Developer Interview
Arturia社初のアナログ・シンセサイザー「MiniBrute」〜 同社CEO フレデリック・ブルン氏インタビュー
今年のNAMMで発表された新製品の中で、個人的なベスト・ワンはArturia社初のアナログ・シンセサイザー「MiniBrute」です。正直言うと、Arturia社のソフトウェア・インストゥルメントはあまり好みではなかったんですけど(ゴメンなさい……)、新しい「MiniBrute」はかなり良く出来ています。何が良く出来ているって、とにかく音がイイ。伝説の“Steiner-Parker”フィルターのおかげで音色のバリエーションも広そうですし、“Brute Factor”や“Ultrasaw”、“Metalizer”といったユニークなパラメーターもかなり使いでがありそうです。これで5万円前後というんですから、これはゲットしない手はないでしょう。もちろんNAMMから帰国して、速攻予約しました(爆)。
というわけで、ここではNAMM会場で収録したArturia社のCEO、フレデリック・ブルン(Frederic Brun)氏のインタビューをお届けします。最後に会場で撮ったムービーも掲載したので、ぜひ見てみてください。絶対に欲しくなるはず……。
——— まず初めにお訊きします。長年、アナログ・シンセサイザーをソフトウェアで再現することに情熱を注いできたArturia社が、ここにきてなぜ“本物のアナログ・シンセサイザー”を開発しようと思ったのですか?
FB おっしゃるように、我々は長年アナログ・シンセサイザーのサウンドをソフトウェアで“リクリエーションする”ことに情熱を注いできました。我々の製品のベースとなっている“TAE(True Analog Emulation)”というテクノロジーでは、アナログ回路特有の不安定な挙動まで見事に再現しています。現在、アナログ・シンセサイザーをシミュレートしたソフト・シンセは星の数ほど出回っていますが、我々は自分たちの製品のサウンドに絶対の自信を持っています。
それではなぜ今回、本物のアナログ・シンセサイザーを開発したかと言うと、“作ってみたくなった”からです(笑)。おかしな答えかもしれませんが、これが本当のところなんです。しかし“作ってみたくなった”のには、理由があります。我々はこれまで、MinimoogやJupiter-8といったアナログ・シンセサイザーの名機を数多く研究し、ソフトウェア化してきたわけじゃないですか。最近ではOberheim SEMも、Oberheim SEM Vとしてソフトウェア化しました。そしてそれらの研究開発に費やした長い時間は、“良い音のアナログ・シンセサイザー”の構造を理解するのに十分過ぎるものだったんです(笑)。そこまで知ってしまったら、自分たちでも作ってみたくなるのが普通ですよね(笑)。何か戦略的な考えがあったわけではありません。単純に“作ってみたくなった”んです。
——— “V”シリーズのユーザーの中には、ここにきてArturia社が本物のアナログ・シンセサイザーをリリースすることに戸惑う人もいるかと思います。
FB ソフトウェア・シンセサイザーと本物のアナログ・シンセサイザーは、それぞれに秀でている部分があります。たとえばソフトウェア・シンセサイザーは、とても安価に入手することができますし、DAW内でインテグレートして使用することができます。ユーザーとしては、非常に扱いやすいですよね。一方、本物のアナログ・シンセサイザーは、多数の操作子が表に出ているものが多いので、直感的に音作りを行うことができます。
——— サウンドに関しては?
FB サウンドに関しても同様で、一方的に本物のアナログ・シンセサイザーの方が優れているとは思っていません。ソフトウェア・シンセサイザーでは、本物のアナログ・シンセサイザーでは不可能なサウンドも作り出すことができます。ただ、本物のアナログ・シンセサイザーのサウンドには、独特の存在感があるのは事実です。我々は長年、あの存在感までもソフトウェアで再現しようと頑張っているのですが、なかなか難しいですね。
——— 「MiniBrute」の開発は、いつ頃スタートしたのですか?
