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製品開発ストーリー #23:ヤマハ MONTAGE 〜 史上最強のFM音源『FM-X』を搭載、モーション・コントロールによって、かつてない音表現を可能にした新世代シンセサイザー
今年1月のNAMM Showで発表され、大きな注目を集めたヤマハの新製品「MONTAGE(モンタージュ)」の出荷が遂に開始されました。「MONTAGE」は、ヤマハが初代MOTIF以来、実に15年ぶりにゼロから開発したという新世代フラッグシップ・シンセサイザー。超強力なヤマハの新型カスタムLSI、SWP70を積んだ初のシンセサイザーであり、同社の現時点での音源技術の集大成と言っても過言ではない意欲作です。
MOTIFシリーズの事実上の後継となるフラッグシップ機ということで、1台で音楽制作を完結できるワークステーション・シンセサイザーと思っている人もいるかもしれませんが、実はこの「MONTAGE」、そういったタイプの製品ではありません。シーケンサーは内蔵していますが、あくまでも思い付いたフレーズを記録するためのものであり、またユーザー・サンプルの読み込みには対応しているものの、単体でのサンプリング機能は省かれています。そのような“DAWでできる機能”は搭載しておらず、そのぶん音源部や音作り/音色変化の機能を充実させたのが今回の「MONTAGE」なのです。1989年に発売されたSY77からMOTIF XFに至るまで、ヤマハのフラッグシップ機は四半世紀以上ワークステーション・タイプの製品が続いていましたが、新しい「MONTAGE」はDX7II以来の“純粋なシンセサイザー”と言っていいでしょう。
そこでICONでは、「MONTAGE」とは一体どのようなシンセサイザーなのか、開発者にじっくりと話を伺ってみることにしました。取材に応じていただいたのは、「MONTAGE」の開発プロデューサーであるヤマハ 電子楽器開発部 DE開発グループの大田慎一氏と、同じくヤマハ ProMusic営業部 シンセマーケティンググループの伊藤章悟氏のお二人です。
ワークステーションではない音作りのための“リアル・シンセサイザー”、「MONTAGE」
——— 「MONTAGE」は、2001年に発売された初代MOTIF以来、実に15年ぶりにヤマハが送り出す新型フラッグシップ・シンセサイザーということになります。初代MOTIFが発売された2001年と今では、音楽制作環境はかなり変わったと思うのですが、“現代のフラッグシップ・シンセサイザー”を開発するにあたって一体どのようなことを考えたのか、まずは「MONTAGE」の開発コンセプトからお聞かせください。
大田 この十年でDAWとソフト音源の性能が向上し、プロ/アマ問わず、多くの人たちがコンピューター内部で音楽制作を完結させるようになりました。そんな時代に、ソフト音源で代用できるものを作っても意味がないと思ったので、ハードウェア・シンセサイザーの魅力って何だろうと改めて自問してみたんです。そして実際にハードウェア・シンセサイザーに向き合って感じたのは、当たり前ですがノブやスライダーに直に触れられて、音色を自由に変化させるられる点がやっぱり一番の魅力だなということ。入っている音色を呼び出して鳴らすだけだったら今やソフト音源で十分なわけで、今回はそういう方向性ではなく、シンセサイザーという楽器の魅力を改めて追求してみようと思ったんです。音色を自在に操ることができて、プレーヤーのイメージを表現できる、真の意味でのシンセサイザーにもう一度取り組んでみようと。そんな想いが「MONTAGE」開発のスタート・ポイントになっています。それが大体2年くらい前のことですね。
——— 国内メーカーのフラッグシップ・シンセサイザーというと、1台で音楽制作を完結できるワークステーション的なシンセサイザーをイメージする人が多いと思うのですが、今回はそういう方向性ではなかったということですか?
