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開発者に訊く、Ohm Force「Ohm Studio」 〜 “クラウドDAW”が実現する新しい形のコラボレーション 〜

新鋭DAWといえば、PreSonus Studio OneとBitwig Studioに注目が集まる今日この頃ですが、これからその2製品と同じくらい注目を集めそうな新鋭DAW、「Ohm Studio」が去る5月30日、遂に正式ローンチされました。

フランスのデベロッパー集団、Ohm Force社が長い年月をかけて開発してきた「Ohm Studio」は、離れた場所にいる複数のユーザーが同一のプロジェクトにアクセスして、共同で音楽制作を行うことができる“リアルタイム・コラボレーティブDAW”。煩わしいデータのアップロード/ダウンロードといった操作を行うことなく、簡単に共同作業が行える画期的なDAWです。

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DAWで共同作業を行うためのサービスというと、10年くらい前に注目を集めたRocket Networkを思い出す人もいるかと思いますが、「Ohm Studio」はさまざまな点でRocket Netowrkとは異なり、より洗練された(進化した)サービスとなっています。最大のポイントは、インターネット・コラボレーション機能を備えた専用のDAWソフトウェア「Ohm Studio」が無償で提供されるというところ。Rocket Networkは、Pro ToolsやCubaseといった既存のDAWにアドオン・ソフトウェアを追加することでインターネット・コラボレーション機能を実現していましたが、「Ohm Studio」は専用のDAWソフトウェアを提供することで、安定した動作とシンプルな使い勝手、さらにはチャットをはじめとするコラボレーション機能の統合を実現しているのです。

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また、クラウドを活用した今風な仕様になっているのも「Ohm Studio」の大きな特徴です。「Ohm Studio」では、オーディオ・データやMIDIデータを含むプロジェクトは、自動的にクラウドに保存された後、クライアント側にダウンロードされるという仕組みになっています。従って、「Ohm Studio」に不具合が生じ、強制終了してしまった場合でも、プロジェクトやオーディオ・データはクラウドに保存されているので心配不要。万が一、ローカルのハードディスクが壊れてしまった場合でも安心です。また、クラウドにすべてのデータが自動的に保存されているということは、「Ohm Studio」がインストールされたコンピューターがあれば、いつでもどこでも自分のプロジェクトにアクセスして作業ができるということでもあります。これはなかなか凄い特徴で、IMAPメールのような使い勝手を持った“クラウドDAW”と称してしまっても、そんなに大げさではない感じがします。

これを読んでいる人が気になるのは、専用のDAWソフトウェア「Ohm Studio」の機能と使い勝手かと思いますが、決してインターネット・コラボレーション用につくられた“簡易DAW”という感じではありません。最近のDAWに慣れた人にとっては、オーディオ/MIDIデータのエディット機能が不満かもしれませんが、音楽制作に必要な機能はひととおり網羅された“フル機能のDAW”と言っていいと思います。VSTプラグインなどもサポートし、Minimonsta:MelohmanをはじめととするOhm Force社製のソフトウェア・インストゥルメント/プラグイン・エフェクトはすべて付属。まだファースト・バージョンですから、足りない機能は順次追加されていくと期待していいのではないでしょうか。

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約2年前から招待制のベータ・テストがスタートし、先日、満を持して正式ローンチされた「Ohm Studio」。正式ローンチといっても、まだ課金などは始まっておらず、興味を持った人はインビテーション無しで無償で使い始めることが可能です(DAWソフトウェアの「Ohm Studio」は、今後も無償で提供され続けるようですが、インターネット・コラボレーション機能の利用は、将来的に月額課金制の有償サービスになることがアナウンスされています)。

今後、ICONでは「Ohm Studio」の動向を追いかけていきたいと思っていますが、その手始めとして、Ohm Force社の代表、フランク・バケット(Franck Bacquet)さんのインタビューを紹介することにしましょう。このインタビューは今年の3月、フランスを訪れたときに、“そろそろ「Ohm Studio」に動きがあるんじゃないか?”と思い、Ohm Force社に遊びに行ったときに収録したものです。ちなみにOhm Force社には何度か遊びに行ったことがあって、以前はタバコの煙にまみれた怪しい(汚い)地下室が作業場だったのですが、今回久々に訪れてみたらコギレイなオフィスに移転していて、ちょっとガッカリしました(笑)。あの怪しい感じがOhm Forceっぽくて良かったのに……なんて、どうでもいい話はさておき、それではフランクさんのインタビューをお楽しみください(なお、インタビュー内容は今年の3月時点のものですので、現在では変わっている仕様もあるかもしれません。その点はご容赦ください)。