FB 2010年の6月のことです。ですから約1年半前に開発はスタートしました。
——— ゼロからアナログ・シンセサイザーに取り組まれたことを考えると、開発期間はとても短いですね。
FB おっしゃるとおりです。こんなに早く開発できたのも、“シンセサイザー・グル”のイヴ・ウッソン(Yves Usson)の協力があったおかげですね。イヴのことはご存じですか? 彼は世界有数の“シンセサイザー・グル”で、名機と呼ばれるシンセサイザーを多数所有し、その内部回路についてもの凄く精通しているんです。イヴは、我々と同じグルノーブルに住んでいて、「MiniBrute」の開発にあたって協力を申し入れたところ、喜んで快諾してくれたんですよ。
——— イヴさんとは前々からお知り合いだったんですか?
FB Arturia社の中には何人か親しくしているスタッフがいましたが、ビジネスでパートナーシップを組んだのは今回が初めてでした。
——— 「MiniBrute」の開発コンセプトについておしえてください。
FB 我々のコンセプトは至極シンプルでした。安価で、簡単に使えて、音が良いこと。開発にあたって考えていたのは、この3点だけでしたね。
そして開発作業の後半では、DAWや他の機器と上手くインテグレートできるシンセサイザーにしたいとも思いました。それでMIDI入出力だけではなく、USBやCV/Gate入出力といった端子も装備することにしたんです。こういった端子はステージで演奏するキーボーディストには不要かもしれませんが、どちらかと言えば「MiniBrute」は、スタジオで音楽制作を行うユーザーにアピールするシンセサイザーだと思いましたからね。
——— CV/Gate入出力が備わっているのはユニークですね。
FB 最近はユーロラックのモジュラー・シンセサイザーが流行っていますが、ああいうものを鳴らしたいと思ったとき、CV/Gate端子を装備しているキーボードって意外と手元に無かったりするんですよ。ヴィンテージ・シンセサイザーと接続するときにも便利ですし、この端子はとても“使える”と思います。そうそう、今回のNAMMでAKAIが発表した新しいキーボード・コントローラー、Max49にもCV/Gate端子が備わっていたので驚きました。たぶん、我々と同じことを考えたんでしょうね(笑)。
——— 一般的なモノ・シンセサイザーと比べて、「MiniBrute」にはどのような特徴がありますか?
FB 一番の特徴は、Steiner-Parkerのフィルターを搭載している点でしょうね。Moogなどに搭載されているフィルターとは一味も二味も異なるキャラクターになっています。
それとオシレーターの設計もユニークです。基本的には1オシレーターなんですけど、鋸波、矩形波、三角波、サブ・オシレーター、ノイズ、そして外部オーディオ入力という6種類のソースを自由にミックスすることができるんですよ。加えて鋸波には“Ultrasaw”、三角波には“Metalizer”というパラメーターも備わっていて、これらを活用することで非常に厚みのあるサウンドを作り出せるようになっています。
また細かい点ですが、エンベロープはファストとスロー、2種類のモードを切り替えられるようになっています。これも他にはないユニークなフィーチャーですね。モジュレーション周りもかなり強力です。
——— Steiner-ParkerのSynthaconは幻のシンセサイザーとして知られていますが、今回そのフィルター回路を搭載しようと考えたのはなぜですか?
FB 世のアナログ・シンセサイザーのフィルターには、大きく2種類のタイプがあると思っています。1つはMoogやRolandタイプのスムースなフィルターですね。多くのアナログ・シンセサイザーがこのタイプのフィルターを搭載しています。一方、KORG MS-20やRSF Polykobolなどに搭載されているフィルターは、非常にアグレッシッブで強力な利きになっています。そしてこのタイプのフィルターを搭載しているアナログ・シンセサイザーは、それほど多くはありません。個人的にはMS-20のフィルターが大好きだったので(笑)、それを踏襲した回路を搭載しようとも考えたんですが、いろいろとリサーチしているうちにSteiner-Parker Synthaconのことを思い出したんです。Steiner-Parkerのフィルターは、MoogタイプとMS-20タイプの中間というか、基本的にはスムースな効きのフィルターなんですけど、アグレッシッブなサウンドも得られるユニークな回路になっているんですよ。これは我々が作ろうとしているシンセサイザーにバッチリなのではないかと思い、今回はSteiner-Parkerのフィルターを採用することにしたんです。とても音楽的なフィルターですね。
——— Steiner-Parkerのフィルター回路は、Synthaconを分解して解析したんですか?
