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サンプル・スライサー、FMシンセ、グリッチ・エフェクトなどが統合された新感覚の音響合成ソフトウェア、「HSU-003」が無償配布開始…… 開発を手がけたDUB-Russellインタビュー

名うてのMax使いとしても知られる2人組ユニット、DUB-Russell。常に精力的なライブ活動を続けている彼らですが、明後日(2014年11月13日)開催されるイベント『Red Bull Music Academy Presents 1UP: Cart Diggers Live』への出演を記念し、新作のMaxパッチ「HSU-003」の無償配布を開始しました(SONICWIREで無償ダウンロードできます)。「HSU-003」は、サンプル・スライサー、FMシンセサイザー、ルーパー、グリッチ・エフェクトなどが統合されたMaxパッチで、すばらしく完成度の高いユーザー・インターフェースにより、Maxユーザーならずとも楽しめる(使える)音響合成ソフトウェアに仕上がっています。そこでICONでは、「HSU-003」を開発したDUB-Russellにインタビュー。この音響合成ソフトウェアは、一体どのようなコンセプトで開発され、どのような機能を備えているのか、話を訊いてみることにしました。Maxパッチと言うと敷居が高そうですが、Cycling ‘74のWebサイトからMax Runtime(パッチを使うためだけのランタイム版Max)をダウンロードすれば、スタンドアローンのソフトウェアと同じように使うことができますので、気になった方はぜひ試してみてください。サンプルのオーディオ・ファイルも付属しているので、すぐに音を出すことができます。

Dub-Russell

DUB-Russell

自分で用意した“少しの種”をリアルタイムに拡張できる、即興演奏のための音響ソフトウェア

——— DUB-Russellは以前、作品にMaxパッチを付けていましたが、今回無償配布が開始された「HSU-003」はそれらの進化版と捉えていいのでしょうか?

DUB-Russell そうですね。一番最初の「HSU-001」は2011年に発表した『Grasp Echoes』(+MUS)に、その次の「HSU-002」は2012年に発表した『Prank Poles』(+MUS)にオマケとして付けました。今回配布を開始した「HSU-003」は、「HSU-001」と「HSU-002」を組み合わせ、ユーザー・インターフェースを今風にしたバージョンとなっています。とは言っても「HSU」シリーズは決して同一のソフトウェアというわけではなく、ぼくらとしては別のソフトウェアとして捉えていて、バージョンごとに違った機能を持ったものにしていきたいと思っています。今後もライブで使用しているパッチが成熟していったら、「HSU」シリーズとして公開していきたいなと。

——— ベースとなっているのは、DUB-Russellのお二人が実際にライブで使用しているパッチなのでしょうか?

DUB-Russell 「HSU」シリーズをそのままライブで使うことはありませんが、搭載されている機能は実際にぼくらがライブで使用しているものです。ぼくらはライブでは二人ともMaxを使い、出音でコミュニケーションを取りながらパフォーマンスを行っているわけですが、「HSU」シリーズによって、ぼくらがライブでやっていることを体験していただけたらいいなと。Maxをお使いの方であれば、パッチの中身を見ることもできますので、気に入った部分を利用していただくことも可能です。

——— 今回配布が開始された「HSU-003」についておしえてください。

DUB-Russell 自分で用意した“少しの種”をリアルタイムに拡張できる、即興演奏のための音響ソフトウェアです。「HSU-003」には、いわゆるタイムラインは存在せず、全体を共有する“シーン”のような概念もありません。各モジュールから出力され続ける個々のサウンドをリアルタイムにコントロールし、それらを自由に組み立てていけるのが大きな特徴だと思います。

Dub-Russell

DUB-Russellが開発した最新Maxパッチ、「HSU-003」。サンプル・スライサー、FMシンセサイザー、グリッチ・エフェクトなどが統合された音響合成ソフトウェア。SONICWIREで無償ダウンロード可能

——— “Sample Slicer”や“FM Beat”、“Looper”などなど、様々なモジュールが用意されていますね。

DUB-Russell “Sample Slicer”は、ビートなどのサンプルを並べ替えて再生できる一般的なサンプル・スライサーですが、元サンプルを再解釈して、意図しないアクシデントが起こりやすい構造になっています。その右隣りの“FM Beat”は、原始的なFMシンセサイザーですが、奇天烈なサウンドが出るようにチューニングしてあるのが特徴ですね。極端なパラメーター設定をすると、エイリアシング・ノイズなど意図しない音が乗って、とてもおもしろいです。さらに右隣りの“Looper”は、その名のとおりのルーパーですが、BPMにまったく依存しないのがポイントですね。指定した範囲を延々とループするだけなんですけど、ピッチやボリュームをリアルタイムに変化させると、ものすごく“それらしい音”になります。

——— “Sample Slicer”、“FM Beat”、“Looper”の接続はどうなっているのですか?

DUB-Russell この3つのモジュールはパラレルに存在していて、出力先を自由に選べるようになっています。

そして左下にある“Layer Unit”は、入力されたサウンドをリアルタイムにサンプリングし、6種類の異なる再生装置でプレイバックすることによって、複雑なレイヤー・サウンドを作り出すためのものです。また、2基のフランジャーを掛け合わせることでグラニュラー的なサウンドを生成する“Flangular”というエフェクターも入っていて、その右側にはいわゆるグリッチ・サウンドを生み出す“Glitch”というモジュールも用意されています。“Layer Unit”と“Glitch”は、“Layer Unit”に出力を“Glitch”に入力することで、直列に接続することも可能です。

——— “Delay”、“Reverb”、“EQ”というエフェクトも用意されていますね。

DUB-Russell “Delay”と“Reverb”に関しては、各モジュールからセンドで使うことができ、“EQ”はその後段で使うという流れですね。また、右側の“Master”セクションでは、マスター・ボリュームやBPM、出力などの設定が行えるほか、“REC”ボタンでライブ・レコーディングを行うことも可能になっています。

——— けっこうコンピューターのパワーを必要としそうです。

DUB-Russell いや、そんなことはないです。負荷の高いエフェクトは外してあるので、おそらく数年前のMacBook Airでも動作すると思いますよ。

——— 明後日(11月13日)、WOMBで開催されるRed Bull Music Academy主催のイベント、『1UP: Cart Diggers Live』に出演されるそうですね。

DUB-Russell はい。この日は初音ミクをフィーチャーして、ミクの歌声をリアルタイムに加工/再構築しつつ、DUB-Russellビートに組み込んでみようと思っています。どんなライブになるかは蓋を開けてみるまでわからないですね。

——— 最後に、DUB-Russellの今後の予定をおしえてください。

DUB-Russell 現在、アルバム・リリースに向けて楽曲をつくりためているところです。同時にこれまで約3年間ライブや制作で使用してきたパッチを別解釈でつくり直しているところで、いずれは“ライブ・パッチ完全版”として公開できたらいいですね。

Dub-Russell

明後日、渋谷のWOMBで開催されるRed Bull Music Academy主催のイベント、『1UP: Cart Diggers Live