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J-POPの名盤を紡ぎ出してきた伝説のレコスタ、“音響ハウス”の響きを再現する「ONKIO Acoustics」がアップデート…… 新機能『匠プリセット』について開発者が語る

昨年10月に発売され、大きな話題となったタックシステム「ONKIO Acoustics(オンキョウ・アコースティック)」が、バージョン1.2にアップデートされました。「ONKIO Acoustics」は、J-POP史に残る数多の名盤を生み出してきた日本を代表するレコーディング・スタジオ、音響ハウスのStudio NO.1/Studio NO.2の響きを忠実に再現したプラグイン。ベースとなっているのは、スタジオ設計の第一人者である中原雅考氏(ソナ/オンフューチャー)が開発した『VSVerb』という“空間サンプリング技術”で、従来のコンボリューション・リバーブとは一線を画した自然な響きが得られるのが最大の特徴です。

今回リリースされたバージョン1.2では、第一線で活躍する5人のエンジニアが作成した『匠プリセット』が実に70種類以上追加。その顔ぶれは、飯尾芳史氏(イエロー・マジック・オーケストラ、竹内まりや、松たか子、etc.)、 伊東俊郎氏(TM NETWORK、渡辺美里、米米CLUB、etc.)、小森雅仁氏(米津玄師、Official髭男dism、藤井風、etc.)、斎藤敬興氏(コブクロ、Crystal Kay、大塚愛、etc.)、采原史明氏(凛として時雨、Aimer、クリープハイプ、etc.)とひじょうに豪華で、いずれもミックスの即戦力となるだけでなく、音づくりの勉強にもなる貴重なプリセットとなっています。そこでICONでは、開発プロジェクトを推進した音響ハウスの執行役員/IFE制作技術センター長である田中誠記氏にインタビュー。純国産プラグイン「ONKIO Acoustics」はいかにして生まれたのか、じっくり話を伺ってみることにしました。なお、「ONKIO Acoustics」は今月20日までの期間限定で、バージョン・アップを記念した15%OFFセールが実施されているので、気になっていた方はぜひチェックしてみてください

Tacsystem - ONKIO Acoustics

J-POPの名盤を紡ぎ出してきたスタジオの響きを忠実に再現したプラグイン、「ONKIO Acoustics」

——— まずはレコーディング・スタジオである音響ハウスが、DAW用プラグインを開発するに至った経緯をおしえてください。

田中 弊社の代表の高根(注:株式会社音響ハウス代表取締役社長の高根護康氏)が思いついたアイディアなんですが、『音響ハウス Melody-Go-Round』というドキュメンタリー映画を作ったときに、この歴史あるスタジオの響きを何とか残せないかと思ったのがきっかけです。スタジオが入っているONKIO BLDG.というビルは、検査業者がびっくりするくらいしっかりした造りになっているんですが、それでもいつかは建て替えなければならないときがくる。次の世代のためにも、どうにかしてスタジオの響きを残したいと思ったんですよね。上手く響きを記録できれば、それは音響ハウスにとって大きな財産になりますから。それとAbbey Road StudiosやOcean Way Studiosといった海外のスタジオの名前を冠したプラグインはありますけど、日本のスタジオはまだなかったので、だったら自分たちが最初にやってみようと(笑)。開発プロジェクトがスタートしたのは一昨年(2021年)の春ごろのことで、我々だけではどうしようもありませんでしたから、DAW用プラグインの開発経験のあるタックシステムさんと共同で開発することにしたんです。

映画『音響ハウス Melody-Go-Round』

——— 開発コンセプトは、“音響ハウスのレコーディング・ブースの響きを再現できるプラグイン”という感じでしょうか?

田中 そうですね。弊社にはたくさんのスタジオがありますが、その中でも多くの名盤のレコーディングで使われてきた1スタ(注:ONKIO BLDG. 8階にあるStudio NO.1)と2スタ(注:ONKIO BLDG. 5階にあるStudio NO.2)の響きを再現できるプラグインを作りたいと思いました。一度に2つの部屋をプラグインにしてしまうというのは欲張りのようですが、両スタジオとも独特の響きを持っているんですよ。1スタは広さの割に、うわっと響くような空間ではなく、エンジニアがコントロールしやすい空間。プレーヤーの皆さんは、「凄くナチュラルな響きだね」とか「自然に演奏できる」とおっしゃってくださいます。誇張された響きではなく、ナチュラルな響きの空間というか。一方の2スタは、部屋を見ていただければわかりますが、木の壁で、少し重めの響きなんです。この重めの響きが、バンドものやドラムの録音に合っている。このようにキャラクターが違うので、好みも分かれますね。1スタが好きという人もいれば、2スタの方が好みという人もいます。

Tacsystem - ONKIO Acoustics

数々の名盤を紡ぎ出してきた1スタのレコーディング・フロア

Tacsystem - ONKIO Acoustics

1スタのコントロール・ルーム

——— DAW用プラグインという形ではなく、汎用のIRライブラリーとして発売するというアイディアはありませんでしたか?

