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連載『アイドルソングの作り方 〜 HOW TO MAKE “IDOLSONG”』by CHEEBOW 〜 第3回:アイドルソングができるまで

「仕事」としてのアイドルソング作り

アイドルソング制作の依頼をいただくようになってからも、人にはしばらく「音楽は趣味」と言っていました。実際、趣味でやっていた音楽が、いつの間にかお金をいただいて楽曲制作をするというスタイルに変わっていたわけで、休日に趣味の釣りに行って、釣った魚を近所の人に配るみたいな意識だったのです。しかし音楽が趣味の人間が曲を提供するというのは、アイドルたちにちょっと失礼なんじゃないかと思い始めました。そこで考えたのが、「週末音楽家」という肩書きです。この頃から、人にも「音楽は副業」と言うようになりました。「週末音楽家」を名乗るようになってから、制作依頼も増えたような気がします。ぼく自身の心構えの変化も大きかったのかもしれません。ここから、ぼくのアイドルソング作りは「仕事」になったのです。

基本的に、ぼくのアイドルソング作りは発注ありきです。時間の空いたときに特に目的もなく曲を作ってストックするということもしますが、普通はアイドルの運営やプロデューサーからの依頼を受けて楽曲制作をします。楽曲制作の依頼は基本、メールで届きます。楽曲を提供しているアイドルの運営さんからの紹介ということもありますが、既に発表されている楽曲を聴いて、興味を持ってくださった方からメールをいただくことの方が多いです。ぼくはこれまで制作した楽曲をリストアップしたサイトや、ポートフォリオ・サイトを公開していて、そのコンタクト・フォームから問い合わせをいただくことも多いです。ですのでアイドルソング作りを「仕事」にしたい人は、このようなサイトを持った方が絶対にいいと思います。

How to make IDOLSONG

CHEEBOWさんのポートフォリオ・サイト( http://cheebow.strikingly.com/

アイドルソングの発注と受注

楽曲制作依頼の内容は様々で、かなり細かいオーダーがあるものもありますし、それとは真逆でほぼお任せというものもあります。細かいオーダーがあれば、それを満たす楽曲を作るというやりがいがありますし、逆にお任せであれば、企画から楽曲を作っていくおもしろさがあります。ぼくに関して言えば、後者のおまかせのパターンが多いです。依頼主からの「夏に盛り上がる曲」とか「疾走感のある青春ソング」といったキーワードを元に、曲を作っていきます。

専業の作家さんとは違い、週末音楽家であるぼくの場合は、平日はほぼ作業できません。なので、発注から最低1ヶ月は制作期間をいただくようにしています。この期間に、ぼくが作曲と編曲を行って、パートナーに作詞、ギターの録音をしてもらい(パートナーも平日は仕事をしているので、週単位で作業時間を確保する必要があります)、その後歌い手さんに仮歌の発注をし、最後に音源をまとめてミックスをします。

ぼくは本業でIT系の受託開発をしているのですが、楽曲制作もソフトウェアの受託開発に似ているところがあります。必要な工程を洗い出し、それぞれの工数を見積もり、管理します。そこでぼくは、本業で使用していた「Redmine」というプロジェクト管理ツールを楽曲制作でも活用しています。「Redmine」のガントチャートで楽曲制作の管理を行い、今どの工程が動いているのか、スケジュールに無理はないのかというのを常に確認しているのです。人に「プロジェクト管理ツールで楽曲制作を管理している」という話をするとよく笑われるのですが、このおかげで今まで納期に遅れたことは一度もありません。スケジュール管理で苦労している人には、ぜひ試してみることをおすすめします。個人的には、楽曲のクオリティが高いのは前提で、納期をきちんと守ることが仕事として楽曲制作を受注する際に最も大切なことだと思っています。楽曲が納期通りに制作されなければ、その後の振り付けやレッスンにも影響が出てしまいます。最悪の場合、お披露目予定のワンマン・ライブで目玉の新曲がお披露目できない! なんてことも起こってしまうのです。納期の厳守は、「仕事」としてアイドルソング作りを行う上で、最も大切なことです。

