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96kHzで音を生成して出力する“ハイレゾ電子楽器”、ローランド「AIRA」…… 実際にそのサウンドを聴き、触れてきました
日本時間の本日17時、遂にベールをぬいだローランドの新製品「AIRA」。本家サイトはもちろん、海外メディアも17時になるのと同時に一気に情報を公開しましたので、「AIRA」とはどのような製品なのか、既にご存じの方も多いと思います(よく知らないという方は、こちらをご覧ください。概要をざっとまとめました)。ICONでは先日、ひとあし早く実機をチェックする機会に恵まれました。ここではそのときの印象を、ローランド担当者の方の話を交えて綴ってみようと思います。
肝心のサウンドは、限りなく実機と酷似
多くの人が最も気になっているのが、そのサウンドなのではないでしょうか。最終的にはご自身の耳で判断してくださいとしか言えないのですが、個人的な感想を言えば、実機(TR-808/TR-909/TB-303/SH-101)のサウンドをかなり忠実に再現していると言っていいと思います(ちなみにぼくは、TR-808以外の機種は所有しています)。ローランドの担当者によれば、ここまで忠実に実機のサウンドを再現できたのには、2つの要因があるとのことです。
1つは、新技術“ACB(Analog Circuit Behavior)”によるモデリング。“ACB”では、パーツや回路構成だけでなく、実機に施された“細かいチューニングや調整”をもモデリングすることで、実機のサウンドと振る舞いをデジタル領域で完璧に再現しているとのこと。当然、TR-808やTB-303に施された“細かいチューニングや調整”に関しては、当時の開発者しか知り得ないわけですが、ローランドは「AIRA」の開発にあたって、当時の開発者に徹底的なインタビューを実施。回路図だけでは解読不可能な“これまでブラック・ボックスとなっていた部分”を丁寧に紐解いていったとのことです。たとえば、これは開発者に話を訊いて初めて明らかになったこととのことですが、TR-808で使われていたマイクロ・プロセッサーは、実はオーバー・クロックされたものだったとのこと。なぜオーバー・クロックさせて使われたかというと、当時のマイクロ・プロセッサーの処理能力ではTR-808で実現したかった機能をすべてカバーできず、プロセッサーをオーバー・クロックさせることで、何とかすべての機能を実現したとのことです。こういったことは、回路図や使用パーツのリストだけでは決してわからない情報とのことでした。ローランドの担当者が力説していたのは、結局のところは状態の良い実機や回路図、パーツ・リストを入手したからといって、完璧なモデリングは不可能であるということ。完璧なモデリングは、実機を手がけた開発者の協力を得て、初めて可能になるとのことです。つまり、ローランド製品の完璧なモデリングは、実機のオリジネーターであるローランドでなければ不可能とのことでした。
もう1つは、96kHz/32bit浮動小数点処理による内部アルゴリズム。これによりアナログ回路にひけをとらない広い周波数特性を実現。実際に再生してもらったのですが、高性能なスタジオ・モニターでも、小さなものでは「TR-8」の低音は再生しきれませんでした(キックのピッチをすごく低くすると音が無くなってしまうんですが、高性能なヘッドフォンではちゃんと再生されます)。これは大きなウーファーならば、しっかりと再生されるとのことです。また、パラメーター変化の滑らかさも、96kHzであることが大きく貢献しているとのこと。実際にSYSTEM-1のLFOでデモしていただいたのですが、44.1/48kHzの従来のデジタル・シンセサイザーでは不可能なスピードでLFOを発振させることが可能になっていました。
「AIRA」の担当者は、ローランド社員である以前にご自身が相当なTR/TB/SHマニアで、もちろん全機種所有しているとのこと。その担当者は当初、“絶対にアナログ回路でやらなきゃダメだ”と思っていたらしいのですが、開発にあたって集めた6台のTR-808が1台1台あまりにもサウンドが異なり、“アナログ回路でやったらどれか1台のシミュレーションになってしまう”とのことで、最終的にデジタル・モデリングを選択することになったとのことです。でも、いまとなってはその選択は“大正解だった”とのことで、“「AIRA」が世に出たいま、TR-808やTB-303の中古品を手に入れる必要は無い?”との質問に、“ありません。「AIRA」は、完全に実機のサウンドを網羅しています。これでウチの実機たちもインテリアになってしまいました”と笑っていました。
改造TR-808/TB-303のサウンドもカバー
「TR-8」の基本は、TR-808/TR-909のレプリカ、「TB-3」の基本は、TB-303のレプリカなわけですが、一部パラメーターの設定範囲は実機よりも広くとってあるとのことで、これにより改造マシンのサウンドも再現できるとのこと。たとえばTR-808では、キックのディケイを長くするために容量の大きなコンデンサーに交換するといった改造が行われることがありますが、その“容量の大きなコンデンサー”も“ACB”でモデリングされているため、「TR-8」ではディケイの長いキックの音も作れるとのことです。同様に「TB-3」では、Devil Fishのような改造TB-303のサウンドもたっぷり搭載されているとのことでした。