大田 そうです。「MONTAGE」は、プレーヤーのイメージを表現するためのシンセサイザーであり、MOTIFのようなワークステーション・タイプのシンセサイザーではありません。今や皆さんコンピューターを使って曲作りを行っているわけですから、DAWでできることはそっちに任せてしまおうと。ですからシーケンサーは入っていますが、あくまでも音表現のためのツールの一つという位置づけであり、細かい編集などはできません。サンプルの読み込みにも対応していますが、単体でサンプリングすることはできませんし、DAWでできてしまう機能は割り切って搭載しませんでした。今回は機能を詰め込むのはやめようと思ったんです。
伊藤 無理に機能を詰め込むと操作体系が複雑になってしまい、結果的にお客様にとって魅力的なものでなくなってしまいますからね。
——— なるほど……。「MONTAGE」は、MOTIFの流れを汲んだワークステーション・タイプのシンセサイザーかと思っていたのですが、実際は違うということですね。
伊藤 はい。MOTIFは“ミュージック・ワークステーション・シンセサイザー”だったんですが、今回の「MONTAGE」は“ミュージック・シンセサイザー”なんです。
——— 本格的なシンセサイザーを開発しようということになり、おそらくアイディアはたくさんあったのではないかと思います。reface CS的なアナログ・モデリング・シンセサイザー、最新DSPを積んだ強力なFMシンセサイザー、あるいはVLシリーズの流れを汲む物理モデリング・シンセサイザーなどなど……。「MONTAGE」は、どのような音源を搭載したシンセサイザーにしようと考えたのですか?
大田 使い手のイメージを音色で表現できるところがシンセサイザーという楽器の大きな魅力だと思うんですが、単純に過去の製品を踏襲したのではおもしろくないと思ったので、これまでにない新しい音表現ができるシンセサイザーにしたいなと。そして新しい音表現とは一体どのようなものなのか、スタッフ全員で探っているうちに浮かび上がってきたのが、“多次元音変化”と“リズミカルな音変化”という二つのキーワードなんです。この“多次元音変化”と“リズミカルな音変化”こそ、「MONTAGE」のコンセプト・ワードと言っていいと思います。
——— “多次元音変化”と“リズミカルな音変化”とは、一体どのような音の変化なのでしょうか。
大田 “多次元音変化”は、簡単に言ってしまえば、複数のパラメーターによる複雑な音の変化ですね。例えば、あるスライダーを動かした場合、カットオフ・フリケンシーだけでなく、レゾナンスやエンベロープのアタックなども一緒に変化する。単純に複数のパラメーターが同時に動くというのではなく、それぞれが最適な特性を持っていて、互いに作用し合いながら複雑に変化していく。そんな音変化のことを“多次元音変化”と呼んでいるんです。
楽器演奏って、プレーヤーが自分の感情を表現することだと思うんですよ。そして感情はとても複雑なので、音階や音の強弱だけでは到底表現しきれない。自分の感情を表現するには、もっと複雑な音変化が必要だと思うんです。それに対する我々の回答が、“多次元音変化”なんですよ。
そしてもう一つの“リズミカルな音変化”は、名前のとおりビートに同期した音変化ですね。音の三大要素のうち、メロディーとハーモニーは鍵盤楽器が得意とするところなんですが、リズムの表現はあまり得意ではないと思うんです。もちろん、鍵盤でもリズムを上手く表現するテクニックはあると思うんですが、ビートに合わせて音色のテクスチャーを変えることができれば、もっと高い表現力が得られるのではないかと。最近の音楽でも、サイドチェーンを使って上手く音を変化させたりしていますしね。
伊藤 DAWとソフト音源の組み合わせでも、オートメーション機能を駆使すれば複雑な音変化は可能だと思うんですが、「MONTAGE」は鍵盤楽器ですので、そういった音変化をリアルタイムにできるようにしようと。ステージ上でバンド・メンバーと目で合図をして、そこから一気に音色を変えていったりとか。リアルタイムな音変化、演奏表現力というのも「MONTAGE」で重視したポイントです。
大田 そして“多次元音変化”と“リズミカルな音変化”の二つを体現した新しい音源システムが『Motion Control Synthesis Engine』なんです。つまり「MONTAGE」は、従来型のモデリング・シンセサイザーでも単純なFMシンセサイザーでもなく、『Motion Control Synthesis Engine』という新しい音源システムを搭載したシンセサイザーということになります。
2種類の音源とそれらを制御する3種類の“モーション・コントロール”を融合した新しい音源システム、『Motion Control Synthesis Engine』
——— 「MONTAGE」の核となる新しい音源システム、『Motion Control Synthesis Engine』についておしえてください。
大田 「MONTAGE」のコンセプトである“多次元音変化”と“リズミカルな音変化”という二つの音変化を具現化するため、我々は今回新たに『Super Knob』、『Motion Sequencer』、『Envelope Follower』という3種類の“モーション・コントロール”を開発しました。“モーション・コントロール”とは、パラメーターを制御して音を変化させる仕組みのことですね。そして「MONTAGE」は、『AWM2』と『FM-X』という2種類の音源を搭載しているんですが、それらと3種類の“モーション・コントロール”を融合した音源システムのことを『Motion Control Synthesis Engine』と呼んでいるんです。
——— 一般に音源というと、音声信号を生成/出力する回路のことを指しますが、音色を変化させる仕組みまでも音源部に統合されているというのがおもしろいですね。
大田 はじめにも言ったとおり、今の時代、音を鳴らすだけだったらソフト音源で十分なわけです。ソフト音源では不可能な音色をリアルタイムかつ複雑に変化させる仕組み、“モーション・コントロール”は「MONTAGE」の肝と言える機能ですので、この部分も含めて『Motion Control Synthesis Engine』と呼ぶことにしました。
——— 音を生成する回路として、PCM音源の『AWM2』とFM音源の『FM-X』という2種類の音源を搭載することにしたのはなぜですか?
