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Production Story #8:TORIENA『FAKEBIT』 〜 大注目のチップチューン・ガールが、DAWやソフト・シンセを駆使した初のボーカル・アルバムをリリース! 〜

あの『Chip Brain Girl』から約2年。世界が注目するチップチューン・ガール、TORIENAが待望のボーカル・アルバムをドロップ! 『FAKEBIT』という意味深なタイトルが付けられたこの作品は、SoundCloudで好評だった『ストレイシープ・ストレイシープ』をはじめ、m7kenjiとのコラボ・ビデオが話題の『Kandi Pixel Z』や『Chip Brain Girl』の最新バージョンなど、ポップでカラフルなトラックを計7曲収録。これまでゲームボーイとLSDjだけでトラックメイクを行ってきたTORIENAですが、今作ではSteinberg Cubaseとソフト・シンセも全面的に使用され、チップチューンの枠を超えた“最新のTORIENAサウンド”が堪能できる1枚となっています。さらには今回、アルバム・リリースに合わせて、SPINNSとヴィレッジヴァンガードという2大ショップとのコラボ企画もスタートするとのことで、音楽以外の分野からもこれまで以上に注目を集めそうなTORIENA。そんな勢いにのる彼女に、初のボーカル・アルバム『FAKEBIT』のプロダクションについて、じっくり話を伺ってみました。

TORIENA - FAKEBIT

LSDjだけで作った音楽はわかりづらいですし、DAWやシンセも使ってポップに、自分だけのスタイルを確立していきたい

——— 2013年暮れに発表された初のボーカル曲『Chip Brain Girl』から約2年、待望のボーカル・アルバム『FAKEBIT』がようやくリリースされます。まずはこのタイミングで初のボーカル・アルバムを作ろうと思った理由からおしえてください。

TORIENA ボーカル・アルバムに関してはずっとタイミングを見計らっていたんですけど、わたしとSPINNSさん、ヴィレッジヴァンガードさんの3組でコラボをすることになって。ビデオも作ることになったので、それだったら今がボーカル・アルバムを出すベスト・タイミングなんじゃないかなと思ったんです。というのも、前作『A.I Complex』ではm7kenjiさんとビデオを作ったりして、あのアルバムで自分の中で作品を発表するということの基準が上がってしまったんですよね。あれくらいのクオリティで、なおかつタイミングも良くなければ出しちゃダメだなって。曲のストックは日に日に増えているんですが、単に曲が貯まったからアルバムとして出すということはしたくないなと。

——— 今回、SPINNSとヴィレッジヴァンガードとコラボレーションすることになったのは?

TORIENA SPINNSさんとは前からいろいろ一緒にやっていたんですけど、ヴィレッジヴァンガードさんもわたしやSPINNSさんとのコラボに興味があったみたいで、それだったら3組でコラボしちゃえばいいじゃんみたいな感じですね(笑)。今回、SPINNSさんと一緒に服も作ったんですよ。これまでもTシャツ用にイラストを描いたりはしていたんですが、今回は服そのものをデザインして、東京に行って素材を選んだりして。凄くファンシーな服ができあがったんですけど、とても楽しかったですね。その服はアルバムと同時発売で、ヴィレッジヴァンガードさんでも販売される予定です。

——— 昨年はオーストラリアや中国、イギリス、イタリアなど、海外のイベントにもたくさん出演されていましたが、何か自分の中での変化はありましたか?