ジェントルな見た目とは正反対の攻撃的な「SYSYEM-1」のサウンド
「SYSYEM-1」は、内蔵のシンセ・モデルと“PLUG-OUT”のシンセ・モデル、2種類のシンセ・モデルを切り替えることができます。“PLUG-OUT”のシンセ・モデルは当初、SH-101のモデルが提供されるとのことですが、もう1つの内蔵シンセ・モデルのサウンドがかなり攻撃的でイイ感じです。オシレーター波形では、おなじみのSuperSAWに加えてSuperSquare(矩形波7波重ね!)を選択することができ、このサウンドがかなり強烈。クロス・モジュレーション機能も強力で、この攻撃的なサウンドはぜひ一聴してほしいところです。アルペジエーターや、リアルタイムにフレースを組み替える“スキャッター”機能も搭載しているので、これだけでもかなり遊べそうです。96kHzでデジタル出力できる、SuperSquareの超・攻撃的なサウンド。「SYSYEM-1」は、シンセサイザーとして、かなり魅力的な製品に仕上がっていると思います。
ライブ・パフォーマンスでの使用を重視
ローランドは過去に、MC-303をはじめとする“Groovebox”製品を発売していました。それらと「AIRA」の違いについて質問したところ、“Groovebox”製品は“楽曲制作のためのワークステーション”であり、「AIRA」は“演奏できる電子楽器”なので、そのコンセプトは大きく異なるとのこと。「TR-8」はあくまでもリズム・マシン、「TB-3」はあくまでもベース・マシンなので、1台で楽曲制作できる“Groovebox”とは違うとのことでした。
“演奏できる電子楽器”ということで、「AIRA」はライブ・パフォーマンスで使用されることを重視したユーザー・インターフェースになっているのも特徴です。具体的には、液晶ディスプレイの類は一切備わっておらず、何か操作するにあたって、ページを捲ったり、階層深く潜ったりといったことは必要ありません。すべてのパラメーターが表に出ているため、シーケンスを走らせながら、パターンをエディットしたり、レコーディングしたりといった操作が直感的に行えます。実際にデモしてもらったのですが、このあたりはOctatrackやAnalog Fourといった最近のElektron製品に近い印象でした。“触って楽しいマシン”という印象です。
96kHzでコンピューターに取り込めるのがすごい
「AIRA」は全機種、USBオーディオ・インターフェース機能を備えています。これにより、96kHz/32bit浮動小数点処理で生成されたサウンドを、そのままコンピューターに取り込むことが可能になっています。ローランドが技術の粋を集めてモデリングしたTR-808/TR-909/TB-303/SH-101のサウンドを、96kHzのままDAWに取り込めるというのはかなりすごいことだと感じました。「TR-8」や「TB-3」の注目機能である“スキャッター”(内部の出力をサンプリングして切り刻み、リアルタイムにフレーズを組み替える機能)も当然96kHzで動作しています。最近、巷では“ハイレゾ”がブームですが、96kHz/32bit浮動小数点処理で音を生成する「AIRA」は、“ハイレゾ電子楽器”と言ってもいいのではないでしょうか。
ノートブックPCと並べてイイ感じの薄いデザイン
全機種とも、とても薄いデザインに仕上がっています。ローランドの担当者によれば、ノートブックPCと並べて使うことを意識したデザインとのこと。特に苦労したのが「SYSTEM-1」とのことで、標準サイズの鍵盤内蔵ながら「TR-8」や「TB-3」と変わらない薄さになっています。これは実物を見るとかなり魅力的で、“モノ”としてグッと惹かれるデザインと言っていいでしょう。このデザインだけでもヒットしそうです。
素材感のある筐体
写真では伝わりにくいですが、「AIRA」のパネルは無垢のアルミニウム製で、アクセントとなっている緑色のエッジ部分は樹脂製となっています。どちらも無塗装なので、ぶつけたりしても色が剥がれる心配は無し。素材の質感を活かした無垢な仕上げが、なかなか良い感じです。
セットで使用できるハード・ケースやディスプレイ
公開されている「AIRA」のムービーや画像では、ハード・ケースやディスプレイの姿も確認できます。これらはローランドが製作したものとのことですが、いまのところ発売に関しては未定とのこと。しかし実物を見ると、かなり良い感じなので(特にハード・ケース)、ぜひ発売してほしいところです。
戦略的な価格設定
日本ではオープン・プライスとのことですが、海外のメディアが伝える北米での価格は、「TR-8」が499ドル、「TB-3」が299ドル、「SYSTEM-1」が599ドル、「VT-3」が199ドル。個人的には、想像よりもかなり安い戦略的な価格設定だなという印象です。「SYSTEM-1」なんて、マスター・キーボードと96kHz対応のオーディオ・インターフェース込みと考えれば、相当安価と言えるのではないでしょうか。
以上、つらつらと実機をチェックした感想を綴ってみました。来週は、ローランド担当者のロング・インタビューを掲載したいと思っていますので、ぜひご期待ください!