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製品開発ストーリー #26:コルグ volca kick 〜 開発者が語り尽くす、「最高の1小節を作るためのマシン」volcaのすべて
2013年のMusikmesseでデビューを果たしたコルグの音源内蔵シーケンサー、volca。特定のパート/音源に最適化された分かりやすさと、ガンガン打ち込める使いやすいループ・シーケンサー、そして圧倒的なコスト・パフォーマンスの高さ(どれも1万円台!)で、日本のみならず世界中で高い人気を誇っています。最初はコード・マシン(volca keys)、ベース・マシン(volca bass)、リズム・マシン(volca beats)の3モデルでスタートしたvolcaですが、その後サンプラー(volca sample)とFM音源(volca fm)もラインナップ。今春発売されたvolca fmは、DX7完全互換(!)ということでも話題になりました。 そんなvolcaの最新作として、本日発表されたのが「volca kick」です。“アナログ・キック・ジェネレーター”を謳う「volca kick」は、名機MS-20のフィルター発振を音源に据えたまったく新しい“低音生成マシン”。キック・ドラム専用機としてはもちろんのこと、音階も付けられるので、ベース・シンセサイザーとしても活用できる非常にユニークなマシンです。
そこでICONでは、volcaの開発プロデューサーであるコルグ開発部の高橋達也氏と、同じくコルグ開発部の岡本達也氏のお二人にインタビュー。volcaの開発コンセプトと新製品「volca kick」の詳細について、じっくりと話を伺いました。
volcaは、“最高の1小節”を作るためのマシン
——— 新製品「volca kick」の話に入る前に、あらためてこのシリーズの開発ストーリーを訊かせてください。volcaのデビューは2013年のMusikmesseだったと思いますが、そもそもどのようなコンセプトで誕生した製品だったのでしょうか?
高橋 volcaの源流はmonotronなんです。monotronは、ぼくと坂巻(註:坂巻匡彦氏。株式会社コルグ 商品企画室室長)の2人で、とにかく安価なアナログ・シンセを作ろうと思って開発した製品だったんですよ。当時は新品のアナログ・シンセが市場にほとんどなくて、高価なヴィンテージを手に入れるしかないような状況で。個人的にそういう敷居が高くてスノビズムな世界はあまり好きではないので(笑)、誰でも気軽に手に入れられるアナログ・シンセを作ろうと思って開発したのがmonotronだったんです。
ただmonotronを開発しているときは、安価なアナログ・シンセを作るということしか頭になくて、使われ方に関してはほとんど考えてなかったんですよね。リボン・コントローラーに触れて、アナログの気持ちいい音が出ればOKみたいな(笑)。そういう意味では、ある種実験的な製品だった。だからその次は音を鳴らすだけではなく、曲作りができるアナログ・シンセを作ろうと思ってmonotribeを開発して。monotribeは、monotronをベースに3パートのリズム音源とステップ・シーケンサーを搭載したマシンで、手軽にトラックメイクができるなかなかおもしろい製品だったのではないかと思います。
それで次はもっと曲作りに特化したマシンを作りたいと思ったんですが、いろいろアイディアを練っているときに感じたのは、あまり機能を増やし過ぎると逆につまらないものになってしまうんじゃないかということ。何かをやろうと思ってレイヤーを切り替えなければならないようなマシンは使う気になりませんからね。そこで思いついたのが、役割ごとに機能を限定したマシンというアイディアで、コード用マシン、ベース用マシン、リズム用マシンと分ければ、シンプルでおもしろいものができるんじゃないかと。
——— “役割ごとに機能を限定したマシン”というのがvolcaのコンセプトというわけですね。
高橋 とにかくシンプルなマシンを作りたかったんですよね。volcaは制作だけでなくライブ・ユースも強く意識して開発した製品なんですが、ぼくは自分でもやるから分かるんですけど、ライブのときは機材の操作のこととか考えたくないんですよ。そういう余計なことを考えた途端に、出音がつまらなくなってしまう(笑)。だから直感的に音色やパターンを作れるマシンにしたかったんです。もっと言えば、“最高の1小節を作ることに集中できるマシン”という感じですかね(笑)。トラックメイクのときって、パターンを延々とループして、とにかく最高の1小節を作ろうとするじゃないですか。volcaは、1小節にエネルギーを注ぎ込めるマシンにしたかったんですよ。
——— volcaは全モデル1万円台と非常に安価ですが、最初からこのくらいの価格をターゲットにしていたのですか?
