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Production Story #1:テレビ・ドラマ『アオイホノオ』〜 ローランド MC-4によって作り出された“昭和劇伴”のグルーヴ 〜 瀬川英史氏インタビュー

今年7〜9月、テレビ東京系列で放送されたドラマ『アオイホノオ』(現在、BSジャパンで日曜深夜0時に放送中)。マンガ家・島本和彦の自伝的作品を、『勇者ヨシヒコ』シリーズなどで注目を集める奇才・福田雄一監督が映像化したということで、本放送時はかなり話題になりました。1980年代初頭の大阪芸術大学を舞台に、マンガ家やアニメーター、映像作家を目指す若者たちの青春がコメディー・タッチで描かれ、当時のマンガやアニメをはじめ、庵野秀明や岡田斗司夫といった後のビッグ・ネームが実名で登場するのもおもしろさを引き立てている『アオイホノオ』。見逃してしまった方はぜひBlu-ray/DVDをチェックしてみてください

そしてこのドラマ版『アオイホノオ』の音楽を担当したのが、作曲家の瀬川英史氏です。『勇者ヨシヒコ』シリーズをはじめ、福田雄一監督の最近のドラマ作品の音楽をほとんど手がけている瀬川氏は今回、1980年代の劇伴の雰囲気を出すため、Sequential Circuits Prophet-5やローランド TR-808といったヴィンテージ機材を多用。さらにはシーケンサーもローランド MC-4を使い、“昭和劇伴”のグルーヴを演出したとのことです。そのプロダクションについて、アメリカ・ロサンゼルスにある瀬川氏のプライベート・スタジオにおじゃましてお話をうかがってみました。

Aoihonoo - Eishi Segawa

©島本和彦・小学館/「アオイホノオ」製作委員会

70年代〜80年代初頭の劇伴は、一発録りというのがポイント
そして短時間ですべて一発録りしなければならないので、キーが簡単

——— 『アオイホノオ』、かなり楽しませてもらいました。瀬川さんの音楽もすばらしかったです。

瀬川 おもしろかったよね。毎回、何度も見直してゲラゲラ笑ってたよ(笑)。キャスティングもよかったしね。

——— モユル役の柳楽優弥さんをはじめ、とんこ役の山本美月さんもバッチリハマってましたよね。個人的には佐藤二朗さんが演じたMADホーリィがツボでした。

瀬川 二朗さん、最高だったよね(笑)。美月ちゃんもよかったし、ヤスケン(註:庵野ヒデアキ役の安田顕さん)も最高だったなぁ。

——— MADホーリィを見て思ったんですけど、福田雄一監督って、演技のディレクションを細かくされる方なんですか?

瀬川 メイキングなんかを見て、けっこう野放しでやらせてると思っている人が多いんだけど、福田監督はけっこう細かくディレクションする人だね。『勇者ヨシヒコ』シリーズのムロくん(註:メレブ役のムロツヨシさん)の演技も、ほとんど台本どおり。福田監督の作品って、さもアドリブのように感じるんだけど、実は台本どおりで監督の細かいディレクションが入っているんだよね。

——— では今回、音楽に関しても細かい注文があったのですか?

瀬川 いや、音楽に関してはお任せ(笑)。もうちょっとこんな音楽が欲しいという追加のリクエストはあるんだけど、つくったものに対してダメ出しされることはないかな。

Aoihonoo - Eishi Segawa

瀬川英史(せがわ・えいし)。1986年、CM音楽の作曲家として活動を開始し、現在までに2,500本以上のCM音楽を手がける。近年は劇伴作曲家としても活躍。最近の作品は、テレビ・ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズ、『最高の離婚』、『コドモ警察』、映画『女子ーズ』、『薔薇色のブー子』など

——— 作曲に入ったのは?

瀬川 こっち(註:アメリカ・ロサンゼルス)に来てからだから、6月くらいから。

——— 7月スタートのドラマで6月から作曲ですか?

