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女子の恋心をStudio OneとJD-Xiで表現! ファースト・アルバム『SPIRAL DAYS』を発表した注目の“DAW女”、小南千明 インタビュー

最近はシンセ好きの“シンセ女子”が増えていると聞きますが、DAWを扱う女子=“DAW女(ダウジョ)”を自称し、精力的なライブ活動を続けているのがシンガーソングライターの小南千明です。“DAW女”を集めたライブ・イベント、『DAW女子会』のオーガナイザーとしても知られる彼女が先頃、待望のファースト・ミニ・アルバム『SPIRAL DAYS』をリリースしました(CDは現在、ライブ会場とヴィレッジヴァンガード高円寺店でのみ販売)。明日19日、iTunes Storeでも配信が開始される本作は、“DAW女”小南千明がPreSonus Studio Oneと愛機、ローランド JD-Xiを駆使して作り上げた極上のポップ・アルバム。「女子のキュンキュンする恋心」をDAWとシンセで表現したという楽曲はいずれもキャッチー&ストレートで、幅広い層にアピールしそうな1枚に仕上がっています。

そこでICONでは注目の“DAW女”、小南千明にインタビュー。処女作『SPIRAL DAYS』のプロダクションや、JD-Xiの使いこなし術、“DAW女”と『DAW女子会』の今後の展開について話を伺ってみることにしました。iTunes Storeでの配信に合わせて公開された収録曲『NEVERENDING STORY』のミュージック・ビデオと、『CLOSET』のミュージック・ビデオ・ゲーム(!)をプレイしながらぜひご一読ください!

最初はデモ作りのつもりが、打ち込みが楽しくなってしまい“DAW女”に

——— 音楽は小さい頃からやられていたのですか?

小南 子どもの頃にエレクトーンをやっていたんですけど、それは本当に習っていたという程度で、真剣に音楽をやり始めたのはこの5年くらいです。わたし、Christina AguileraやP!NKに憧れて、ずっとダンス・ボーカルをやっていたんですよ。当時は単純に踊れる曲、自然と体が動くような曲が好きだったんですけど、徐々にメロディーがある曲が好きになっていって、ダンスではなく歌をちゃんとやってみたいなと思ったんです。それでApple MacBook Proを買って、GarageBandを使って自分で曲を作り始めて……。

——— そこから打ち込みにハマってしまった。

小南 いや、最初は自分でアレンジまでするつもりはなくて、GarageBandでの曲作りと言っても、本当に歌とピアノだけという感じでした。打ち込みに真剣に取り組み始めたのは、音楽プロデューサーの浅田祐介さんの影響です。その頃わたし、手当たり次第にオーディションを受けていたんですけど(笑)、あるオーディションの審査員が祐介さんで……。それはアイドル・オーディションで、アイドルには全然なりたくなかったんですけどなぜか受けてしまって(笑)。でも祐介さんさすがで、審査が終わった後に、“きみ、アイドルになる気ないでしょ?”と見事に見透かされてました(笑)。

それで自分で作った曲を祐介さんに聴いてもらったりしていたんですが、あるときアレンジの作業を見せてもらって、打ち込みに興味が出たんです。それまでは曲がどんな風に作られていくか、よく分かってなかったんですけど、なるほどこういう感じで作られていくのかって。それで祐介さんに勧められるがままにPreSonus Studio Oneを買って、少しずつアレンジも始めていって……。そうしたら打ち込みが楽しくなってしまったという(笑)。自分的にはあくまでもデモという意識だったんですけど、祐介さんが“ここまでやったんだったら最後まで自分でやってみれば?”とアドバイスしてくださって、それからですね。ぜんぶ自分でやり始めたのは。

Chiaki Kominami

——— Studio Oneでの曲作りはすぐにできるようになりました?

小南 エレクトーンをやっていたので、コードは何とか分かったので……。でも少しずつできるようになってる感じで、いまだに試行錯誤しています。最初はメロディーとコードを決めて、それに合うようにオケを作ることがほとんどだったんですけど、最近はトラックから曲を作るパターンも増えてきましたね。最初にドラムを打ち込んでから、メロディーやコードを付けていったり……。そんな作り方を始めたのも、昔は“こういう歌を作りたい”としか考えていなかったのが、最近は“こういうサウンドを作りたい”という欲求も出てきたからだと思います。

——— 具体的にはどんなサウンドですか?