TORIENA いろいろ思うところはありましたね。ヨーロッパに行ったときは、最初にイギリスでチップチューンのアンダーグラウンドなイベントに出演して、その後イタリアでは『Lucca Comics & Games 2015』というカルチャー系の大きなイベントに出演したんですよ。片や小さなハコでのローカル・イベント、片やメイン・ステージの観客は2万人以上という大規模なイベントで、対照的な2つのイベントを短期間に、しかも海外で経験して、いろいろ考えてしまいました。いちばん思ったのは、チップチューンという狭い世界の中だけでなく、もっと広い世界で音楽的に認められなきゃダメだなということ。それで帰国して曲を作り始めたときに、実機(ゲームボーイ)だけでなくDAWやシンセも使って、もっと自分のスタイルを追求しようと思ったんです。誰とも違う“TORIENAの音楽”を作っていこうって。

TORIENA - FAKEBIT

——— TORIENAさんは以前から、曲を作るときはチップチューンのことはあまり考えてないと言っていましたよね。使っている音源がゲームボーイというだけで、単に良い音楽を作りたいだけなんだって。

TORIENA そうですね。昔から自分がチップチューナーで、チップチューンを作っているという意識はありませんでした。たまたま手馴染みが良くて、自分のイメージを形にできるのがゲームボーイとLSDjだったというだけで。その後、実機だけでやってきたんですけど、それも別にルールだったわけではなくて、ゲームボーイ以外のものが使えなかっただけ(笑)。一応、ゲームボーイで作った曲の録音とミックス、マスタリング用にCubaseは使っていたんですけど、それで曲を作る知識は全然無かった。でも、“TORIENAの音楽”を作っていくために、ちゃんとDTMにも取り組んでみようと。DTMに関しては、大学に入った頃に少しやっていたことがあるんですが、本当に久々でした。

——— 実機オンリーはルールではなかったとのことですが、ゲームボーイとLSDjにはそれなりにこだわりがあったのではないですか?

TORIENA ルールを設ければそれが自分のアイデンティティーになるというのは違うなと思っていて。若い頃は自分の中でのルールがたくさんあったんですけど、あまりルールに縛られすぎると、逆に自由な発想ができなくなってしまうなって気づいたんです。もちろんゲームボーイは大好きなんですけど、LSDjだけで作った音楽はどうしても普通の人にはわかりづらいですし、他の道具も使ってもっとポップに、自分だけのスタイルを確立していきたいなって。

——— 最近ではイラストやデザイン、モデルなどの仕事もされていますが、音楽活動とのバランスは上手く取れていますか?

TORIENA そのときのキブンでおもしろそうだなと思うことをやっているので、バランスとかはあまり深くは考えてないですね(笑)。自分の活動のコアにあるのはもちろん音楽なんですけど、でもそれだけだと自分が表現したいことができない。ちょっと前にあるメジャー・レーベルから声をかけていただいて、デモ曲を何曲か送ったんですけど、これって何か違うんじゃないかと思ったんです。わたしの音楽は、コンセプトやアートワークとかがあって、初めて成り立つものなんじゃないかと。曲だけではわたしのイメージが全然伝わらないんじゃないかなって。そのときに、わたしは音楽をやりたいんですけど、音楽だけをやりたいんじゃないと気づいたんですよね。もっと言えば、音楽にアートワークやビデオがぶら下がっているのではなくて、全部同じ場所にあるんだなって。それはけっこう大きな気づきでしたね。

TORIENA - FAKEBIT

昔は実機原理主義だったんですが、この1〜2年でどっちでもいいんじゃないかと思い始めた

——— そもそもTORIENAさんがボーカル曲をやってみようと思ったきっかけは何だったのですか?

TORIENA 『Chip Brain Girl』を作ったとき、世間ではアイドルが流行っていたので、わたしも同じような感じで見られることがあったんですよ。若い女の子がゲームボーイでピコピコやっているだけでしょ、みたいな。何か若い女の子ってだけで舐められてるような感じがしたので(笑)、わたしは作詞も作曲も録音もマスタリングも全部できるんだぞ!というのを見せつけたかったんです。歌もアートワークも全部やれるよ!って。あと、いろんな人たちから“歌ものはやらないの?”と言われたこともきっかけでしたね。最初は“歌ものなんて絶対に嫌!”とか思ったんですけど、変なこだわりは捨てて一度やってみようかなって思ったんです。負けず嫌いなので、チャレンジしてみようかなって。

