MUSIKTECHNIK
Vintage Computer Music #1: SONY RASSAPIATOR 〜 あのソニーが世に送り出した幻のソフト・シンセ 〜
現代の音楽制作に欠かせないツールであるソフト・シンセ。コンピューターを楽器に変えてしまうこの魔法のようなソフトウェアは、1970年代には既に製品として販売されていたので、我々が感じている以上に長い歴史があります。ということは、ハードウェアと同じく、既に“ヴィンテージ・ソフト・シンセ”が存在するということ。そこでICONでは不定期に、ヴィンテージ・ソフト・シンセの中から“これは名作”と思われるものを、フィーチャーしていきたいと思います(ネットを検索してもあまり出てこないので資料的に……)。
最初に取り上げるのは、個人的にかなり思い入れのあるソフト・シンセ、「RASSAPIATOR(ラッサピアター)」。あのソニーが1983年、8bitマイコン SMC-777Cのバンドル・ソフトとして世に送り出したソフト・シンセです。SMC-777シリーズは、MSX登場前夜に人気を集めたマイコンで、その強力なグラフィック/サウンド機能により、一部のマニアの間では“和製Apple II”と評されました。1983年に最初のモデル、SMC-777がリリースされ、翌1984年にはカラー・パレット機能を標準装備したSMC-777Cが登場。SMC-777Cは筐体色がブラックからホワイトに変わっただけでなく、「RASSAPIATOR」やグラフィック・ソフトの「Graphic Editor」、ゲーム・ソフトの「Striz B.H.(ストリッツ・ベーハー)」といったボーナス・ディスクが付属しました。
まずはSMC-777シリーズのカタログから紹介することにしましょう。これはSMC-777Cが発売になってからのカタログ。
当時、ソニーのマイコンには“HiT BiT(ヒットビット)”という愛称が付けられ、イメージ・キャラクターはNo.1アイドル、松田聖子が務めていました。このカタログでは、表紙で「RASSAPIATOR」がドーンとフィーチャーされています。上には、“音が自由につくれるラッサピアター装備。”というコピーも。
カタログを開くと、まるまる1ページ割いて「RASSAPIATOR」が紹介されています。“創造的な世界には、このヒーローがお似合いだ。”、“独創のサウンドが思いのままに楽しめる、ミュージックディスク。”など、少年の物欲をアップリフティングするコピーが並びます。
これは別の版のカタログ。MSXが登場したため、SMC-777シリーズのページは減ってしまい、「RASSAPIATOR」と「Striz B.H.」が同じページに紹介されています。
さてさて、「RASSAPIATOR」とはどのようなソフトウェアなのでしょうか。「RASSAPIATOR」は、SMC-777シリーズのために開発されたソフト・シンセで、キーボード(もちろん鍵盤ではなく、SMC-777シリーズ本体のアスキー・キーボード)を使って演奏したり、簡単なシーケンサーに録音して自動演奏したりできるソフトウェアです。プリセット・オルガンの“ORAN(オラン)”と、自由に音づくりができるシンセサイザーの“OSYN(オシン)”という2種類のモードを備えています。
その開発には、カミヤスタジオの神谷重徳氏が深く関わっています。カミヤスタジオや神谷重徳氏について紹介しはじめるとキリがないのでやめておきますが、シンセサイザー・アーティストであると同時に、自分で作曲用のソフトウェアも作ってしまう凄い人でした。カミヤスタジオと神谷重徳氏については、またいつかご紹介したいと思っております。
まず“ORAN”ですが、これはディスクを読み込んだら即オルガン・サウンドが楽しめるプリセット・オルガン。音色をエディットすることはできませんが、シーケンサーを使って3パート+ノイズの多重演奏が可能。デモ・ソング“ZUIZUI”のムービーをアップしましたので、ご覧ください(注意:長いです。笑)。SMC-777Cには、サウンド出力端子やヘッドフォン端子などは備わっていないため、これは本体のスピーカーで鳴らしたそのままの音です。
そしてもうひとつのモードが“OSYN”。これは完全なソフト・シンセで、多数のパラメーターを使って自由に音色を作ることができます。“ORAN”では3パート+ノイズの多重演奏が可能でしたが、“OSYN”では3パート+ノイズをオシレーターとして扱うため、多重演奏はできません。
まずはデモ・ソング、“KUWA”のムービーをご覧ください(これは短めです)。
これが“OSYN”のエディット・パネル。カラフルな画面で、いま見てもワクワクするデザインです。
“OSYN”のオシレーターは3パート+ノイズという構成で、各オシレーターのピッチは独立して設定することが可能。設定範囲は1オクターブと広く、和音を鳴らすことも可能になっています。また、ノイズに関してもピッチを設定することができるようになっています。
“OSYN”の音づくりの肝となるのがフリケンシー・モジュレーションで、オシレーターごとにピッチを変調させることが可能。LFOの波形やスピードなど、パラメーターが豊富に用意されています。
さらにはEGも装備しており、オシレーター+ノイズごとにエンベロープを設定することが可能。エンベロープ・カーブは4種類のプリセットが用意されており、選択したカーブを基に変形させることもできるようになっています。
そして「RASSAPIATOR」には、他のシンセサイザーにはない“Q-CAT”というユニークなパラメーターが備わっています。“Q-CAT”は、2基のオシレーターが発音するのと同時に猫の鳴き声のような音(“ミャー音”)を発生させるというパラメーターで、レゾナンスの効いたシンセのような音を出すことができます。これも“ミャー音パターン”や速度といったパラメーターを設定することが可能です。
というわけで、今回はこのへんで。いつ掲載できるか分かりませんが、次回は「RASSAPIATOR」を取り上げたソニー製マイコン専門誌、“Oh! HiT BiT”の記事を紹介しようと思います(SMC-777シリーズにMIDIを取り付ける記事など)。
ICON: Vintage Plug-In #1: Serato Scratch Studio Edition