高橋 価格は重要でしたね。monotronと同じように、誰もが気軽に買えるものにしたかったんです。TB-303じゃないですけど、安価でジャンクなものからおもしろい音楽が生まれると思っているので……。それにこの価格だったら、プラグイン感覚で手にしてもらえるんじゃないかと。“プラグイン感覚で買えるハード音源”というのもvolcaの裏コンセプトかもしれないですね(笑)。
——— サイズ感に関しては?
高橋 レイヤーを切り替えることなくすべての操作ができるようにして、一番下にステップを16個並べたら自ずとこの大きさになった感じですね。小ささよりこだわったのが薄さ。できるだけ薄くしたかったんです。
——— 端子類を背面や側面ではなく、パネル面に装備したのは?
高橋 上にあった方がモジュラー・シンセっぽくてカッコいいじゃないですか(笑)。複数台使うときも、くっつけて置けますしね。
——— volcaのコンセプトはよく分かりましたが、サウンド的にはどのようなことを考えましたか?
高橋 アナログのリズム・マシンっぽいスネアや、アシッドっぽいベースといったダンス・ミュージックの定番的な音色は出せるようにしようと。volca keysだけはちょっと異色で、良いコードを鳴らせるシンセということを考えました。
——— コルグの過去の名機のサウンドを継承していたりもするんですか?
高橋 そういう部分もありますね。例えば、volca keysとvolca bassのフィルターでは、miniKORG700Sのダイオード・ブリッジという回路を使用しているんです。monotribeで採用したMS-20のフィルターは、1VCOの音には凄くいいんですが、3VCOの音にはminiKORG700Sのフィルターの方が合うんですよ。複数の波形が被ったときの馴染む感じがとても良かったりするんです。ダイオード・ブリッジは、4つのダイオードを電流で上下に引っ張るという回路なんですけど、歪みが上下対称なので、元波形の倍音構成が崩れにくいという特徴を持っているんです。でもvolca bassでは最終的に、レゾナンスを上げるとギャンギャンいうチューニングにしてしまったんですけど(笑)。
——— 最初の3モデルの音源部はすべてアナログ回路なのでしょうか。
高橋 volca keysとvolca bassは完全にアナログです。volca beatsも基本アナログですが、クラップやクラベス、アゴゴ、クラッシュといった一部の音色はPCMですね。ちなみにアナログの製品って、回路ですべてが決まってしまうのでなかなか大変なんですよ。デジタルだったら、後からでもソフトウェアの書き換えでどうにかなりますから。だから岡本くんのような音を作る人にも企画段階から関わってもらって、いろいろ意見を聞きながら開発を進めていきました。基板を起こしてしまった後に、“やっぱりこっちの方がいい”と言われたら大変ですから(笑)。
——— volcaでサウンドと同じくらい高く評価されているのが、非常に使いやすいステップ・シーケンサーです。開発に入る段階ではどのようなシーケンサーをイメージしていたのですか?
高橋 先ほども言いましたけど、“最高の1小節を作る”ことに集中できるシーケンサーですね。とにかく直感的に打ち込めるシーケンサーを作ろうと。できるだけシンプルにしたかったので、最初は8ステップでもいいかなと思ったんですが、さすがにそれだと対応できないジャンルもあったりするので(笑)、最終的に16ステップにしました。
——— 実はモデルごとにシーケンサーの仕様は違いますよね。
高橋 ですね。モデルごとにスクラッチから開発しています。ベースだったらベース用、コードだったらコード用のベストなシーケンサーを目指して、パートごとに最適化しています。シーケンサーに関しては、他社のものとかヴィンテージものとかあまり参考にせず、本当にスクラッチから開発していますね。ぼくはハードウェアの設計担当なんですが、ソフトウェア担当と二人で、ああでもないこうでもないと言いながら開発しました。
——— volcaのシーケンサーで、すばらしいと思っているのがパラメーター変化をシーケンスできるMOTION SEQUENCE機能です。最初に見たとき、この価格帯の製品でMOTION SEQUENCE機能が入っているのは凄いなと思いました。
高橋 初めのうちは考えてなくて、後で入れようと思った機能ですね。MOTION SEQUENCE機能って、そんなに実装するのは大変ではないんですよ。ただ、データでメモリを喰うので、その扱いが面倒というだけで。
——— ACTIVE STEP機能もおもしろいですよね。
高橋 ACTIVE STEPは、monotribeで初めて搭載した機能ですね。volcaのシーケンサーは16ステップなんですけど、不要なステップをオフにできるというのがACTIVE STEP機能なんです。例えば16ステップのうち、13〜16ステップをオフにすれば、12ステップのシーケンサーとして使うことができる。ACTIVE STEPを使っても、1つ1つのステップの長さは変わらないので、異なるステップ数のvolcaを同期させれば、ポリリズムのようになります。シーケンサーを走らせながらステップのオン/オフができるので、ライブで使ってもおもしろい機能ですね。
