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製品開発ストーリー #36:Universal Audio Arrow 〜 他に先駆けてThunderbolt 3に対応、低価格ながらUAD機能も備えた新世代オーディオIF

来週開幕の『The NAMM Show 2018』に先駆けて、本日発表(即日販売開始)されたUniversal Audioの新製品、「Arrow(アロー)」。既報のとおり、Thunderbolt 3に完全対応した世界初のオーディオ・インターフェースです。市場実勢価格58,000円(税別)という低価格ながら、リアルタイム処理を実現するUADプロセッシング機能を搭載。アナログ機器を入力段から再現するUnisonテクノロジーにも対応し、Marshallや1176LNといったUADプラグインも14種類(!)バンドルされている、かなり魅力的な新製品です。

間違いなく今年の『The NAMM Show 2018』の目玉の一つになるであろう、Universal Audioのニュー・カマー「Arrow」。そこでICONでは、Universal Audioのワールドワイド・セールス・ディレクター、おなじみユウイチロウ“Ichi”ナガイ(Yuichiro “Ichi” Nagai)氏に、「Arrow」の開発コンセプトとその機能、そしてApollo Twinとの違いについて話を伺いました。「Arrow」が気になっているという方は、オーダーする前にぜひご一読ください!(Skypeにてインタビュー)

Universal Audio - Arrow

Thunderbolt 3がトリガーとなり、開発された「Arrow」

——— Apollo Twinよりも下の価格帯で、UADプロセッシング機能搭載のオーディオ・インターフェースが登場するとは想像していなかったので、「Arrow」のことを知ったときはかなり驚きました。まずは「Arrow」開発のスタート・ポイントからおしえていただけますか。

Ichi UADやApolloは当初、レコーディングやプロダクションを行う人をターゲットにした製品だったんですけど、デスクトップ型のApollo Twin発売をきっかけに、そのユーザー層が一気に広がったんです。具体的に言うと、それまでぼくらがターゲットにしていなかったギタリストやシンガーソングライターといったミュージシャンもUADプラグインを使い始めた。この急激なユーザー層の広がりは、ぼくらの想像以上でした。正直、“もの凄いことが起こってしまったな”という感じでしたよ(笑)。

またApollo Twinは、ユーザーだけでなく、売る側の人たちからも歓迎されました。なぜかと言うと、ショップにとって安価なオーディオ・インターフェースというのは、決して美味しい商品ではないんです。数は売れるかもしれませんが、利幅はそれほど大きくないですし、購入する人は初心者が多いので、アフター・フォローが大変だったりする。“接続の仕方がわからない”、“うまく録音ができない”とか……。その点、Apollo Twinは接続がシンプルで、レーテンシーも低く、ショップの人たちからは、“これはとても売りやすいオーディオ・インターフェースだ”と喜ばれました。でも同時に、“エントリー・ユーザーにはまだ高いので、もう少し安い製品が出てくれたら嬉しい”とリクエストされたんです。実際、ショップに足を運ぶと、ギタリストや初心者にとってApollo Twinは、まだまだ敷居が高いことがわかります。アメリカでは499ドルというのが重要なプライス・ポイントで、499ドル以下であれば奥さんに内緒で買い物できると言われているんです(笑)。だから499ドルのオーディオ・インターフェースを作ろうというのが「Arrow」開発のスタート・ポイントですね。それが約2年前のことです。

——— Apollo Twinのコンセプトを引き継ぎつつ、よりコスト・パフォーマンスに優れたオーディオ・インターフェースを作ろうと……。

Ichi そうです。でも、なかなか条件が整いませんでした。そんなときに大きなチャンスが訪れました。Thunderbolt 3です。Thunderbolt 3はThunderbolt 2と比較して、データ転送速度が40Gbpsと倍になり、給電能力に関しては最大100Wと実に10倍になったんです。新しいMacBook Proは、Thunderbolt端子から電源供給される仕様になっていますが、あれだけハイ・パワーなラップトップ・コンピューターを動かせるだけの給電能力がある。Thunderbolt 3のスペックを見たときに、“これだ!”と思いました。Thunderbolt 3によって、アナログ回路にも妥協することなく、バス・パワーで動作するオーディオ・インターフェースが作れるなと。

