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製品開発ストーリー #20:2020 〜 DUB-Russellが独自に開発したモジュラー・ビート・マシーンが一般公開! 本日よりKickstarterで予約受付開始

Cycling ’74 Maxを駆使して、即興ライブを行うエレクトロニック・ミュージック・デュオ、DUB-Russell。強烈なビートを下地に、グリッチされたサンプル/電子音がレイヤーされたサウンドは彼らならではのもので、その楽曲とパフォーマンスは世界的にも高く評価されています。最近ではRed Bull Music Academy主催のイベントで初音ミクをフィーチャーしたライブを行い、そこで使用されたMaxパッチを無償配布して注目を集めました

2020

DUB-Russell

そんなDUB-Russellの首藤陽太郎氏が本日、 10年近くかけて開発してきたというオリジナル・ソフトウェアの予約受付を開始。「2020(ニーゼロ・ニーゼロ)」と名づけられたこのソフトウェアは、サンプル・スライサー/グリッチ・サンプラー/グリッド・シーケンサー/FMシンセサイザー/ルーパー/エフェクターなどが融合された、“セミ・モジュラー形式のビート・マシーン”。首藤氏いわく、自身のトラック制作やライブ・パフォーマンスはすべてこの「2020」で行っているとのことで、まさにDUB-Russellサウンドの源泉とでも言うべきソフトウェアなのです。そのサウンドについては、ぜひSoundCloudのデモを聴いていただきたいのですが、斬新なループ/パターンを作りたいという人は大注目のソフトウェアと言えるでしょう。なお予約受付はKickstarterのクラウドファンディングを使って行われ、アーリーバード価格(最初の20人限定)は59ユーロ、標準価格は89ユーロとなっています(Macのみ対応)。

2020

500以上のパラメーターを備えた強力な“セミ・モジュラー”ビート・マシーン:2020

2020」は、音源となるサンプラー/シンセサイザーと、それらをトリガーするシーケンサー、さらにはエフェクターやルーパーなどが統合されたソフトウェアです。OS Xのフル画面表示に最適化されたワン・スクリーン・デザインが採用されているため、別のウィンドウを開いたり、ウィンドウ内をスクロールすることなく、すべてのオペレーションが行えるようになっています。

2020」に搭載されている機能は以下のとおりです。

● サンプル・スライサー

ドラム・ループなどのサンプルを読み込み、切り刻んで鳴らすことができるサンプル・スライサー。専用のステップ・シーケンサーを内蔵しています。

● グリッド・シーケンサー

ワン・ショット・サンプラーとFMシンセサイザーをトリガーするためのグリッド・スタイルのシーケンサー。最長32拍のシーケンス長は、トラックごとに設定できるため(「2020」には小節という概念がありません)、トラック1は4拍のループ、トラック2は6拍のループといった感じで、小節に縛られない設定が可能。また、拍ごとにグリッドの分解能を設定できる点も大きな特徴。例えば4拍のループで、2拍目と4拍目は普通に16分音符の分解能に設定し、1拍目は3連符、3拍目は6連符と、複雑なシーケンスを組むことができます。

● ワン・ショット・サンプラー

2020」の核となる音源が、計12基装備されたワン・ショット・サンプラー。サンプルを読み込み、先述のグリッド・シーケンサーでトリガーすることができます。もちろん、単純にサンプルを鳴らすだけではなく、アンプ・エンベロープ、ピッチ・エンベロープ、オーバードライブ、リング・モジュレーター、ハイパス/ローパス・フィルター、ビット・クラッシャー、LFOといったパラメーターをエディット可能。12基のワン・ショット・サンプラーはすべて同じではなく、微妙に仕様が異なっているのもポイント。例えばユーザー・インターフェース左下に用意されているワン・ショット・サンプラーには、サイン波を生成できるキック・シンセが内蔵されています。