今年発売したvolca fmには、ACTIVE STEPを進化させたWARP ACTIVE STEPという機能も搭載しました。ACTIVE STEPではステップの長さは変わらずにパターンの長さが変化しますが、WARP ACTIVE STEPでは逆にパターンの長さはそのままに、ステップの長さが変化するんです(笑)。例えば5つのステップだけオンにすれば、5連符のような歪なパターンになる。FM音源は硬めのサウンドなので、枠にはまらないパターンが合うんじゃないかと思って搭載した機能ですね。FM音源で、WARP ACTIVE STEPとMOTION SEQUENCEを組み合わせると、かなりおもしろいパターンができますよ。
また、volca keysだけにFLUXという機能も入っていて、クォンタイズせずにフレーズをレコーディングできるようになっています。コードに関してはジャストではなく、ちょっとモタり気味に入れたいときとかあるじゃないですか。そういうときに便利な機能ですね。
——— SYNC端子で簡単に同期できる点もvolcaの特徴です。最近はTeenage Engineering POシリーズなど、互換性のあるSYNC端子を装備した製品が増えていますね。
高橋 volcaのSYNC端子は昔のDIN SYNCよりもプリミティブで、パルスを受け取ったら1ステップ進むだけなんです(笑)。独自フォーマットを採用するのではなく、極力シンプルで汎用性のある端子にしたかったんですよね。最近はArduinoとかを使って音系ガジェットを自作している人も多いですから、そういうものにも簡単に実装できる端子にしようと。SYNC信号といっても本当に単なるパルス信号ですから、DAWのオーディオ・トラックを使っても同期できますよ。
——— 3モデルでスタートしたvolcaですが、2014年秋にvolca sample、今年の頭にはvolca fmがラインナップに加わりました。
高橋 第2世代のvolcaとして企画はスタートしたんですけど、最初の3モデルでは出せない音ということを考えて、サンプラーとFM音源を作ることにしたんです。volca sampleは、そのままではファクトリー・サンプルを鳴らすだけの“ロムプラー”なんですけど、iOSアプリを使うことでユーザー・サンプルも読み込める。また、SDKを公開しているので、MacやWindows、Android用のエディター・ソフトウェアもたくさん出回っていますね。
——— volca sampleは予想していたのですが、DX7互換のFM音源を搭載したvolca fmが登場したのには驚きました。
高橋 FM音源のサウンドって、やっぱりあれでしか出ないですからね。DX7互換にしたのは、インターネット上に数え切れないくらいのパッチが出回っていますから、それらを活用できたらおもしろいんじゃないかと思ったんです。それにFM音源にはコミュニティが存在しますから、そっちの世界の人たちにもvolcaを楽しんでもらいたいなと。
ぼくが言うのも何ですけど、volca fmは初めて鳴らしたとき、想像していた以上におもしろかったですね。FM音源にvolcaのシーケンサーを組み合わせると、こんなにも楽しいのかと。volca fmではアルゴリズムをMOTION SEQUENCEすることもできるんですけど、それってFM音源好きの人にとってはメチャクチャなことだと思うんですよ(笑)。“それはルール違反でしょう”とか言われたんですけど、出音がおもしろければOKかなと。volca fmは本当に楽しいマシンですね。
——— SYNC端子がもの凄くシンプルだったり、volca sample用のSDKが無償で公開されていたり、volca fmはDX7と完全互換だったり……。“オープン”というのもvolcaのキーワードの1つかもしれないですね。
高橋 そうそう。“オープン”というのは、volcaの重要なキーワードですね。Facebookのvolcaコミュニティを見ると、開けて改造しちゃっている人もたくさんいますし、凄く凝ったスタンドを作ってしまった人もいる。同じメーカーのものしか同期できなかったり、純正アクセサリーしか使えなかったりするのは、とてもつまらないと思うんですよ。いろいろな部分をオープンにすることで、volcaの世界が広がっていけばいいなと思っているんです。
——— これまで5モデル発売されたわけですが、一番人気のvolcaというと?
高橋 最初の3モデルとvolca sample、volca fmでは販売期間が違うので何とも言えないんですけど、大体同じくらいだと思います。強いて挙げるなら、volca beatsが最も人気があるかもしれないですね。
volca kickは、“低域の鳴りものマシン”
——— そして間もなく発売される第6のvolca、「volca kick」は何とキック専用機。このユニークなアイディアは一体どこから?
