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連載『アイドルソングの作り方 〜 HOW TO MAKE “IDOLSONG”』by CHEEBOW 〜 第1回:アイドルソングの魅力

How to make IDOLSONG

はじめまして

こんにちは、CHEEBOWです。ご存じの方、こんにちは。はじめましての方、はじめまして!

ぼくは、平日はプログラマとしてiPhoneやiPad向けのアプリを開発しつつ、土日は週末音楽家として曲作りにいそしみ、ライブアイドルを中心に楽曲を提供しています。もともと音楽制作は趣味の一つで、ネットで知り合った人とユニットを組んだり、作った曲をCDにして同人音楽の即売会などで頒布するといった活動をしていました。それがある日、ひょんなことからライブアイドルに楽曲を提供するようになり、気がつけば60曲以上ものオリジナル曲をアイドルさんたちに歌ってもらっていました。もう60曲も作ったのか! 自分でも驚きです。

ライブアイドルに楽曲を提供する前、音楽制作を趣味としていたときは、いわゆる電波系と呼ばれるジャンルの楽曲を作っていたのですが、それまでもアイドルに興味がなかったわけではありません。小学生や中学生の頃は、テレビの歌番組で流行りの歌謡曲を聴くのが好きでしたし、高校生になってからは、あるグループをきっかけにアイドルソングにハマりました。

アイドルソングにはまったきっかけ

そのグループとは、社会現象にもなったおニャン子クラブです。今では48グループや坂道グループのプロデューサーとして知られる秋元康氏が仕掛けたアイドル・グループです。ぼくはおニャン子クラブでアイドルの楽しさを知りました。当時、彼女たちの新譜が毎月のようにリリースされるわけですが、曲ごとにスタイルがまったく違うんです。ロックあり、テクノポップあり、フレンチ・ポップあり、サンバあり……。本体であるおニャン子クラブのほかにも、ソロや派生ユニットなどもあり、聴き手として飽きることはありませんでした。

「アイドルソングおもしろい! 制約が何にもない!」

おニャン子クラブでアイドルソングのおもしろさに目覚めたぼくは、作曲家に注目するようになりました。間もなくお気に入りの作曲家もでき、新曲がその人の手によるものとわかったときは、とてもテンションが上がったものです。また、作曲家を手がかりにおニャン子クラブ以外のアイドルやアーティストも聴くようになりました。

そういった経験から、ぼくは自分がどのアイドルに楽曲を提供したかということを公にしていますし、リストにして自分のサイトで公開しています。そのリストを手がかりに、ぼくの楽曲を気に入ってくれた人が他のアイドルに興味を持ってくれたり、アイドルによってぼくの作風がどう変化しているのか(あるいは変化していないのか)、感じ取ってくれたらいいなと思っています。

「アイドルソング」とは何か

自称でも他称でも、アイドルが歌えば、それがアイドルソングです。楽曲のスタイルは関係ありません。毎回、楽曲のスタイルを変えてくるアイドルもいますし、あるジャンルの楽曲を歌い続けているアイドルもいます。一つの楽曲の中に複数のスタイルを盛り込むアイドルもいます。

ぼくが尊敬する音楽家の後藤次利さんは以前、「アイドルに曲を作るのは、スタイリストが服を選ぶのと似ている」というようなことをおっしゃっていました。音楽で女の子たちをコーディネートする。そのツールの一つがアイドルソングなんだというのがぼくの認識です。それは優雅なドレスでもあり、ありのままの普段着でもあり、時には防具でもあり……。たくさんのアイドルがひしめくこの世界で、アイドルソングは彼女たちが道を切り拓き、未来を照らすための「武器」なんじゃないかと思っています。

アイドルソングとJ-POPの違い

アイドルは必ずしも自分たちが好きな曲だけを歌っているわけではありません。基本的にアイドルが歌うのは、プロデューサーが用意した楽曲です。時には不本意ながらも歌い、パフォーマンスしなければいけないこともあるでしょう。自分の想いや考えを、歌で表現するJ-POPのアーティストとはそこが大きく違うとぼくは思っています(もちろん、例外はあります)。与えられた曲を覚えて、自分なりに表現し、ステージ上でパフォーマンスする。その過程でアイドルは成長していきます。そして個人の嗜好を超えた「なにか」が生み出される。それこそが、アイドルとアイドルソングのスリリングな魅力であると思っています。