小南 ChvrchesとかSt. Luciaとかが好きなので、ああいうサウンド。あと最近は80年代の音楽を聴いているので、そういう感じとか。80年代のものは人におしえてもらっていろいろ聴いているんですが、いちばん自分的にハマったのがStrawberry Switchblade。最初聴いたときはかなり衝撃的でしたね。エレクトロなのに“女子感”が凄いというか。歌詞はよく分からないんですが、音で女子心が表現されているのが凄いなと。

——— 最近はライブ活動を精力的に行いながら、CD-Rで音源を販売していましたね。

小南 そうですね。今はとにかく自分の音楽を聴いてくれる人を増やしたいので、それにはライブをするのがいいかなって。でもそれだけだと遠方の人に届かないので、最近はツイキャスSHOWROOMも積極的にやっています。CD-Rに関しては、ファンの人から曲を音源化してほしいという声をたくさんいただいていたので作り始めた感じですね。ジャケットもぜんぶ自分でデザインした本当に手作り(笑)。その後、『小南千明DAW SONG COLLECTION』、通称『DAWコレ!』とシリーズ化して、これまで4枚作りました。

Chiaki Kominami

『SPIRAL DAYS』では、“女子のキュンキュンする恋心”を音で表現した

——— そして先日、待望のファースト・ミニ・アルバム『SPIRAL DAYS』を発表されました。今月19日からは、いよいよiTunes Storeでも配信されます。

小南 アルバムはずっと作りたいなと思っていたので、ようやくという感じですね。収録曲はCD-Rに入れた曲や初めて発表する曲などいろいろです。これまで発表した曲を新たにアレンジし直して収録したり。

——— ファースト・アルバムということで、どんな作品にしようと考えましたか?

小南 最近ハマっている80年代っぽさを取り入れた自分なりのポップスをやりたいなと。基本はポップスで、恋の歌をシンセの音に乗せて歌いたいなって。

Chiaki Kominami

小南千明『SPIRAL DAYS』(Anything Goes)

——— もっとエレクトロなサウンドなのかなと思ったんですが、全編歌もののポップスで、ちょっと意外な感じがしました。

小南 他の人にも“もっと今風な音なのかと思った”と言われたんですけど、でも流行りの音をそのままやってもつまらないなと思って。一聴すると普通のポップスなんですけど、よく聴くと“おっ!”という要素が入っているというのが好きなんです。Princeとかもそうじゃないですか。普通の曲なんですが、よく聴くと主メロはディレイで左右に広がっていて、コーラスがど真ん中に定位していたり(笑)。そういう音楽がいいなって。

——— 確かに3曲目の『夢見るハイヒール』も、グルーヴィーなポップ・ソングなんですけど、後半EDMっぽいブレイクダウンが入っていておもしろいなと思いました。

小南 パッと聴き4分に聴こえるんですけど、実は符点8分というのはEDMの象徴的リズムの一つなんじゃないかと思っていて。符点8分がずっと鳴っていると、一瞬リズムを見失うじゃないですか。あれが好きなんです(笑)。ライブでこの曲をやると、やっている本人がリズムを見失いそうになるんですけど(笑)。

あと今回、音と同じくらいこだわったのが歌詞ですね。女子のキュンキュンする気持ちを歌いたいなって。

——— “月9”とかそんな単語も出てきますね。

小南 わたし、ドラマが大好きなので(笑)。歌詞は基本的にリアルにあったことが元になってます。あまりに赤裸々なので、わたしのプライベートがばれちゃいそうですけど(笑)。

でも、世にラブ・ソングって多いですけど、女の子が音色を選んで打ち込んでる曲ってあんまり無いんじゃないかなと思うんですよ。ただ単に恋の歌詞を載せてるだけじゃなく、このキュンキュンした気持ちをどうやったら音にできるかなと考えながら作っているので……。

——— さっきおっしゃっていた、音で女子心を表現するというやつですね。

小南 そうそう。5曲目の『One More Kiss』のアレンジなんかは、Strawberry Switchbladeを参考にしましたね。

——— DAWはStudio Oneとのことですが、音源はどのようなものを使いましたか?

小南 ハードのシンセはローランドのJD-Xiだけですね。JD-Xiは大好きで、黒と白2台持ってます(笑)。ソフト音源は、Native Instruments KOMPLETEのものが多いですね。Massive、FM8、Batteryといったところを愛用しています。シンセに関してはStudio One標準のMai Taiも好きですね。特に『Anthem 1』という空間系のプリセットが良くて、『SPIRAL DAYS』の後ろで鳴っているシンセとかで使いました。あと最近、ローランドのAIRA TR-8を手に入れたので、次の曲ではきっと使うと思います。

——— JD-Xiはジャケットにも写っていますし、かなりお気に入りのようですね。

小南 最初ライブは、トラックを流しながら歌っていただけだったんですけど、せっかく自分で作った曲だし演奏もしたいなと思って、Studio Oneを立ち上げたMacBook ProとMIDIキーボードを使い始めたんです。でも、いきなり音が出なくなっちゃう事故があったりして(笑)、見栄え的にも地味ですし、本物のシンセを使いたいなと思って。そんなことを音楽プロデューサーの田辺恵二さんに相談したところ、勧めてくれたのがJD-Xiだったんです。小さくてかわいいし、小南向きなんじゃないかと。それで楽器屋さんに見に行ったら本当にかわいかったので、すぐ買ってしまいました(笑)。

Chiaki Kominami

——— JD-Xiはいかがですか?