How to make IDOLSONG

プロジェクト管理ツール「Redmine」( http://redmine.jp/

メジャーなアイドルに曲を提供できるコンペ

ここまで書いてきたアイドル・サイドからの直接依頼のほかにも、楽曲を提供できるチャンスがあります。それがコンペと呼ばれるもので、メジャー・アイドルのシングル曲などでは、複数の作家さんから曲を集め、その中から楽曲を決定するということが行われます。有名なアイドルでは、一度のコンペで数百曲もの曲が集まることもあります。そこで採用されるのはなかなか大変ですが、メジャーなアイドルに自分の曲を歌ってもらい、たくさんの人に聴いてもらいたという人にとっては大きなチャンスと言えます。

しかしながらこのコンペ、誰でも参加できるというものではありません。作家事務所などに所属していないと、コンペに関する情報が入ってこないのです。しかしそれは当然で、コンペの要項には、部外秘のリリース情報なども含まれるため、信頼できる人にしか情報を提供できないのです。従ってコンペに参加するには、まず作家事務所に認められる必要があります。

コンペが行われる場合、作家事務所から各作家へコンペの詳細が書かれたメールが届きます。メールには、楽曲のイメージやコンセプト、参考楽曲のURLなどが記されています。作家はこのメールを読み、クライアントが欲しい曲を形にしていきます。コンペの情報が届いてから締め切りまでは、1週間から10日くらいしかないことがほとんどです。そのため、週末にしか音楽活動ができないぼくはなかなかコンペに参加することができません。これまで何度か参加したことがありますが、土日の二日間で作詞、作曲、編曲、仮歌発注、ミックス、マスタリングとすべての工程をこなさなければいけないのは、かなり大変でした。しかしコンペに参加したことによって自分の曲作りの工程を見直すことができ、結果的に楽曲制作のスピードが上がりました。チャンスがあればぜひ挑戦してみてください。

「仕事」としてアイドルソングを作るには

コンペに参加するには、作家事務所に所属しなければならない。楽曲制作の依頼を受けるには、ある程度実績がないと難しい。アイドルソング作りを「仕事」にするには、決して低くはないハードルがあります。

自分のことを振り返ると、ぼくはとても運が良かったと思っています。まだ趣味で音楽を作っていた頃、できた曲はネットで公開していました。それを聴いた知人がたまたま秋葉原ディアステージというお店の関係者で、その流れで現在、でんぱ組.incで活躍中の夢眠ねむちゃんのソロ曲を作らないかと声がかかったのです。この曲(『魔法少女☆未満』)の評判がとても良く、秋葉原ディアステージ内の別のアイドルにも曲を提供することになり、それがきっかけでいろいろなアイドルに楽曲を提供するようになりました。夢眠ねむちゃんの曲を作ることになったときのことを思い出しても、あれは本当に奇跡的にラッキーな出来事で、誰にでも起こることだとは思えません。では、アイドルに楽曲を提供する、アイドルソング作りを「仕事」にするための最初の一歩はどこにあるんでしょう。

CHEEBOWさんのアイドルソング・デビュー曲、夢眠ねむ『魔法少女☆未満』

やはり多くの人に自分の曲を聴いてもらうのが一番だと思います。YouTubeやニコニコ動画にオリジナル曲を公開し続けていれば、誰かから声がかかることもあるでしょう。CREOFUGAのような音楽共有サービス・サイトをチェックするのもいいと思います。頻繁にチェックしていれば、楽曲を募集しているアイドルの情報が見つかることもあります。昔に比べれば、チャンスはあちこちにたくさん転がっていると言っていいでしょう。

大切なのは、とにかく作り続けることです。ぼくがアイドルに楽曲提供するようになったのは、40歳を過ぎてからでした。中学生の頃から音楽を作ることが好きで好きで、時間さえあれば曲を作っていました。その30年近くの積み重ねがなければ、声をかけられたときに、クライアントに喜んでもらえる曲を作ることができなかったと思います。チャンスはいつやってくるか分かりません。そのときのためにたくさん曲を作りましょう。そして、積極的に公開したり応募しましょう。

アイドルソング作りのワークフロー

いつも同じというわけではないですが、基本的に楽曲を制作していく流れはだいたい決まっています。人によっても変わってくると思うので、あくまでぼくの場合ですが、以下のようになります。

