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ヤマハ、グロウルやクロスシンセシスといった高度な合成機能を盛り込んだ次世代のVOCALOID、「VOCALOID4」を発表! 開発者の剣持秀紀氏に訊く、「VOCALOID4」の新機能

VOCALOID3のデビューから約3年。ヤマハは本日、次世代のVOCALOIDとなる「VOCALOID4」を発表しました。2014年12月下旬に「VOCALOID4 Editor」、「VOCALOID4 Editor for Cubase」、そして「VOCALOID4」対応の初の歌声ライブラリ「VY1V4」が販売開始されます。

YAMAHA - VOCALOID4

12月下旬に発売される「VOCALOID4」。画像は、「VOCALOID4 Editor for Cubase」のもの

注目の「VOCALOID4 Editor」の新機能は、以下の4つです。

● 1:グロウル機能

喉を激しく震わせた“唸る”ような歌唱表現が得られる機能です。唸り具合は、歌声パラメーターに新たに追加された“グロウル(GWL)”で調整可能。この機能は、歌声ライブラリごとに用意されたグロウル波形を合成することで実現しているため、「VOCALOID4」対応の歌声ライブラリでのみ使用できます(現時点では「VY1V4」のみ)。

● 2:クロスシンセシス機能

これは待望の機能と言えるのではないでしょうか。「VOCALOID4」では、2種類の歌声ライブラリをブレンドして、歌声ライブラリ間で自由に音色をコントロールすることができるようになりました。この機能を使用するには、シンガーエディターでプライマリシンガー(ベースとなる歌声ライブラリ)とセカンダリシンガー(合成する歌声ライブラリ)を選択し、2種類の歌声ライブラリが登録されたシンガーを作成。そしてこのシンガーを使用すると、歌声パラメーターに新たに追加された“クロスシンセシス(XSY)”を使って、プライマリシンガーとセカンダリシンガーを自在にブレンドできるようになります。例えば、ソフト系の歌声ライブラリをプライマリシンガーに、ハード系の歌声ライブラリをセカンダリシンガーに登録すれば、徐々に激しい歌声にするという表現が可能に。また、このクロスシンセシス機能は、VOCALOID3対応の歌声ライブラリでも使用できるとのことです(同一のシンガーで、同一の言語のときのみ使用できる機能とのこと。例えば、プライマリシンガーにVY1、セカンダリシンガーに初音ミクというシンガーの作成はできないとのことです)。

YAMAHA - VOCALOID4

シンガーエディターで、任意の歌声ライブラリをプライマリシンガー(ベースとなる歌声ライブラリ)とセカンダリシンガー(合成する歌声ライブラリ)に割り当て、2種類の歌声ライブラリ間で自由に音色をコントロールすることができるように

YAMAHA - VOCALOID4

歌声パラメーターに新たに追加された“クロスシンセシス(XSY)”

YAMAHA - VOCALOID4

プライマリシンガー(下)とセカンダリシンガー(上)を時間軸で自由に合成

● 3:ピッチレンダリング機能

VOCALOID Editorのツールバーに新たに用意された“ピッチレンダリング”ボタンをクリックすることで、ピアノ・ロールの各ノートの上に、合成されるピッチのカーブを表示できるようになりました。これによりピッチやビブラートのかかり具合をひと目で確認することが可能になります。

YAMAHA - VOCALOID4

ピッチレンダリング機能を使えば、ピアノ・ロールの各ノートの上に、合成されるピッチのカーブを表示することが可能

● 4:ピッチスナップモード

VOCALOIDでは合成エンジンが自動的にピッチ・エクスプレッションを付加しますが、新たに搭載されたピッチスナップモードを使用すれば、選択した部分のピッチ・エクスプレッションが取り除かれ、音程を瞬時にフラットにすることが可能に。これによりロボット・ボイスを簡単に作り出せるようになりました。

また、「VOCALOID4 Editor for Cubase」にも新機能が追加されます。

● 1:MIDIデバイスからのリアルタイム入力が可能に

MIDIキーボードなどの外部MIDIデバイスを使って、VOCALOIDのシーケンス・データをリアルタイムに入力することが可能になります。発音する音声は、プリファレンスの“リアルタイム入力発音”プルダウン・メニューで設定でき、日本語の歌声ライブラリの場合はア行とラ行の中から選択することができます。

YAMAHA - VOCALOID4

MIDIキーボードなどを使ったリアルタイム入力が可能に。リアルタイム入力時の音声は、プリファレンスの“リアルタイム入力発音”プルダウン・メニューで設定できる

● 2:Steinberg Cubase AI 7が同梱

新たにSteinberg Cubase AI 7が同梱されるようになり、これによって「VOCALOID4 Editor for Cubase」と歌声ライブラリを購入するだけで、基本的な音楽制作環境(ボカロ曲制作環境)が整うようになります。

初の「VOCALOID4」対応の歌声ライブラリ、「VY1V4」の主な特徴は以下のとおりです。

● 1:VY1V3をベースに、よりスタンダードな女性声を目指して開発

「VY1V4」は、VY1V3をベースに、より“スタンダードな女性声”を目指して開発されたとのこと。クリアな滑舌、力強く伸びのあるロング・トーン、スムーズな発声が特徴とのことです。

● 2:「VOCALOID4」の新機能に対応。4種類の歌声ライブラリを同梱

グロウルとクロスシンセシスという「VOCALOID4」の新機能に対応。“Normal”、“Soft”、“Power”、“Natural”という4種類の歌声ライブラリが同梱されているとのことです。

