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Ableton Live+Max+初音ミクによって生み出される秘密系ガール、“ふんわりちゃん”とは? 第1回:Phasma インタビュー

分解系レコーズから作品を発表していたクリエイター:Phasmaと、DUB-Russellの一員としても知られるMax使いの才人:NOEL-KITのふたりが始めた謎のユニット、“ふんわりちゃん”。一昨年のボーマスで初のEP、『ふんわりちゃんと一緒!』をリリースした彼らは、その後もボーマスやコミケが開催されるたびに新作を発表。昨夏には待望のファースト・アルバム、『LVZ』をリリースして大きな注目を集めました。

Ableton LiveとCycling ’74 Max、そして初音ミクの組み合わせよって生み出される唯一無二の“ふんわりした”電子音響は、いったいどのようにして生み出されるのか。そもそも彼らのビジュアルでフィーチャーされている秘密系ガール、“ふんわりちゃん”とは、いったい何者なのか。ICONでは、そんな誰もが気になって仕方ないふんわりちゃんの世界に迫ってみることにしました。まずはその手始めとして、ふんわりちゃんの片割れ、Phasmaさんのインタビューをお届けします。

Funwari-chan - Phasma

中学のころからテクノに興味を持って、QY70で曲作りを始めた

――― ふんわりちゃんについての話に入る前に、まずはPhasmaさんのバックグラウンドについて話を訊きたいなと思っています。最初に…… Phasmaさんって普段は何の仕事をしているんですか?

Phasma フリーで商品プロモーション用の音楽を作ったり、Web関係の仕事をしたりしています。でも…… 基本的には家に籠ってインターネットをしていますね(笑)。

――― なるほど(笑)。Webデザイナーなのかな、とか勝手に思っていました。

Phasma 頼まれればそういう仕事をすることもあるんですけど、ぼくのデザインは我流なので……。Webとかも難しいことまではわからないですし。でも、デザインは昔から好きだったんですよ。いまは休刊になってしまったんですけど、家のリビングによく『室内』という建築雑誌が置いてあって、それに載っていた建築や家具がきっかけでデザインに興味を持ち始めたんです。高校のころになると、design plexとか+81とか、そういう雑誌を読むようになって。ちょうどインディーのグラフィック・デザイナーが注目され始めたころですよね。

――― 音楽を意識して聴き始めたのは?

Phasma 中学生くらいですかね。ぼく、ラジオが大好きで、夜中とかずっと聴いていたりするんですけど、当時FMでオールナイトニッポンではない電気グルーヴの番組があって、それでテクノにハマるようになったんですよ。かかるのは知らない曲ばかりだったんですけど、何だかカッコいいなって。ミニマルなテクノって、最初にキックから入って、次にハイハットが重なって、ベースが入って……という感じで、音がレイヤーで重なっていくじゃないですか。そういう曲を繰り返し聴くうちに、“なるほど、音楽ってこういう風に出来ているのか”と思って、自分でも曲を作ってみたくなったんです。当時はまだネットをやってなかったので、本屋に行っていろいろ調べて、ああいう曲が音源とシーケンサーというもので作られているということを知って。それでヤマハのQY70を買って、打ち込みを始めたんです。それが確か、中三か高一のときでしたね。

Funwari-chan - Phasma

Phasma『森の音楽』(2013)

――― 最初は好きな曲のコピーから?

Phasma いや、コピーとかはまったくやったことないです。そもそもコピーなんて出来ないですし、やろうと思ったこともないですね。最初はQY70を触ること自体がおもしろかったので、ひたすらというか、淡々と思いついたフレーズを打ち込んでました。QY70の容量にも限りがあるので、いっぱいになったら消して、また新しいフレーズを作るという(笑)。当時作っていたものは、曲の体裁もなしてなかったですね。4小節とか8小節のフレーズを作って終わりだったので、それらを組み立てて曲を作るところまでいってませんでした。

――― 打ち込むのは、やっぱりテクノっぽいフレーズばかり?

Phasma 当時打ち込んだ曲がMDに録ってあって、後で聴き返してみたことがあるんですけど、やっぱり当時好きだった音楽の影響が出てましたね。そのころはAutechreとかFour Tetとかが好きだったので、やたらと打ち込みが細かい(笑)。Four Tetってサンプリングがメインなわけじゃないですか。当時はサンプリングとか知らなかったので、ひたすら細かく打ち込んで、そういう雰囲気を出していました(笑)。がんばってパラメーターとかを細かくいじって、複雑な感じを醸し出して。音源がショボいんで、出来上がったのはFour Tetとはぜんぜん違うものでしたけど。でも、少し前に当時のMDを聴き返してみたんですけど、いまとやっていることはかけ離れてないなと思いましたね。結局、やっていることは十何年経ってもあんまり変わってないという。

――― 高校時代は、音楽がいちばんのホビーでした?