例えば、与えられた楽曲をパフォーマンスしていくうちに、その曲への理解が深まり、アイドル自身の世界観が変わっていくということがあります。ぼくがあるアイドルに提供した楽曲で、力強いメッセージ・ソングがありました。そのグループの女の子たちは当初、ほかの可愛らしい曲と同じように笑顔でパフォーマンスしていたんです。ぼくは、「この曲は笑顔で歌う曲じゃないんだけどなぁ」と感じつつも、それも彼女たちの表現の一つと思い、黙って見ていました。しかしあるときから、彼女たちは笑顔を見せず、何かに挑むような凛々しい表情でその曲を歌うようになったのです。アイドルの活動を続けていくと、幾度となく壁にぶち当たりますし、それを乗り越えなければ次のステップに進めません。おそらく、自分たちが置かれている状況と、歌詞に込められたメッセージがシンクロした瞬間があったのでしょう。それまで可愛らしかった彼女たちが、突然凛々しい表情で行ったパフォーマンスは、ほんとうにすばらしいものでした。そのあと、あるメンバーがぼくに言った「どうして今までこの曲を笑顔で歌えていたのか、自分でも分かりません」という言葉がとても印象に残っています。

これまで人生で一度も触れたことのないジャンルの曲で、それが良いのか悪いのかも分からない。それでもアイドルは、ステージに立って歌い、パフォーマンスしなければならないんです。しかし、最初は嫌だなと感じた曲も、何十回も歌い踊っていく中で、彼女たちの血となり肉となっていくものです。そして、いつの日かその曲を自分たちが歌う意味を発見する。その瞬間、その曲は彼女たちのオリジナル曲として輝きを放つのです。

アイドルソング作りのおもしろさ

ぼくはバンド経験もないですし、自分で歌ってなにかを表現したいと思ったこともありません。ましてや、自分が作曲家やサウンド・プロデューサーになるなんて、考えたこともありませんでした。あるときまで、ぼくは単に曲を作るのが好きなDTMおじさんだったのです。

そんなぼくが、ライブアイドルに楽曲を提供するようになって、もう7年になりました。ずいぶん長く続けてきたなという感じがします。でも、未だに新曲を作るときは新鮮な気持ちです。曲作りがしんどいと感じたことはありません。ほんとうに曲を作るのが楽しいんです。楽曲が完成したときは最高に幸せな気分になります。

一体なにがそんなに楽しいのか。その一つとして、アイドルに自分の楽曲を歌ってもらうことによって、新しい景色を見せてもらえるということが挙げられます。アイドルは、アイドルソングによって自らを表現し、ファンに感動や興奮や笑顔や切なさを伝えます。そしてファンは、そんなアイドルのパフォーマンスに一生懸命応えようとします。

「そうやって表現するのか! そうやって受け止めるのか!」

自分の楽曲をライブで聴くと、自宅の一室で作っていたときには想像もできなかった新しい景色が広がることがよくあるのです。同じ曲でも、自分で歌っていたらきっと見えなかった景色でしょう。その新しい景色が見たくて、ぼくは頻繁にライブの現場に足を運んでいるのです。

もちろん、思ったようにいかないときもあります。自信作なのにファンの人たちに受け入れられないなんてこともよくあることです。しかし、前にも書いたようにアイドルも楽曲も成長していきます。ファンの想いも変わっていきます。いつの間にかみんなに受け入れられ、愛される曲になっていたなんてこともあるのです。