● 3:坂本ヒトメ氏の手によるパッケージ・イラスト

人気イラストレーター、坂本ヒトメ氏の手による新しいパッケージ・イラストが採用されているとのことです。

「VOCALOID4 Editor」、「VOCALOID4 Editor for Cubase」、「VY1V4」は、2014年12月下旬にショップとVOCALOID STOREで販売開始。価格はオープン・プライスで、VOCALOID3 Editor、VOCALOID3 Editor SE、VOCALOID Editor for Cubase、VOCALOID Editor for Cubase NEOのユーザーは、VOCALOID STOREで「VOCALOID4 Editor」あるいは「VOCALOID4 Editor for Cubase」を5,400円(税込)でアップグレードできるとのこと。また、2014年11月10日以降にVOCALOID3 Editor、VOCALOID3 Editor SE、VOCALOID Editor for Cubase NEOを購入した人には、2015年6月30日までの期間限定で、「VOCALOID4 Editor」あるいは「VOCALOID4 Editor for Cubase」が無償で提供されるとのことです。

なお、「VOCALOID4 Editor」、「VOCALOID4 Editor for Cubase」、「VY1V4」は、2014年11月21日から開催される2014楽器フェアで展示されるとのことです。

VOCALOID4の新機能について、開発者の剣持秀紀氏に訊く

先日、新しい「VOCALOID4」について、開発者の剣持秀紀氏に話を訊く機会を得ました。以下、その内容です。

YAMAHA - VOCALOID4

ヤマハ株式会社の剣持秀紀氏

——— 「VOCALOID4」の新機能についてうかがいます。まず、グロウル機能ですが、どのような処理で唸り声を実現しているのでしょうか。

剣持 グロウル用にすべての言葉を録り直したわけではなく、グロウル成分だけを抜き出した特別な波形を合成することで実現しています。グロウル成分の波形は、VOCALOID3の歌声ライブラリには含まれていないため、この機能は「VOCALOID4」対応の歌声ライブラリでのみ使用することができます。グロウル成分の波形は、もちろんシンガーによって異なるので、歌声ライブラリごとに作成する必要があります。

——— グロウル成分の波形が新たに追加されることで、「VOCALOID4」対応の歌声ライブラリは容量も大きくなりますか?

剣持 いや、VOCALOID3の歌声ライブラリと比較して微々たる差ですね。

——— 注目の新機能、クロスシンセシスについてですが、2種類の歌声ライブラリをどのように合成しているのでしょうか?

剣持 スペクトル微細構造はプライマリシンガー(ベースとなる歌声ライブラリ)のものをそのまま使用し、プライマリシンガーとセカンダリシンガー(合成する歌声ライブラリ)のスペクトル包絡を補間することで音色を変化させています。従って、歌声パラメーターのクロスシンセシスを100%セカンダリシンガーに寄せても、セカンダリシンガーとして登録してあるライブラリとは同じ歌声にはなりません。スペクトル包絡は、完全にセカンダリシンガーのものになりますが、スペクトル微細構造に関してはプライマリシンガーのものが使われるからです。逆にクロスシンセシスを100%プライマリシンガーに寄せた場合は、プライマリシンガーとして登録してあるライブラリと完全に同じ歌声になります。

このクロスシンセシスは、同じシンガーで複数の歌声が用意されているものであれば、VOCALOID3の歌声ライブラリでも使用することができます。

YAMAHA - VOCALOID4

クロスシンセシスの信号処理を図解する剣持氏。下がプライマリシンガー(ベースとなる歌声ライブラリ)で、上がセカンダリシンガー(合成する歌声ライブラリ)。細かい山がスペクトル微細構造を表し、それを繋ぐカーブがスペクトル包絡を表す。「VOCALOID4」のクロスシンセシスでは、2種類の歌声ライブラリのスペクトル包絡を補間して歌声を変化させている

——— 歌声のピッチの変化がひと目でわかるピッチレンダリングはかなり便利な機能ですね。

剣持 そうですね。これによって音符がくっついているのか離れているのか、ひと目でわかりますから。この機能は、ピッチをスキャンすることで実現しています。

——— 「VOCALOID4 Editor for Cubase」で可能になったリアルタイム入力もおもしろい機能です。

剣持 現時点ではMIDIデバイスのベロシティがそのまま反映されてしまうんですが、歌声の場合はベロシティではなくエクスプレッションの方がいいと思うので、ベロシティをエクスプレッションに変換するJob Pluginを提供することも考えています。

——— VOCALOID3の歌声ライブラリは、「VOCALOID4 Editor/VOCALOID4 Editor for Cubase」でそのまま使用することはできますか? VOCALOID2の歌声ライブラリに関してはいかがですか?

剣持 VOCALOID3の歌声ライブラリは、「VOCALOID4 Editor/VOCALOID4 Editor for Cubase」でそのまま使えます。VOCALOID2の歌声ライブラリに関しては、VOCALOID3 EditorやVOCALOID Editor for Cubaseに付属するライブラリインポート用ツールを使って、VOCALOID3で使用可能になっていれば「VOCALOID4 Editor/VOCALOID4 Editor for Cubase」で使用することができます。

——— 「VOCALOID4」の開発にあたって苦労した点というと?

剣持 開発はいつも大変なんですけど(笑)、強いて言うならクロスシンセシスの考え方の整理ですかね。開発に取りかかる前に、クロスシンセシスとはどのような処理なのか、改めてその考え方を整理しました。

——— VOCALOIDの将来のバージョンでは、今回のグロールやクロスシンセシスのように、新たな処理によって歌唱表現の幅を広げる新機能が追加されていくのでしょうか。

剣持 いろいろな進化の方向性があって、歌声ライブラリの量や質を充実させるという方向性もあると思うんですが、合成で実現できることをもっとやっていきたいと考えています。今回の「VOCALOID4」には盛り込めなかった信号処理もまだまだありますしね。歌声の表現力は、信号処理によって、もっと向上していくはずです。

YAMAHA - VOCALOID4