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PRODUCT REVIEW
Product Review: 鈴木”Daichi”秀行が聴く、IK Multimedia「iLoud Micro Monitor Pro」
本日(2024年9月19日)夕刻発表されたIK Multimediaの新製品、「iLoud Micro Monitor Pro(アイラウド・マイクロ・モニター・プロ)」。世界的に大ヒットを記録したiLoud Micro Monitorと変わらないサイズ感ながら、音質面・出力面・機能面でブラッシュ・アップした新型マイクロ・モニターです。iLoud Micro Monitorよりも一回り大きなツィーターを搭載し、上位モデルのiLoud Precisionと同じリニア・フェイズ仕様のクロスオーバーを採用。DSPで音場を補正できる『ARC』や、定番モニターの特性をエミュレートできる『X-MONITOR』などの機能も利用することができ、オーディオ入力端子はXLRとRCAの両方を備えています。自宅スタジオから小規模なイマーシブ・スタジオまで、さまざまな用途に対応する新型マイクロ・モニター、「iLoud Micro Monitor Pro」。音楽プロデューサーの鈴木Daichi秀行さんにいち早く試聴していただき、そのインプレッションを伺ってみました。
ボーカル周りの処理は、小さなモニターの方がやりやすい
——— Daichiさんのホームグラウンドである『Studio Cubic』には、Genelec 8341AP、Focal ST TRIO 6、Genelc 1038CF、IK Multimedia iLoud Micro Monitorと、4種類のモニターが設置されていますね。
Daichi モニターに関しては、昔から作業内容に合わせて使い分けるというスタイルですね。ウチはドラムも録れるので、そういうときは1038CFのような大きなモニターを鳴らして、レンジ感を確認する。ミックスの最終段階では、iLoud Micro Monitorやラジカセで再生して、全体の音像を確認してみたり。音の全体像は、小さなスピーカーの方が分かりやすかったりしますから。失敗しないように、いろいろな選択肢を用意しておくという感じです。
——— Genelecがニア・フォールドとラージの2種類、Focal、iLoud Micro Monitorというセレクションに関しては?
Daichi Genelecは、こういう仕事を始めたときからずっと使っています。1029Aから始まって、1030A、8000シリーズ、そして今のThe Onesと……。まぁ、同じGenelecと言っても、シリーズによって音の傾向は違うんですけどね。Focalは、今のTRIOの前はSOLOを使っていたんですが、他のスタジオ・モニターとは違うリッチな音が気持ちいいんです。高級オーディオ感のあるサウンドというか。
ぼくはエンジニアさんとは好みが違って、曲を作ったり、アレンジをしたり、楽器を弾いたりするので、自分が盛り上がれるモニターが好きなんです。エンジニアさんは、フラットで、無色透明なモニターを好むと思うんですけど、そういう音でギターを弾いても楽しくないというか(笑)。だからぼくは、どちらかと言うとキャラクターがあるモニターの方が好きですね。
——— iLoud Micro Monitorを導入されたきっかけをおしえてください。
Daichi あるときから、生配信ライブとかパフォーマンス動画とか、外で収録する仕事が増えてきたんです。でも、そういう現場では、映像系の人は音にそれほどこだわらなかったりするので、テレビ内蔵のスピーカーでチェックしていたりするんですよ(笑)。それだとアーティストのパフォーマンスを判断するのは難しいですし、ある程度ちゃんとした音で確認したいなと思って、外の現場に持ち運びしやすいプレイバック用モニターとして使い始めたのがきっかけですね。これまで4〜5ペア買って、いろいろな場所に置いてあります。よく撮影で使うスタジオには置きっぱなしになってますし、車にも積んでありますね。
——— 導入の際に、他の小型モニターと比較されたのですか?
Daichi iLoud Micro Monitor以前は、そういった用途に合っている小さなモニターって、あまり見当たらなかったんですよ。ある程度スタジオ・モニターのクオリティで再生できて、持ち出ししやすいものって、ほとんど無かったのではないかと思います。なので他のモニターとの比較はしませんでしたね。
——— 外現場用に導入されたiLoud Micro Monitorですが、現在はスタジオでも使用していると。
Daichi 小さいのにめちゃくちゃ本格的な音がするので、すぐにスタジオでも使うようになりましたね。歌の調整、ボーカル周りの処理に関しては、なるべく小さなモニターでやった方が良かったりするんですよ。小さなモニターの方がピッチ感が分かりやすかったりするんです。
iLoud Micro Monitorからは一歩も二歩も進んで、本格的なスタジオ・モニターになった
——— 本日は新製品の「iLoud Micro Monitor Pro」をいち早く試聴していただきました。率直な感想をお聞かせください。
Daichi 最初に話を聞いて、かなり期待していたんですけど、実機を聴かせてもらったら想像以上でしたね。ぼくがiLoud Micro Monitorで感じていた不満がすべて解消されているっというか。
——— 具体的には?