● FMシンセサイザー

3オペレーター/5アルゴリズム/5波形のFMシンセサイザーを2基搭載。先述のグリッド・シーケンサーを使って鳴らすことができます。FMシンセサイザーにも、ハイパス/ローパス・フィルターやビット・クラッシャーが内蔵されています。

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● サウンド・ルーパー

サンプル・スライサーに内蔵されているステップ・シーケンサーと、ワン・ショット・サンプラーとFMシンセサイザーをトリガーするためのグリッド・シーケンサーは同期しますが、それらとは非同期で利用できるサウンド・ルーパー(サンプル・プレーヤー)を計3基搭載。このサウンド・ルーパーを活用することで、SEやボイスといった長尺のサンプルを再生することが可能になっています。サウンド・ルーパーでも、オーバードライブ、リング・モジュレーター、ハイパス/ローパス・フィルター、LFOといったパラメーターをエディットすることができます。

● ヒグラシ・ジェネレーター

蜩のようなビープ音を生成できるサウンド・ジェネレーター。アクセント的に活用することができます。

● トリガー・エフェクター

“セミ・モジュラー・ビート・マシーン”を謳う「2020」の肝となる機能が、ビートのトリガー情報(CV)でオン/オフを制御できるトリガー・エフェクターです。「2020」には、2基のハイパス/ローパス・フィルター、コム・フィルター/ショート・ディレイ、リング・モジュレーター、グラニュラー・スクラッチャー、トリック・ジェネレーター、3基のLFO、ビート・リピーター、ビット・クラッシャー、グリッチ・ジェネレーターといったトリガー・エフェクターが搭載され、これらの接続を自由自在にパッチングすることが可能。しかもビートをトリガーにオン/オフを制御できるので、かなり複雑なエフェクト処理が行えます。

● センド・エフェクター

トリガー・エフェクターとは別に、センドで利用できる2種類のディレイとリバーブを搭載。

● バス・ミキサー

6系統のバスをミックスし、アウト1とアウト2に出力します。

● マスター・エフェクター

アウト1には、EQ、ビット・クラッシャー、ハイパス/ローパス・フィルター、ビート・リピーター、コンプレッサー、マキシマイザーといったマスター・エフェクターを搭載。一方、アウト2には、EQ、ビット・クラッシャー、ハイパス/ローパス・フィルター、リバーブ、サイドチェーン対応のコンプレッサー、マキシマイザーが搭載されています。

● レコーダー

2020」から出力されるサウンドは、右下のレコーダーで即座にレコーディング可能。WAV/AIFFフォーマットで書き出し、DAWなどで編集することができます。将来的にはクロック情報を埋め込んだ独自形式のステム・ファイルへのレコーディングにも対応予定とのこと。

以上が「2020」の主要機能です。シングル・インターフェースながら、これだけで十分にトラックメイク/ライブ・パフォーマンスが行えるだけの機能が備わっていると言えるでしょう。マルチチャンネルのオーディオ・インターフェースを使用している場合は、アウト1とアウト2を別々に出力することもでき、外部入力を「2020」内に取り込むことも可能になっています。

音源内蔵のシーケンサーは、ハードウェアを含めたくさん存在しますが、パラメーターごとに確率と範囲を設定してランダマイズができる点は「2020」の大きな特徴と言えるでしょう。これにより意外なサウンドを生み出したり、生めかしいグルーヴを付加することが可能になっています。また、グリッド・シーケンサーに小節の概念がなく、最大32拍の範囲でトラック長を自由に設定でき、さらには拍ごとに分解能を設定できる点も非常にユニークです。

強力な機能を備えた未来型ビート・マシーン、「2020」。予約受付はKickstarterのクラウドファンディングによって行われ、支援者限定のベータ・バージョンの提供時期は今年の5月(リリース・バージョンの提供時期は今秋)、価格は89ユーロとなっています。クラウドファンディングなのでアーリーバード価格も用意されており、最も早く予約した20人は59ユーロ、次に早く予約した50人は74ユーロで提供するとのこと。さらにはMaxユーザー向けのパッケージも99ユーロで用意され、こちらには「2020」で使用されたオリジナル・オブジェクトも含まれるとのことです。

