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NAMM 2017: 大注目のTeenage Engineering OP-Z、詳細レポート…… 音だけでなく映像までも生成できる未来型クリエイティブ・ツール
多くの新製品が発表された今年のNAMM Show。その中にあって、初披露ではなかったのにも関わらず、常に黒山の人だかりができていたのが、Teenage Engineeringの「OP-Z」です。ちょうど1年前のNAMM Showでお披露目され、大きな話題を呼んだ「OP-Z」は、Teenage Engineeringが“Dream Machine”と呼ぶ未来型のクリエイティブ・ツール。音だけでなく映像までも生成できる(!)、これまでに無かったタイプのデバイスです。そのルックスも含め、手に取った人をここまで刺激するデバイスは、久しぶりと言っていいのではないでしょうか。
昨年のNAMM Showでデモンストレーションは行われたものの、詳細については不明な点が多かった「OP-Z」。Teenage EngineeringはNAMM Show開幕と同時にWebサイトを更新し、初めて「OP-Z」の詳細を明らかにしました。ここではNAMM Show会場で聞いた最新情報を盛り込みながら、その機能と仕様を紹介することにします(発売はまだ先なので、おそらく変更になる機能/仕様もあると思います)。
OP-1よりも薄型(横幅212.5mm×奥行57.5mm×高さ10mm)/軽量筐体(硬質プラスチック製)の「OP-Z」の基本となるのは、16本のトラックを備える高機能シーケンサー。シーケンサーは、トラックごとに速さ(テンポ)と長さを設定することができ、サウンドだけでなく画像や3Dグラフィックス、MIDI/CV/トリガー情報、照明のコントロール・プロトコル(DMX)なども記録/再生します。入力方法はステップだけでなくリアルタイムにも対応しており、1トラックあたり最大256種類のパターン(Teenage Engineeringは“ステップ”と呼んでいます)を作成可能。ライブ・パフォーマンスで使うときなど、必要に応じてエンドレスでシーケンスさせることもできます。
「OP-Z」のシーケンサーの最大の特徴は、ステップ・コンポーネントと呼ばれるMIDIエフェクトのような機能を使って、1種類のパターンから様々なバリエーションを生み出せる点。ステップ・コンポーネントには、パターンを繰り返す“RETRIG”、パターンに記録されている値を上昇させていく”RAMP UP”、パターンに記録されている値をランダマイズさせる“RANDOM”など14種類が用意され、さらにそれぞれ1〜10のパラメーター値を設定することができるため、1種類のパターンから少なくとも140種類のバリエーションを生み出すことができます。
下の図は、“STEP 4”というパターンを、ステップ・コンポーネントによって次々に変化させていく様子を表しています。
- 1:トラックで“STEP 4”を再生
- 2:トラックに“RETRIG”というステップ・コンポーネントを与え、パラメータ値“4”を設定。これによってトラックは、“STEP 4”を4回ループ再生
- 3:トラックに“RAMP UP”というステップ・コンポーネントを与え、パラメータ値“9”を設定。これによってトラックは、“STEP 4”に記録されている値を、ループの度に上昇して再生
- 4:トラックに“RANDOM”というステップ・コンポーネントを与え、パラメータ値はデフォルトの“0”を設定。これによってトラックは、“STEP 4”に記録されている値を、ランダマイズして再生
- 5:トラックに“REVERSE EXIT”というステップ・コンポーネントを与えると、シーケンスの再生方向が逆になり、前のステップ“STEP 3”に戻る
このように1本のトラックに対して、複数のステップ・コンポーネントを追加できるため、シンプルなパターンでも複雑に変化させることが可能になっています。
そしてこのシーケンサーでは、16種類のインストゥルメント・トラックをシーケンスすることができます。インストゥルメント・トラックの内訳は、キック、スネア、パーカッション、サンプラー、ベース、リード、アルペジオ、コード、FXスロット 1、FXスロット 2、テープ、ミキサー、MIDI、CV/トリガー、照明、モーションとなっており、いわゆる音源だけでなく、MIDIやCV/トリガーなどの情報もインストゥルメント・トラックとして扱えるもよう。先述の16本のシーケンス・トラックに、これらインストゥルメント・トラックを自由にアサインできるのか、あるいはトラック1にはキックといった感じで固定されているのかは現時点では不明。NAMM Show会場で聞いた話によると、デバイスとしての処理能力はOP-1と比較して大幅に向上しているとのことで、シンセサイザー/電子楽器としてのポテンシャルもかなり高そうです。
もちろん、エフェクトも搭載しており、ディレイ、リバーブ、フィルター、トレモロといったプログラムを標準で利用できるほか、新しいプログラムを後から追加することも可能。Teenage Engineeringはこのエフェクトのことを、“モジュラー・エフェクト”と呼んでいます。また、エフェクトとは別にアナログ・テープならではの音変化をシミュレーションした“Tape”という機能も搭載。「OP-Z」では、この“Tape”をシーケンサー上で取り扱えるのが特徴で、早回しやスクラッチといった音変化をシーケンスさせることが可能になっています。
そして「OP-Z」にはiOSデバイス用の専用アプリ(無償)が用意され、iOSデバイス(Apple Metal APIに対応したiPhone/iPad)をBluetooth/有線で接続することで、多くの機能を拡張することができます(iOSデバイスは必須ではありません。「OP-Z」は単体で使用できるデバイスですが、iOSデバイスを接続することで、よりたくさんのことができるようになります)。会場では開発途中のiOSアプリを触らせてもらいましたが、「OP-Z」の外部ディスプレイとして機能するのと同時に、タッチ・スクリーンで様々なパラメーター操作が行えるようになっていました。