Daichi iLoud Micro Monitorは凄く良いモニターなんですけど、もう少しパワー感があったらいいなと思っていたんですよ。ここくらい広さがある部屋で使うには、もう少し鳴ってくれるといいなと。ボリュームを上げると、アンプが悲鳴を上げているのが分かるので(笑)。だったらiLoud MTMを使えばいいじゃないかということで、少し前に買ってみたんですけど、iLoud Micro Monitorと比べるとやっぱり大きいじゃないですか。iLoud Micro Monitorのサイズ感で、もっと音量が出たらいいなという、わがままな欲求があったんです。
新しい「iLoud Micro Monitor Pro」では、このiLoud Micro Monitorの不満が見事に解消されていましたね。サイズは少し大きくなったくらいなのに、パワー・アンプの出力が2倍になったので、かなりの音量で鳴ってくれる。6畳くらいの部屋だったら十分過ぎる音量というか、うるさいくらいかもしれません(笑)。それはそうですよね。iLoud Micro Monitorはペアで50W RMSだったのが、「iLoud Micro Monitor Pro」ではそれぞれ50W RMSになったんですから。
それとスタジオ・ユースということを考えると、XLR入力が追加されたのもいいですね。RCA入力でも問題はないと思うんですけど、XLR入力の方が感覚的に安心できる。また、iLoud Micro Monitorは、リンク・ケーブルで2本を繋ぐ仕様で、片方だけ重かったんですけど、「iLoud Micro Monitor Pro」では左右同じ仕様、同じ重さになった。それも精神衛生的にいいですね(笑)。
——— 音の傾向はiLoud Micro Monitorと共通ですか?
Daichi いや、音の傾向はだいぶ変わったと思います。iLoud Micro Monitorは筐体がプラスチックだから仕方ないと思うんですけど、ちょっと乾いた感じの音という印象があったんですよ。新しい「iLoud Micro Monitor Pro」は、そういう乾いた感じの音ではなく、どっしりとしたプロ用スタジオ・モニターの音になったというか。後でIK Multimediaの人に確認してみたら、筐体の素材は同じサーモ・プラスチックとのことなので、重量の影響が大きいのかもしれません。パワーもかなり出るようになりましたし、iLoud Micro Monitorからは一歩も二歩も進んで、本格的なスタジオ・モニターになったという印象です。
——— 「iLoud Micro Monitor Pro」の大きなフィーチャーとして、DSP音場補正機能『ARC』が搭載されたことが挙げられます。普段TRINNOVをお使いのDaichiさんですが、『ARC』によるキャリブレーションの印象はいかがでしたか?
Daichi 『ARC』を使うと、すっきりした印象になりますね。音の見晴らしが良くなるので、ミックスもやりやすくなるのではないかと思います。ただ、『ARC』をオンにすると、音圧が少し弱まる感じがあるので、必ず使った方がいいという機能ではないと思います。個人的には『ARC』を使わない方が、音の“圧”が気持ち良かったですし、おそらくそういうクリエイターは多いのではないかと。
おもしろかったのは、『X-MONITOR』による定番モニターのエミュレーション機能ですね。他のモニターで鳴らすとどういう音になるのか、車の中で再生するとどう聴こえるのかエミュレートできるので、何種類もモニターを並べられない人には便利なのではないかと思います。
——— その他に気づいた点はありますか?
Daichi コンパクトで安価ですし、小規模なイマーシブ・スタジオにもバッチリだなと思いました。マイク・スタンドに設置することもできますし、これだったら6畳くらいの部屋で7.1.4chのセットアップを組むのも現実的ですよね。イマーシブ対応のスタジオも増えていますが、どこもエンジニアさんがミックス作業を行うためのスタジオじゃないですか。しかし最終的にイマーシブ・ミックスをするのであれば、作曲段階からイマーシブ環境で作業した方が絶対にいいですし、そういうコンテンツに興味があるクリエイターも増えていると思うんですよね。ぼく自身、興味がありますし。しかしこれまではモニター環境がネックだったわけですけど、「iLoud Micro Monitor Pro」ならば小さな部屋にもイマーシブ・セットアップを組むことができる。国内のディストリビューション・サービスの多くは、まだDolby Atmosで配信することはできないんですけど、今後ディストリビューション・サービスが対応していけば、きっとみんなやりたがるんじゃないかと思いますね。
——— 「iLoud Micro Monitor Pro」で7.1.4chのシステムを組む場合、Daichiさんらウーファーは何を組み合わせますか?
Daichi 何ですかね……。選択肢はたくさんあるので、単純に部屋のサイズで選ぶことになるのではないかと思います。
——— 総じて「iLoud Micro Monitor Pro」はいかがですか?
Daichi iLoud Micro Monitorで感じていた不満点がすべて解消されていますし、本当に想像以上でしたね。パワーがかなり出るようになって、XLR入力も付いて、『ARC』が入って、『X-MONITOR』も使えるようになった。iLoud Micro Monitorは、少し簡易的という印象がありましたけど、「iLoud Micro Monitor Pro」は完全にスタジオ・モニターになりましたよね。若い人からモニターについてよく相談を受けるのですが、小さい部屋にがんばって大きなモニターを導入しても、結局は鳴らしきれないんですよ。6畳くらいの部屋であれば、小さなモニターをしっかり鳴らした方が特性的にも絶対にいい。だから自宅で作業している人は、もうみんな悩まずにこれでいいんじゃないかと思います(笑)。めちゃくちゃ売れると思いますし、ぼくも絶対に買いますよ。