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——— はじめに、Ohm Force社とはどんな会社なのか、簡単におしえていただけますか。

フランク・バケット(FB) Ohm Forceは2000年に、大学時代の友人8人で始めた会社なんです。コア・メンバーは設立当初から今に至るまで一緒ですが、デザイナーは何度か入れ替わっています。プラグインなんかを作るよりも、Webデザインをした方が儲かりますからね(笑)。

——— ソフトウェア・インストゥルメントやプラグイン・エフェクトを作ろうと思って始められた会社なのですか?

FB いいえ、違います。インターネット・コラボレーションができるDAW、つまり「Ohm Studio」を開発しようと思って集まったメンバーなんですよ。2000年の段階で、明確に「Ohm Studio」のビジョンがあったんです。「Ohm Studio」という名前もその時点で決まっていて、Ohm Forceという社名はそこから取ったものなんです。電気抵抗の強さを表す“オーム”という単語が昔から好きで、自分でDAWを作るのなら「Ohm Studio」という名前にしようと前々から考えていました。

——— 2000年の段階で、インターネット・コラボレーションができるDAWというコンセプトがあったのにも関わらず、すぐに開発に着手しなかったのはなぜですか?

FB 端的に言えば、経験が足りなかったからですね。ビジョンは明確だったのですが、それを実現するだけの技術もスキルも持ち合わせていませんでした。

それともちろん、開発資金の問題もありました。だからプラグインを作って、経験とお金を貯め、“その時”が来たら「Ohm Studio」のプロジェクトに取り組もうと思ったんです。2000年にスタートしたプラグイン・ビジネスは、まぁまぁ順調で、その間自分たちの開発力はそれなりに身に付き、ある程度お金も貯まりました。そして2007年、Ohmicide:Melohmanの開発が終わった後、「Ohm Studio」の開発をスタートしたんです。正確に言うと、Ohmicide:Melohmanのリリースが確か2008年だったと思うので、その完成を待たずに「Ohm Studio」の開発に着手した感じですね。その後、我々は今に至るまで「Ohm Studio」の開発に専念しています。もう5年も、新製品をリリースしていないんですよ!(笑)

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——— 余計なお世話かもしれませんが、5年も新製品を出さずに会社は大丈夫だったんですか?

FB 新製品を出さなかったというだけで、商品を販売していなかったわけではありませんから(笑)。ありがたいことに、これまでリリースしたプラグインはすべて、コンスタントに売れ続けています。それとフランスでは、我々のような新しいテクノロジーに取り組んでいる会社に対して、政府からの援助があるんですよ。

——— その話は以前、Arturia社のCEOにインタビューしたときも聞きました。

FB 彼らも我々と同じ援助を受けていると思います。確か、Flux社もそうだと思いますよ。我々のような小さなソフトウェア・カンパニーには、なかなか悪くない国なんですよ、フランスは(笑)。

——— それでは「Ohm Studio」について、その概要をおしえていただけますか。

FB 「Ohm Studio」は、世界初の“リアルタイム・コラボレーティブDAW”です。「Ohm Studio」のユーザーは、インターネットを介して、同一のプロジェクトを仲間同士で共有することができます。つまり「Ohm Studio」を使用すれば、遠隔地にいる複数のユーザーが共同で音楽制作を行うことが可能になるのです。

たとえば、あなたは今パリにいますが、「Ohm Studio」があれば、東京にいる友人と今すぐにでも共同作業を始めることができます。あなたが今、ここでドラム・パターンを作るとしますよね。東京にいる友だちは、そのドラム・パターンを聴いて、その上にベースを重ねることも、あなたが打ち込んだドラム・パターンを編集することもできます。いちちプロジェクト・ファイルやオーディオ・ファイルをサーバーにアップロードする必要はありません。「Ohm Studio」では、すべてがリアルタイムかつ自動的に実行されるのです。どうです? なかなか凄いDAWでしょう?

