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話題のNomad Factory「Bus Driver」、その無償配布の経緯と、開発者バーニー・トレリ氏インタビュー

Don’tCrac[k]において現在、Nomad Factoryのコンプレッサー・プラグイン「Bus Driver」の無償配布が行われ、話題になっています。なぜ「Bus Driver」の無償配布が行われているのか、その経緯についてここに記しておきます。

Nomad Factoryの創立者兼開発者のバーニー・トレリ(Bernie Torelli)氏は数年前に癌を患い、同社と深い関係にあったDon’tCrac[k]はバーニー氏の治療費を支援するため、2013年12月、Webサイト上で『Raising Funds For Bernie』キャンペーンを実施しました。Don’tCrac[k]によれば、このキャンペーンによって治療費を補填し、なおかつNomad Factoryを継続するのに十分な資金が集まったとのことです。その後、バーニー氏の容体は仕事に復帰するまで回復したそうですが、残念ながら2016年1月18日、逝去されました。バーニー氏とDon’tCrac[k]は、『Raising Funds For Bernie』キャンペーン以降、支援してくれた人たちに何らかの形で感謝の意を表したいと考えていたそうで、そのひとつが今回の「Bus Driver」の無償配布とのことです。

バーニー氏とは何度かお会いしたことがあります。彼はフランス生まれ/カナダ出身で、もともとレコーディング・エンジニアでした。

私の家は音楽一家で、11歳のとき、14歳上の兄が自宅にレコーディング・スタジオを開設したんです。彼はプロのギタリストで、自分のデモ・テープを作るための、いわゆるプライベート・スタジオですけどね。私も小さい頃からギターを弾いていたんですが、11歳からはスタジオでアシスタントもやらされるハメになりました……。ですから私のエンジニア歴は相当長いですよ。
その後、プロのエンジニアとしても仕事を始め、フランスやカナダ、そしてアメリカなど、世界中のスタジオで働きました。その間、スタンリー・クラークやミッシェル・ポルナレフといった大物アーティストの仕事も手がけましたよ。私はフランス生まれのカナダ育ちということもあり、いろいろな土地に移り住んでいたのですが、アメリカ人女性との結婚を機に、サンディエゴに拠点を置いてTrack Star Studioというレコーディング・スタジオで働くようになりました。それが2000年、44歳のときのことです。
Nomad Factory - Bernie Torelli

Nomad Factoryの創立者兼開発者のバーニー・トレリ(Bernie Torelli)氏。2010年1月のNAMM Showにて

Nomad Factoryを立ち上げたのは、プラグインが好きで、いろいろなものを使っているうちに自分でも作りたくなったからです。もちろんプログラミングに関する知識はまったく無かったのですが、とりあえずやってみようとSteinbergのWebサイトからVSTプラグインのSDKをダウンロードしてみたんですよ。しかし中身を見てもサッパリで、これは本格的に取り組まないとダメだと思い、Cの基礎から勉強を始めたんです。40代半ばにして、ゼロからプログラミングに取り組み始めたというわけです(笑)。私は文系ですから、本当にその類の知識はサッパリでした。
しかし猛勉強の結果、すぐに音量レベルを上げ下げするプラグインを作ることができたんです。最初は訳が分からなかったVSTのSDKの内容も理解できるようになり、これはおもしろいと、寝る間を惜しんで勉強を続けました。Cがある程度習得できたら、次は信号処理の勉強も始めて、それは楽しい時間でしたね。小さい頃にギターを手に入れたときと同じような感じですよ。1つコードを覚えると楽しくて仕方ないので、また別のコードを覚える。ある程度弾けるようになったら、次は楽曲を演奏したくなる。その次は曲作りをしたくなる……という感じですよね。
そして2001年、かなり完成度の高いプラグインが完成したので、Nomad Factoryというブランドで販売することにしたんです。最初の製品は、Blue Tubeという真空管テイストを持ったプラグイン・スウィートでした。

Don’tCrac[k]によれば今年、Nomad Factoryから新しいプラグインがリリースされるとのこと。おそらくバーニー氏は最後までプラグイン開発に意欲的だったのでしょう。バーニーさん、すばらしいプラグインをありがとうございました。心よりご冥福をお祈りいたします。