瀬川 そう。でも最近はそんなスケジュールだよ。テレビ放送は7月19日からだったんだけど、第一話を急遽ネットで先行配信することになり、7月のドアタマには音楽が必要ということになって、ちょっと焦ったけど(笑)。

——— では作曲時にはそんなに映像はできてないですよね。

瀬川 そうだね。こっちに来る前に1度撮影を見学に行って、その後に15分くらいのダイジェストを見せてもらったくらい。でも原作は全部読んだし、全然問題なかった。

——— 80年代初頭の大阪を舞台にしたドラマですが、作曲するにあたってどのようなことを考えられましたか?

瀬川 1980年から1981年のドラマということで、最初は全編ニューロマでいこうと考えたんだよね(笑)。ウルトラヴォックスとか、ゲイリー・ニューマンとか、そんなイメージで…… ゲイリー・ニューマンはニューロマじゃないけど(笑)。

でも、その後いろいろ調べてみたら、日本の80年代初頭は音楽的にはまだまだ70年代で。特に1980年という年は完全に70年代で、歌謡曲でも打ち込みなんか全然使われてなかったので、その時代のドラマにニューロマをあてるのは違うなと。もっとベタな70年代ドラマの劇伴をあててやらないと、映像に合わないなと思ったんだよね。

——— 70年代のドラマの劇伴というのが、今回のコンセプトと。

瀬川 そうだね。中村雅俊さんのドラマとか、あのへんの感じ。

——— 『ゆうひが丘の総理大臣』とか。

瀬川 そうそう。当時の劇伴って音楽的には説明しにくいんだけど、一発録りというのがポイントなんだよね。短時間ですべて一発録りしなければならないので、ミュージシャンに負担をかけてもいけないでしょ。だからキーが簡単なの(笑)。最近の劇伴だと、少しキーをずらしたりするんだけど、当時のドラマは見事にAマイナーの曲ばかりだったり(笑)。あとはDメジャーとかCメジャーとか。キーはなるべく簡単にして、次々に曲を録音するというアレンジになっているんだよね。

——— 当時の劇伴って、フレーズやアレンジ的には暑苦しい感じがありますよね。

瀬川 やけに大げさだしね(笑)。コメディにしても、そこまでやるかというくらいドタバタだったり。最近はそんな曲書くことないよ(笑)。

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©島本和彦・小学館/「アオイホノオ」製作委員会

——— 当時の雰囲気を醸し出す上で、音色面で意識したことは?

瀬川 やっぱり本物の機材を使った方がいいんじゃないかと。とは言っても今回使ったのは、Sequential Circuits Prophet-5とローランド TR-808くらいなんだけど。でも最近の劇伴でここまでヴィンテージ機材を使ったというのはないね。何より手間がかかるし(笑)。たとえ使ったとしても、最初はソフト・シンセで作って、それでOKが出たらヴィンテージ機材に差し替えるという感じなんだけど、今回は曲を作り始めた段階から当時の“匂い”が欲しいなと思ったので、最初から使ったね。

——— TR-808は1980年発売なので使用OKだったんですね。

瀬川 そう。TR-808はOKだけど、TR-909はNG(笑)。でもリズム・パターンくらいでしか使わなかったけどね。このTR-808は、今回使いたいなと思って探したんだけど、ちょうどSUIくんが手放すということで安く譲ってもらった。SUIくん、ありがとう(笑)。

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SUI氏に譲ってもらったというコンディションの良いローランド TR-808

——— ギターも70年代風でいい感じですね。今回も全部瀬川さんが弾かれているんですか?

瀬川 うん。今回活躍したのが、懐かしのRockman。何かRockmanを使いたいなと思ってCraigslist(註:アメリカ西海岸でポピュラーなコミュニティ・サイト)をチェックしてみたら、ちょうど売りに出ていて。Rockman、すごくイイんだけど、結局“あの音”しか出ないんだよね(笑)。普段ギター用に使っているプロセッサーは、Native Instruments Guitar RigかAvid Eleven。Guitar Rigはレーテンシーが大きいので、Elevenで録ってから後でGuitar Rigに差し替える感じかな。

今回使ったギターは、歪んだ音に関しては、こっちで手に入れた赤いPRS。中古で手に入れたんだけど、なんでもマドンナのギタリストがワールド・ツアーで使っていたものらしく、すっごく鳴ってくれるんだよね。

——— 今回は何曲書かれたんですか?