「Ohm Studio」には、ことばでは伝わらない楽しさがあります。従来のDAWは基本的に一人で使うツールだったと思うんですが、「Ohm Studio」はその固定概念を覆す完璧なコラボレーション機能を備えています。触ってみれば分かりますが、自分がドラム・パターンを編集している最中に、友人が他のトラックをアップデートしていく共同作業はとても楽しいものです。何人かのユーザーは私に、“部屋にいるのは一人でも、作業中は一人でいる感じがしない”と言ってくれました。このコメントを聞いて、私は“やった!”と嬉しくなりましたね。

これまで一人で音楽作業をしていた人で、共同作業に興味が出てきたという人は、ぜひ「Ohm Studio」で仲間を探してください。そう、「Ohm Studio」は、共通の趣味を持った人との“出会いの場”でもあるのです。実際、「Ohm Studio」で出会って、一緒に曲作りを行っている人はたくさんいますし、またそういった人たちはリアルな友だちにもその楽しさをどんどん広めてくれています。その結果、まだベータ・バージョンなのに、ユーザー数は我々の予想を上回るスピードで増えてしまっていますけどね(笑)。

——— 「Ohm Studio」は、専用のDAWと、インターネット・コラボレーション・サービスの総称という認識でいいのでしょうか。

FB そうですね。我々はインターネットを介して、共同で音楽制作を行うためのまったく新しいDAW、「Ohm Studio」を開発しました。「Ohm Studio」は、他のDAWと同様、それだけでも十分な音楽制作が行えるソフトウェアですが、インターネット・コラボレーション機能が統合されているため、我々が用意したサーバーに接続して、他のユーザーとプロジェクトをシェアすることができます。つまり「Ohm Studio」というのは、新しいDAWの名前でもあり、インターネット・コラボレーション・サービスの名前でもあるんです。

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——— 「Ohm Studio」は、インターネット・コラボレーションに特化した“簡易的なDAW”ではなく、“フル機能のDAW”なのでしょうか?

FB それを目指して開発を進めています。もちろん、CubaseやLiveといったDAWを知っている人からすれば、物足りない部分もあるでしょうが、基本的な機能はすべて装備しているつもりです。今後、バージョン・アップで少しずつ機能を追加していく予定ですので、長い目で見ていてほしいですね。新たにゼロから開発したDAWなので、そのぶん動作は軽快で、安定感も高いのではないかと思っています。

——— ということは、CubaseやLiveのユーザーが、思い切って「Ohm Studio」に移行してしまっても大丈夫ということですね。

FB 現状の「Ohm Studio」の機能で問題なければ、移行していただけるのはウエルカムです。それは我々にとって、とても嬉しいことですよ。実際、そういうユーザーもたくさんいます。“使い始めは他のDAWと併用していたけど、面倒になって今は「Ohm Studio」に移行してしまった”という話を何人ものユーザーから聞きました。

——— 他のDAWとのデータのやり取りは、オーディオ・ファイルで行うしかないのでしょうか?

FB 現時点ではそうです。オーディオ・ファイルやMIDIファイルでのやり取りですね。ただ、「Ohm Studio」に興味を持った人は、既に何らかのDAWを使用しているという人がほとんどだと思いますので、他のDAWとスムースにデータをやり取りするための方法をいろいろと検討している最中です。将来的には、他のDAWのプロジェクト・ファイルを、そのまま開くことも可能になるかもしれません。

「Ohm Studio」はリリース以来、1〜2ヶ月に1度はソフトウェアをアップデートしています。これはソフトウェアの安定性を高めるためでもあるんですが、ユーザーからの要望の多い機能を時間をおかずに搭載するためでもあるんです。ですので、現状備わっていない機能についても、ガッカリせずに待っていただければと思います(笑)。今日もあなたが訪ねて来る30分前に、新しいバージョンをリリースしたばかりなんですよ。

ソフトウェアがアップデートした場合、ユーザーがサーバーにアクセスすると、その旨がメッセージとして表示されるようになっています。現状では、新しいバージョンのソフトウェアを丸ごとダウンロードしていただかなければならないんですが、「Ohm Studio」はファイル・サイズが小さいので、それほどストレスは感じないと思います。将来的には、フル・ダウンロードだけでなく、差分だけのアップデーターも提供する予定ですよ。

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——— 先ほど、「Ohm Studio」を実際にデモしていただきましたが、基本的な動作としては、共同作業しているプロジェクトに対して録音や編集などを行うと、その変更が他のユーザーのプロジェクトにも反映される……という感じでいいのでしょうか。