大田 『AWM2』を搭載することは最初に決まったんですが、音色を強力に変化させることができる“モーション・コントロール”の制御先として、サンプル・ベースの音源だけではもったいないなと。合成タイプの音源の方が、より“モーション・コントロール”の真価を発揮できるのではないかと考えたんです。もちろんバーチャル・アナログという選択肢もあったんですが、我々の強みを考えればやっぱりFM音源ではないかということになり、最終的に『AWM2』と『FM-X』という2種類の音源を搭載することになりました。
伊藤 そして「MONTAGE」は、ヤマハの最新カスタムLSI、SWP70が採用された最初のシンセサイザーなんです。SWP70には、『AWM2』とFM音源が最初から搭載されており、内部の回路はそれら2種類の音源に最適化されています。従ってどんな使い方をしても最高のパフォーマンスが得られる設計になっています。
大田 『AWM2』、『FM-X』ともに最大128音ポリで、合計256音ポリのシンセサイザーとして動作します。『AWM2』はサンプル・ベースの音源ですので、メモリからサンプルを読み込む必要があるわけですが、SWP70にはNAND型フラッシュ・メモリからデータを読み込んで音源処理する仕組みが実装されているため、これまで以上に大容量のサンプルを搭載できるようになり、発音数も従来の『AWM2』の実質的に倍となるステレオ128音を確保できるようになった。また、SWP70に積んであるDSPもかなり強力で、従来のカスタムLSIと比べると、その処理能力は4倍くらいになっています。例えば、これまで10個使えていたエフェクトがあったとしますと、SWP70では同じものが40個使えるようになりました。「MONTAGE」の強力な『Motion Control Synthesis Engine』を実現できたのは、SWP70の高い処理能力よるところが大きいですね。
——— 『AWM2』のサンプルは、ヤマハが長年蓄積してきた音源資産の中からセレクトされたものが中心になっているのですか?
大田 いいえ。ほとんど「MONTAGE」のために新たに収録したサンプルですね。波形容量で言えば、7〜8割は新しいサンプルと言っていいと思います。レコーディングは日本はもちろんのこと、アメリカやヨーロッパなど、世界各国で行いました。サンプルの容量は16bitリニア換算で約5GBで、約1.7GBのフラッシュ・メモリを搭載しています。
——— 『FM-X』とネーミングされたFM音源についておしえてください。
大田 『FM-X』は、新世代のFM音源を目指して開発した非常に強力な音源です。基本的には8オペレータ/88アルゴリズムのFM音源なんですが、モジュレーター波形/キャリア波形ともに、7種類の波形が選べるようになっているのが最大の特徴です。さらには選択した波形を、“Skirt(スペクトルスカート)”と“Resonance(スペクトルレゾナンス)”という2つのパラメーターで複雑に変化させることができる。ですから元波形は7種類ですが、実際には無限の波形が入っていると捉えていただいて構いません。
——— 波形をどのように変化させているのですか?