——— 『Chip Brain Girl』を発表された後、新しいボーカル曲を何曲かSoundCloudにアップされましたけど、Twitterのツイートからは歌ものに苦労している様子も伺えました。

TORIENA やっぱり難しいなって思いましたね……。インスト曲って何も考えずにダーッと作れちゃったりするんですけど、歌ものっていろいろなことを考えなきゃいけないんですよ。メロディーは自分がちゃんと歌えるキーと音域でないとダメですし、しかも歌詞をのせないといけない。曲の展開もある程度ないといけないですし、それまでは何も考えずに作っていたので、しばらく苦労しましたね。だから人の曲を聴いたりして、歌ものについてけっこう研究したんですよ。メロディーとか曲の展開とかそういうのを……。一昨年(2014年)の1年間が歌ものの研究期間で、去年(2015年)が曲を作りまくった期間でした。でも、自分のスタイルを作るにはまだまだ時間がかかりそうです。あと1年くらいは(笑)。

TORIENA - FAKEBIT

——— 初のボーカル・アルバム『FAKEBIT』のコンセプトをおしえてください。

TORIENA これまでの作品ではアルバムを通してストーリー仕立てにしていたんですけど、今回は歌詞もありますし、曲単位で自分の想いや考えていることを生々しく出したいなと思ったんです。みんなそうだと思うんですけど、20歳を過ぎるといろんなことがありますし、周囲の見方も変わってくるじゃないですか。それまでは子どもとして見られていたと思うんですけど、22歳にもなると大人として見られるようになりますし。それに自分の気持ちを前面に出したアルバムって、22歳の今を逃したらもう作れない気がしたんです。

——— アルバム全体にストーリーがあって、歌詞が繋がっているわけではないですね。

TORIENA そうですね。それをやってしまうとアニソンになっちゃうと思って(笑)。1曲1曲、独立した歌詞になっています。

——— 『FAKEBIT』というタイトルにはどんな意味が込められているんですか?

TORIENA チップチューンって実機原理主義というか、パソコンとソフト音源なんてダメでしょみたいな考えがいまだにあるんですよ。イギリスに行ったとき、現地のアーティストが実機でやっていない人のことを“Fake Bit”ってめちゃくちゃバカにして煽っていて(笑)。わたしも昔は実機原理主義だったんですが、この1〜2年で実機だろうがソフト音源だろうがどっちでもいいんじゃないかと思い始めたんです。聴いている人にとってはそんなこと関係なくて、音が良ければどっちでもいいんじゃないかなと。そんなことを考えているときに浮かんだのが『FAKEBIT』というワードで、このタイトル、人によって解釈が二通りに分かれると思うんですよね。実機でない人をDISってると感じる人もいれば、実機原理主義に対するアンチテーゼなのかなと感じる人もいる。それがおもしろいかなと思ったんです。だから今回、アルバムを通してのストーリーは無いんですけど、あえてテーマを挙げるとするなら“真偽”ですかね。偽物が本物として扱われることもあれば、逆に本物なのに評価されなかったり、世の中って難しいじゃないですか。結局、そんなことを深く考えても仕方ないんじゃないかなと。

TORIENA - FAKEBIT

ゲームボーイが中心のトラックの場合、歌はローをカットして、ピッチをガチガチにしないと浮いてしまう

——— トラックはLSDjとソフト音源で作ったんですか?

TORIENA そうです。正確に言うと、『{—}』と『ストレイシープ・ストレイシープ』、『BUG ME!』の3曲はゲームボーイだけで、『Fake bit』、『Kandi Pixel Z』、『Chip Brain Girl』の3曲はゲームボーイとソフト音源を併用しています。最後の曲『YES/NO』はゲームボーイを使っていなくて、100% DTMですね。

——— DAWはCubase Pro?

