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WORKSHOP

連載『アイドルソングの作り方 〜 HOW TO MAKE “IDOLSONG”』by CHEEBOW 〜 第6回:アイドルソングを作る(アレンジ編)

作曲とアレンジ

第4回の「作曲編」ではメロディーとコード進行を、前回の「作詞編」では歌詞を作る工程を解説しました。今回の「アレンジ編」では、オリジナル曲『なのはなイントネーション』にアレンジを施していくことにします。

とはいえ、完全にゼロの状態からアレンジ作業を開始するわけではありません。ほとんどの場合、メロディーやコード進行を作るのと並行して、曲の構成を考え、基本的なアレンジ(ベーシック・アレンジ)も行っています。どこまでが作曲で、どこまでがアレンジかというのは、実はきっちり分けるのは難しく、曲を作っているときはメロディーだけでなく、裏で鳴っているリズムなども同時に浮かぶことが多いのです。ですので、第4回の「作曲編」にも多分にアレンジの要素が含まれていたと思います。

また連載の流れ上、「作詞編」が先に、「アレンジ編」が後にきていますが、実作業では歌詞ができあがるのを待ってアレンジに取りかかるわけではありません。実際には作詞家さんに歌詞を発注するのと同時にアレンジを開始しています。もちろん、できあがってきた歌詞の内容に合わせて、アレンジを手直しすることもありますが、ほとんどの場合は歌詞の完成を待たずにアレンジ作業を進めます。

それでは作曲時に行った“アレンジ領域の作業(曲の構成とベーシック・アレンジ)”もおさらいしながら、全体のアレンジについて解説していくことにします。

曲の構成

作曲編」では、最初にワン・コーラス分のメロディーを作り、それを元にフル・コーラスの曲へと展開しました。以下ができあがった『なのはなイントネーション』の構成です。アイドルソングとしては、王道の構成と言えます。

イントロ〜1A〜1B〜1C〜間奏〜2A〜2B〜2C〜ソロ〜D〜3C(落ちサビ)〜4C(転調)〜アウトロ
イントロ

イントロは、サビ(C)とほぼ同じコード進行にしました。ここにはエレキ・ギターで、サビのメロディーを少し変化させたものをのせようと思っています。曲にもよりますが、イントロにサビのメロディーを入れると、その後のサビでリスナーは同じメロディーを聴くことになりますので、そこで安心感を覚えます。また、イントロや間奏、アウトロで同じメロディーを繰り返すことで、サビを覚えやすくするという効果もあります。

1A〜1B〜1C

1コーラス目です。

間奏

間奏はイントロと同じで、曲によっては1コーラス後の間奏を省くこともありますが、今回は入れることにしました。間奏やイントロでは、ファンによる“MIX”というコールが入る場合があり、“MIX”をするためには最低8小節の長さが必要になります。もちろん、いくら作家が狙ったとしても、そこで実際にファンが“MIX”を入れてくれるかどうかはわかりません(笑)。

2A〜2B〜2C

2コーラス目です。1コーラス目とは少しアレンジを変えています。ぼくは2Aで、部分的に音数を減らしたり(今回の曲では、2Aの後半でドラムが消えます)、ブレイクを入れたりということをよくします。

ソロ

ギターやシンセのソロ・パートです。このパートは、アイドルソングでは結構重要だったりします。なぜならこのパートには歌がないので、アイドルが全力でダンスをパフォーマンスできるからです。曲によってはソロではなく、アイドルのコールに応えてファンがレスポンスする“コール&レスポンス”のパートにすることもあります。“コール&レスポンス”は、ライブのときに一体感が生まれますし、なにより楽しいです。もちろん、ソロと“コール&レスポンス”の両方を入れてしまうというのもありです。

D

A/B/Cとは違う新しいメロディーの“D”というパートを入れることで、曲の雰囲気や世界観を変えます。このパートだけ、アレンジを大胆に変えることもあります。個人的にこの“D”というパートが大好きで、ぼくが作ったほとんどの楽曲にはこのパートが入っています。今回は、ちょっと強めの疾走感のある感じにしてみました。

3C(落ちサビ)

いわゆる“落ちサビ”です。ドラムの音をなくし、ゆったりとしたオケの中で、主にメンバーひとりがソロで歌います。アイドルにとってはこのパートを歌うのが憧れだったりしますし、ファンの人たちはここで“ケチャ”というオタ芸をしたりと、アイドルソングにおいては大変重要なパートと言えます。以前、“落ちサビ”のない曲を作ったとき、ファンの方から「落ちサビがない」とがっかりされたことがありました。