大田 波形を生成する際の演算の値を変えているんです。例えば、波形の周期の前半と後半で、べき乗の値を変えたりとか。それによって波形はどんどん変化していく。これはFS1Rと似たアルゴリズムですね。ただ、FS1Rを含むこれまでのFM音源と決定的に違うのが、エンベロープ・ジェネレーターの分解能。出音の解像度がこれまで市場に出回ったFM音源とは桁違いに良くなっていると思います。ですからDXシリーズの音色を「MONTAGE」に移植して鳴らしただけでも、かなり高品位なサウンドになる。FM音源を使いこなしている方なら分かるとおもいますが、エンベロープ・ジェネレーターって音色を左右する非常に重要なパートなんですよ。ですから今回、その解像度にはこだわったんです。
伊藤 これだけでもかなり強力なFM音源なんですが、さらに『FM-X』には『AWM2』と同じ内容のフィルターやエフェクターが入っているんです。つまりFMで複雑な音色を作った後、『AWM2』と同じ感覚でフィルターやエフェクターを使って音を加工できる。まさに史上最強のFM音源と言ってもいいと思います。
最大128種類のパラメーターを一気に変化させることができる、革新的なコントローラー『Super Knob』
——— 『AWM2』と『FM-X』を操る3種類の“モーション・コントロール”ですが、まず『Super Knob』とは一体どのようなものなのでしょうか?
大田 タッチ・スクリーンの左側に備わっている大きなノブが『Super Knob』で、「MONTAGE」のコンセプトの一つ、“多次元音変化”を具現化したまったく新しいコントローラーです。
『Super Knob』を紹介する前に、パネル左側に横一列に並んでいる8基のノブについて説明しておく必要があります。「MONTAGE」には膨大なパラメーターが用意されているわけですが、各音色の“最もおいしいパラメーター”がこの8基のノブにあらかじめアサインされているんです。しかも音色によっては、一つのパラメーターでなく、最大で16種類のパラメーターがアサインされている。従ってカットオフ・フリケンシーやレゾナンスといった単一のパラメーター用ノブではなく、音の“明暗”や“滑らかさ”などを包括的にコントロールできるノブとイメージしていただいた方がいいかもしれません。
そして『Super Knob』には、左に回し切ったときの8基のノブの値と、右に回し切ったときの8基のノブの値がストアされ、『Super Knob』を回すことで8基のノブの値、つまり2種類の音色をモーフィングすることが可能なのです。説明したとおり1基のノブには最大16種類のパラメーターがアサインされているわけですから、『Super Knob』という一つのコントローラーで、理論値として最大128種類ものパラメーターを一気に変化させることができるわけですね。これによって非常に複雑で、予想できない音色変化を生み出すことができます。
伊藤 1基のノブで複数のパラメーターをコントロールする機能はMOTIFシリーズにも備わっていたんですが、それをさらに進化させたのが「MONTAGE」の『Super Knob』になります。
大田 実は私が昔開発を手がけたAN200やDX200にも、できることは『Super Knob』には及びませんが、少し似た機能が入っていたんです。ノブにパラメーター値をストアして、その中間値を遷移させるという機能が備わっていたんですが、それが『Super Knob』のヒントになっていますね。
——— かなり強力なコントローラーだと思うのですが、最大128種類ものパラメーターが変化するとなると、そんな“多次元音変化”に耐えられる音源でないとダメですよね。解像度の低い音源ですと、最大128種類ものパラメーターを一気に動かした際にノイズが発生したりするのではないでしょうか。
大田 おっしゃるとおりです。しかし「MONTAGE」の音源は、新しいカスタムLSIのおかげで非常に解像度が高いので問題ありません。
ただ今回、すべてがなめらかに変化するのもおもしろくないと思い、我々は真逆のアプローチを取っていたりもするんです。どういうことかと言うと、MOTIFシリーズまではすべての音階でどんなに急激にパラメーターを変化させても決してノイズが発生しない設計にしていたんですが、「MONTAGE」ではパラメーターの設定範囲を意図的に狭めたりするのはやめているんです。特定の状況下で、あるパラメーターを振り切った際にプツプツノイズが発生したとしても、それは今回そのままにしておこうと。もちろんパラメーターの設定範囲を少し狭めればいい話なんですが、そういった部分に蓋をしてしまうと、美味しい部分が失われてしまい、シンセサイザーとしての魅力を削いでしまう気がしたんですよね。ですから「MONTAGE」では、音源の解像度をできるだけ高くし、パラメーターに制限をかけるのはやめたんです。その結果、かなり過激な音作りができるシンセサイザーに仕上がっていると思います。
伊藤 低いベース・ノートは良い音なのに、高い音階でノイズが発生するがためにパラメーターに制限をかけてしまったらもったいないですからね。ノイズも「MONTAGE」の個性という発想で、今回はパラメーターに制限をかけるのはやめました。
大田 ですから実際、パラメーターの組み合わせや変化の仕方によっては、ノイジーな音になることもあると思います。なのでMOTIFシリーズは優等生でしたけど、「MONTAGE」はじゃじゃ馬的なシンセサイザーですね(笑)。乗りこなすのは大変ですけど、手なずけたら凄いよという。
——— “モーション・コントロール”の二番目、『Motion Sequencer』とはどのようなシーケンサーなのでしょうか?