TORIENA はい。Cubase ProをiMacで使ってます。Ableton Liveにも興味があったので体験版をダウンロードしてみたんですけど、全然使い方がわからなくて(笑)。もう慣れちゃいましたし、Cubaseでいいやと。

TORIENA - FAKEBIT
TORIENA - FAKEBIT

——— ゲームボーイとLSDjで作ったトラックは、どうやってCubaseと同期させているんですか?

TORIENA 普通にオーディオ・トラックに録音しています。CubaseとLSDjのテンポを合わせれば、タイム・ストレッチしなくても大体合いますね。

——— TORIENAさんは、ずっとゲームボーイのパルス波とノイズだけで曲を作ってきたわけじゃないですか。そんなTORIENAさんがピンときたソフト音源をおしえてください。

TORIENA ソフト音源に関してはまだ全然凝ってないんですが、Native Instruments Massiveが好きですね。単純に音がいいなと思いますし、派手でハッキリした音もわたしの好み。それにゲームボーイのピコピコ音とも合う気がします。他に使ったのはCubase標準のHALion OneとGroove Agent Oneくらいですね。HALion Oneは生楽器で使いました。気になっているソフト音源はLennarDigital Sylenth1で、そろそろ買おうかなと思ってます。あとはNative Instruments FM8も欲しいですね。

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——— ドラムはどうやって打ち込んでますか?

TORIENA Groove Agent Oneに気に入った音を取り込んで鳴らしています。取り込む音はネットからダウンロードしたものですね。

——— Cubaseで曲を作る場合も、最初はゲームボーイでメロディーとかを作るんですか?

TORIENA いや、いきなりパソコンに向かいます。曲作りのやり方はその時々によって違うんですけど、いちばん多いのは最初にルート音を決めて、それに合わせてコードをのせていくというやり方。それでコード進行ができたら、歌メロを考えてとりあえず鼻歌で録ってみるんです。

——— 歌声はかなり処理をしている感じですね。

TORIENA そうですね。ゲームボーイの音が中心のトラックの場合、歌はがっつりローをカットして、ピッチもガチガチにしないと浮いてしまうんです。でも、そんな正確なピッチで歌うのは無理なので、CubaseのVariAudioを使って修正しています。

TORIENA - FAKEBIT

——— となると、ライブが難しそうですね。

TORIENA そうなんですよ。実機を鳴らして、その上に歌をのせただけでは厳しいので、最近は修正したボーカルやハモリを薄くかぶせたオケを流してやっています。地声半分、修正したボーカル半分くらいのバランスで。そうしないとボーカルが浮きまくる。ローランド AIRA VT-3を買って、それを使っていたこともあるんですけど、少し前に壊れちゃったんですよ(笑)。また買おうかなと思っているんですけど。

——— 今回の作品もミックスとマスタリングをご自身で手がけられていますけど、どんな音にしようと考えましたか?

TORIENA それぞれの音が実機なのかそうじゃないのか、わからないようにしようと思って。だから全体的にのっぺりした感じに聴こえると思うんですけど、それは意図した音なんです。ちょっと前にiZotope Ozoneを買って、いろいろ試しているんですけど、ぶっちゃけエンジニアリングに関してはまだまだですね。日々勉強中というか。

——— ミックスやマスタリングは自分でやりたい?

TORIENA いや、別にこだわりはないんですけど、わたしすごくマイ・ペースなので、誰かにお願いするとたぶん迷惑かけちゃうんじゃないかなと思うんですよね。せっかく仕上げていただいても、“やっぱりこういう感じでお願いします”とか、面倒なやり取りが5回くらいありそうな気がする(笑)。だから誰かにお願いするのは申し訳なくて。

TORIENA - FAKEBIT

ハモリではなくメインのボーカルが外側にくるようにパンニングしているんです

——— では1曲ごとに解説をお願いします。1曲目の『{—}』は、オープニングらしいインスト曲ですね。

TORIENA これは去年の『Square Sounds Tokyo 2015』の入場曲として作った曲です。いきなり歌もので始まるのもどうかなと思い、イントロ的なこの曲を入れることにしました。タイトルは自由に読んでください(笑)。

——— 次の『Fake bit』は、アルバム・タイトル曲。

TORIENA DTMでやってみようと思って作った最初の曲。この曲が言いたいことをいちばん言っているんじゃないかなと思います。

——— この曲は4分打ちで誰かのリミックスも聴いてみたいですね。今リミックスを頼むなら誰がいいですか?