瀬川 サントラに入っているのが全部だから27曲。最近の劇伴としては少なめだね。普通は35〜36曲くらいは書くから。

——— 『それはいいが、「なんとなくクリスマス」は待て』とか『とんこさんに励ましてもらいたい、、、』とか、タイトルがおもしろいですね。

瀬川 劇伴って曲のタイトルを付けるのが面倒なんだよ(笑)。後からカッコいい英語のタイトルを付けても、それがどの曲なのか自分でもわからなくなってしまうので、分かりやすくそのまんまのタイトルを付けた感じ。最近の福田作品のサントラは、台詞をもらってタイトルを付けることが多いね。

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『アオイホノオ』オリジナル・サウンドトラック

シーケンサーとしてローランド MC-4を使用したのは
MIDIよりもCV/Gateの方が正確なタイミングに感じられるから

——— 今回、シーケンサーとしてローランド MC-4を使用されたそうですね。

瀬川 当時の雰囲気を出すなら、シーケンサーも当時のものを使わなきゃダメだろうということで。MIDIで音楽制作をスタートした人は感じないかもしれないけど、ぼくにとってはMIDIよりもCV/Gateの方が正確なタイミングに感じられるんだよね。ぼくがこの世界に入ったときは、細野(晴臣)さんも鷺巣(詩郎)さんもまだMC-4を使っていたから、そのときの感覚が体に残っているんだよ。

——— 言われてみれば、電圧で音源を制御するCV/Gateの方がMIDIよりもダイレクトな感じがしますね。

瀬川 実際に鳴らしてみるとわかるけど、すごくキッチリしている。8分のシンセ・ベースとかね。

——— ヒップホップの人たちが独特なノリを求めてSP-1200やMPCを使うのとは逆の発想ですね。よりタイトな発音を求めて、CV/Gateのシーケンサーを使用したと。

瀬川 そうそう。まぁ、完全に自己満足の世界だとは思うけど(笑)。でも本当に違うんだよ……。ブラインド・テストされたら自信はないけど(笑)。

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当時のノリを再現するため使用されたローランド MC-4

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MC-4で鳴らす音源として使用されたSequential Circuits Prophet-5

——— このMC-4、やけにコンディション良いですけど、どうやって調達されたんですか?

瀬川 ヤフオク(笑)。ヤフオクでMC-4を手に入れる前、とりあえず使い方を思い出さなきゃと思って松武(秀樹)さんのところに行ったんだよね。そうしたら松武さん、“MC-4無いんだったら貸してあげるよ”と言ってくれたんだけど、よく見たら“坂本龍一 未来派野郎”とか貼ってあって…… ステッカーではなくテプラが(笑)。そんなの見ちゃったら怖くて借りれっこないじゃん(笑)。そんな歴史的楽器を壊しちゃったらヤバいでしょ。それでどうしようと思っていたら、ちょうどコンディションの良いMC-4がヤフオクに出品されていて、これはもうCV/Gateでやれということだなと。

——— MC-4では何の楽器を鳴らしたんですか?

瀬川 結局、Prophet-5だけ。主にシンセ・ベースで使った。

——— 最初にPro ToolsのMIDIトラックでフレーズをつくってから、MC-4を打ち込むという流れですか?

瀬川 いや、Pro Toolsは使わずに簡単な譜面を書いて。譜面があった方がMC-4の打ち込みは速いんだよね。

——— MC-4の打ち込みは問題なく?

瀬川 松武さんのところでレクチャーを受けているうちに、手が使い方を思い出したんだよね。だからカチャカチャすぐに打ち込めるようになった。最初、タイム・ベースの設定に躓いたりしたけど。

でも、やっぱり大変だったよ。昔は作曲家とマニピュレーターが別々だったから、みんな文句を言わずにできていたんだと思う。一人でやると、ものすごくイライラするよ。自分の曲なんだけど、“もうちょっと簡単なフレーズにしろよ〜”とか(笑)。だから実際、簡単なフレーズでしかMC-4は使ってないんだけど(笑)。そもそもそんなに長いフレーズは打ち込めないしね。

——— Prophet-5の音を録音するときは、Pro ToolsとMC-4は同期させたんですか?