FB そのとおりです。「Ohm Studio」では、作成されたプロジェクトはすべて、クラウドに保存されます。誰かがローカルでプロジェクトに手を加えると、クラウドに保存してあるプロジェクトが更新され、他のユーザーのプロジェクトも瞬時にアップデートされるという仕組みです。

Peer to Peerではなく、ユーザーの間にクラウドがあるというのは「Ohm Studio」の大きな特徴です。作成されたプロジェクトはすべてクラウドに保存されるため、何らかの理由でソフトウェアが強制終了してしまっても、作業中のデータは安全に保存されています。また、プロジェクトがクラウドにあるということは、作業を行うコンピューターが人のものでも構わないということです。「Ohm Studio」さえインストールすれば、世界中のどこでも、誰のコンピューターでも作業を行うことができます。

——— Gmailというか、IMAPメールのような感じですね。

FB Webブラウザで作業することはできないですけどね(笑)。「Ohm Studio」のことを“リアルタイム・コラボレーティブDAW”と称しましたが、シンプルに“クラウドDAW”と言った方が分かりやすいかもしれませんね。

——— 自分がプロジェクトを再生している最中に、他のユーザーがそのプロジェクトに手を加えたらどうなるのでしょうか。

FB まったく問題ありません。再生中であろうと、ローカルのプロジェクトは刻々とアップデートされます。たとえば誰かがMIDIデータを編集した場合、1秒くらいのブランクは生じてしまうんですが、それはほとんどリアルタイムに反映されます。

——— オーディオ・データに手を加えた場合でも大丈夫ですか?

FB 大丈夫です。オーディオ・データは重いので、MIDIデータよりもブランクが長くなってしまいますけどね。しかし再生中にエディットしても何ら問題はありません。

ただ、我々は「Ohm Studio」のリアルタイム性を大きくアピールしているものの、このソフトウェアを使って“ネット・ジャム”ができるようにしたいわけではないんですよ。「Ohm Studio」はあくまで、離れた場所にいる人たちが同一のプロジェクトにアクセスして、共同で作業するためのソフトウェアなんです。“同一のプロジェクトにアクセスできる”ことと、”同時に演奏できる”ことは、似ているようで違うんですよ。同じ時間に仲間同士が集まって、「Ohm Studio」を使って共同作業するのは楽しいんですが、別に同じ時間である必要はありません。というか、ユーザーの使用パターンを見てみると、実際は違う時間に作業していることのが圧倒的に多いですね。たとえば、あるプロジェクトのドラム・パターンをプログラムして、その日の作業を終えるとします。朝起きて、再びプロジェクトを立ち上げてみたら、仲間がそのドラム・パターンに手を加えていて、ベース・パターンを重ねてあった。そして、それを聴いてさらに手を加えていく……そういう使い方ですよね。

離れた場所にいる人たちがギターやベースを同時に演奏して録音することができる“ネット・ジャム”の機能は、将来的には搭載したいと思っています。ただ、上手く“ネット・ジャム”機能が実現できたとしても、ここパリと東京で“ネット・ジャム”を行うのは不可能でしょうね。最先端の技術をもってしても、同時演奏には耐えられないレベルのレーテンシーが発生してしまうと思います。同じ国とか、近い国同士とかであれば、何とか“ネット・ジャム”ができるようになるとは思いますが。

——— 「Ohm Studio」を快適に使用するためには、インターネット回線は速い方がいいのでしょうか。

FB いいえ、インターネットのスピードはあまり関係ないようです。たとえば、私はブルターニュ地方(フランス北西部の街)に住む友だちと一緒に作業したりしているんですが、とても快適にやり取りができています。ブルターニュ地方は田舎なので、まだパリのように高速なインターネット回線が整備されていないんですけどね。最初、オーディオ・トラックが多用された重いプロジェクトの場合、遅いインターネット回線だと問題が生じるかなと思っていたんですが、今のところインターネット回線がボトルネックになったという報告は耳にしていません。

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——— 「Ohm Studio」のようなソフトウェアを利用しなくとも、DAWユーザーが共同作業をする際に問題となるのがインストールされているプラグインの違いです。「Ohm Studio」はVSTプラグインに対応しているようですが、サード・パーティー製のものを使用する場合は、オーディオ化してやり取りした方がいいのでしょうか。