TORIENA 誰がいいかな……。今だったらShirobonですかね。イギリスのチップチューンの人なんですけど、普通にDTMもできるカッコいい人。仲良いですし(笑)。

——— 3曲目の『Kandi Pixel Z』は、めちゃくちゃポップな曲ですね。先行公開されたm7kenjiさん制作のミュージック・ビデオも話題になっています。

TORIENA “Kandi”は飴ではなくアクセサリーのキャンディで、頭が悪い曲を作りたくてできた曲ですね(笑)。歌詞は、ちょっと可愛い言葉を並べて、欲張りな女の子の気持ちを歌っています。高校生のときのわたしそのまんまで、たぶん17歳くらいの子は共感してくれるんじゃないかな(笑)。トラックは、この曲がいちばん音を詰め込んでますね。途中の自分のボイスは、サンプラーを使うのではなく、切り刻んでCubaseのオーディオ・トラックで鳴らしました。サンプラーを使いこなせてないだけかもしれないですけど、オーディオ・トラックで鳴らした方が自分のタイミングに合う気がして。最後の“オイ”というボイスは、人間の声ではなくMassiveです(笑)。

——— ビデオはどんなイメージで?

TORIENA 去年の『PULSE FIGHTER』はアクション・ゲームをモチーフにした感じだったんですけど、今回は恋愛ゲームのような感じにしようと思って。『ときめきメモリアル』的な(笑)。SPINNSさんとヴィレッジヴァンガードさん、どちらも若いお客さんが多いと思うので、かわいいビデオがいいなと思ったんです。

あらすじは、冴えないALUMIちゃんという女の子が主人公なんですけど、街で見かけたSPINNS/VANGUARDというお店の世界観に一目惚れして、そこの店員になるんです。で、人気のカリスマ店員になるんですけど、同じバイトのMETEORくんに助けてもらったことをきっかけに一目惚れしてしまって。そこからALUMIちゃんのモーレツなアタックが始まるんですが、実は二人とも宇宙からやって来た宇宙人で、しかも違う種族なんです。宇宙では異種間の恋愛は禁止で、それを破ると宇宙警察に捕まってしまう。だから二人とも家族に怒られるんですけど、ALUMIちゃんはそんなことお構いなしにアタックを続けて…… 続きはビデオをご覧ください(笑)。

——— 今回も最初にストーリーやキャラクター・デザインをm7kenjiさんに伝えて?

TORIENA そうですね。でも今回は、敵キャラやボス・キャラなどのデザインはm7kenjiさんに手がけてもらいました。このビデオに関しては、SPINNSさんとヴィレッジヴァンガードさんから『PULSE FIGHTER』のような映像作品を作ってほしいというリクエストがあったので、今回もm7kenjiさんにお願いしたんですけど、わたしももう1曲くらい一緒にやりたいと思っていたのでちょうど良かったですね。

——— 4曲目の『ストレイシープ・ストレイシープ』は、SoundCloudで先行公開されていた曲ですね。この曲とか、ボーカルはどういう処理をしているんですか?