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開発者:首藤陽太郎(DUB-Russell)が語る「2020」

はたして「2020」はどのようなコンセプトのもと開発されたソフトウェアなのか、またDUB-Russellサウンドの源泉とも言えるソフトウェアをなぜ一般に提供することにしたのか。開発者である首藤陽太郎氏に話を伺ってみました。

——— 今回発表された「2020」は、首藤さんがDUB-Russellのライブ・パフォーマンスやトラックメイクで使用しているソフトウェアそのものなんですよね。

首藤 そうです。原形ができたのはCycling ’74 Maxを触り始めた10年くらい前のことで、最初はグリッチ・サンプラーとシーケンサーの組み合わせでした。それから2年くらいで基盤が完成して、その後どんどん機能を追加していって。もともとはライブ・パフォーマンス用のソフトウェアだったんですけど、今はトラックメイクでも使っています。サウンドはすべて「2020」で生成して、ファイルとして書き出してAbleton Liveで編集するという流れで。特にビートに関しては完全に「2020」で作っていますね。

——— シーケンサー内蔵の音源/サンプラーは、ハードウェアを含めたくさん存在しますが、「2020」ならではの特徴というと?

首藤 いろいろあるんですが、パラメーターごとに確率と範囲を設定してランダマイズできる点は大きな特徴だと思います。UIのエンベロープの設定値の部分に、縦方向と横方向に棒が伸びているのが分かると思いますが、これが設定したランダマイズの範囲なんですよ。パラメーター値は、この範囲内でトリガーの度にランダマイズされるんです。範囲を広く設定すれば、かなりデタラメな感じになりますし、逆に範囲を狭く設定すれば、微妙な変化になる。このランダマイズをパラメーターごとに設定できるので、単純なループであっても意図しないサウンドやグルーヴを生み出せるようになっています。

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それとグリッド・シーケンサーの分解能を拍ごとに設定できるのも、「2020」ならではの特徴かもしれませんね。拍ごとに3連符にしたり16分音符にしたりできるので、普通のダンス・ミュージックではあり得ないビートを作ることができる。しかもそれをトラックごとに設定できるので、例えば“5連符7拍”のようなかなり複雑なリズムを作り出すことができます。

またピッチ・トランスポーザーもおもしろい機能だと思います。サウンド全体をピッチ・トランスポーズできるだけでなく、スケールを指定することができるので、昔のIDMっぽいフレーズも簡単に作ることができます。

——— グリッド・シーケンサーでトリガーするワン・ショット・サンプラーも、フィルターやリング・モジュレーターなどを使ってかなりシンセサイズできるようですね。

首藤 そうですね。そのあたりはElektronのMachinedrumを参考にしていて、歪ませたりフィルタリングしたり、かなり音作りができるようになっています。ワン・ショット・サンプラーは計12基積んでいるんですが、すべて同じものではなく、微妙に仕様が異なっているんですよ。例えば左下のワン・ショット・サンプラーには、サイン波を生成するキック・シンセが内蔵されていたりします。

——— 今回、自分専用のツールだった「2020」を一般に公開することにしたのはなぜですか?

首藤 ずっとMax 4で開発をしていたんですが、昨年重い腰を上げてMax 7に移植を始めたんです。最新のMax 7だと、メニューやアバウト画面などを完璧に作ることができますし、初期設定ファイルもMaxとは別に生成できるので、市販のものと比べても遜色のないソフトウェアを開発できるんですよ。それだったら、ちゃんとしたソフトウェアに仕上げて、一般に公開するのもおもしろいんじゃないかと。でも普通に販売するのはつまらないと思ったので、Kickstarterでクラウドファンディングをしてみようと考えたんです。

——— DUB-Russellサウンドの源泉とも言えるツールを一般に公開してしまうことに躊躇はありませんでしたか?

