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製品開発ストーリー #40:Arturia AudioFuse 〜 Arturiaらしいアイディアが多数盛り込まれた、“ワークフローを加速させる”未来型オーディオIF

2015年1月の『The NAMM Show』で発表され、昨年ようやく販売が開始されたArturia初のオーディオ・インターフェース、「AudioFuse(オーディオフューズ)」。3色のカラー・バリエーション/スクウェアなデザインが特徴的な、デスクトップ・スタイルのUSBオーディオ・インターフェースです。開発にかなり時間がかかっただけあって、とてもよく考えられた仕様になっており、例えばアナログ入力はマイク・プリアンプに加えてフォノ・イコライザーも搭載しているため、マイクや楽器だけでなくターンテーブルも直接繋ぐことが可能。2系統備わったスピーカー出力は、一方をリアンプ用出力として使用することもでき、iLokやUSBコントローラーなどを3台まで接続できるUSBハブ機能(!)まで備えています。発売から約1年が経ち、欧米ではブレイクし始めているというArturia渾身のオーディオ・インターフェース「AudioFuse」。そこでICONでは、先ごろ来日したArturiaのCEO、フレデリック・ブルン(Frédéric Brun)氏に、オーディオ・インターフェース市場に参入した理由と「AudioFuse」の開発コンセプトについて話を伺ってみました。

Arturia - AudioFuse

ArturiaのCEO、フレデリック・ブルン氏

使い手の“ワークフローを加速する”オーディオ・インターフェース、それがAudioFuse

——— ここ数年のArturiaを見ていると、ハードウェア製品にかなり注力している印象を受けます。現在、ソフトウェア製品とハードウェア製品の売上比率はどうなっていますか?

FB 売上比率については明かせませんが、会社の業績拡大の原動力となっているのは間違いなくハードウェア製品です。Arturiaは過去5年、毎年50%以上のペースで成長し続けています。正直、私の予想を上回る速度で大きくなっていると言っていいでしょう。その成長を牽引しているのがハードウェア製品なのです。キーボード・コントローラーに始まり、デジタル・シンセサイザー、アナログ・シンセサイザー、アナログ・ドラム・マシンと、製品のポートフォリオはどんどん増えていますが、我々は会社の業績を上げるために、無理に新しい分野に参入していっているわけではありません。我々の製品をお使いいただいているお客様にベストなソリューションを提供したいと考えたときに、それが新しい分野の製品だったというだけです。

——— 次の質問の答えを先に言われてしまった感じがしますが(笑)、昨年販売が開始されたArturia初のオーディオ・インターフェース「AudioFuse」に関しても同じですか?

FB 同じです。我々は長年、ソフトウェア・インストゥルメントの開発を行っています。V Collectionをはじめとする製品をお客様にベストな環境で使っていただきたい、それだったら自分たちでオーディオ・インターフェースを作らなければダメではないかと思ったのです。

Arturia - AudioFuse

Arturia初のオーディオ・インターフェース、「AudioFuse」

——— 現在、多くのメーカーがオーディオ・インターフェースを販売しており、市場にはたくさんの製品が出回っています。それでもArturiaが満足のいく製品は無かったということでしょうか。

FB 単純に音質だけなら、多くのメーカーが鎬を削った結果、現在ではどの製品もかなり高いレベルに達していると思っています。それよりも我々が改善したかったのは“ワークフロー”なのです。その昔、DAWとミキシング・コンソールを併用していた時代は、オーディオ・インターフェースは音を録音し、再生するためのデバイスに過ぎませんでした。しかし今やオーディオ・インターフェースは、制作環境の核となるデバイスです。プロ/アマ問わず、多くの人たちがコンピューターの中だけで音作りをするようになり、コンピューター以外のハードウェアはオーディオ・インターフェースとスピーカーだけという人も少なくありません。我々はソフトウェア・インストゥルメントやUSBコントローラーを開発するため、最近の人たちがどのように曲作りを行っているか常にリサーチしており、現代のワークフローを熟知しています。しかし市場には、DAW中心の制作環境、現代のワークフローに則したオーディオ・インターフェースは、正直見当たりませんでした。そういうこともあってスタートしたのが、「AudioFuse」の開発プロジェクトだったのです。プロジェクトが立ち上がったのは2012年秋のことなので、発売までにかなり時間がかかってしまいましたけどね。

——— 実績のあるメーカーがひしめく市場に参入することに迷いはありませんでしたか?