TORIENA ハモリをステレオにパラって、Cubaseのパンの値で60くらいに広げているんですけど、メインのボーカルはさらに外側に広げているんです。ハモリよりもメインのボーカルの方が外側にある感じというか。そしてセンターには、メインのボーカルを1オクターブ下げた男声のようなトラックを置いています。ハモリとメイン・ボーカルは、左右でタイミングを変えて、ピッチも少しずらしていますね。ピッチ・シフトにはCubase標準のPitch Correctを使っているんですけど、ほんの少しずらしただけでも不思議な感じになります。この曲はちょっと極端なんですが、ボーカルは大体こんな感じで処理していますね。

——— 次は記念すべき最初のボーカル曲、『Chip Brain Girl』。

TORIENA アルバムに入れるにあたって、少しテンポを落としました。EQとかでかなり処理したので違う感じに聴こえるかもしれませんが、新たに打ち込み直したわけではなく、オリジナル・トラックをテンポを落として鳴らしています。その次の『BUG ME!』もSoundCloudで既に発表していた曲ですね。やっぱり1曲くらいはインスト曲を入れておこうかなって。

——— 先ほどおっしゃっていましたが、最後の『YES/NO』はゲームボーイを使ってないんですよね。

TORIENA そうです。今っぽい曲にしたくてベースから考えました。DTMだけの曲を1曲入れようとか考えていたわけではなく、ゲームボーイを使わなかったのは何となくです。

——— “わたしとゲームボーイは相思相愛”と言っていたTORIENAさんですが、今はそこまででもなくなった?

TORIENA 今でも大好きですし、ゲームボーイに対する想いは変わらないです。でも、付き合い始めて長いので、ちょうどよい距離感が保てるようになったのかな……。恋愛と同じですね(笑)。

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これからはゲームから派生した音楽としてではなく、ストリート・ミュージックとしてのチップチューンを広めていきたい

——— 昨年リリースされた、きゅんくんをフィーチャーしたツイン・ボーカル曲『MEME NOISE』を収録しなかったのは?

TORIENA ボーカル曲なので収録してもよかったんですけど、EPとしてリリースしてしまいましたし、半年でまたCDにするのは間隔が短すぎるかなと。次のアルバムに入れようかなと考えています。

——— 最近のライブではオケを鳴らしているとのことですが、どんなソフトを使っているんですか?

TORIENA Native Instruments Traktorでやっています。Cubaseをライブで使うのも興味はあるんですけど、今持っているノート・パソコンのスペックが全然足りないんですよ。

——— 前作同様、今回もCDオンリーのリリースですね。パッケージにはこだわりがある?

TORIENA わたし自身、ショップでCDを買って帰って、ワクワクしながらセロハンを剥がして、歌詞を見ながら聴くという行為が大好きですし。ダウンロードでもいいんですけど、簡単に手に入るものってすぐに飽きられてしまう気がして……。やっぱり形にするのって大事かなと。

——— ジャケット写真はどんなイメージなんですか?

TORIENA この写真は元のイラストがあるんですけど、アンチ・マスメディア精神でブラウン管をバットで殴ってます。実際は本当に壊しているわけではなくて、殴っているフリなんですけど(笑)。大人たちの思惑には踊らされないぞというのがテーマですね。これは前からあったアイディアで、ようやく実現することができました。

TORIENA - FAKEBIT

——— ボーカル・アルバムを1枚リリースして、今後はどのような音楽をやっていきたいと考えていますか?

TORIENA 今考えているのは、ゲームから派生した音楽としてではなく、ストリート・ミュージックとしてのチップチューンを日本でももっと広めていきたいなということ。チップチューンというと、ファミコンや昔のゲームをイメージしてしまいがちですが、そういうノスタルジックな感じではなく、レトロな手法を使って最先端のおもしろいことをやっていきたいですね。あとは“チップチューンの女の子”ではなく、唯一無二の自分だけのスタイルを確立していきたい。今回はDTMに取り組んでみたんですが、近々古いATARI 1040STを手に入れるので、そんなものも使ってみたり。いろんなことにチャレンジしていきたいと思っています。そうそう、2月におもしろいことを企画しているので、ぜひ楽しみにしてください!

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