1:企画

依頼を元に、どのような曲にするか考えます。いただいた資料や楽曲も参考にしますが、アイドルのTwitterやブログ、ライブ動画、ミュージック・ビデオなどもできるだけ探してチェックするようにしています。それによって、そのアイドルがどういうグループなのか、どんなメンバーがいるのかといったことが把握できます。実際にライブの現場に足を運ぶことも多いです。

2:作曲

どのような曲にするかが決まれば、この作業はそれほど大変ではありません。もともと、曲を作るのが好きですし、作曲モードに頭を切り替えればアイディアはどんどん出てくるので、イメージに合うメロディーをとにかく出していきます。今ひとつだなぁと思ったら、すっぱり捨てて別のメロディーを考えます。あまり悩んで袋小路に入らないようにしています。

3:作詞

歌詞は、一緒に楽曲制作をしている、まいさんにお願いしています。メロディーがフル・コーラス分揃ったら簡単なデモを作り、メロディーの譜面PDFと一緒にまいさんに送ります。このとき、ぼくの中にあるイメージを伝えて共有します。歌詞ができたら、譜面に歌詞を書いた「譜割」を作ってもらいます。歌詞をメロディーにどうはめるかということも、まいさんにお任せしています。

4:編曲

まいさんに歌詞を書いてもらっている間に、デモをもとにアレンジをしていきます。とはいえ、デモの状態で曲の構成やキメなどは決まっているので、ここからは音を足していく楽しい作業です。思いついた音をどんどん足して、不要な音はどんどん削っていきます。

5:ギター録音

アレンジができたら、打ち込んだギターを消した音源をギタリストのnipotanに送り、生のギターを録音してもらいます。nipotanとはずっと一緒にやってきて信頼しているので、細かい指示は出さずに大まかなイメージだけを伝えています。それだけで、毎回ぼくの予想をはるかに超えたギター・トラックを作ってくれます。

6:仮歌録音

歌詞ができたタイミングで、譜割とガイド・メロ抜きの音源を仮歌さんに送り、ボーカルを録音してもらいます。このとき、コーラスも一緒に録音してもらうのですが、こちらからはどこからどこまでがハモリで、どこからどこまでがコーラスということしか伝えません。さすがは餅は餅屋、それだけでぼくが思いもつかない素晴らしいハモリとコーラスが返ってきて、いつも感動しています。

7:ミックス

ギターと仮歌、コーラスの音源が揃ったら、MIDIで打ち込んだものをすべてオーディオ化し、ミックスを行います。ぼくが作るのは基本的にライブ用のカラオケまでなので、フェーダー操作とEQで音を整え、最後に軽くマスタリング用のプラグインをかけるくらいです。依頼主に納品する音源は、仮歌入りのもの、仮歌抜きのもの(ハモリとコーラスは入っています)、歌抜きのインスト・バージョンの3種類。仮歌入りの音源は、アイドルが聴いて歌を覚えてもらうためのもので、仮歌抜きの音源はライブ用カラオケ、歌抜きのインスト・バージョンはライブ中やライブ後のBGMとして使ってもらえるように用意しています。

現在の楽曲制作システム

楽曲は打ち込みで制作しています。ぼくは、ギターやベースを弾けないので、これらの楽器も打ち込みで入力し、最終的に生楽器に差し替えています。基本、コンピューターの中で完結するシステムです。コンピューターは現在、Windowsの自作PCを使用しています。自作PCは、マザー・ボードやメモリなどの部品を買って来て、自分で組み立てています。今使っているのは、3年ほど前に作ったものなのですが、特に不自由することなくばりばりと制作に活躍してくれてます。

現在ぼくが使っている自作PCのスペックはこんな感じになっています。

○ OS:Microsoft Windows 8.1 Pro

○ CPU:Intel Core i7 4770

○ マザー・ボード:ASUS Z87-PLUS

○ メモリ:W3U1600HQ-8GC11 16GB

○ SSD:Intel 335 Series SSDSC2CT240A4K5

○ HDD:Western Digital Red 3.5inch IntelliPower 2.0TB(×2)

○ DVDドライブ:LGエレクトロニクス GH24NS95

○ 電源:ENERMAX ETA550AWT-M

○ ケース:Antec SOLO II

そしてこの自作PCに、Steinberg Cubase 8.5をインストールして使っています。Cubaseはぼくにとって自由に使いこなせる唯一の楽器と言えます。これなしに楽曲制作はできないのではないかと思います。