瀬川 うん。Future Retro Swynxを使って。Future Retro Swynxは、ICONに載っていたNoisebugで買ったよ。いざ行ってみたらすごく遠かった(笑)。

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Future Retroのシンクロナイザー、Swynx

——— MC-4のデータはセーブしてあるんですか?

瀬川 いや、しなかった。昔のカセットの代わりにPro Toolsを使えばセーブできることはわかっていたんだけど、今回はいいかなって。

——— シンセ・ベースでProphet-5を使用したのは?

瀬川 Prophet-5しか無かったから(笑)。シンセ・ベースとして、そんなに好きなわけではないんだけどね。Prophet-5って、デチューンさせたときは音の厚みがあるんだけど、Minimoogのようなモノで鳴らしたときの音の太さは無いんだよ。パッドには使いやすくて、中域はすごくファットなんだけど、シンセ・ベースとしてはMinimoogに負ける。でも、悪くはないよ。

ちなみに最近はMoog Minitaurを混ぜることが多いね。今回は使ってないけど、あのシンセは純正のソフトウェア・エディターを使うと、より細かいパラメーターをエディットできるのがいいんだよね。グライドのタイミングとか、オシレーターのユニゾンにズラし具合とか。

——— Prophet-5の他にはどのような音源を使用しましたか?

瀬川 いつも使っているものばかりだね。ドラムはXLN Audio Addictive DrumsとToontrack EZdrummerで、ピアノはModartt Pianoteqのヤマハ CP80。やっぱり当時のあの音を出すのであればCP80だろうなって。みんな本当にあの音が良いと思って使っていたのかはわからないけど(笑)。そして今回、ストリングスはNative Instruments Session Strings Proを使った。いつもは他のライブラリーを使うんだけど、Session Strings Proはフォール・ダウンがあるのがいいんだよね。ディスコ・ソングでよく出てくる“ヒュンヒュン”というフレーズができる。あとはグライドも。だからモータウンっぽい曲をやるときは、Vienna Symphonic LibraryよりもSession Strings Proの方が全然いいんだ。

あとはいつものローランド JP-8000もリードとかで使ったね。もしかしたらMoogっぽいシンセ・ベースはJP-8000かもしれない。Moogっぽいシンセ・ベースなら、Prophet-5よりもJP-8000の方が合うから。

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特注ラックの上にマウントされた瀬川氏お気に入りのローランド JP-8080。スタジオには鍵盤内蔵のJP-8000も置かれている。手前に見えるのは、Grace Designのモニター・コントローラー、m905

——— 瀬川さんって昔からJP-8000/JP-8080を愛用していますよね。この新しいスタジオでも、特注ラックの上にJP-8080専用のスペースが確保してありますし……。改めてこのシンセの魅力というと?

瀬川 サウンド面で言えば、ソフト・シンセよりも良い意味で曖昧なところがいいんだ。ソフト・シンセって何回弾いても同じ音しか出ないじゃない? その再現性の高さがソフト・シンセの良さなんだけど、JP-8000ってデジタルなのに音色が変化するというか曖昧なんだよね。あとはパッドが、最近のソフト・シンセといい感じで混ざってくれるところもいい。パッド単体で聴く分には、Prophet-5とかの方が良い音だったりするんだけど、音色が立ち過ぎちゃってソフト・シンセと上手く混ざってくれないんだよね。これはProphet-5に限らず、アナログ・シンセサイザー全般に言えることなんだけど。だからNHKのドキュメンタリーとかで、鳴っているのか無音なのかわからないようなアンビエントを作るには、JP-8000ってものすごくいいんだ。それにツマミがあるから、それでオートメーションも書けるし。

——— あんまり評価されてないですよね。

瀬川 そうだよね。中古屋で3万円くらいで売ってるしね。でも、海外の雑誌とかで歴代のベスト・シンセサイザーみたいな特集があると、必ず上位に入ってるよ。EDMの人たちの間でもJP-8000のSuperSAWはすごく人気があるみたいだし。それに何より簡単なのがいいんだよ。こっちの人は複雑なのを嫌うから、INTEGRA-7とか全然人気ないもん。みんな人と同じ音色を使いたくないし、とにかく音作りがしたいので、ああいうプリセットを掘っていくタイプの音源は人気ないんだよね。