——— Thunderbolt 3の登場が「Arrow」開発のトリガーになったわけですね。

Ichi そうです。ただ単に安いオーディオ・インターフェースを作っても仕方ありません。市場には安価なオーディオ・インターフェースが溢れていますからね。ぼくらはバス・パワーで動作する世界最高のオーディオ・インターフェースを作りたかったんです。バス・パワー駆動という仕様は、使う側からするととても便利ですが、USBの給電能力を考えると、アナログ回路に妥協せざるを得ませんでした。しかしThunderbolt 3によって、バス・パワー動作でありながら、ハイ・クオリティなオーディオ・インターフェースを作れると思ったんです。それにぼくらは、“世界初”というのが大好きなんですよ(笑)。初代Apolloは世界初のThunderbolt対応のオーディオ・インターフェースでしたが、Thunderbolt 3に関しても世界初のオーディオ・インターフェースを作ってしまおうと。

——— でもこんな製品が出てしまったら、せっかく売れているApollo Twinが売れなくなってしまいそうです。そんな心配はありませんでしたか?

Ichi ぼくらはまったく心配していませんでした。なぜなら「Arrow」とApollo Twinでは、ターゲットが異なるからです。「Arrow」のメイン・ターゲットは、ギタリストやシンガーソングライターといった楽器演奏や曲作りが中心の人たちです。一方、Apollo Twinでターゲットにしているのは、レコーディングやプロダクションを行う人たちです。市場には「Arrow」よりも安い99ドルや199ドル・クラスのオーディオ・インターフェースも存在しますが、日常的にレコーディングをしないミュージシャンにしてみれば、そういった製品でも高い買い物だと思うんですよ。年に数回レコーディングを行うために199ドルのオーディオ・インターフェースを買うのなら、毎日使うエフェクターを買った方がよっぽどいいはずです。でも「Arrow」には、リアルタイム・プロセッシング機能が搭載されているので、Marshallアンプを再現した「Marshall Plexi Classic Amplifier」や、Pro Co RATを再現した「Raw Distortion」といったUADプラグインをコンピューターに負担をかけずに利用できます。つまり「Arrow」は、レコーディングをしなくても世界最高峰のギター・アンプ、ベース・アンプ、コンプレッサー、ディストーションとして毎日フル活用できるのです。ボーカリストだったら、LA-2Aを再現した「Teletronix LA-2A Classic Leveling Amplifier」をぜひ試してみてください。そう考えると、「Arrow」の499ドルという価格は決して高くないというか、かなりお買い得であることがわかっていただけるはずです。

Arrow」は確かにオーディオ・インターフェースではありますが、ぼくらはミュージシャンのための“最高のツール・ボックス”であると捉えています。これさえあれば、ギター・アンプにも、ベース・アンプにも、マイク・プリアンプにも、アウトボードにもなる。レコーディングするときだけでなく、曲作りをするときも、ギターやベースを演奏するときも、毎日毎日活躍してくれます。そしてこの音の良さは、きっとミュージシャンのクリエイティビティに大きな影響をもたらすはずです。

Universal Audio - Arrow

Universal Audioのワールドワイド・セールス・ディレクター、ユウイチロウ“Ichi”ナガイ氏

——— 「Arrow」とApollo Twinはどこが違うのか、なぜここまで価格を落とすことができたのか、具体的におしえていただけますか。

Ichi まず、「Arrow」のUADプロセッシング機能のパワーは、Apollo Twinの“SOLO”と同等です。“DUO”の半分のDSPパワーということですね。また「Arrow」は現時点では1モデルのみとなります。“DUO”や“QUAD”モデルを選ぶことはできません。本格的なミキシングを行う人であれば“SOLO”のパワーでは物足りないかもしれませんが、ギタリストやミュージシャンにとっては“SOLO”でも十分のパワーなのではないかと思っています。

それとオーディオ入出力のクオリティも、Apollo Twinの方が上回っており、これはカタログ・スペックにも現れています。マイク・プリアンプ回路やAD/DAコンバーター回路の設計や使用パーツが少し異なるということですね。しかし「Arrow」のクオリティは、初代のApolloとほぼ同等であり、同価格帯のオーディオ・インターフェースと比べれば比較にならないくらい優れています。ですので、その音質については何も言うことはありません。

また「Arrow」は、トーク・バックをはじめとするスタジオ・コミュニケーション機能も備えていません。これはデスクトップで一人で使用する人には不要なので、大きな問題にはならないでしょう。出力はステレオ2系統の出力は完全に独立しているため、任意のソースをヘッドフォンでモニタリングすることもできます。付属のConsoleソフトウェアは、「Arrow」専用のものではなく、他のApolloシリーズと同じものです。

——— レーテンシーに関しては?