田中 若い人たちに音響ハウスの響きを気軽に体験してほしかったので、プラグイン形式にすることにはこだわりました。映画『音響ハウス Melody-Go-Round』によって、若い人に音響ハウスに興味を持っていただいたとしても、趣味で1日数十万円もするスタジオを使うことはできないわけじゃないですか。でもプラグインなら、気軽に音響ハウスの響きを体験してもらえる。なのでIRデータのライブラリーではなくプラグイン形式で、なおかつ学生さんでもポチってもらえる低価格というのは最初から考えていたことです。あとは単純に、パッケージとして出したかったというのもあります(笑)。

——— 「ONKIO Acoustics」では、『VSVerb』という技術が採用されているとのことですが、これはどのようなものなのでしょうか。

田中 スタジオ設計で有名なソナ/オンフューチャーの中原雅考さんが考案した、空間から採取したIRをそのままリバーブに使用するのではなく、得られたIRから部屋の音響特性を解析し、反射音だけを抜き出してIRを再合成するという技術です。一般的なコンボリューション・リバーブは、採取したIRを時間軸に沿って再生するわけですが、『VSVerb』は音の”強さ”と“方向”のデータを持っているのが最大の特徴ですね。また、コンボリューション・リバーブは柔軟性の低さがウィーク・ポイントですが、『VSVerb』はマイク・アングルや指向性が変えられたりと、柔軟性がとても高い。『VSVerb』という名称は、『Virtual sound Sources’ reVerb』(仮想音源リバーブ)の頭文字から付けられたようです。

我々は『VSVerb』についてまったく知らなかったので、1スタで中原さんにデモをしていただいたのですが、そのリアルな響きには本当に驚きました。歩いたときの音、人と話したときの響き、すべてがそのまんまで、これは本当に凄いなと。試聴時には弊社のエンジニアがほぼ全員参加したと思うのですが、皆「これは紛れもなく1スタの音だ」と驚いていましたよ。

Tacsystem - ONKIO Acoustics

音響ハウスの1スタ/2スタの響きを再現したプラグイン、「ONKIO Acoustics」

——— 従来のコンボリューション・リバーブとは違う?

田中 そうですね。響きの密度が、まったく違うというか、例えるなら、初めてDSDの音を聴いたときのような感じでしたね。初めてDSDの音を聴いたときも「1bitの音って凄いな」と驚きましたが、そのときと同じような印象。私は普段、スタジオで仕事をしているわけではないのですが、部屋から漏れる音というのはよく知っているわけですよ。エレベーター・ホールの前では、スタジオの音が聴こえてきますからね。そんな1スタの音が本当に良く再現されていた。スピーカーの脇で音を聴いたときに、これは本当に1スタの音だなと驚きました。

でも、我々はこの「ONKIO Acoustics」を、リバーブ・プラグインとは捉えていないんですよ。残響を加えるリバーブではなく、空間の響きや鳴りを再現するプラグインというイメージというか。ですから、AUXエフェクトではなく、インサート・エフェクトで使えるようなプラグインにしようと考えました。我々のような古い世代には、リバーブはAUXで使うものという固定概念があると思うのですが、それってアナログ・コンソール時代の発想なんですよね。今の若いクリエイターは、リバーブでもインサート・エフェクトで使用してしまう。なのでデジタル・ドメインで、気軽にインサートして使ってもらえるプラグインにしよう思ったんです。

Tacsystem - ONKIO Acoustics

音響ハウスの執行役員/IFE制作技術センター長、田中誠記氏

——— 発売後の反響はいかがでしたか?

田中 発売前に飯尾さん(注:エンジニアの飯尾芳史氏)に試してもらったんですが、すぐに「最高!」という感想を返してくださって、それはとても嬉しかったですね。他にも音響ハウスを使ったことがある人は皆さん、「これはドンピシャ」と絶賛してくださいます。けっこう辛口の人も多いんですけど(笑)、皆さん「本当に良く出来ている」と褒めてくださって、苦労して出した甲斐がありました。先日もTwitterを見ていたら、エンジニアの木村玲さんが感想をNoteにまとめてくださっていて。私も「なるほどな」と思う内容で、凄く参考になりました。

——— 響き以外に機能面での評価はありますか?

田中 皆さん評価してくださるのは響きですが、2スタで使用できる『Outside the Booth』という設定も「さすが、分かってるね〜」とおっしゃる方が多いですね。これはドラム・ブースの外、フロア側にマイクを立てて収録するという設定なんですが、このマイキングを好むエンジニアさんやプレーヤーが多いんですよ。映画『音響ハウス Melody-Go-Round』で佐橋さん(注:ギタリストの佐橋佳幸氏)が、「編成に余裕があるときはドラム・ブースの中にアンプを置いて、扉を開けたままフロア側にマイクを立ててアンビエントを録るのが好きなんだ」とおっしゃっていて、そのコメントをきっかけに搭載した設定なんです。