Phasma そうですね。友だちもほとんどいませんでしたし、学校から帰ってからはひたすら曲を作って、あとはラジオを聴くことくらいしか楽しみはありませんでした。高校を卒業してからは、それこそ暗黒時代に突入ですよ。暗黒時代と言うとカッコいいですけど、特段話すべきこともないという(笑)。高校を卒業してからは完全な引き蘢りだったので……。ちょうど高校を卒業したくらいからネットを始めたんですけど、特にパソコンが友だちという感じでもなかったですね。こはんを食べて寝る以外は、QY70でひたすら曲を作っていました。

Funwari-chan - Phasma

Phasma『klon』(2013)

――― 新しい機材を買ったりもせず?

Phasma お金も無かったですし、途中でヤマハのSU10というサンプラーを手に入れたくらいですね。SU10は、その後ズームのサンプラーにグレードアップするんですけど。パソコンは、ネット用にApple iBookを手に入れたんですが、しばらく曲作りには使っていませんでした。最初に外国製のフリーのソフト・シンセとか入れてみたんですけど、“おおお、すごい音が出るな”と思った程度で、曲作りには使いませんでしたね。あ、でもパソコンを手に入れたおかげで、QY70のデータをバックアップできるようになりました。これによって、曲作りのたびにデータを消す必要がなくなったという(笑)。

――― では高校卒業後は引き蘢って、QY70とサンプラーで曲作りの毎日と……。

Phasma そんな生活が何年か続いて、さすがにヤバいと思ったのでバイトを始めたんです。最初はヤマトの仕分けだったんですが、いちばん長く続いたのはゲーセンの店員でした。途中で店が移転したりしたんですけど、ゲーセンの店員は4年くらいやってましたね。

――― ゲーセンの店員ということは、ゲームが好きだったんですか?

Phasma いや、そういうわけでもなくて、家から近かったのと、たまたまバイト募集の告知を見たというだけで何となく。でも、バイトを始めたからと言って、やることは変わらず、家に帰って曲を作るという毎日で。バイト先で友だちが出来るわけでもなく、バイト先の人からは“何考えてるかわからない”とか言われてましたよ。ほとんど喋らなかったので、変な人に見られていたみたいで(笑)。

Funwari-chan - Phasma

Phasmaの自宅スタジオ。DAWはAbleton Liveで、入力用キーボードはコルグ microKORG XL

――― そんな毎日だったらお金は貯まるんじゃないですか?

Phasma そうですね。しばらくして、お金が貯まったので、パソコンを買い替えて、Ableton Liveを手に入れました。確かLiveがバージョン4とか5のときでしたね。CubaseとかではなくLiveにしたのは、単純に見た目が良かったから。あと、ループ・ベースという点もQY70と通じるところがあっていいなと。QY70時代は、フレーズを作って終わりという感じだったんですが、Liveを手に入れてから、ようやく作るものが曲の形になり始めました。QY70だけでやっていたころと比べると、えらい進歩だと思うんですが、実際に始めてみるとそんなに感動はしなかったですね。

――― Liveを手に入れてから、曲の作り方は変わりましたか?

Phasma どうなんでしょうね。コンピューターに鍵盤を繋いで、適当に弾いて、それを後で編集するというだけですから。鳴らすのはLive標準のソフト・シンセと、あとはフリーのもの。以前、ものは試しと市販のソフト・シンセを買ってみたんですけど、結局使わなくなってしまいました。Live標準のソフト・シンセは、見た目が統一されているのが良かったりするんです。

――― Liveだと、サンプル・ループも簡単に扱えますよね。

Phasma でも、ぼくは使わなかったですね。たぶん、こういう考えの人ってけっこういると思うんですが、ありもののループを使うことに抵抗感があったんですよ。何となく、やってはいけないことのような感じがして(笑)。そういうものは使いたくなかったんです。でも最近は考え方も変わってきて、そういうものを使うのもアリかなという気もしていますし、こだわりは無くなっているんですけど。

初音ミクを使えば、Cylobに近いことをもっとかわいい声で出来るんじゃないかと

――― 作った楽曲をネットで公開したりしなかったのですか?

Phasma Liveを手に入れたころって、ちょうどMyspaceが盛り上がっていたときだったので、ちょこっと発信(笑)してみたんですけど、誰も聴いてくれなかったのですぐにやめてしまいました。積極性のある人だったら、自分と近いことをやっているレーベルにデモを送ったりするんでしょうけどね。でも、そういうことに興味が無かったわけではないんですよ。単に、そこまでのすごい曲が出来なかったから積極的に動かなかったというだけで。ぼくは作り手以前に、音楽好きのヘヴィ・リスナーだったので、すぐに“この程度の曲じゃダメだろうな”と思ってしまうんですよね。

Funwari-chan - Phasma

ふんわりちゃん『ふんわりちゃんと一緒!』(2012)

――― そんなPhasmaさんがニコニコ動画に投稿し始めたのは?