Ichi 他のApolloシリーズと同一です。インターフェースはThunderbolt 3を採用していますが、特にレーテンシーが低くなったわけではありません。

——— Thunderbolt 3対応というのは、現行MacBook Proユーザーには歓迎されるでしょうが、少々敷居が高い感じもします。

Ichi Thunderbolt 3は現行のiMacにも実装されてますし、対応するWindowsマシンも増えています。また今後、給電対応のハブを検証していけば、Thuderbolt 2のマシンでも使用できる環境が整ってくるでしょう。(註:初出時、“Thunderbolt 3は現行のMac miniにも実装されている”となっていましたが、これは誤りで、現行Mac miniに実装されているのはThunderbolt 2です。お詫びして訂正させていただきます)

Universal Audio - Arrow

Thunderbolt 3を実装した現行MacBook Proと「Arrow」は最高のコンビネーション

——— 他のApolloシリーズとの併用については?

Ichi 給電の関係でデイジー・チェイン接続はできませんが、別々のThuderbolt 3端子を使うことで同時使用は可能です。ただし拡張性を望むならば、最初からApollo Twinを購入されることをお勧めします。

——— 先ほどもお話に出ましたが、「Marshall Plexi Classic Amplifier」や「1176SE/LN Classic Limiting Amplifiers」といったUADプラグインが14種類もバンドルされているのがすごいですね。

Ichi おっしゃるとおりで、本当にすばらしいセレクションになったと自負しています。これによって「Arrow」は、ギター・アンプやアウトボードとしても機能するのです。いくら「Arrow」のコスト・パフォーマンスが優れているとはいえ、199ドルや299ドルのオーディオ・インターフェースの購入を検討している人にとっては、499ドルのオーディオ・インターフェースを購入するというのは勇気が必要だと思うんです。しかしこれがMarshallアンプとしても使えるのであれば、499ドルでも十分に価値があるのではないかと。がんばってバンドル・プラグインを充実させました(笑)。

Universal Audio - Arrow

14種類のUADプラグインで構成される「Realtime Analog Classics」がバンドル

Thunderbolt 3を実装した現行MacBook Proと「Arrow」は最高のコンビネーション

——— Apollo Twinはスクウェアなデザインでしたが、「Arrow」は横長のデザインが採用されていますね。

Ichi いろいろなデザイン候補があった中で、クールでクオリティを表現したこのデザインに決定しました。カラーリングは流行のスペースグレイに近い感じですよね。筐体の素材はApollo Twinと同じアルミですが、加工方法は少し異なっています。

——— 「Arrow」というネーミングに関しては?

Ichi まず、これまでのApolloシリーズとは異なるタイプの製品だと思ったので、今回は製品名に“Apollo”を冠するのはやめようと思いました。「Arrow」という言葉には、“ピンポイント”という意味が込められています。ミュージシャンがピンポイントに、すばやく曲作りができる製品になればと思い、この名前にしました。

——— 開発にあたって苦労した点というと?

Ichi Thunderbolt 3の実装ですね。試作機を複数のラボに提出し、その承認にとても時間がかかりました。その結果、安定性、フレキシビリティー、パワー、どれもが最高のすばらしいオーディオ・インターフェースになったのではないかと思います。

——— 最後に、この記事を読んでいる人に「Arrow」のセールス・ポイントを。

Ichi ギタリストやミュージシャンのみなさんは、Universal Audioや1176LNのことをよく知らないと思うんですが、UADプロセッシングによるリアルタイム・ワークフローは曲作りにとても役立ちます。この“最高のツール・ボックス”によって、曲作りや毎日の楽器演奏がこれまで以上に楽しくなると思います。だってMarshallアンプや1176LN、LA-2Aといったプロが使う機材が手に入るわけですからね。最近はコンピューターの処理能力も十分早くなっているので、DSPパワーなんて不要と思っている人もいるでしょう。しかしそれらの処理をリアルタイムに行えるかといったら、話は別です。オーディオ・インターフェースの選定やバッファ・サイズの設定をシビアに行えば、かなりレーテンシーを下げることはできますが、それでもDSPベースのシステムにはかないません。「Arrow」なら、何も考えずにリアルタイム・プロセッシングが利用できるのです。このリアルタイム・ワークフローは、すべての人たちのクリエイティビティを刺激すると確信しています。UADプラグインをまだお使いでない方は、この「Arrow」でぜひそのすばらしさを体験していただければと思います。

Universal Audio - Arrow

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