FB その点は十分に考慮しました。「Ohm Studio」には“コラボレーティブ・フリーズ”という機能が備わっていて、あるクライアントにしかインストールされていないプラグインが使用された場合、他のクライアントには自動的にオーディオ化されたトラックが現れるようになっています。プラグインがインストールされていないクライアント側では、いわゆるフリーズ機能が自動で実行される感じですね。でしので、仲間うちでプラグイン・マニアがいても大丈夫です(笑)。

——— 同一のプロジェクトには、何人くらい同時にアクセスできるのでしょうか?

FB 現時点では、約4,000人くらい同時にアクセスできると思います。つまり、約4,000人でリアルタイム・コラボレーションが行えるということですね。ただ、そんな巨大なプロジェクト、我々としてはやってほしくないですけど(笑)。サーバーが大変なことになりますからね。

——— 現在、ベータ版のユーザーは何人くらいいるのですか?

FB ベータ・テストを始めて1年くらいですが、現在ユーザー数は1,000人くらいですね。今は招待制なんですけど、2ヶ月後には正式ローンチしたいと思っています(実際には5月30日に正式ローンチされました)。

——— 現在のところ、サーバー側での障害は発生したことはないですか?

FB まったくないですね。ダウンしたこともないですし、プロジェクトを失うといった致命的なトラブルも発生したことはありません。途中、ファイル保存の問題が発生したんですけど、それはサーバー側の問題ではなく、我々のソフトウェアに問題があることが分かりました。それくらいですね。ちなみに「Ohm Studio」では、Amazon社が提供しているサーバーを使用しています。

——— 一人のユーザーあたりのストレージの容量に制限はあるのですか?

FB 今のところ制限は設けていませんし、その予定もありません。ギガ・クラスのプロジェクトをどんどん作成するユーザーが現れたらどうしようかと心配はしているんですけど(笑)、今のところそういうパワフルなユーザーもいませんから。もちろん、クラウド側のストレージの容量は決まっているので、将来的には制限を設けることになる可能性はありますけどね。ただ、有料に移行した場合、1ヶ月の料金は10ユーロを予定しているんです。10ユーロって、こういうサービスとしてはけっこうな価格だと思うんですよ。それだけの価格に設定するのであれば、ストレージの容量は無制限のままにしておきたいと思っています。

——— 朝起きてプロジェクトにアクセスしてみたら、仲間がいろいろなエディットを施してくれていたが、それが気に入らない内容だった……ということもあると思います。プロジェクトのバージョン・ヒストリーは残っていないのでしょうか?

FB よい質問ですね(笑)。「Ohm Studio」では、プロジェクトは5分ごとに自動的に保存されます。従って、5分ごとに昔のプロジェクトに戻ることが可能です。当初はPhotoshopのような更新履歴を装備していたんですけど、あまりにバグが多かったので、現在は外してしまいました。しかしクラウド側で5分ごとにプロジェクトを保存していますので、いつでも昔のバージョンに戻ることができます。

——— どのくらい前の状態まで戻ることができるのですか?

FB 「Ohm Studio」では、新規のプロジェクトを作成した瞬間から、5分ごとの更新履歴をすべて保存し続けています。一度保存した更新履歴は、一切消去しません。ただ、このポリシーも、ユーザー数とプロジェクト数の増加に伴って、いずれはクラウド側の容量を圧迫することになると思うので、近い将来、AppleのTime Machineのような仕様にしようと考えています。具体的には、一週間以内であれば5分ごとにさかのぼることができるが、1ヶ月前までさかのぼる場合は1時間ごとになったりという仕様ですね。

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——— 正式なローンチと同時に課金もスタートするのでしょうか?

FB 正式ローンチは2ヶ月後に予定していますが、その時点では課金は開始しません。課金については「Ohm Studio」の完成度や、ユーザーの反応を見て決めようと考えています。不具合が多いまま課金をスタートしても、ユーザーは誰もついてきてくれないと思いますからね。

——— 「Ohm Studio」を最初に知ったとき、10年くらい前にあったRocket Networkのことを思い出しました。

FB ありましたね。Rocket Networkは、コンセプトとしては共感するところもあったのですが、我々が考えていた「Ohm Studio」とは違うと思っていました。一番は、MIDIの扱いですね。彼らはオーディオのやり取りに主眼を置いていましたが、我々はMIDIデータのやり取りも重要だと考えていましたから。それとRocket Netowrkでは、運用するDAWはクライアントによって異なりましたが、我々の場合は最初から、「Ohm Studio」という共通のDAWを提供しようと考えていました。

——— AbletonやSteinbergといった既にDAWを持っているメーカーとコラボレーションするというアイディアは無かったのでしょうか?

