツは他の製品で流用することもできますからね。

KORG - Nu:Tekt NTS-1 digital kit

DIYキットとして販売される「NTS-1」。組み立てに要する時間は20分ほどで、必要な工具はプラス・ドライバー1本のみ(製品に同梱)

——— DIYキットと聞いて引いてしまう人もいると思うんですが、組み立ての難易度はどれくらいなのでしょう。

三浦 かなり簡単だと思います。ハンダ付けの必要もなく、必要な工具はプラス・ドライバー1本だけ。それも製品に同梱されています。

山口 工作が苦手という人でも、20分くらいで完成するのではないでしょうか。筐体のパネルは1枚板になっていて、曲げて切り離すデザインになっているんですが、よほど変な曲げ方をしない限り失敗しません。

三浦 それと今回、組み立ての説明書にもかなりこだわったんです。説明書を広げて、文字がいっぱい載っていると、それだけで読むのが嫌になってしまうじゃないですか。だから文字はパーツの説明くらいで、図を追うだけで組み立てられるような説明書になっています。これはデザイナーにがんばってもらいました。

——— 実物を目の前にすると、艶消し黒の天板と“合金感”のあるサイド・パネルのコントラストが良い感じで、かなり物欲をそそるデザインという印象です。

三浦 サイド・パネルの形状は、かなりこだわった部分です。誰が組み立てても同じように仕上がるように、機構担当と一週間くらい“ああでもないこうでもない”と試行錯誤しました。サイド・パネルをネジで止めない構造にもできたのですが、精密機器らしい“緻密感”や、“自分で組み立てた感”を演出するために、パネルごとにあえて4点止めにしたんです。

山口 ネジで止めないシンプル・バージョンも試作してみたんですが、何か安っぽい外観だったんです。また、四隅で使用しているアルミの押し出し材のパーツは、「NTS-1」のために新たに作ったものです。

三浦 サイド・パネルを止めるネジは、長いものを採用しているので、自作のサイド・パネルを取り付けることもできます。

山口 取扱説明書に寸法図が載っているので、ぜひオリジナルのサイド・パネルを作ってみてください。

KORG - Nu:Tekt NTS-1 digital kit

今回、新たに製作したというアルミの押し出し材。「NTS-1」では筐体の四隅で使用されている

KORG - Nu:Tekt NTS-1 digital kit

サイド・パネルの製作例。オシレーター/エフェクトに加えて、外装までも自分仕様にできるのは「NTS-1」の大きな魅力

——— 艶消し黒とゴールドのツートーンにしたのは?

三浦 実はゴールドは、プリント基板の導体の色で、艶消し黒は絶縁体の色なんです。最初はまったく違う外観だったんですが、DIYキットなので、プリント基板を彷彿とさせるデザインがいいのではないかと。配線パターンはよく見ないと見えないくらいにしたので、あえてゴールドを使うことでプリント基板らしさをより強める方針にしました。

山口 絶縁体にはいろいろな色があるんですが、緑だといかにもプリント基板という見た目になってしまいますし、デザイン的にカッコいい色ということで艶消し黒を採用しました。

三浦 prologueとminilogue xdの流れを汲む製品ということで、最初から黒系の色がいいなと思っていたんです。それで最初、艶のある黒で試作してみたんですが、何かイマイチだった。次に艶消し黒で試作してみたら凄く良かったので、これでいこうということになりました。

山口 艶消し黒だとゴールドが映えるのも良かったんです。ただ、普通はこういう筐体の文字はシルク印刷なので、それを基板のパターンとしてプリントするのが大変でしたね。最初、細かい文字がしっかり可読できるか心配だったんですが、思いのほかくっきり出たので結果的に良かったと思っています。

KORG - Nu:Tekt NTS-1 digital kit

プリント基板をイメージしたという「NTS-1」のパネル。配線パターンがうっすらと見える

カスタム・オシレーター/エフェクトのロードに対応

——— ガジェット・シンセとして十分魅力的な「NTS-1」ですが、“logue SDK”を使用することで一体何ができるのか、あらためておしえていただけますか。

エティエン C言語やC++言語を理解しているプログラマーなら、コルグ・Webサイトのリンクからアクセスできる”logue SDK”のGithubを参照することで、オリジナルのオシレーターやエフェクトを開発することができるんです。独自の波形のオシレーターや、新しいアルゴリズムのエフェクトを開発して、「NTS-1」上で使用することができる。カスタム・オシレーター/エフェクトのロードは、パソコンとUSBで接続するだけというシンプルさです。

——— prologue/minilogue xd用のカスタム・オシレーター/エフェクトは、既にたくさん出回っていますが、それらもすべて「NTS-1」で使用できるのですか?

