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NAMM 2013: WavesとDiGiCoが新ブランド「DiGiGrid」をローンチ、DAWでWavesプラグインを多数使用するためのサーバーと、高品位なインターフェースを発表!
今回のNAMM Showに出品されるDAW/レコーディング関連製品の中で、最も注目を集めるのは、おそらくこれではないでしょうか。DAW用プラグインの王者、Waves社が英国のライブ・コンソール・メーカー、DiGiCo社とタッグを組み、新ブランド「DiGiGrid」をローンチ。Waves社独自のネットワーク・プロトコル、“SoundGrid”に対応したハードウェア製品を多数発表しました。その中には、“Waves版UAD(Apollo)”的な製品も含まれており、かなり話題を呼びそうな製品ラインナップとなっています。
「DiGiGrid」とは、Waves社とDiGiCo社が共同で立ち上げた新しいブランド名であるのと同時に、“SoundGrid”に対応した新しいハードウェア製品の総称とのこと。ちなみに“SoundGrid”に対応したハードウェア製品は、ご存じの方もいるでしょうが、「SoundGrid サーバ」として既に販売されています。「SoundGrid サーバ」は、Intel社のコンポーネントが使用されたLinuxベースのサーバーで、1GbpsのEthernetでデジタル・コンソールやコンピューターと接続することにより、多数のWavesプラグインを使用可能にするというもの。わかりやすく言えば、DiGiCo社やヤマハ、Allen & Heath社のライブ・コンソールで、Wavesプラグインを使用可能にするユニットなのです(“SoundGrid”と「SoundGrid サーバ」についての詳細は、日本代理店のタックシステムのWebサイトに詳しく掲載されていますので、そちらを参照してください)。
そしてこのこの“SoundGrid”と「SoundGrid サーバ」を、ライブ・コンソールだけでなく、DAWでも使用できるようにしたのが、今回発表された「DiGiGrid」というわけです。また、これまで“SoundGrid”と言えば、イコール・プロセッシング・ユニット(「SoundGrid サーバ」)というイメージでしたが、新しい「DiGiGrid」では「SoundGrid サーバ」だけでなく、I/Oユニットも多数用意。DAWの“処理”と“入出力”の両面をカバーする、充実の製品展開となっています。もちろん、従来の“SoundGrid”製品とも完全に互換性が保たれており、DiGiCo社のライブ・コンソールで使用していた「SoundGrid サーバ」を、DAWで流用することも可能。ライブ・システムとプロダクション・システムで、垣根の無いセットアップ(ライブ・レコーディング・システムなど)を組むことができるようになっています。
今回発表された「DiGiGrid」製品は、以下のとおりです。各製品には、「DiGiGrid」のロゴと共に、現在はDiGiCo社が所有する名跡、“SOUNDTRACS”のロゴがプリントされています。DiGiCo社の製品は、基本的にはライブ市場に向けたものであるため、レコーディング/プロダクション市場をターゲットとした「DiGiGrid」製品は、それらと差別化を図るため、DiGiCoではなく“SOUNDTRACS”のロゴを採用したということでしょうか。
● DiGiGrid #1:IOS
「DiGiGrid」を代表するであろう製品がこれです。2Uラック・サイズの「IOS」は、「SoundGrid サーバ」機能とI/O機能の両方を備えた高機能ユニット。“SoundGrid”ポート(RJ-45)を4基備え、コンピューターとCAT5e/CAT6ケーブル1本で接続するだけで、Wavesプラグインの処理とオーディオ入出力の両方をこなします。コンセプト的には、Universal AudioのApolloとよく似た製品と言えるでしょう。
まず、「SoundGrid サーバ」としての機能ですが、既に発売されている「SoundGrid サーバ One」と同等の処理能力を有しているとのこと(i5-2380)。具体的には、48kHz時で、SSL Channelプラグイン(Mono)を256インスタンス使用できるとのことです(96kHz時は半分の128インスタンス)。また、オーディオ信号が“SoundGrid”ポートに入って、出力されるまでのレーテンシーは、40サンプル(44.1kHz時で0.83ms)とのことです。