FB そういう選択肢はありませんでしたね。無かったというより、自分たちが考えていたアイディアを具現化するためには、ゼロから作るしかなかったんです。既存のDAWをベースにしたものでは、我々が考えていた機能を実現するのは難しかったんですよ。だから自分たちでやるしかなかったんです。

——— フル機能のDAWをゼロから開発するというのは、とても大変な作業だったのではないでしょうか。

FB 正直、もの凄く大変でした(笑)。プラグインの開発では遭遇しなかったような問題もたくさん出てきて、それこそ地獄のような毎日でしたよ(笑)。

完成するまでにはいろいろな障害があったのですが、いちばんの失敗は、新しいDAWをゼロから作るということで気負いすぎてしまったことですね。ぼくらはそれぞれがLiveやCubaseのユーザーでもあったので、各DAWの良いところも悪いところも十分に理解していました。そんなこともあって、2007年というタイミングでゼロから新しいDAWを作るのなら、既存のソフトウェアを一切参考にせず、”音楽制作を行うにはどういった手法がベストなのか”ということを考えながら、まったく新しいユーザー・インターフェースを備えたDAWを作ろうと考えたんです。でも、この考えは失敗でした(笑)。やっていくうちに、結局は既存のソフトウェアのようなユーザー・インターフェースになってしまうんですよね。ヘタに自分たちでゼロからデザインしたこともあって、既存のソフトウェアよりも使いにくくなっていたり(笑)。たとえば、ボタンの並びとかが変だったり、あって当然の機能が入っていなかったり。最初から人気のあるDAWを参考にすべきでした。

技術的なことを言うと、プラグイン管理の部分の開発は想像以上に大変でしたね。これは他のDAWメーカーも感じていることでしょうけど、VSTプラグインに対応させるのは簡単でも、実際にすべてのVSTプラグインが動くような設計にするのはとても大変なことなんですよ。仕様書どおりに開発しても、実際には動作しないことが多いんです。

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——— 「Ohm Studio」を日本語などの多言語にローカライズする予定はありますか?

FB 「Ohm Studio」のローカライズについては前向きに検討しています。ただ、現在は開発で手いっぱいなので、正式にローンチして軌道に乗った後の課題ですね。

先ほども言ったとおり、「Ohm Studio」はリリース以来、頻繁にアップデートを行っています。この状態でローカライズしても、1〜2ヶ月後には新しく付け加えた部分の再ローカライズが必要になりますから、開発が落ち着いてから行った方がいいと思っています。

「Ohm Studio」にはチャット機能が備わっています。現状でも日本語などの2バイト言語には対応しているんですが、将来的には言語ごとにチャット・ルームを分けようと思っているんですよ。英語でやり取りをしている中に、フランス語がちょこちょこ混ざるのは読めない人にとっては、邪魔なだけですからね。プロフィールで、使用言語を登録できるようにしようと。2バイト言語に対応していると言いましたが、もし日本語で使用していて何か問題が発生した場合は、ご連絡いただければと思います。

——— 日本ではBitwig Studioが話題なんですが、あのソフトウェアにもインターネット・コラボレーション機能が装備されるのは知っていますか?

FB 知っています。ただ、私を含め、Bitwig関係者以外でその機能が動いているのを見たことがある人はいません。いつ実装されるかも発表されていない。その点、我々の「Ohm Studio」は現時点でちゃんと動いています。インターネット・コラボレーションがしっかりと機能しているのです。「Ohm Studio」なら、今この瞬間からすぐに使い始めることができます。

それと私が知っている限り、Bitwig Studioのインターネット・コラボレーション機能は、Peer to Peerだったはずです。その点、クラウド・ベースの「Ohm Studio」とはまったく異なるものだと思っています。

Ohm Studio

http://www.ohmstudio.com/

Ohm Force

http://www.ohmforce.com/

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