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ASYZ 〜 チェコスロバキア産、映画の音響効果/電子音楽のために開発されたモジュラー・シンセサイザー
「ASYZ」は、1960年代後半から1970年代初頭にかけて、チェコスロバキアのプラハで開発されたワンオフのシンセサイザーです。映画用の音響効果/電子音楽を制作するための機器として、“東ヨーロッパのハリウッド”と呼ばれた著名な映画スタジオ、バランドフ撮影所(Barrandov Studios)が製作。設計したのは、Antonín kaとBohumil Matoušekという2人の技術者で、その後サウンド・エンジニア/デザイナーのPavel Pitrákも開発に加わり、1980年代はPitrákがメンテナンスを担当。「ASYZ」という名称は、チェコ語の“Analyzátor a SYntezátor Zvuku(サウンド・アナライザー/シンセサイザーの意)”の頭文字から付けられました。
「ASYZ」は見てのとおり、大型のモジュラー・シンセサイザーで、ケーブルを使って各回路の接続を自由にパッチすることが可能。パッチ用の端子には、アナログ・コンピューターと同じソケットが採用され、オーディオ信号用の端子とコントロール信号用の端子は明確に色分けされていました。写真を見ると非常に多くのモジュールを備えている「ASYZ」ですが、最初からこのような形だったわけではなく、徐々に機能(モジュール)が追加されていき、1971年に「ASYZ 2」と呼ばれる最終バージョンが完成。写真のキーボードも、1990年代に入ってから音階演奏に対応するために追加されたもので、「ASYZ」が最も使用された1970年代〜1980年代にはありませんでした(主な用途は音響効果制作だったので、必要なかったようです)。
サウンド・ソースは、外部オーディオ入力と内蔵オシレーターの両方を使用でき、オシレーター・モジュールにはBrüel & Kjaer製の音響卓用発信器を改造した回路が搭載され、20Hz〜20kHzのサイン波を生成。3バンド仕様(ベース/トレブル/パラメトリック)のフィルターも同じBrüel & Kjaer製の回路を改造したもので、各バンドにはレベル調整用の可変抵抗器が備わり、ゲーム用のボタン(!)で出力バンドのリアルタイム切り替えに対応。その他、3列/16ステップ仕様のシーケンサー、ノイズ・ジェネレーター、サーキュラー/フェイズ・モジュレーター、ミキサー・アンプ、VCA、ADSRジェネレーター、LFO、ランダム・シグナル・ジェネレーター、エンベロープ・トラッカーといったモジュールを搭載し、オシロスコープや電圧計、周波数カウンターといったメーター類も内蔵していました。
1990年代まで現役で使用されていたという、東ヨーロッパ製の幻のシンセサイザー「ASYZ」。現在は、Cinepostというチェコ・プラハのポストプロダクション・カンパニーに所蔵されています。