これは1スタも2スタもそうなんですけど、マイクを向けることができる位置には制限があるんです。どこにでも自由にマイクを向けられるわけではありません。なぜかと言うと、音響ハウスを使ったことがある人なら分かると思うんですが、たとえば2スタで音源を右側に置いて録るということは絶対にやらないんですよ。我々はそういうことを知っていますから、現実的ではないセッティングに関しては搭載しませんでした。きっとエンジニアなら、「分かっているな」「本当に音響ハウスが作っているんだな」と感じていただけると思います。

Tacsystem - ONKIO Acoustics

著名なエンジニアが作成した『匠プリセット』を搭載

——— そして今回、「ONKIO Acoustics」はバージョン1.2にアップデートされ、著名なエンジニアが作成したプリセットが新たに搭載されました。新機能を追加するのではなく、エンジニアが作成したプリセットを搭載しようと考えたのはなぜですか?

田中 飯尾さんが「よければプリセットを作るよ」とおっしゃってくださって、その一言がきっかけとなっています。なるほど、第一線で活躍されているエンジニアが作成したプリセットを搭載するのはおもしろいなと。若い人は、プリセットの設定を見ることで、プロのテクニックを学ぶことができますしね。それで今回、エンジニアの皆さんにプリセット作成をお願いすることにしたんです。

——— プリセットを作成したエンジニアは、飯尾芳史さん、伊東俊郎さん、小森雅仁さん、斎藤敬興さん、采原史明さんと錚々たる顔ぶれですが、この人選はどのように?

田中 飯尾さんと伊東さんはプラグイン制作のトリガーにもなった音響ハウスゆかりのレジェンダリー・エンジニアですから、迷わずお願いしようと思いました。小森さん、斎藤さん、采原さんに関しては、音響ハウスでの作業内容やスタッフの意見も参考にして、お願いすることにしました。いずれも現在のJ-POPシーンを牽引している人たちなので、ご快諾いただけたのは嬉しかったですね。

Tacsystem - ONKIO Acoustics

プリセットを作成した5名のエンジニア。左から、飯尾芳史氏(イエロー・マジック・オーケストラ、竹内まりや、松たか子、etc.)、 伊東俊郎氏(TM NETWORK、渡辺美里、米米CLUB、etc.)、小森雅仁氏(米津玄師、Official髭男dism、藤井風、etc.)、斎藤敬興氏(コブクロ、Crystal Kay、大塚愛、etc.)、采原史明氏(凛として時雨、Aimer、クリープハイプ、etc.)

——— エンジニアの皆さんには何かリクエストはされたのですか?

田中 一切注文せず、自由に作っていただきました。ですので、エンジニアによってプリセットの数が違います(笑)。

——— 出来上がってきたプリセットを初めて聴いたときの印象は?

田中 凄く微妙な設定を予想していたので、皆さんけっこう思い切ったことをやるなと思いましたね(笑)。先ほども説明したとおり、「ONKIO Acoustics」はスタジオの響きを忠実に再現したプラグインですので、実際の空間以上に残響を伸ばすことはできないんです。その代わりに、実際の空間以上にリバーブ・タイムを伸ばすと、壁の材質感が硬く変化していく。壁がどんどん硬くなっていって、それに伴って反射音が増えるようになっているんです。この仕様に関しては中原さんと相談し、実際の空間以上に残響が増えてしまうと変だから、だったら質感を変化させようということになったのですが、その変化を活用したプリセットが多かったですね。皆さん、意外と硬い壁の響きが好きなんだなと(笑)。

それと「ONKIO Acoustics」では、ロー/ミッド/ハイの各バンドの残響を自由にミックスできるんですが、この機能を使っているプリセットも多かった。その使い方はエンジニアさんによって様々で、「こういうことをやるんだ」と感心しましたよ。ちなみにこのバンドごとに響きを確認できる機能は、ミックスの教材としても凄く有用だと思います。高域や中域の響きだけで聴くと「なんじゃこりゃ」って音で(笑)、低域の響きだけで聴くとバックステージのような音なんですけど、その「なんじゃこりゃ」が3つ混ざると、凄くリアルな残響音になるんです。この感覚は、普通のリバーブと3バンドEQを組み合わせても分からないと思いますよ。おそらくプリセットを作成してくださったエンジニアの皆さんもそのことを理解して、この3バンドのミックス機能をフィーチャーしてくださったのではないかと思います。

Tacsystem - ONKIO Acoustics

プリセットは、エンジニアごとにフォルダーで分類されている

——— バージョン1.2がリリースされたばかりで気が早いのですが、今後の展開についておしえてください。

田中 YouTubeに「ONKIO Acoustics」のHow to動画をアップしているのですが、それは今後も充実させていきたいですね。Pro Tools以外のDAWを使った動画や、Instagramへの展開も検討しています。凄く良いプラグインが出来たと思っているので、我々としてはできるだけ多くの人、特に若い人たちに使ってほしい。そしてこの「ONKIO Acoustics」で音響ハウスのことを知った若い人が、数年後に実際に1スタや2スタを使ってくださったら、こんなに嬉しいことはありません。

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