高橋 先ほどもお話ししたとおり、“最高の1小節を作ることに集中できるマシン”というのがvolcaの1つのコンセプトなんですけど、それだったらキックだけに集中できるマシンがあってもいいんじゃないかと(笑)。でも、単純なキック・マシンですと用途が本当に限られてしまうので、音階的にも音色的にもレンジを広げて、ベースやSEマシンとしても使えるようにしたんです。それによって、従来のvolcaでは難しかったスタイルの音楽にも対応できるマシンになるんじゃないかと。キック専用機というアイディア自体は、実はかなり前から練っていて、volca sampleとvolca fm、そして今回の「volca kick」の3モデルで第2世代のvolcaとして考えていたんです。発売は順々になってしまったんですけど。
——— キック専用機というだけでもユニークなのに、その音源がMS-20のフィルター発振というのがおもしろいですね。普通のオシレーター波形やPCMなどいろいろな選択肢があったと思うのですが、MS-20のフィルター発振を音源に選んだのは?
高橋 そもそもの実験をMS-20を使ってやっていたというのが大きいんですけど、単純に音が抜群に良かったからですね。サイン波などの波形と比べると、フィルター発振の波形は非対称で、いい感じの倍音が含まれているんです。
——— 今も鳴らしていただいてますけど、本当に良い音ですね。
高橋 この音の良さは、オリジナルMS-20の開発者による努力の賜物ですね。MS-20って、当時のアナログ・シンセとしてはとても安かったんですよ(註:定価99,800円)。アナログ回路の製品の価格を安くするには、当たり前ですが使用するパーツの数を抑えなければならない。例えば、普通にフィルター回路を組もうとすると、たくさんのトランジスターが必要になるんですが、MS-20ではたった2個しかトランジスターを使用していないんです。そのパーツの少なさを巧みな設計でカバーしていて、中を開けて見ると、2個のトランジスターが凄く変な繋ぎ方になっているんですよ(笑)。あのユニークな設計がMS-20のフィルター・サウンドの肝だと思っています。倍音がいい感じに含まれていて、EGをかけると独特の丸っこさが出てくるんですよね。
——— 「volca kick」ではMS-20のフィルター回路をそのまま移植しているのですか?
高橋 もちろんチューニングはしていますが、基本的にはそのまま移植しています。ただ、フィルター発振を音源として使用する上で、難しいのがピッチなんですよ。フィルターのレゾナンスって、温度とかの影響を受けやすく、動作が非常に不安定なんです。だからフィルター発振に音階を付けるのってけっこう大変だったりするんですが、ぼくらはvolcaの開発を通して、フィルターのレゾナンスを安定制御できる技術を開発したんです。それはminilogueでも使っているんですけど、フィルター発振を音源にできたのは、そんな技術を持っていたというのも大きいですね。キー・トラックでやろうと思っても、どうしても音痴になってしまいますから。要するにポンコツのような発振器でも音階を付けて演奏できるようにする仕組みなんですけど。
——— 「volca kick」という名前ですが、決してキック専用機ではなく、ベースをはじめ低域音源全般に対応するvolcaという感じですね。
高橋 そうです、そうです。低域の鳴りものマシンというか。volca kickで音階を付けた低音を鳴らして、あとはvolca sampleで硬めのハイハットを鳴らせば、それだけで曲ができてしまいます。
——— MS-20のフィルター発振にはどんなパラメーターが用意されているんですか?
高橋 PITCH、BEND、TIMEの3つですね。BENDで発振のピッチのエンベロープの深さ、TIMEで長さを調整できます。それとは別にアンプ・エンベロープのATTACKとDECAYも調整できるので、TIMEを短めにして、DECAYを長く設定すれば、キックの胴鳴り感を出すことができますね。また、volca bassのようなSLIDE機能や、BEND REVERSE機能も搭載しています。
——— すべてアナログ回路なのでしょうか?
高橋 基本的にはアナログ回路なんですが、アタック音を付加できるPULSE機能も備わっていて、この部分はデジタルですね。パラメーターはアタック音の音色を変化させるCOLOURとLEVELの2つで、これによってMS-20のフィルター発振に硬めのアタックを足すことができるようになっています。
——— 左側に備わっているDRIVEとTONEという大きめのノブは?