ここで気になるのが、「SoundGrid サーバ」で使用できるプラグインについてですが、Waves社の上級副社長であるミック・オレシュさんに確認したところ、「通常のバンドル(Mercury BundleやGold Bundle)ではなく、“SoundGrid”に対応したバンドルが必要になる」とのこと。これはちょっと残念な仕様なので、たとえばMercury Bundleのユーザーは、そのまま全プラグインが「SoundGrid サーバ」でも使用できるようにしてもらいたいですね(あるいは格安でのクロスグレードの実施など……)。
I/Oとしては、マイク・プリアンプを内蔵したアナログ入力を8ch(Neutrik製のコンボ・ジャックを装備)、TRSフォーンのアナログ出力を8ch(D-Sub 25pinも併装)、2系統のヘッドフォン出力、1系統のAES/EBU入出力、1系統のS/PDIF入出力(コアキシャル)、1系統のMIDI入出力、ワード・クロック入出力、サポート用のUSB端子を装備。マイク・プリアンプは、DiGiCo社が開発したかなりグレードの高いものとのことで、すべてのパラメーターは、専用のソフトウェアを使ってリモート・コントロールすることができます。アナログ入出力とデジタル入出力を合わせれば計12chの入出力が行えるわけですが、そういう使い方に対応しているかは不明。サンプル・レートは最高192kHz対応とのことですが、リリース時点では最高96kHzの対応になるとのこと。デジタル入出力には、SRCも備わっているとのことです。
そして肝心なことを書き忘れてしまいましたが、「DiGiGrid」製品はASIOとCore Audioの両ドライバに対応しています。
● DiGiGrid #2:IOX
「IOS」とは異なり、「SoundGrid サーバ」機能を備えていない(I/O機能のみの)ユニット。1Uラック・サイズで、2基の“SoundGrid”ポート、12chのマイク・プリアンプ内蔵のアナログ入力、6chのTRSフォーン・アナログ出力、4系統のヘッドフォン出力、ワード・クロック入出力を装備。いわば、コンピューターとは“SoundGrid”(Ethernet)で接続する、12ch入力/6ch出力のオーディオ・インターフェースです。
● DiGiGrid #3:IOC
「IOX」同様、「SoundGrid サーバ」機能は備えていない(I/O機能のみの)ユニットで、ライン入出力とデジタル入出力に重点を置いた製品。“I/O Control Room”と呼ばれている製品です。1Uラック・サイズで、2基の“SoundGrid”ポート、2chのマイク/ライン入力、D-Sub 25pinの8chのライン入出力、D-Sub 25pinのAES/EBU入出力が2系統(計16ch入出力)、ADAT入出力、2系統のヘッドフォン出力、ワード・クロック入出力を装備。豊富な入出力を備えていますが、実際に何ch入出力のオーディオ・インターフェースとして機能するのかは不明です。
● DiGiGrid #4:DLS
「IOS」と同じくらい注目を集めそうなユニットがこれです。2Uラック・サイズの「DLS」は、「IOS」と同じように「SoundGrid サーバ」機能とI/O機能の両方を備えたユニットですが、I/OはPro Toolsシステムと直結できるDigiLink端子のみ装備。マイク/ライン入力やAES/EBU入出力、ヘッドフォン出力などはまったく備えていません。Pro Toolsユーザー向けの「SoundGrid サーバ」/“SoundGrid”インターフェース、それが「DLS」なのです。
「DLS」のリア・パネルには、2基の“SoundGrid”ポート、2基のDigiLink端子、ワード・クロック入出力、サポート用のUSB端子が備わっています。「DLS」には、“SGP”モードと“I/O”モードという2つの動作モードがあり、“SGP”モードで「DLS」は、Pro ToolsのHD Core/HDXカードをシミュレートするとのこと。つまり、コンピューターとは“SoundGrid”で(Ethernet)で接続し、「DLS」のDigiLink端子にはHD I/OやHD MADIといったPro Toolsのインターフェースを接続するというセットアップになります。
もうひとつの“I/O”モードでは、「DLS」はPro Toolsのインターフェースをシミュレート。コンピューターと「DLS」は、“SoundGrid”だけでなく、DigiLink端子でHD Core/HDXカードとも接続。これにより、コンピューター(Pro Tools software)から「DLS」は、Pro Toolsのインターフェースとして認識されるとのことです。