オーディオ・インターフェースやスピーカーなどは、以下のような機材を使用しています。

○ オーディオ・インターフェースSteinberg UR28M

○ スピーカーヤマハ MSP3

○ ヘッドフォン:Bose AE2(作曲/編曲用)、ソニー MDR-CD900ST(ミックス/マスタリング用)

○ ヘッドフォン・アンプ:友人制作のオリジナル

○ キーボード:コルグ microKEY-37、ヤマハ KX61

ぼくが楽曲制作をしているのは、自宅の4畳半の片隅なので極力省スペースになるようにまとめています。

最近の楽曲制作でよく使うソフトウェア・インストゥルメントや、プラグイン・エフェクトもまとめてみました。

Steinberg Retrologue 2

シンセの音を使おうと思ったときにまず立ち上げるのがこれです。特にリードの音をよく使います。

How to make IDOLSONG

Steinberg Retrologue 2

XLN Audio Addictive Drums 2

ロック系楽曲のドラムで使います。

Native Instruments Battery 4

シンセ系楽曲のドラムで使います。よく使う音でオリジナル・キットを作ってあります。

Spectrasonics Trilian

エレキ・ベースもシンセ・ベースもほとんどこれを使います。

XLN Audio Addctive Keys

ピアノやエレピはこれです。

Steinberg Virtual Guitarist 2

打ち込み時のギターはこれを使っています。

How to make IDOLSONG

Steinberg Virtual Guitarist 2

Rob Papen Blue 2

アルペジオや効果音はこれを使うことが多いです。

reFX Nexus2

トランス・ゲートやアルペジオで使います。ストリングスやブラスも時々使います。

Steinberg HALion Sonic 2

ストリングスなどの生系サンプリングが欲しい時はまずこれを使います。

How to make IDOLSONG

Steinberg HALion Sonic 2

UVI Synth Anthology II

最近購入してとても気に入っています。どの音も抜けが良くて重宝しています。

Cubase付属のエフェクト・プラグイン/チャンネル・ストリップ

基本的なエフェクトはCubase付属のものを使うことが多いです。

FabFilter Pro-Q 2

基本的な楽器の設定を自分で作ってあります。ポイントを複数設定できるのが気に入っています。

Waves Renaissance Axx

「この音をもう少し前に出したい!」というときに使っています。

Waves Vocal Rider

仮歌の音量を調整するのに使っています。

IK Multimedia Lurssen Mastering Console

自然に良い感じで音圧が上がるので重宝しています。

How to make IDOLSONG

IK Multimedia Lurssen Mastering Console

2016年のベスト・アイドルソング5選

今年のベスト・アイドルソングを5曲選んでほしいと言われたのですが、これがなかなか難しい。というわけで、ぼく自身気に入って複数回聴いていて、なおかつミュージック・ビデオが存在するものという縛りで選んでみました。

『世界には愛しかない』欅坂46

ポエトリー・リーディングから畳み込む、細かい譜割りのメロディー。一度落ち着いてからのサビで目の前が開ける感じ。色彩を感じる楽曲です。聴けば聴くほど好きになる楽曲です。

『うるとらみらくるくるふぁいなるアルティメットチョコびーむ』わーすた

曲がすごい。歌詞がすごい。良い意味でまともじゃない。そして中毒性もすごい。「マジでトリケラトップス強い」のインパクト。アレンジも凝っています。

『魔法の言葉』sora tob sakana

イントロのカットアップから耳が気持ち良いです。ライブも良いですが、ヘッドホンでじっくり聴きたくなる楽曲。実験的かと思いきや、メロディーは非常にキャッチーで繰り返し聴きたくなります。

『きみわずらい』まねきケチャ

楽曲制作依頼時の参考曲だったんですが、聴いてみたらとても気に入ってしまった曲。一時期ヘビロテでした。同じ言葉の繰り返しがとても良い効果を上げていて、胸にグッときます。

『Little Bee』里咲りさ

自分で作詞作曲を行うシンガソングライターなのですが、本人がアイドル宣言をしているので、これもアイドルソングということで。読み込むほどに味の出る歌詞。ストレートでキャッチーなメロディー。キュートで透明感のある歌声。最高。

『アイドルソングの作り方』第4回は、2017年1月10日(火)に掲載します。

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