大田 『Motion Sequencer』は、「MONTAGE」のもう一つのコンセプトである“リズミカルな音変化”を体現したシーケンサーです。要はパラメーターの変化だけを記録するシーケンサーで、「MONTAGE」では音色の最小単位をパート、複数のパートの組み合わせをパフォーマンスとして扱うのですが、『Motion Sequencer』はパートごとに最大4レーン、パフォーマンスでは最大8レーン使用することができます。シーケンスは押鍵やパネル・スイッチでトリガーすることができ、内蔵クロックや外部クロックはもちろんのこと、オーディオ入力のビートを解析してそれに対して同期させることもできます。一般的にシーケンサーというと、制作用ツールというイメージがありますが、我々はライブでも積極的に使ってほしいと思ったんですよ。しかしライブでシーケンサーを使うとなると、ドンカマが必須になりますし、いざ使うとなると嫌がるドラマーも多い。しかし「MONTAGE」の『Motion Sequencer』なら、オーディオ入力にドラマーのキックを入れるだけで同期させることができるんです。
伊藤 『Motion Sequencer』はあくまでもパラメーター変化のためのシーケンサーで、ノート情報を叩く場合はアルペジエーターなどを併用します。
——— もう一つの“モーション・コントロール”、『Envelope Follower』はその名のとおりオーディオ入力を利用したエンベロープ・フォロワーですか?
大田 そうです。オーディオ入力や各パートの出力の振幅の包絡を解析して、それによってパラメーターをコントロールするという機能ですね。これも「MONTAGE」のコンセプト、“リズミカルな音変化”を体現した機能と言えます。サイド・チェーンをイメージしていただければ分かりやすいと思うのですが、「MONTAGE」の場合は複数のパラメーターを同時にコントロールできるのがポイントです。
伊藤 『Envelope Follower』は持続系の音色で使うととても効果的ですね。
大田 『Super Knob』、『Motion Sequencer』、『Envelope Follower』という3種類の“モーション・コントロール”こそ、「MONTAGE」の肝の機能と言っていいと思います。「MONTAGE」は単純に新しい音源を積んだシンセサイザーではなく、“モーション・コントロール”と最新の音源技術の融合によって、かつてない音表現を実現するまったく新しい電子楽器なんです。
音切れなく音色を変更できる『Seamless Sound Switching(SSS)』
——— その他の機能についてもおしえてください。
大田 6ch入力/32ch出力、最高192kHz対応のオーディオ・インターフェース機能を搭載しています。また「MONTAGE」のユーザーは、Steinberg Cubase AIを無償でダウンロードしていただけます。
伊藤 既にお使いいただいているミュージシャンの方からすこぶる評判が良いのは、『Live Set』という機能です。パネル中央には大型のカラー・タッチ・スクリーンが備わっていますが、ここによく使う音色を『Live Set』として16種類アサインしておくことができるんです。4×4で16個のマス目が表示され、ワン・タッチで任意の音色を呼び出せると。
大田 そして「MONTAGE」は、新しい『Seamless Sound Switching(SSS)』という機能によって、発音中に音色を切り替えても音が途切れない設計になっています。これもSWP70のおかげで実現できた機能ですね。
あと便利なのが、パネル左側のスライダー下に備わっているシーン・スイッチ。このスイッチを使うことで、パフォーマンスのパラメーターを簡単に保存することができるんです。シーン・スイッチは8基備わっているので、同じパフォーマンスのパラメーター違いを8種類保存し、素早く切り替えられるということですね。これはライブでかなり有効な機能だと思います。
伊藤 ソフト音源では一般的な機能ですが、任意の操作子にパラメーターを簡単にアサインできる『Direct Control Assignment』も便利です。タッチ・スクリーンで希望のパラメーターに触れて、あとは操作子を少し動かすだけでアサインできる。とても直感的な機能ですね。
——— パネル上にはかなりの数の操作子が備わっていますね。
大田 極端な話、タッチ・スクリーンがあればほとんどの操作ができてしまうわけです。しかしタッチ・スクリーンって良い点ばかりではなくて、実際の操作は手数が多くなりがちなんですよ。目的のパラメーターを表示させるために何度も画面を押さなければならなかったりとか、それにいくら性能が上がったとは言っても、タッチ・ミスは避けられない。ですから今回、パネル・スイッチにもこだわりました。
——— スイッチの多くが自照式で、暗いステージの上やスタジオでも操作しやすそうです。
大田 スイッチは単に自照式というだけでなく、現在有効なスイッチは中間の明るさで点灯するようになっているんです。つまり、機能が無効なスイッチは光らない。こんな設計を採用したのは今回の「MONTAGE」が初めてで、実際に操作してみると凄く分かりやすいですね。パネル上の各操作子のレイアウトも、かなり考えました。
——— 筐体のデザインで考えたことは?