4C(転調)

最後はサビを繰り返しますが、ここで半音上に転調して盛り上げるのがぼくの常套手段です。“またか!”と思った人もいるかもしれませんが、半音転調って盛り上がるんです。転調だけでなく、メロディーやアレンジに少し変化を加えるのもいいでしょう。今回は、4C後半の入りで1拍ブレイクしています。ここで、ファンの人がジャンプしてくれるといいなぁと妄想しつつ。これも、ぼくがよくやる手法です。また、4C後半では他にはないキメをさりげなく入れてみました。気づいた人だけが、ここで体を揺らしてくれるといいなぁと。

アウトロ

ここもイントロとほぼ同じです。最後はキメで終わらせています。アウトロはなくてもいいのですが、ここでも“MIX”を入れることができますし、曲に余韻を加えられるので、ぼくは入れることが多いです。

ベーシック・アレンジ

冒頭で触れたとおり、メロディーやコード進行を作るのと同時に、ドラム、ベース、ギター、ピアノといった楽器で、基本的なアレンジも行いました(ベーシック・アレンジ)。ベーシック・アレンジには、曲を作っているときに裏で鳴っているリズムやフレーズを、忘れずに出力しておくという意味もあります。

1:ドラム

ぼくはまず、ドラムから打ち込みます。基本となる2小節くらいのリズムを作ったらそれをコピーし、パートごとにフレーズを変えたり、フィルやキメ、ブレイクを作っていきます。

2:ベース

次はベースですが、ベースとドラムのキックは切り離せないので、ベースを入力しながら同時にドラムも細かくいじります。

3:ギター

ドラムとベースの後に入れる楽器は曲によって違うのですが、今回はアコースティック・ギターのイメージが強かったので、アコギから入れました。また、サビでちょっと物足りなさを感じたので、エレキ・ギターも加えました。

4:ピアノ

ピアノの音も欲しかったので、追加しました。ギターよりも少し大きめのリズム感でバッキングをしています。

以上が曲作りの際に行ったベーシック・アレンジです。もちろんこれは、あくまでも“ベーシック・アレンジ”で、フレーズは後で何度も修正しますし、まったく違う音色に差し替えることもあります。しかし曲のイメージを早めに形にしておくためにも、ベーシック・アレンジは積極的に行うようにしています。

アレンジ

個人的には、ベーシック・アレンジができていれば、アレンジの8割くらいは終わっているという感覚があります。あとはベーシック・アレンジを叩き台に、好きな音を足したり、要らない音を削ったりっというとても楽しい作業が待っています。

今回、ぼくがアレンジで行った作業は以下のとおりです。

1:ドラム・キットの変更

何度も聴いているうちにベーシック・アレンジのときに使ったドラム・キットに違和感を感じ始めたので、別のものに変えました。

2:ストリングスの追加

ストリングスを入れることで、広がり感を演出しました。オクターブのユニゾンで打ち込み、メロディーの隙間で動いて、メロディーが動いているときは音を伸ばす、というのが基本です。今回は、Steinberg HALion Sonicのプリセットをリバーブを切って使用しました。リバーブはミックス時にかけるので、ソフト・シンセ内蔵のものは基本的に使いません(ものによってはそのまま使うこともあります)。

3:パッドとアルペジオの追加

パートごとに違うパッドとアルペジオを入れました。これは、ベーシック・アレンジという線画に、背景色を塗っていくような作業です。各パートの雰囲気、イメージにあった音を探して打ち込んでいきます。パッドとアルペジオだけでも、いろいろな表現ができるので、さまざまな組み合わせを試してみます(もちろん、後で不要だと感じて削除することもあります)。音色は、基本的にソフト・シンセのプリセットを選び、そこからフィルターやエンベローブなどをいじったり、EQでいらない帯域を削ったりします。具体的には最初に、パッドはSteinberg Padshop、アルペジオはRob Papen Blueを選ぶことが多いです。これでイメージに合わなければ別のソフト・シンセを試したりします。今回はイメージに合う音が見つかったので、この組み合わせを使いました。アレンジ中は、ガイドのメロディーをミュートして、オケだけでの雰囲気もチェックします。SoundCloudのサンプル音源は、ドラムとパッド、アルペジオのみを鳴らしています。