Phasma ちょうどニコ動をチェックし始めたのと、初音ミクが盛り上がり始めたのが同じころだったんですよね。“コンピューターを歌わせることができるソフトがあるらしい”ということを知って、ニコ動でいろいろチェックし始めたんですよ。最初はもっとリアルな歌声なのかなと思ったんですが、想像に反してロボ声チックで、これはおもしろいなと。昔からロボ声は好きで、Cylobとかの影響でMacを喋らせたりしていたので。初音ミクを使えば、Cylobに近いことがもっとかわいい声で出来るんじゃないかと思ったんです。いま思うと、テクノ・チックな曲を作りつつも、歌モノもやってみたいという気持ちがあったんでしょうね。

――― 歌モノも好きだったんですか?

Phasma 中学のときは中村一義とか、J-POPも普通に好きで聴いてました。そういう曲を作りたいなと思ったこともあったんですが、自分はヘタクソなので歌うことはできないですし。それにバンドを組む友だちもいなかったですしね。

Funwari-chan - Phasma

コルグ nanoKONTROLの外装をモデファイしたオリジナル・コントローラー

――― 女の子ボーカルを募集したりとかは考えませんでしたか?

Phasma そういうことはまったく考えませんでしたね。たとえそんなアイディアを思いついたとしても、知らない人と話すことができないぼくには無理ですよ(笑)。

――― そんなPhasmaさんにとって、初音ミクの登場は福音だったと。

Phasma とりあえずおもしろそうだなと。あのイラストが好きとか、かわいいとか、そういうことを思ったわけでもなく、単純に自分が作った曲を歌ってくれるんだったらいいんじゃないかと思ったんです。

それで最初に作ったのが『春あああ』という曲で、ニコ動に投稿したのが2009年3月のことですね。ミクを買ったのはその前の年だったんですけど、何だかんだで時間がかかってしまいました。あの曲は、ロックというわけではないんですけど、自分で弾いたギターが入っていて、それをLiveで切り貼りして使っています。

ニコ動にアップして驚いたのは、Myspaceとはぜんぜん反応が違ったこと。再生回数はMyspaceとはケタ違いで、けっこうコメントも貰えたり、その反応の多さには驚きました。認められたというわけではないですけど、単純に曲を作ってよかったと思いましたね(笑)。それで気を良くして、そこから数ヶ月おきに1曲ずつアップしていきました。

Phasma『春あああ』(2009)

――― 初音ミクを手に入れる前と、手に入れてからの歌モノでは、曲の作り方は変わりました?

Phasma どうだろうな……。たぶん違うとは思うんですけど、作っているときはあまりそういうことは意識しないので、自分としては変わらないですかね。Autechreみたいなトラックに、メロディアスな歌を載せようとか、そういうことはまったく考えません。テクノも歌モノも、両方好きなので勝手にミックスしてしまう感じですかね。

――― 曲を作り始めるとき、頭の中に明確なイメージがあるタイプですか?

Phasma 明確なイメージがあって、それに向かって進んでいくというよりは、作りながらどんどん変わっていく感じですね。パソコンに向かった段階では、なんとなくこういう感じというイメージがあるときもありますし、まったくの白紙のときもあります。良さそうなクリップを置いて、適当に音色を作り始めて……みたいな。ジャンルとかも特に意識せず、好きに作りたいものを作っている感じです。

そんな感じなので、曲の完成というのもよくわかってないですね。頭の中に明確なイメージがあるんだったら、それに限りなく近づけた段階で完成ということになるんでしょうけど、ぼくの場合はそもそもイメージが無いことの方が多いですし(笑)、そんなにすばらしい曲が出来ないことは最初からわかっているので、“とりあえず完成させる”という感じですかね。決して満足のいく仕上がりになったから完成というわけではなく、キリがいいところで終わらせないと次の曲が作れないから、“とりあえず完成”にしてしまうというか。

コンピを作るときにNOEL-KITさんに声をかけ、交流がスタート

――― CDを作り始めたのは?