FB いえいえ、我々はそんなレアなシンセサイザーは持っていません(笑)。でもSynthaconの回路図は、どういったルートからかは忘れましたが、何とか入手することができたんです。それに我々は、Synthaconの開発に深く関わったナイル・スタイナー(Nyle Steiner)にコンタクトを取ったんですよ。彼はとても参考になるアドバイスをしてくれました。完成したフィルターの音を聴いて、オリジナルのSteiner-Parkerフィルターよりも良いと言ってくれましたよ。
——— 最終段に備わっている“Brute Factor”回路についておしえていただけますか。
FB “Brute Factor”はとてもユニークな機能で、音にサチュレーションと倍音を付加することができます。どうやってその効果を得ているかというと、出力信号を再度ミキサーに返しているんですよ。内部で信号をフィードバックさせることによって、音をサチュレートさせ、倍音を付加しているんです。
——— 「MiniBrute」というネーミングに関しては?
FB “Brute”には“力強い”という意味があり、小さくてもパワフルなサウンドが得られることから「MiniBrute」という名前にしました。なかなか良い名前でしょう?
——— “ミニブルート”と発音しているのですが、これで正しいですか?(笑)
FB 正確には“ミニボイト”です。しかしこれはフランス人の発音なので、“ミニブルート”で構いませんよ(笑)。
——— Arturia社のハードウェア……OriginやSparkは、あのアクセル・ハートマン(Axel Hartmann)がデザインしたと聞いていますが、「MiniBrute」に関しては?
FB よくご存じですね(笑)。今回の「MiniBrute」もアクセルの仕事です。
——— OriginやSparkとは少し違う印象だったので、別のデザイナーの手によるものなのかと思いました。
FB 我々からはアクセルに、“力強いイメージにしたい”ということだけ伝えました。そうしたら、これまでとは違うダークなカラーのデザインが上がってきたんです。「MiniBrute」という名前にピッタリの外観で、とても気に入っていますね。
——— 個人的には、コンパクトな2オクターブ鍵盤にもグッときました。
FB こういうコンパクトなのが最近のトレンドですしね。デスクトップに置くのにちょうどいいですし、持ち運びもしやすいですから。もちろん、トランスポーズ・ボタンやアルペジエイターも搭載されているので、2オクターブ以上の音域を鳴らすことができます。
——— 「MiniBrute」はこのNAMMで発表になったわけですが、来場者の反応はいかがですか。
FB もう最高です。音だけでなく、外観や機能も高く評価していただいています。出荷を開始するのが待ち遠しいですよ。
——— 値段も安いですし、最初は品薄になりそうですね。
FB そうなるといいんですけどね(笑)。ちょうどNAMMの期間中に生産を開始する予定で、品薄にならないよう、できるだけ多くの台数を出荷する予定です。
——— 少々気が早いのですが、次の新製品についておしえてください。
FB 我々は今後、ソフトウェアとハードウェア、そして両者を組み合わせたハイブリッド製品の3本柱で製品を展開していこうと考えています。今回、「MiniBrute」というハードウェアを発表したので、次の製品はおそらくソフトウェアになるでしょうね。
——— 「MiniBrute」がかなり良いので、ポリフォニックでメモリーできるアナログ・シンセサイザーも期待してしまいます。
FB すぐというわけにはいかないでしょうが、将来的にはまたアナログ・シンセサイザーを開発したいとは思ってます。ぜひ期待していてください。
ICON: NAMM: Arturia、入魂のアナログ・モノ・シンセ「MiniBrute」を発表
フックアップ: 2012 NAMM Show 【速報】 NAMMショー2012でArturiaが、アナログシンセサイザー “MiniBrute”を発表!
http://hookup.co.jp/columns/extra-hookup/namm2012_minibrute
Arturia: MiniBrute
http://www.arturia.com/evolution/en/products/minibrute/intro.html