大田 次世代感と新しさを出したいとデザイナーに伝えました。その結果、直線基調のMOTIFシリーズとは異なる曲線を活かしたデザインなりましたね。所有欲が刺激されるデザインで、次世代感も出ていると思いますし、とても気に入っています。
——— 「MONTAGE」という名前の由来についてもおしえてください。
大田 ご存じのとおり複数のカットを組み合わせた映像技法のことをモンタージュと呼ぶわけですけど、今回開発した“モーション・コントロール”はまさにその音版だなと思い、「MONTAGE」と名付けました。MOTIFと同じMで始まるというのも、連続性があって良いなと思ったんです。
——— 開発で苦労した点というと?
大田 もう苦労の連続でした(笑)。一番大変だったのは、“多次元音変化”と“リズミカルな音変化”という二つのコンセプトを、いかに具現化して楽器として完成させるかという部分ですね。頭でっかちな製品ではなく、プロ・ミュージシャンの方に直感的に使っていただける楽器として仕上げなければならない。とにかく新しい技術が満載で、既存の製品を参考にするということができなかったため、何が正しくて何がダメなのかというのを自分たちで判断しなければならなかった。ですから開発期間も考えていた以上にかかってしまいましたね。開発プロジェクトがスタートしたのは約2年前と言いましたが、音源部や“モーション・コントロール”の基礎技術の研究はそれよりも前にスタートしているので、実際には4年以上かかっています。
——— これから楽器店に足を運んで「MONTAGE」をチェックする人も多いと思うのですが、特におすすめの音色があればおしえてください。
伊藤 ファクトリーの『Live Set』には、おすすめの音色がショー・ケース的に収録されています。中でも1ページ目と2ページ目は、特に素晴らしい音色を集めた“Best of MONTAGE”という『Live Set』になっていますので、まずはそちらをチェックしていただければと思います。
大田 私は“Best of MONTAGE”の二番目に入っている“Wax and Wane”という音色が特に気に入っています。『FM-X』のパッドなんですけど、“モーション・コントロール”の魅力が分かる音色になっていると思います。
伊藤 確かに“Wax and Wane”は、ソフト音源を含め他のシンセサイザーでは絶対に出せない音色ですね。私はエレピ系の音色がとても気に入っています。典型的なDXエレピはもちろんのこと、今の時代のエレピの音色がたくさん入っているんですよ。
——— まだ発売されたばかりですが、市場の反応はいかがですか?
伊藤 我々が思っていた以上に良い反応ですね。プロのミュージシャンからは、とても実用的なシンセサイザーという評価をいただいています。バッキングで使える普通の音色もたくさん入っていて、基本的な部分がしっかりしていると。もちろん“モーション・コントロール”などの新機能も大変好評です。
大田 今回、開発時に考えていたのが、流行りの音楽を意識するのはやめようということなんです。流行の音楽を意識して開発してしまうと、時間が経つと時代遅れのつまらない製品になってしまう。そういう製品ではなく、今回は普遍的なシンセサイザーを作りたいと思ったんです。実際「MONTAGE」は長くお使いいただけるシンセサイザーに仕上がったと自負していますし、ぜひ店頭でそのサウンドをチェックしていただきたいですね。
今月29日、ヤマハ銀座において「MONTAGE」のイベントが開催!
今月29日(日)、ヤマハ銀座ビル1Fポータルにおいて、「MONTAGE」のミニ・ライブが開催されます。当日はヤマハのシンセサイザー・インストラクターである堤有加氏が、新音源システム『Motion Control Synthesis Engine』を解説し、『Super Knob』を使ったサウンド・メイキング術を披露するとのこと。13:00〜、14:30〜、16:00〜の3ステージで、入場無料。詳しくはヤマハのWebサイトをご覧ください。
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