FB まったくありませんでした。なぜなら我々には大きな強みがあるからです。我々はソフトウェア・インストゥルメントを開発する際、常にオーディオ・インターフェースを使用しているわけです。コンピューター内で生成されたサウンドが、どのようにアナログ信号に変換されるかを熟知しています。また、最近ではアナログ・シンセサイザーの開発にも積極的に取り組んでおり、そのサウンドの解析時にもオーディオ・インターフェースを使用しています。そこではアナログ回路で生成された音が、デジタル信号ではどのように変わるかということを常にテストしているのです。この2つの経験があれば、必ずやすばらしいオーディオ・インターフェースが作れるのではないかと思いました。

フォノ・イコライザーやUSBハブといったユニークな機能を搭載

——— 「AudioFuse」とはどのようなオーディオ・インターフェースなのか、あらためておしえていただけますか。

FB 「AudioFuse」は、アナログ4ch入出力/デジタル10ch入出力のオーディオ・インターフェースで、コンピューターとはUSBで接続します。アナログ入力は、前面の1〜2chがXLR/TRSフォーン兼用のコンボ端子で、背面の3〜4chはTRSフォーンとRCAピンの両方が備わっています。前面の1〜2chには『DiscretePRO』と呼んでいる高品位なマイク・プリアンプを搭載し、背面の3〜4chにはフォノ・イコライザーが備わっているため、ターンテーブルを直接繋ぐことができます。デジタル入出力はADATとコアキシャルのS/PDIFを備え、S/PDIFの方はワード・クロック入出力としても機能します。スピーカー出力とヘッドフォン出力はそれぞれ2系統搭載し、スピーカー切り替えスイッチやトークバック機能なども備えているので、別にモニター・コントローラーを用意する必要はありません。もちろん、MIDI入出力も装備しています。

Arturia - AudioFuse

「AudioFuse」を見下ろしたところ。2系統のスピーカー出力、2系統のヘッドフォン出力、トークバック(マイク内蔵)、ディマーといったモニター・コントロール機能を搭載している

Arturia - AudioFuse

「AudioFuse」のリア・パネル。左下にはUSB端子を3つ備えているため、別途ハブを用意しなくてもiLokやUSBコントローラーなどを接続することができる

——— 「AudioFuse」が他のオーディオ・インターフェースよりも優れている点をおしえてください。どのあたりが現代のワークフローにマッチしているのでしょうか?

FB まずは操作性です。パネルにはマイク・プリアンプやスピーカー出力、トークバックなどをコントロールするためのスイッチやノブが多数備わっていますが、いずれも機能が固定されており、ソフト・キーではありません。これにより、各パラメーターを迷うことなく操作することができるのです。2系統のヘッドフォン出力のボリューム・ノブも、ディマー・スイッチも、トークバック・スイッチも、すべてが表に出て固定されています。これは「AudioFuse」の大きな特徴です。

また「AudioFuse」は、完全にマルチ・プラットホームのオーディオ・インターフェースとしてデザインされています。Mac/Windowsだけでなく、iPhone/iPad、Androidデバイス、さらにはLinuxに至るまで、あらゆる機器と超高速ドライバーによって接続することができます。ドライバーは非常に安定しており、入出力のレーテンシーはわずか3msです。自宅ではWindowsマシン、外のスタジオではMac、スマートフォンはAndroidという人でも、「AudioFuse」があればどの環境でも同じ音質で作業することができます。

そして音楽制作を行っている人には嬉しい機能が多数備わっています。先ほどご紹介したフォノ・イコライザーもそうですし、スピーカー出力のBアウトをリアンプ用に使うこともできます。入力段にはアウトボードなどを接続することができるインサーション端子が備わり、コンピューターを接続する端子とは別に、iLokなどを接続できるUSB端子が3つ備わっています。いずれも自宅スタジオで音楽制作をしている人には嬉しい機能なのではないでしょうか。

Arturia - AudioFuse

フォノ・イコライザーが内蔵されているため、ターンテーブルをダイレクトに接続することが可能

——— こうやって実機を前に説明していただくと、かなり考えられた仕様/デザインになっているなと感心します。

FB 「AudioFuse」は、闇雲にスペックを追求したオーディオ・インターフェースではありません。そういったオーディオ・インターフェースは、カタログ・スペックでは良く見えても、実際には使いにくかったり不安定だったりするものがほとんどです。我々が「AudioFuse」で目指したのは、クリエイティビティの足かせとなっているものを取り除き、使い手のワークフローを加速するオーディオ・インターフェースです。アイディアやインスピレーションを新鮮なうちに形にできるオーディオ・インターフェース、それが「AudioFuse」なのです。