4:タンバリンの追加

春、青春ソング、自転車と言えば、あの音が必要でしょうということでタンバリンを追加しました。具体的には、Spectrasonics Stylus RMXを使用しています。Stylus RMXは、細かく切り刻んだサンプルをMIDIデータで鳴らすことができるので、キメなども簡単に作ることができますし、MIDIで細かくシミュレートして打ち込むよりも簡単に本物っぽさが得られます。タンバリンというと、左右に振りたくなりますが、ぼくはアレンジの際はパンの設定はしません。パンを設定せず、真ん中に置いておいた方が必要な音/不要な音の判別がつきやすいのです。音を増やしていくと、不要な音は自然と聴こえなくなる場合が多いので、そうなったら潔くその音は削ってしまいます。最初からパンを設定しまうと、どの音もそれなりに聴こえてしまうので、必要な音/不要な音の判別がつきにくくなってしまうのです。もちろん、タンバリンはハイハットと音色が似ていますので、最後のミックス時にはパンを振って居場所をわける必要があります。

5:リード・ギター(仮)の追加

この後ギターは生に差し替えるのですが、リード・ギターの仮のフレーズはこの段階で作ります。イントロのフレーズは、サビを元にキメをなくして、少し緩やかなイメージにしました。HALion Sonicのエレキ・ギターの音色をベタ打ちで入力しています。

6:チャイム/ベルの追加

Dパートで、「予鈴がもてなすから」というフレーズがあるので、チャイムの音を追加しました。いろいろなソフト・シンセを試してみたのですが、AIR Music Technology Xpand!のプリセットが最もイメージに合っていたので、これをベースにしました。

チャイムの音を追加したら、全体的にキラキラ感が欲しくなったので、ベルの音も追加しています(Bパートあたりから出てきます)。このベルの音は、UVI Falconのプリセットをエディットしたものです。ぼくの最近の曲のベルはほぼこの音で、ストリングス同様、メロディーの隙間で動かすようにしています。

7:クラップの追加

Dパートをもっと賑やかにしたいと思い、クラップを追加しました。クラップはアタックが強いので派手な感じになります。クラップは、Stylus RMXの単音サンプルをそのまま使っています。クラップなしの音源と、クラップを加えた音源をぜひ聴き比べてみてください。

8:効果音の追加

“落ちサビ”の頭に、HALion Sonicのウィンドチャイムの音を追加して、キラキラ感を出してみました。また、2A後半の音が薄くなるところに下降系の効果音を加えました。音色は、Blueのプリセットのエンベロープを調整して使っています。その他、パートの頭などに、リバース・シンバルやクラップにリバーブをかけて伸ばした“パーン”という音も追加しました。この音は、シンバルやクラップの音を元に自分で作ったものです。いろいろな曲で使っているので、今やぼくの“サウンド・アイコン”と言っていいかもしれません。

9:コード・リフの追加

効果音を追加したところでアレンジは完成だと思ったのですが、書き出した音源を通勤中に何度も聴いていたところ、ちょっと爽やかすぎるというか、あっさりしすぎている感じがしてきました。このままでも良いと思うのですが、最終的に不要であれば削除すればいいので、シンセでコードのリフを入れてみました。この手の音色はUVI Synth Anthology IIから探すことが多いのですが、今回はプリセットがちょうどいい感じだったHALion Sonicを使用しています。EQで不要な帯域を削り、高域を上げ気味にして軽めの音にしました。また、DメロにはreFX Nexusを使ってトランス・ゲートっぽいフレーズも入れてみました。Nexusのアルペジオは曲が派手になるのでつい入れてしまいますが、使いすぎには注意しています。アレンジがわかりやすいように、ガイド・メロを抜いた音源がこちらです。

これで、アレンジはひとまず完成です!

HOW TO MAKE IDOLSONG - 006

ギター・トラックをミュートして、打ち込みのギターを抜いた音源を作り、ギタリストの友人に送ってギターを入れてもらいます。ギターが完成したら、それを合わせて不要な音を削ったり、リズムを修正したりすることになるので、これで本当に完成というわけではありませんが、とりあえずこれでアレンジ作業は終わりです。

今回使った音源は、以下のとおりです。

『アイドルソングの作り方』、ここまでで何か質問がありましたら、 idolsong@idolsong.jp までメールをください! 可能な限りお答えしたいと思います。

『アイドルソングの作り方』第7回は、2017年2月21日(火)に掲載します。

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