Phasma ニコ動に投稿し始めた段階では、CDを作るなんてことはまったく考えてなくて、コミケとかも当時はそんなに興味が無かったので、同人イベントに関してもあまり詳しくなかったんですよ。でも、ニコ動とかをチェックし始めると、いろいろな情報が入ってくるんですよね。世の中にはコミケだけでなく、ボーマスとかM3といった同人イベントがあって、みんなCDを作ってそこで即売していると。自分がニコ動で気になっていた人も参加していたりして、“へぇ、あの人もCD作っているんだ”と知って。それで興味を持ち始めた感じですね。

最初に同人イベントに行ったのは、2010年夏のボーマスで、どんなイベントかまったく知らなかったので、とにかく人が多いことに驚きました。ちょうどそのころになるとTwitterも始めていて、同じようにニコ動に投稿している人とやり取りしたりしていたんです。なのでボーマスでは、そういった人と実際に会って、ちょこっと話をしたりしました。

それで自分でもCDを作ろうかなと思い始めたんですが、ちょうど同じ頃にeffeさんがぼくのブログにコメントを書き込んでくれたんですよ。ぼくもeffeさんの作る曲がとても好きだったので、すごく嬉しくて。それでeffeさんと実際に会って話をしてみたんですが、音楽の趣味がすごく似ていて、同じようなテクノや電子音楽好きがボカロ曲を作っているということで意気投合したんです。ぼくの周りには、そういう人はまったくいなかったんですが、effeさんも同じ感じだったみたいで。それで一緒にコンピを作ろうということになったんですよ。それが“生活音×電子音×ボーカロイド”をコンセプトに作った『mono-oto』という作品なんです。結果的にこの作品が自分にとっての最初のCDということになりました。

Funwari-chan - Phasma

y0c1e『VANQUISH feat. 初音ミク(Funwari-chan remix)』(2012)

――― 『mono-oto』には、ふんわりちゃんの相方、NOEL-KITさんも参加されてますね。

Phasma effeさんと話して、“お互い気になる人を誘おう”ということになり、ぼくが声をかけた中のひとりがNOELさんだったんです。NOELさんも、ニコ動にアップしていた中で気になっていた人のひとりで、2009年くらいからボカロ曲をたくさんアップしていたんですよね。“ああ、世の中にはすごい人がいるなぁ”とか思いながら、コメントも残さずにこっそり聴いていました(笑)。それで『mono-oto』を作るときに声をかけて、NOELさんとの交流はそこからスタートした感じですね。

――― 現在使っている機材についておしえてください。

Phasma 基本的にAbleton Liveがメインというのは変わっていませんが、去年の初めごろにコンピューターをWindows XPのデスクトップからWindows7が入ったデスクトップに買い替えました。その他には、主にライブで使うMacBook Air、FocusriteとMOTUのオーディオ・インターフェース、MIDIキーボードとしても使うKORG microKORG XL、ライブで使うためのMIDIコントローラーが少しあるくらいです。オーディオ・インターフェースが2台あるのは、FocusriteのFireWire接続のヤツが家用で、MOTUのMicroBook IIはライブ用という使い分けですね。以前はローランドのオーディオ・インターフェースをライブ用に使っていたんですけど、ヘッドフォン出力とメイン出力のボリュームを独立して変えられなかったので、FocusriteのUSB接続の小さいヤツに買い替えたんです。でも、ふんわりちゃんでライブをするようになって、オーディオ入出力が足りなくなったので、少し前にMicroBook IIに買い替えました。家用のFocusriteのオーディオ・インターフェースには、スピーカーとヘッドフォン、仮歌用のマイクが繋いでありますね。

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――― となると、音作りは基本的にコンピューターの中だけで完結している感じですか?

Phasma たまにフィールド・レコーダーでサンプリングした音を使ったりもします。ズームのH4をずっと使っていて、少し前にH1に買い替えました。でも、外部の音を使うのは面倒なので(笑)、基本的にはコンピューターの中だけで作っている感じですね。

――― アー写で持っているCasiotoneは?

Phasma アレは見た目がかわいかったのでヤフオク!で買ったんです。最初は曲作りでも使おうかなと思ったんですが、面倒なので結局使わず、インテリアになってますね(笑)。そうそう、最近、同じく見た目がかわいいという理由で、littleBits Synth Kitを買ったんです。どちらもインテリアにしておくのはもったいないので、今年は積極的に使っていきたいですね。

Funwari-chan - Phasma

――― ふんわりちゃんの相方、NOEL-KITさんはCycling ’74 Max使いとしても有名ですが、PhasmaさんはMaxは?

Phasma ぼくはMax for Liveどまりです。おもしろそうだなとは思うんですけど、NOELさんみたいにすごい人がたくさんいるので、自分が手を出す領域ではないかなと。でも、たまに触ってみたくなるんですよね。だからNOELさんと、“初心者向けのMax講座をニコ生でやろうか”みたいな話をしているんですよ。NOELさんが先生で、まったくMaxがわからないぼくが生徒で。どうですかね?(笑)

〜 次回、NOEL-KITさんのインタビューに続きます 〜

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