——— 音質面でのこだわりをおしえてください。

FB 「AudioFuse」に搭載しているマイク・プリアンプ『DiscretePRO』は、Neveのコンソールなどと同じディスクリート回路で、業務用コンソールに匹敵するサウンドを実現しています。また、AD/DAコンバーター回路もゼロから開発したもので、詳しいことは秘密ですが他社のオーディオ・インターフェースとは一線を画す回路構成になっています。コンバーター・チップには、Apogeeなどが採用しているAKM製の最も良いものを採用しました。DSPを使って良い音にするのではなく、我々は今回、“普通に使って普通に良い音”を目指したのです。  そしてこれも重要なことですが、ブレークアウト・ケーブルを使わないと通常の接続ができないような製品にはしたくありませんでした。他のメーカーは当たり前のようにブレークアウト・ケーブルを採用していますが、こういったものを通すだけでも確実に音は劣化します。そういった無駄な要素は極力排除し、できるだけシンプルな製品にしたいと考えました。

——— DSPの話が出ましたが、SHARCなどを搭載するアイディアは最初からありませんでしたか?

FB 技術的には難しくありませんし、実際そういうアイディアもありました。しかしお客様が必要としているのは、そういったDSP機能ではなく、使い勝手の良いオーディオ・インターフェースだと思ったのです。使い勝手を良くするには、できるだけシンプルであるべきで、DSP機能などは不要というのが我々の考えです。

Arturia - AudioFuse

——— オーディオ・インターフェースとしては珍しい3色展開で、筐体デザインも非常にユニークです。デザイン面でのコンセプトをおしえてください。

FB デザイナーには、一目見て印象に残る外観で、機動性に優れ、ライフ・スタイルを提案するようなデザインにしてほしいということを伝えました。あとはアナログ機器のような温かみを感じられるデザインということも伝えましたね。そういった我々からのリクエストを元に、デザイナーが複数の案を作り、さらにディスカッションを重ねて完成したのがこのデザインなのです。正方形の筐体といい、かなり個性的なデザインになったのではないかと思います。

——— Arturiaのハードウェア製品の多くは、あのアクセル・ハートマンがデザインを手がけていますが、この「AudioFuse」も彼の仕事ですか?

FB いいえ。「AudioFuse」はアクセルではなく、パリに住んでいる別のデザイナーに依頼しました。

——— 操作面を隠せるハードトップ・カバーが付いているのがおもしろいですね。

FB ハードトップ・カバーに関しては、機動性を考えて付けることにしました。ハードトップ・カバーを装着すれば、そのままバックに入れて持ち運ぶことができますからね。それにお客様に話を訊くと、作業中はオーディオ・インターフェースにはほとんど触らないという人も意外と多いのです。そういう人はハードトップ・カバーを付けて使用すれば、ホコリが入るのも防げますし、見た目もスマートでいいと思います。上に本やフィギュアを置くこともできますからね(笑)。

Arturia - AudioFuse

ハードトップ・カバー(蓋)が付属するのは「AudioFuse」の大きな特徴

Arturia - AudioFuse

カラー・バリエーションが3色用意されている「AudioFuse」。左から「クラシック・シルバー」、「スペース・グレイ」、「ディープ・ブラック」

——— 開発プロジェクトがスタートしたのは2012年秋とのことですが、何に時間がかかったのでしょうか。

FB 我々にとって初めてのオーディオ・インターフェースということもあり、パーツの選定、回路設計、デザイン、テスト、すべてに十分な時間をかけました。その結果、かなり完成度の高い製品に仕上がったと大変満足しています。

——— 最後に、この記事を読んでいる人にメッセージをお願いいたします。

FB 「AudioFuse」と他社のオーディオ・インターフェースの一番の違いは、ユーザー体験だと思っています。「AudioFuse」は、オーディオ・インターフェースではあるのですが、コンピューターに音を入力して出力するためだけの製品ではありません。制作環境の中心となってスムーズなワークフローを実現する、まったく新しいオーディオ・インターフェースなのです。そしてそれは、多くの人たちにとって新しい体験なのではないかと思います。我々がこだわった筐体の質感を含め、ぜひ一度実物をチェックしていただければ幸いです。

Arturia - AudioFuse

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