また、アイドルソングならではのおもしろさとしては、ファンの人が非常にアグレッシブである、ということも挙げられます。曲のイントロや間奏などで「タイガー、ファイヤー、サイバー」などと叫ぶ「MIX」、Bメロなどで行われる「オーイング」、サビ前の「イエッタイガー」、メンバーが歌っているときや歌った後のメロディの隙間で行われる「メンバーコール」、「言いたいことがあるんだよ」から始まる「ガチ恋口上」などの声出し系、自分が好きなメンバーが歌っているときにアピールする「推しジャン」、落ちサビのときに行われる「ケチャ」など、独自の動きや踊りの「オタ芸」がたくさんあります。中には、ステージに背を向けて行うものや、野外などではステージ前からみんなで走り出し、ステージ上にアイドルが取り残されてしまう…… なんてものまである。アイドルの現場では日々、さまざまな楽しみ方が生まれているのです。

こういった楽しみ方には賛否両論ありますし、ぼくも最初にライブでこれらを見たとき、ほんとうに驚きました。なんでアイドルが歌っているのにちゃんと聴かないんだろう? どうしてステージを見ないで振りとは関係のない踊りを踊ってるんだろう? と。でも、何度もライブに足を運んでいるうちに、いろんな楽しみ方があっていいんじゃないかと思えるようになりました。

アイドルに曲を作るときは、こういった要素のことも考えなければなりません。ぼくの場合、「ここでこういう反応をしてもらいたいな」などとライブを想像しながら曲作りをすることがほとんどです。しかし、曲を作っているときにイメージしたことが実現するかと言えば、そんなことはありません。ライブを見ながら、「そこでメンバーコール入れられるのに!」「そこでキメと一緒にダーッダダダッダ!って一緒に叫んで欲しいのに!」なんて思うことも多々あります。逆に、「え? そこでそれをやるの!?」みたいな驚きもあります。例えば、ぼくが愛乙女☆DOLLに提供した『GO!! MY WISH!!』という曲では、最後の方で転調した後、サビの繰り返し前のブレイクで、ファンが「ごーまいうぃっしゅ!!」と叫びます。そしてその後のサビでは、「ごーまいうぃっしゅ!! ごーまいうぃっしゅ!!」と叫びながらみんなで同じ動きをするんです。誰かが始めていつの間にか定着した反応なのですが、みんなの一体感が凄くて、毎回見るたびに感動しています。こういう想像もしていなかった反応に感動できるというのも、アイドルソング作りのおもしろさだと思っています。

神曲5選

最後に、ぼくが神曲だと思っているアイドルソングを5曲紹介します。単に神曲というだけでは、5曲に絞り込むのはとても難しかったので、今回は「ぼくの音楽制作に影響を与えたアイドルソング」という縛りをつけることにしました。もちろん、すべて今でも大好きな曲です。紹介する順番には意味はありません。

『あのコによろしく』ribbon

この曲はアレンジがとても好きなんです。イントロでベースがペダル・ノート(ベースの音程は変わらず、その上でコードだけが変わっていく)になっているんですが、そのアレンジに当時めちゃくちゃしびれました。それとサビのメロディの後ろに繰り返し現れるリフ。これは僕もアレンジでよく使います。

『再会のラビリンス』河合その子

アイドルが歌う、マイナー・アップテンポの曲の切なさやカッコ良さをぼくに刷り込んだのがこの曲です。ぼくがマイナー・アップテンポの楽曲をよく作るのも、アンティシペーションやシンコペーションを多用するのも、この曲の影響と言っていいかもしれません。曲の始まりのピアノのフレーズも最高にカッコ良いのです。

『Fight!』高橋由美子

この曲は、メロディの隙間に挟み込まれるオブリガートが、とにかく素晴らしいんです。アイドルソングでは、歌を補強するオブリガートが重要なんだと考えるようになったきっかけの曲です。

『行くぜっ!怪盗少女』ももいろクローバー

初めて聴いたときはほんとうにびっくりしました。繰り返される転調、めまぐるしく変わっていく曲調。ここまで自由でいいんだ! と驚いたのを覚えています。

『ごめんね、SUMMER』SKE48

ぼくにとっての王道アイドル曲の理想形です。メロディもアレンジも、どこをとっても素晴らしく、アイドルソングの教科書的な楽曲だと思います。いつか、こんな曲を作りたい! これがぼくの目標の一つだったりします。

『アイドルソングの作り方』第2回は、2016年11月29日(火)に掲載します。

Steinberg - CHEEBOW