MUSIKTECHNIK

NAMM 2015: 今夏デビューをはたす、タッチ・スクリーンにネイティブ対応した新DAW、LUMIT AUDIO「LUMIT」 〜 開発者インタビュー

2015年1月22日から25日まで、アメリカ・カリフォルニア州のアナハイム・コンベンション・センターで開催された世界最大規模の楽器の展示会、『The NAMM Show 2015』。今年は新型シンセサイザーが盛り上がった印象ですが、DAWやプラグインはと言うと、ソフトウェア・デベロッパーの出展は年々減っているのが実情です。Native InstrumentsやAbleton、Propellerheadといったビッグ・ネームは何年か前に撤退し(これらの会社はMusikmesseからも撤退しました)、純粋なソフトウェア・デベロッパーで頑張っているのは、iZotopeやMcDSPなど数える程度になってしまいました。しかし、それでも会場をくまなく回ると、まったく知らなかった新興のソフトウェア・デベロッパーを発見できたりします。

地下のHALL Eに小さなブースを構えていたLUMIT AUDIOも、そんな新興デベロッパーのひとつ。彼らが展示していた「LUMIT」は、タッチ・スクリーン操作に完全対応したフル機能のDAWソフトウェアです。いまの時代にゼロからDAWソフトウェアを開発しようという意気込みに感心してしまいますが、開発は順調に進んでいるようで、今夏にベータ・テストを開始する予定とのこと。その開発コンセプトと機能について、同社のウェイク・アンダーソン(Wake Anderson)氏に話をうかがってみました。

すべての操作を指先で行える、まったく新しいDAWソフトウェア「LUMIT」

——— LUMIT AUDIOは、新しい会社なのですか?

WA そうです。「LUMIT」を開発するために立ち上げた会社です。オフィスはマサチューセッツ州のボストンにあります。

——— ボストンにはCakewalkやiZotopeなど、優れたソフトウェア・デベロッパーがいくつかありますね。

WA そうですね。大学がたくさんあるので、プログラマー志望の優秀な若者が多いんですよ。iZotopeには知り合いがけっこういて、私の友人はOzoneの開発に関わっています。

——— 今回展示されている「LUMIT」についておしえてください。

WA 「LUMIT」は、我々がゼロの段階から開発を進めているまったく新しいDAWソフトウェアです。無制限のオーディオ/MIDIトラック、最高192kHz/24bit対応、高度なオートメーション機能、VSTサポートなど、DAWソフトウェアに求められる機能はほとんど網羅していますが、最大の特徴は指先ですべての操作が行えるようになっている点です。パッと見は普通のDAWソフトウェアのようですが、「LUMIT」のUIは最初からタッチ・スクリーン操作を前提とした設計になっていて、マウスやキーボードを使用することなく、すべての操作を行うことができます。タッチ・スクリーン操作にネイティブ対応したまったく新しいDAWソフトウェア、それが「LUMIT」なのです。

LUMIT AUDIO「LUMIT」

——— 「LUMIT」開発のスタート・ポイントというと?

WA Cakewalk SONARをはじめ、タッチ・スクリーンを使って操作できるDAWソフトウェアはいくつか存在しますが、いずれもミキサーや波形のズームなどを指先で操作できるというだけで、とても中途半端な仕様だったからです。Windows 8の登場以降、タッチ・スクリーンを装備したPCは当たり前になっているので、そのハードウェアを活かしたDAWソフトウェアがあってもいいんじゃないかなと。また、DAWを中心に据えた制作環境に疑問を感じていたというのも、「LUMIT」を開発しようと思った理由のひとつです。DAWはとても便利なツールですが、パソコンであることには変わりないので、必ず手前にキーボードとマウスを繋ぐ必要がある。しかし音楽制作を行うのであれば、モニター・ディスプレイの前にはやっぱり鍵盤を置きたいじゃないですか(笑)。「LUMIT」ならば、すべての操作を指先で行えるので、モニター・ディスプレイの手前にはしっかり鍵盤を置くことができます。キーボードとマウスの置き場所に頭を悩ませる必要はありません。

すべての操作がタッチ・スクリーンだけで行える「LUMIT」ならば、モニター・ディスプレイの手間に置くのはキーボードだけで済む

——— いつくらいから開発をスタートさせたのですか?

WA 昨年の6月くらいですかね。だからまだ8ヶ月くらいしか経っていません。本当にゼロからの開発作業だったので、想像していた以上に大変ですね(笑)。現在、プログラマー3人、デザイナー1人というチームで開発を続けています。

——— Slate Pro AudioのRAVENはご存じですか?

WA もちろん知っています。既存のDAWソフトウェアをベースにした、良く出来たシステムだと思いますが、あれは大型のタッチ・スクリーン込みの業務用製品ですよね。我々が作りたかったのは、どんなPCでも動作するDAWソフトウェアなんです。

——— 本当にマウスやキーボード無しにすべての操作が行えるのですか?

WA はい。ブラウザからのファイルの読み込みもオーディオ編集も、すべて指先で行うことができます。もちろん文字入力もできますよ。マルチ・タッチに対応しているので、波形をピンチ操作でズームしたり、ミキサー・ウィンドウで複数のフェーダーを同時にコントロールすることもできます。

——— 一見すると普通のDAWソフトウェアのようですね。

WA しかし、「LUMIT」ならではの機能も備えています。例えばXYインターフェースがそうですね。プラグインやソフト・シンセのパラメーターをXYにアサインすれば、指先でグリグリと音色をエディットできます。

プラグインの任意のパラメーターをXY軸に割り当てて、指先で操作できるインターフェースを装備

「LUMIT」自慢の高精度なビート・ディテクション機能。zplane社のアルゴリズムにより、自在にタイム・ストレッチ可能

オートメーション・カーブも指先で描くことができる

——— タッチ・スクリーンへのフル対応以外の特徴というと?

WA 高精度なビート・ディテクション機能ですかね。波形に指先で触れるだけでビートを検知してスライスしてくれます。もちろん、スライスされた波形は指先で自在にタイム・ストレッチでき、そのアルゴリズムにはzplane社が開発したものを採用しています。

——— タッチ・スクリーン対応ということで、Windowsのみの対応なのでしょうか?

WA いいえ。クロス・プラットホームでいこうと考えています。最初はWindowsのみの対応となりますが、Linuxをはじめ、iOSやAndroidにも対応させていきたいですね。

LUMIT AUDIOのウェイク・アンダーソン(Wake Anderson)氏(写真左)