小南 ハードのシンセって初めてだったんですけど、やっぱり指先で音色をいじれるのがいいですね。指先でいじれる分、何て言えばいいのかな…… “出会った感”があるんですよ。キュンとくる音ができたときに、“わ、出会っちゃった”みたいな(笑)。ソフト・シンセだとそんな感覚は無かったんですけど。

あとは小さいのにいろいろ入っているのがいい。オーディオ・インターフェースも入ってますから、ライブにはMacBook ProとJD-Xiだけ持って行けばいいので凄くラクチン。JD-Xiの音とStudio Oneの音をミックスして出力してくれるんです。イベント・ライブとかですと転換の時間が無かったりするので、本当に便利ですね。あと内蔵シーケンサーもSHOWROOMで配信をするときとかに使っています。SHOWROOMではファンの方のリクエストに応えて歌ったりするんですけど、JD-Xiのシーケンサーで音を重ねていくとやっている方も楽しいですし、配信も盛り上がるんです(笑)。

それと何と言っても見た目が好き。光るのもかわいいですし、わたしにとってはファッション・アイテムのようなものですね。できれば赤色のも欲しいです。

——— お気に入りの音色があればおしえてください。

小南 230番の『S-Saw Pad 1』ですね。SuperSAWのパッドなんですけど、Chvrchesっぽい刻みとかにバッチリ。配信でもよく使うんですが、これだけで世界が出来上がってしまう音なんです。あとは76番の『Square Ld 2』も好きですね。JD-Xiは、フェイバリットとしてよく使う音色を登録しておけるので、ライブのときに凄く便利なんですよ。

——— ボコーダー機能は使ってます?

小南 めちゃくちゃ使ってます。いちばん使うのは258番の『Voc:5thStack』という音色で、5度でハーモナイズするボコーダーなんですけど、ライブのイントロとかはいつもこれですね。使いすぎってくらい使ってます(笑)。JD-Xiのボコーダーは、別のパートを鳴らしながら同時に使えるのがいいですね。マイクで歌った声をそのままレコーディングすることもできますし。

Chiaki Kominami

iTunes Storeでの配信に合わせて、“ミュージック・ビデオ・ゲーム”を公開

——— iTunes Storeでの配信に合わせて、ミュージック・ビデオも2本公開されるとのことですね。

小南 はい。4曲目の『NEVERENDING STORY』を小南千明初のミュージック・ビデオとしてYouTubeで公開します。監督は久保田延彦さんで、すばらしいビデオを作っていただきました。それと2曲目の『CLOSET』は、歌と歌詞で遊べる“ミュージック・ビデオ・ゲーム”なんです。ワンマン・ライブを観たmodoc.incさんが企画してくれて、Yuliyさんという女性デザイナーの方が制作されたそうです。とても楽しいゲームですので、ぜひたくさんの人に遊んでいただきたいですね。

Chiaki Kominami

——— 小南さんは自らを“DAW女”と名乗り、音楽制作をする女の子たちを集めたライブ・イベント『DAW女子会』を主催されていますね。

小南 “DAW女”というのは、ダンス・ボーカルをやめて自分で曲を作り始めたときに考えた言葉なんです。要は打ち込みをする女の子ということなんですけど、何かキャッチーな名前があった方がいいかなと思って。ちなみに“ダウジョ”と発音します。“ダウージョ”でもいいんですけど(笑)。

——— シンセ女子でも宅録女子でもなく、“DAW女”を名乗ろうと思ったのは?

小南 自分が言い出しっぺになりたかったから(笑)。シンセ女子や宅録女子を自称する女の子はたくさんいましたからね。でも、自分で曲を作っている女の子っていうだけで、細かい定義は無いです(笑)。これまで『DAW女子会』に出てくれた女の子たちも、音楽性はバラバラですしね。わたしがいいと思った女の子に声をかけているだけで……。『DAW女子会』を始めたのは、自分がどんなイベントに出演してもアウェーだったので、ホームな場所が欲しかったからです(笑)。

——— “DAW女”でコンピレーション・アルバムとかも作れたらおもしろそうですね。

小南 ですね。みんなのオリジナルを集めてもいいですし、カバー・アルバムでもおもしろいと思いますし。この前の『DAW女子会』でも最後に、出演者全員でRadioheadの『Creep』をセッションしたんですよ。あとは『DAW女フェス』とかもやりたいですね。

——— 最後に今後の予定をおしえてください。

小南 ヴィレッジヴァンガード高円寺さんで7月から、 『DAW女子会 in ヴィレヴァン高円寺店』というミニ・ライブをスタートしたんです。『DAW女子会』のインストア・ライブ・バージョンで、第2回は8月20日にYUC’eちゃんをゲストに迎えてやるのでぜひ遊びに来てほしいですね。他にも27日の渋谷duo MUSIC EXCHANGE、9月4日のDESEO mini with VILLAGE VANGUARDなど、たくさんライブの予定が入っていますので、ぜひWebサイトをチェックしてください。これからも精力的にライブを続けていって、次もミニ・アルバムかフル・アルバムか分からないですけど、また音源を出せたらいいですね。

——— 次作も楽しみにしています。ありがとうございました!

Chiaki Kominami

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