ただ、この2つの動作モードについては、よく分からない点も多々あります。Wavesブースに展示してある接続図が“SGP”モードなのにも関わらず、“I/O”モードと紹介されていたり……。おそらくは、Pro Tools|HD/Pro Tools|HDXシステムのユーザーは“I/O”モード、ネイティブで(カード無しに)Pro Tools softwareを使うユーザーは“SGP”モードという使い分けだと思うのですが、不明な点が多く、定かではありません。続報をお待ちください。
「DLS」の「SoundGrid サーバ」機能は、「IOS」と同等。48kHz時で、SSL Channelプラグイン(Mono)を256インスタンス使用できるとのこと(96kHz時は半分の128インスタンス)。オーディオ信号が“SoundGrid”ポートに入って、出力されるまでのレーテンシーは、40サンプル(44.1kHz時で0.83ms)とのことです。
● DiGiGrid #5:DLI
1Uラック・サイズの「DLI」は、「DLS」から「SoundGrid サーバ」機能を省いたユニット。その他の機能は、「DLS」とまったく同一です。
● DiGiGrid #6:MGB
コンパクトな筐体の「MGB」は、1基の“SoundGrid”ポートと4基のBNC端子を装備し、“SoundGrid”とMADIの相互変換を可能にするユニット。48kHz時で、128chの入出力が可能になっています。他の「DiGiGrid」製品とシステムを組む場合だけでなく、128ch入出力が可能なMADIインターフェースとしても魅力的な製品です。
● DiGiGrid #7:MGO
「MGB」と同じ筐体の「MGO」は、1基の“SoundGrid”ポートと4基のオプティカル端子を装備し、“SoundGrid”とMADIの相互変換を可能にするユニット。「MGB」のオプティカル端子バージョンです。
● DiGiGrid #8:SWI
大規模な「DiGiGrid」システムの構築には欠かせない、1GbpsのEthernetスイッチ。5基のRJ-45端子を搭載し、「DiGiGrid」製品との完璧な互換性が保たれています。
● DiGiGrid #9:DMI for DiGiCo D-Rack and SD-Rack I/O
DiGiCo社のライブ・コンソールのコンポーネント、D-Rack/SD-Rack I/Oを「DiGiGrid」互換にするためのアップグレード・カード。
以上の9製品が、今回発表された「DiGiGrid」のコンポーネントです。「SoundGrid サーバ」機能とI/O機能の両方を備えたユニットが2機種(IOS/DLS)、I/O機能のみのユニットが3機種(IOX/IOC/DLI)、“SoundGrid”とMADIの相互変換ユニットが2機種(MGB/MGO)、Ethernetスイッチ(SWI)、DiGiCo社のライブ・コンソール用カード(DMI for DiGiCo D-Rack and SD-Rack I/O)というラインナップとなっています。
また、詳細についてはこれから会場で確認しなければならないのですが、タッチ・スクリーン対応のミキシング・ソフトウェアも提供されるもよう。これはSlate Digital社が昨秋のAESコンベンションで発表した「RAVEN MTX」に似た製品で、DAWを使用することなく、Wavesプラグインを使ったミキシングが可能になるものとのこと。こんな製品を出してくることからも分かるとおり、「DiGiGrid」は今後、プロセッシング・ユニット/オーディオ入出力の枠を超えて進化していきそうな感じです(そのうちレコーディング・ソフトウェアとかも出してくるんじゃないでしょうか?)。
その他、Waves社のミック・オレシュさんから聞き出した情報は、以下のとおりです。
——— 「SoundGrid サーバ」で動かせるのは、対応するWavesプラグインのみなのでしょうか?
MO 今後、Plugin AllianceもSoundGridプラグインをリリースする予定です。
——— このような大型製品を開発するパートナーとして、DiGiCo社を選んだ理由についておしえてください。
MO ライブ・コンソール用”SoundGrid”の開発で、とても良いパートナーシップが築けたからです。それより何より、彼らの製品のオーディオ・クオリティは非常に高い。これが一番の理由です。
以上、速報的に「DiGiGrid」の概要をお伝えしました(写真が汚くてすみません)。価格や発売時期、「DLS」と「DLI」の動作モードについてなど、まだまだ不明な点が多いので、これから会場に行ってより詳しい内容を探ってきたいと思います。
Waves