エティエン APIは同じなので、基本的には使用できます。ただ、prologueとminilogue xd、そして「NTS-1」では、ハードウェアの仕様や処理能力が違うので、オシレーター/エフェクトによっては最適化作業が必要なものもあるかもしれません。

山田 CPUの限界に挑戦したようなものでなければ、ほとんどそのまま動作するはずです。

——— “logue SDK”での開発に取り組むデベロッパーは増えているのですか?

山田 minilogue xdを発売してから、加速度的に増えましたね。

エティエン 個人のデベロッパーが多いですが、Sinevibesのようなプラグイン・メーカーも開発に取り組んでくれています。

山田 “logue SDK”に取り組んでいるデベロッパーのほとんどは、ソフトウェアの開発経験がある人たちなんですけど、自分で作ったものがハードウェアで動くことに興奮している人が多いようです。ソフト・シンセは気軽に開発することができますが、ハード・シンセを自作するというのはかなり敷居が高いですからね。しかし“logue SDK”を使えば、オリジナルのオシレーターやエフェクトをハードウェアで動かすことができる。そこがデベロッパーにとって、大きな魅力なのではないかと思います。

——— 非プログラマーにとっても魅力ですよね。誰かが作ったプログラムをロードすれば、新しいシンセサイザー/エフェクターとして機能するわけですから。

山田 そうですね。カスタム・オシレーターとエフェクトの数は、これからどんどん増えていくのではないかと思います。

KORG - Nu:Tekt NTS-1 digital kit

「NTS-1」の基板

——— 「NTS-1」の開発で苦労した点というと?

山田 たくさんあります(笑)。一番大変だったのは、基板ですべてを完結させなければならかったこと。これまでそういう製品を作ったことがなかったので、手探りの連続でした。メーカーの人だったら分かると思うんですが、こういう製品を世に出すためには、規格以上の電波が出ていないかとか、静電気ショックに耐えられるかとか、様々な試験をクリアしなければならないんです。普通の製品ならば筐体が守ってくれる面も多いんですが、今回はそれが出来ない構造だったので。

三浦 一見、普通の基板のように見えるかもしれませんが、静電気などで誤動作を起こしそうな部分は実は隠してあったりするんです。そういうことを細々とやったので、思っていた以上に時間がかかってしまいました。

——— “logue SDK”対応製品の今後の展開についておしえてください。

山田 16/8ボイスのprologue、4ボイスのminilogue xd/minilogue xd module、1ボイスの「NTS-1」と展開してきたわけですが、もちろんこれで終わるつもりはありません。今後の予定としては、ハードウェアが無い環境でも“logue SDK”で開発したオシレーターやエフェクトを試聴できるシミュレーターを提供する予定です。少し前からアルファ・バージョンを公開しているんですが、Webブラウザでオシレーターやエフェクトを試聴する形になります。それが正式にリリースされた後は、ハードウェアを購入せずに“logue SDK”の開発に取り組む人が出てくるかもしれませんね(笑)。

——— ショップで「NTS-1」を手に取った人に、“ここに注目してほしい”というのがあれば。

山田 モノとしての質感がかなり良いと自負しているので、ぜひ実物を見ていただきたいです。ガジェット・シンセとして、エフェクターとして、プログラム可能な実験的な楽器として、末永く楽しんでいただけると思います。

KORG - Nu:Tekt NTS-1 digital kit

「NTS-1」の開発チーム。写真左からノロ・エーベル エティエン氏、三浦和弥氏、山口宏司氏

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