首藤 いいえ、まったく。同じツールを使ったところで、同じ音楽って絶対にできないと思うんですよ。逆に「2020」を手に入れた人がどんな音楽を作るのか、そっちの方が楽しみですね。

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DUB-Russellの首藤陽太郎氏

——— 開発にあたってはオリジナルのオブジェクトもかなり使われているのですか?

首藤 音を生成するオブジェクトに関しては100%、全体でも8割以上は自分で開発したオブジェクトです。ですのでMaxはフレームワークとして使用しているだけで、ほぼオリジナルのアプリケーションと言っていいと思います。

ぼくは専門のプログラマーではないので、最初は足りない部分だけオリジナルのオブジェクトを開発していたんですよ。しかしそんなことを続けていると、どんどん自分のプログラミング・スキルが上がっていって、あれもこれも開発したくなってくる(笑)。結局、ソース・コードは全部で8万行くらい書いたかもしれませんね。そんなプログラミングのことを、ぼくらは修行ではなく“Max行”と呼んでいるんですけど(笑)。

ちなみに「2020」のために開発したオリジナル・オブジェクトのうちいくつかは、Kickstarterで99ユーロ以上出資してくれた方に提供します。ユーザー・インターフェース系のオブジェクトなんかは、他の人にとっても有用なのではないかと。

——— Maxベースということで、コンピューターに負荷がかかったときのシーケンスのタイミングは問題ありませんか?

首藤 タイミングに関してはかなりチューニングしました。Maxでタイミングがもたるのって、Metroとかでシーケンスを制御するからなんですよ。Metroとかが吐き出すメッセージは、オーディオ処理の間に挟み込まれてくるので、コンピューターに負荷がかかるとどうしてももたってしまうんです。しかし「2020」のシーケンスは完全にオーディオで制御しているので、コンピューターに負荷がかかった場合でも、ある程度なら問題はありません。

——— 開発にあたって苦労した点は?

首藤 音処理に関してはそれほど重くはないんですが、Retina Displayを搭載したMacだと描画でかなりCPUパワーを持っていかれてしまうんですよ。できるだけたくさんのMacで動くようにしたかったので、そのあたりのチューニングですかね。サウンド・エンジンのプログラミングはほぼ終了したんですが、処理能力が低いMacでもストレスなく動かすためのチューニングは今も続けています。

——— ユーザー・インターフェースのカラーリングが独特ですね。

首藤 ちょうど「2020」の開発を始めたときにSublime Textというエディターが流行ったんですが、そのMonokaiというカラー・スキームが元になっています。レトロ・フューチャー、で少しギークな雰囲気を目指しました。

——— 「2020」というネーミングに関しては?

首藤 去年の10月におおよその形ができあがったんですけど、そのころ名前についてBRDGのオーガナイザーである福沢くん(福沢恭氏。TMUG/BRDG)に相談したんですよ。そうしたら“2020がいいんじゃない?”と提案してくれて、ちょっと未来っぽい感じがいいなと思い、それに決めてしまいました。ロゴ・デザインは、Hiroshi Satoさんというデザイナーによるものです。

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——— クラウドファンディング、成功するといいですね。

首藤 そうですね。海外のものはよく知らないんですが、Maxで開発された国産ソフトウェアで市販されるものというと、Chibaさん(Katsuhiro Chiba氏)のcyan/n以来なのかなと思います。ぼくのMaxの流派はChibaさん直系なので、同じようにMaxで開発したオリジナル・ソフトウェアを世に出せて嬉しいですね。とりあえず音源とエフェクトを自在に接続できるセミ・モジュラーのビート・マシーンというのはなかなかないので、話題になるといいなと思っています。ビート・マシーンとして見れば、ハードウェアを含めて一番機能が多いと思いますし、ここまで狂った音が出せるものもないと思うので(笑)。

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