「OP-Z」の大きなフィーチャーであり、皆さん気になっているのは、映像を生成/送出する“ビデオ・デバイス”としての機能だと思います。そのビデオ機能についてはいまだ不明な点も多く、発売時にはまた変更点もあると思うのですが(実際、Teenage Engineeringのスタッフもそう言っていました)、現時点で分かっているのは、「静止画のシーケンス」と「Unity(ゲームのための統合開発エンジン)で作成した3Dグラフィックスのシーケンス」の2つが行えるということです。
「静止画のシーケンス」に関しては、iOSデバイスで撮影した写真や、Dropbox連携機能でインポートした写真/グラフィックスをシーケンサーのトラックに並べて再生することが可能。これだけだったら単なるスライド・ショーになってしまいますが、独自の“PHOTOMATIC”という機能を使うことで、シンプルな画像のシーケンスをミュージック・ビデオのような映像に仕上げて再生してくれるとのことです。
もうひとつの「3Dグラフィックスのシーケンス」に関しては、外部のコンピューターでUnityを使って素材を作成し、それを「OP-Z」にインポートして再生します。「OP-Z」の発売に合わせて、Unity用の“OP-Z toolkit”というアドオンが配布され、これを使って素材を作成するとのこと。Teenage Engineeringは「OP-Z」でグラフィックス・エンジンとしてUnityを採用した理由について、直感的なワークフローと優れたVRサポートを挙げています。なお、このUnityのサポートについては、日本人プログラマーでUnityのエヴァンジェリストでもある高橋啓治郎氏が深く関わっているとのことです。
音と完全に同期するビデオ・シーケンス機能も備え、ライブ・パフォーマンスでも活躍しそうな「OP-Z」。6軸のジャイロ・センサーが内蔵されているため、各種パラメーターを本体の傾きでコントロールすることも可能になっています。音を本体から再生し、映像をiOSデバイスから再生した際に気になるのがレーテンシーですが、「OP-Z」では気にする必要はないもよう。詳細は不明ですが、「OP-Z」内部での音生成をiOSデバイスでも同時に行う“Dual Domain Synthesis”という技術によって、レーテンシーを回避しているとのことです。
本当に発売が待ち遠しい“Dream Machine”、「OP-Z」。Teenage Engineeringが発表しているオフィシャルの発売時期は「2017年9月」ですが、ブースのスタッフは「夏頃には発売できるのではないか」と言っていました。気になる価格は、OP-1を超えることはないようで、ブースのスタッフいわく「OP-1とPOシリーズの中間」とのことです。
現時点で分かっている「OP-Z」の機能/仕様は以下のとおりです。
- 16トラック仕様の高機能な“マルチスピード”シーケンサー
- ステップ・コンポーネントによって、1つのパターンから様々なバリエーションを生み出すことが可能
- エンドレス・シーケンス
- トラックごとに長さを設定可能
- トラックごとに速さ(テンポ)を設定可能
- パラメーターの固定機能
- ステップ・レコーディング
- リアルタイム・レコーディング
- MIDI/CV/トリガー情報のシーケンス
- 画像および3Dグラフィックスのシーケンス
- 照明の制御情報(DMXプロトコル)のシーケンス
- 16の独立したシンセサイザー/サンプラー/コントロール・トラック
- 1:キック
- 2:スネア
- 3:パーカッション
- 4:サンプラー
- 5:ベース
- 6:リード
- 7:アルペジオ
- 8:コード
- 9:FXスロット 1
- 10:FXスロット 2
- 11:テープ
- 12:ミキサー
- 13:MIDI
- 14:CV/トリガー
- 15:照明
- 16:モーション
- 最大160種類のパターンをユーザーがプログラム可能。パターンはエンドレスでチェーン再生
- ディレイ/リバーブ/フィルター/トレモロなどを含む拡張可能なモジュラー・エフェクト
- 様々なバリエーションを生み出す14種類のステップ・コンポーネント
- iPhoneやiPadなどのiOSデバイスをBluetoothまたは有線で接続することで、「OP-Z」の機能を拡張可能
- iOSデバイス用のコントロール・アプリを無償で提供
- AppleのグラフィックスAPI、MetalをサポートしたiOSデバイスに対応
- “Dual Domain Synthesis”によって音と映像のズレを抑制
- OP-1よりも処理能力が向上したハードウェア
- Analog Devices製Blackfin 70X DSP
- Cirrus Logic製オーディオ・コプロセッサー
- 1250 MMACS
- 48kHz/24bit DAコンバーター
- 122dBのSN比
- 6軸のモーション・センサーを搭載、任意のシンセサイザー・パラメーターにアサイン可能
- Bluetooth 5.0 LEに対応
- 待機時間2年間のバッテリーを内蔵
- USB Type-C端子と3.5mmステレオ・ミニ端子
- 豊富に備わった操作子
- 2オクターブのキーボード
- 計51個の物理キー
- プレッシャー・センシティブ対応のピッチ・ベンド
- 4基の高解像度エンコーダー
- ボリューム・ノブ/電源兼用スイッチ
- ペアリング・ボタン
- 計53個のLEDインジケーター
- MEMSマイクを内蔵
- 硬質なプラスチック筐体(IXEF 1022 PARA+50%グラスファイバー)
- 横幅212.5mm×奥行57.5mm×高さ10mm