高橋 DRIVEが歪みで、TONEは少しレゾナンスが立ったローパス・フィルターなんですけど、内部の構成は少し複雑になっています。まず歪みに関しては2段階になっていて、ローパス・フィルターの前段と最後段に歪む素子が入っているんですよ。TONEの前段に入っているのは対称な歪みを作り出す素子で、最後段に入っているのは非対称な歪みを作り出すFETで。2段階で音を歪ませることによって、音の厚みが全然違ってくるんです。また、その間にローパス・フィルターが挟み込んであるというのも肝で、それによって様々な音色を作り出せるようになっています。
岡本 MS-20のフィルター発振以外のほとんどのパラメーターは、MOTION SEQUENCEに対応しています。DRIVEをMOTION SEQUENCEで動かすととてもおもしろいですね。
高橋 ローパス・フィルターを搭載したのは、MS-20のフィルター発振がレゾナンス固定なので、少し音色をコントロールできようにしかったからです。回路的にはシンプルなものなんですけど、元々の音が倍音成分が豊かなので、TONEノブによって程よい感じに馴染ませることができます。
——— パラメーター数は少ないですが、音色のバリエーションは広そうですね。
岡本 volca beatsをはじめ、世のリズム・マシンもそれなりの音作りはできるようになっているんですけど、理想のキックを作ろうとすると、どうしてもパラメーターが物足りなかったりするじゃないですか。だからと言って、MS-20のようなセミ・モジュラーのシンセでキックを作るのは、またそれはそれで大変。その点「volca kick」は、パラメーターの数は限られているんですけど、様々なバリエーションのキックを作ることができる。このあたりはキック専用機ならではなんじゃないかと思っています。リズム・マシンとシンセサイザーの中間的な音源というか、こういうマシンってこれまであまり無かったんじゃないかなと。
——— これまでのvolcaにはない新しい機能は何かありますか?
岡本 今回新たにTOUCH FXという機能を搭載しました。ステップ・キーに触れている間だけフィルやブレイクといったエフェクトがかけられる機能で、シンプルな4つ打ちのパターンもTOUCH FXを使うことでダイナミックに変化させることができるんですよ。言ってみればMIDIエフェクターのような機能ですね。指を離せば元のパターンに戻るので、ライブ・パフォーマンスに活躍してくれる機能だと思います。
——— 開発にあたって苦労した点というと?
高橋 普通のシンセサイザーやリズム・マシンって、開発時に基本構成がイメージしやすいんですよ。でも「volca kick」は、これまで作ったことがないタイプのマシンだったので、一体何が正解なのか判断に迷うことも多く、そのあたりが苦労した点ですかね。MS-20のフィルター発振が音源と言っても、普通のシンセサイザーと同じようにパラメーターを並べてしまったら、きっとつまらないマシンになってしまいますし……。どのパラメーターをどういう風にレイアウトすればいいのかというのが一番悩んだところでした。
岡本 欲しい音のためにパラメーターを多くしても、難しすぎると辿り着けないですからね。できるだけシンプルに、でもおもしろさは損なわずに。ぼくらはそんな作業のことを、“スウィート・スポットを広げる”と表現していましたけど。
——— キック専用機ということで、クラブで鳴り具合をチェックしたりは?
高橋 しましたね。でも音に関しては、特定のクラブで判断するのは厳しかったりするんですよ。だから主にライブをやる環境でシーケンサーの使いやすさとかはチェックしました。それで使いにくかった部分を改善したりとか。
——— 開発者的にこの部分に注目してほしいというのはありますか?
高橋 もうMS-20のフィルター発振の音に尽きますね。音階のレンジも十分ですし、これはもうVCOの無いシンセサイザーだと思っていただいてけっこうです(笑)。開発の初期段階では、やっぱり普通のオシレーターも入れようかなと思ったこともあったんですが、岡本くんが“アナログの音はフィルター発振だけでいいですよ”とアドバイスしてくれて、それは大正解でしたね。
岡本 やっぱりフィルター発振を主役にしたかったんです。ピッチ・スイープがとても気持ちいいので、飛び道具的なSEマシンとして使ってもおもしろいんじゃないかと思います。
高橋 これまでvolcaというとテクノ系の人たちに注目される機材だったと思うんですけど、「volca kick」によってジャンルが広がるんじゃないかと思っています。ヒップホップやダブの人にもぜひ注目してほしいですね。
——— 第2世代のvolcaとして、volca sample、volca fm、そして「volca kick」と3モデル出揃ったわけですが、ひとまずこれで終わりですか?
高橋 いいえ。volcaはまだまだ続きます。今後の展開も期待してください!