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シーケンス用、音源用として2台、レコーディング/ミックス用
計4台のMac Proを使用

——— DAWはAvid Pro Toolsですが、現在のシステム構成をおしえてください。

瀬川 黒いMac Proを2台、シーケンス用とレコーディング/ミックス用に分けて使っていて、あとは音源用に古いMac Proが2台あるから、コンピューターは計4台使っていることになるね。全部黒いMac Proにしてしまってもいいんだけど、新しいのはメモリが64GBしか積めないというのがネックなんだよ……。古いMac Proは16GBのメモリを6枚、計96GBまで拡張できるから、音源用の2台はめいっぱい拡張して使っている。音源用Mac Proのストレージは512GBのSSDが2基で、SonnetのSATAカード経由で繋いでるね。

Pro Toolsは、シーケンス用がThunderbolt接続のHD Nativeで、インターフェースはHD Omni。レコーディング用/ミックス用はHDXシステムで、HDXカードはSonnetの拡張シャーシにUniversal Audio UAD-2 OCTOと一緒に挿してある。こっちのインターフェースはHD MADIとHD I/Oで、最後はHD I/OのAES/EBU出力をGrace Design m905に入れてモニターしているね。

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瀬川英史氏のプライベート・スタジオ。アメリカ・ロサンゼルスの閑静な住宅地にある

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プライベート・スタジオの近くから運河が望める。温暖な気候は創作活動には最高の場所だろう

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Doepferのマスター・キーボードが収納された特注のウッド・デスク。モニター・ディスプレイは2面で、計4台のMac Proの画面が自由に表示できるようになっている。モニター・スピーカーはPelonis Sound Model 42 MK2で、Avid Artist Controlも置かれている

——— 音源用の2台のMac Proの接続はどうなっているのですか?

瀬川 シーケンス用Mac ProとEthernetで繋いで、MIDI Over Ethernetでコントロールしている。ソフト・シンセはすべてVienna Ensemble Proに立ち上げてね。オーディオ出力はどちらもRME HDSPe MADIで、それをレコーディング/ミックス用Pro ToolsのHD MADIにMADIで繋いでいる。

——— シーケンス用Pro Toolsとレコーディング/ミックス用Pro Toolsは、どうやって同期させているのですか?

瀬川 Satellite Link。接続はシンプルだけど、精度はすっごくいい。一時期、別のシーケンサーはどうだろうと思ってSteinberg Cubaseとかを試してみたこともあるんだけど、Satellite Linkのことを考えると他のDAWにいけないね。

——— シーケンス用とレコーディング/ミックス用の黒いMac Proのスペックは?

瀬川 どちらもCPUは12コアで、メモリは最大の64GB、ストレージは1GBのSSDだからBTOの最高スペック。

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デスクの右側に鎮座する2台の新型Mac Pro。1台はシーケンス用(Pro Tools|HD Native)、1台はレコーディング/ミックス用(Pro Tools|HDX)で、どちらもCPUは12コア/64GB RAM/1GB SSDというBTOの最高スペックだ

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デスク右側に設置されたラック。上からデジタル・リバーブのBricasti Design M7(HD I/Oとアナログ接続)、マスター・クロックのAntelope Audio Isochrone Trinity、Avid Sync HD、同 HD MADI、同 HD Omni、同 HD I/O、Grace Design m905、SonnetのThunderbolt拡張シャーシEcho Express III-R。左奥には音源用の2台のMac Proが置かれている。右側に見える鍵盤は、最近手に入れたというコルグ Mono/Poly

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作曲時は大抵、左側のモニターにはシーケンス用のPro Tools software(Pro Tools|HD Native)、右側のモニターにはレコーディング/ミックス用のPro Tools software(Pro Tools|HDX)が表示される

——— そんなハイ・スペックなコンピューターでも、シーケンス用、音源用、レコーディング/ミックス用と分ける必要がありますか?

