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Logic Pro Xは登場するのか? 今後について考えてみる
昨日掲載した、『Apple、Logicなどのプロ・オーディオ・アプリケーションの開発を終了?』という記事。Pro Tools系の情報サイト、Pro Tools Expertに「こんな記事が掲載されているよ」程度の軽い感じで掲載してしまったのですが、その反響の大きさに驚いています。この記事のソースは「Appleの元従業員」とのことですが、具体的にどんなポジションで働いていた人物なのか不明ですし、信憑性については何とも言えません。Pro Tools Expertは、比較的信頼できるニュース・サイトだと思いますが(スタッフにも会ったことがありますが、とても真面目な人たちが運営しています)、それでも今回の記事は噂レベルの話に過ぎないので、そんなに重く捉えないでいただければと思います。
Pro Tools Expertの元記事のコメント欄も盛り上がっており、いくつか興味深い書き込みもあります。まず、関係者かどうか分かりませんが、「Logicは健在で、開発は続けられています。心配要りません」というもの。また、「LinkedInによれば、元Emagicのスタッフは現在もAppleに在籍しています。スタッフが少なくなったと言っても、それはマーケティング/営業/プロダクト・スペシャリストといった職種での話に過ぎないのではないか」という書き込みもありました。僕もLinkedInで調べてみたのですが、Logicの生みの親であるGerhard Lengeling博士をはじめ、Logic開発チームのスタッフは現在もAppleに在籍しているようです(LinkedInのプロフィールを信用すればの話ですが)。
僕個人は、「そう遠くないうちに、Logicはバージョン・アップするのではないか」と思っています。Pro Tools Expertの記事を見て、「うわ、あり得なくもないな……」と一瞬思いましたが、それでも「Logicは健在で、そう遠くないうちにバージョン・アップする」という予想に変わりはありません。
そう予想するのには、いくつかの理由があります。まず、Redmaticaの買収。今年5月、Appleはイタリアのソフトウェア・デベロッパー、Redmaticaを買収しました(Appleからは、正式なリリースは出ていません)。Logicユーザーであればご存じ、Keymap ProやAutoSampler、ExsManagerといったEXS24用のユーティリティー・ソフトウェアを開発していた会社です。Appleは、これらユーティリティーの機能をLogicに統合するために、Redmaticaを買収したのではないでしょうか。そう考えるのが普通です(もしかしたら、Redmaticaがオーディオ関連の凄い特許や技術を持っていたのかもしれませんが……)。
また、先日記事として掲載しましたが、Appleは最近、『ポリフォニック・ノートの検知(Polyphonic note detection)』というMelodyne DNAのような技術を特許として取得したそうです。この技術も、普通に考えれば、Logicの次期バージョンの目玉機能のひとつとなるものなのではないでしょうか。実際、Appleがアメリカ特許商標庁に提出した資料には、Logicの画面のような図が掲載されています。
それと昨秋、Logicの開発チームの主要メンバー数名が来日し、ある有名なアーティスト(当然、Logicユーザー)のスタジオを訪問しています。来日の主な理由は分かりませんが、日本のアーティストのスタジオを訪問したのは、「日本のユーザーのLogicの使いこなしや、要望をインタビューしたかったから」と聞いています。
これらを総合すると、「Logicは、いずれバージョン・アップする」と考えるのが自然なのではないでしょうか。他にも信憑性は定かではありませんが、「Logicの次期バージョンは、Logic Pro Xという名称となり、ユーザー・インターフェースが刷新される」とか、「Final Cut Pro Xと統合されて、オーディオ/ビデオ編集の両方に対応したソフトウェアになる」とか、様々な噂があります。
ただ、最近のAppleには、Logicやプロ・オーディオ・アプリケーションの開発を突然終了してしまってもおかしくない雰囲気があるのも事実です。Pro Tools Expertの記事にもありましたが、Mac Proの新型はいっこうに発売されません。これまでApple系の情報サイトでは、「AppleはMac Proの新型を開発しないかもしれない」というニュースが何度か報じられました。実際は新型Mac Proの開発は続けられているのかもしれませんし、何とも言えませんが、Appleが製品ラインを絞っているのは事実のようです。それまで力を入れていたXserve事業も2年前に止めてしまいましたし、Final Cut Proユーザーに愛用されていた17inch MacBook Proも開発終了してしまいました。iPhoneやiPadで、巨大なマーケットを主戦場にビジネスを展開している現在のAppleからすれば、Xserveや17inch MacBook Proは、ビジネス的に価値の無い製品になっていたのでしょう。Mac Proやプロ・オーディオ・アプリケーションに関しても同様、現在のAppleにとっては決してビジネス的な価値が高いとは思えません。
そして現在のAppleには、ビジネス的に価値が無いと思ったら、あっさりと捨てられるだけのゆとりがあります。かなりの数の専門家を雇用してゼロから開発したSoundtrack Proも、約2年前にあっさりと捨ててしまいました。ちなみにSoundtrack Proは、元ユートピアのミュージシャン、Roger Powellが開発の主要メンバーだったのですが、彼は2009年にAppleを辞めています(下の写真は、2007年のNAMM Showでインタビューしたときのもの。このときはSoundtrack Proの開発メンバーでした)。その他のSoundtrack Proの開発メンバーもほとんど辞めてしまったそうです。2年以上メジャー・バージョン・アップが実施されていないApertureも今後が怪しい感じですし、プロ・アプリケーション以外にも目を向けると、iWebやPing、iWork.comなど、Appleがここ数年で捨てたソフトウェア/サービスはたくさんあります。
また、実際のところはよく分からないのですが、外から見ているとApple内部が少し落ち着かない感じにあるように見えます。ハードウエアエンジニアリング担当副社長のBob Mansfield氏が、引退を表明したかと思ったらすぐに復帰したり、iOS担当上級副社長のScott Forstall氏が辞職したり、一部幹部の権限が拡大されたりと、Steve Jobsがいなくなってからの経営陣には大きな変化が起こっているようです。この変化は、製品開発にも少なからず影響をもたらすのではないでしょうか。
それでも僕は、「Logicは健在で、そう遠くないうちにバージョン・アップする」と思っています。その理由は先に述べたとおりです。
CubaseやLiveといった他のDAWは、この何年かの間にもの凄い進化を遂げました。また、Studio Oneという新DAWも台頭してきています。Logicの次期バージョン(Logic Pro X?)はぜひ、これらのDAWを凌駕する機能を搭載して、驚きのデビューを果たしてほしいものです。
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