瀬川 処理能力もそうなんだけど、コンピューターを複数台使っているのはバウンスしたくないからなんだよね。曲を書き終わったら、レコーディング用のPro Toolsに録音して、セッション・ファイルをエンジニアさんに渡したら終わり。これでもレコーディング用のPro Toolsの入力が十分ではないので、2回か3回まわさなければならないんだけど。このシステムってこっちの作家の間ではスタンダードで、人によってMac Proの台数が違うくらい。中には10台くらい使ってる人もいるし(笑)。僕も最後のレコーディングを1回で済ませたいと考えていて、もう1台Mac Proを増やそうかなと思ってる。でも、Pro ToolsのHD MADIって、HDXカードのDigiLink Mini端子を2基とも使ってしまうんだよね。だからHD MADIを増設するには、HDXカードも増やさなければならなくて…… Pro Toolsって入出力を増やそうと思うとすっごくお金がかかるんだよ(笑)。

——— バウンスせずにリアルタイムにレコーディングしているというのは?

瀬川 自分が聴いている音をそのまま録音するわけだから、そっちの方が安心感があるよね。音質的に信頼できるというか。日本でもよく理解していない人が多いんだけど、オフライン・バウンスのときって当然外部のマスター・クロックは外れるんだよ。たまに高価なマスター・クロックを導入しているのに、最後はオフライン・バウンスしちゃっている現場を見かけるけど、それだとせっかくのクロックの意味がない。“このクロック・ジェネレーターを導入して音が良くなりました”とか言いながら、最後はオフライン・バウンスしちゃうのっておかしいよ(笑)。

——— ハードウェア・シンセサイザーはどうやってPro Toolsに録音しているんですか?

瀬川 今はHD Omniから録ってる。Mackieの1402-VLZ3のマイク・プリアンプを通すときもあるね。Mackieのミキサーを通すことでS/Nが気になるときもあるんだけど、音はなかなか良くて、こっちでは使っている人が多いみたい。ADコンバーターに関しては良いのないかなといろいろチェックしているんだけど、最近はPro Tools純正のインターフェースで落ち着いちゃってるね。

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メイン・デスクの左側にはサブ・デスクが設置され、ここにはレコーディング用のMackie 1402-VLZ3とともに、Arturia MicroBrute、Dave Smith Instruments Tetra、Moog Minitaurといった小型シンセが置かれている。左端に見えるのはKenton USB-Solo

最後はAmpexの6mmレコーダーに落としてからマスタリング

——— ミックスは日本でやられたようですが、データのやり取りはどうやって?

瀬川 普通にサーバーにアップして。でもアメリカってインターネットがめちゃくちゃ遅いんだよ。そういう業務の場所に行くと速いんだけど、普通の家庭はADSLだしめちゃくちゃ遅い。だから寝る前にサーバーにアップしてという感じ。今回はなかったけど、こっちに来てから停電も3回あって、そのうち1回はロンドンにデータを送っている途中で唖然としたよ。時間に余裕があった仕事だったので事なきを得たけど。停電なんて日本だと滅多に無いじゃん。だからいろいろ大変だよね。電気代が安いのはいいけど。

——— ミックス・エンジニアは岡部潔さんですね。

瀬川 もう25年くらい一緒に仕事しているので安心。70年代風にしてとだけ言えば、それ以上説明する必要ないから。ミックスには立ち会ってないんだけど、最終的にAmpexの6mmのレコーダーに落としてからマスタリングしてくれたみたいで、すごく良い質感になっている。

——— 今回の仕事を振り返って、いかがですか?

瀬川 MC-4も大変だったけど、やってよかったと思う。操作を間違えたりして最初はイライラしたけど、途中からは作業していて楽しかったしね。作品を見ていない人は、ぜひBlu-ray/DVDで見て、サントラを聴いてほしい。CDにはとんこさんのピンナップが付いてるし(笑)、ぼくが書いたライナーノーツも載ってるし。誰も読んでないと思うけど(笑)、自分の“アオイホノオ時代”について書いたので、ぜひ読んでほしいね。

Aoihonoo - Eishi Segawa
Aoihonoo - Eishi Segawa

『アオイホノオ』Blu-ray/DVD(写真はBlu-rayのパッケージ)