NAMM Show 2012
NAMM: Universal Audio Apollo 〜 その開発コンセプトと機能に迫る
昨晩、今回のNAMMの“ウラのMVP”は「Line 6 StageScape M20d」かも……という記事をアップしましたが、“オモテのMVP”はこの製品かもしれません。Universal Audio社が満を持して送り出す、UAD統合の新世代のオーディオ・インターフェース「Apollo」です! 会場内でも注目度は一際高く、ブースでのデモは常に黒山の人だかりができています。多彩なUADプラグインを“リアルタイムに”使用することができるため、読み込むプラグインによってUrei 1176 LNにもLexicon 224にもNeve 33609にも変貌してしまうカメレオン・プロセッサー「Apollo」。次世代規格、Thunderboltにも対応し、末永く使えるツールに仕上がっているのも特徴です。そこでUniversal Audio社のユウイチロウ“ICHI”ナガイ氏に、この機器の開発コンセプトとその機能について話を伺ってみました。
——— きましたね、Apollo。これに関しては事前情報がまったく無かったので、とても驚きました。そういえばICHIさん、昨年11月のInter BEEのときに、UAD入りのオーディオ・インターフェースに対する要望が凄いんだとおっしゃっていましたね。
YN そうだったんですよ。Universal Audioでは、Webサイトでたまにアンケートを実施しているんです。我々のWebサイトにアクセスした際に、表示されたことないですか?(笑) 我々はそのアンケートの回答を基に新製品の開発を行っていると言っても過言ではないんですけど、お客様からいただいた回答で常に上位に入っていたのが、UAD入りのオーディオ・インターフェースだったんです。だから要望を寄せていただいたお客様には、ようやく完成しましたと言いたいですね(笑)。
——— これを読んでいる人は、もうおおよその機能やスペックは把握していると思いますので、アウトラインを簡単におしえていただけますか。
YN Apolloは、高解像度のオーディオ・インターフェースにUADの機能を統合した、皆が待ち望んでいた製品です。オーディオ・インターフェースとしては24bit/192kHz対応の18ch入力/24ch出力という仕様になっていて、S/MUXに対応した2系統のADATデジタル入出力やS/PDIFデジタル入出力、ワード・クロック入出力なども装備しています。コンピューターとの接続のインターフェースはFireWireですが、オプション・カードを装着することでThunderboltにも対応するのが大きなフィーチャーです。もちろん、マイク・プリアンプも4基搭載しているので、高品位なレコーディングをこれだけで行うことが可能です。
オーディオ・インターフェースとUADの機能を統合したことによって、Apolloでは豊富なUADプラグインをリアルタイムで使用することが可能になっています。たとえば、1176LNをロードすればApolloはビンテージ・コンプレッサーに変貌するわけですし、Lexicon 224をロードすればビンテージ・リバーブに変貌するわけです。その際、入出力のレーテンシーはほとんど生じないので、本当にアウトボード感覚で使用することができます。つまりはボーカルのレコーディングで、EMT 140を使うことも可能になるんですよ!(笑) トラッキングが終わった後は、従来のUADと同様、ミックスでプラグインをフルに活用することができます。高解像度のオーディオ・インターフェースと高品位なマイク・プリアンプ、そして強力なUAD機能の3つが統合されたApolloは、トラッキングからミックスまで、すべての場面で活躍する最高のツールだと思いますよ。
——— でも従来のUADも、使おうと思えばリアルタイム・プロセッサーとして活用できましたよね。
YN もちろん使用できます。しかしトラッキングでは無視できないレベルのレーテンシーが発生してしまうんですよ。なぜレーテンシーが発生するかと言えば、その要因は至ってシンプルで、オーディオ・インターフェースとUADの間にコンピューターが介在するからです。コンピューターが介在すると、必ずレーテンシーが生じてしまうんですよ。そればかりはUADの力ではどうしようもなかった。しかしApolloでは、オーディオ・インターフェースとUADを統合した結果、受け取った音声をUADで処理し、直ちに出力するということが可能になりました。そこにはコンピューターは介在しません。具体的には、Apolloでは約2msという非常に低いレーテンシーを達成しています。これは入出力部とUADが直結しているからこそ実現したスペックなんです。
——— リアルタイム・プロセッサーとして使えると言っても、結局はコンピューターが必要なわけですよね。
YN Apolloにはスタンドアローン・モードというのが用意されていて、電源を落とさない限り、プラグインなどの情報を含め、すべての状態を記憶しています。ですから、コンピューターの電源を落としても、内部で立ち上がっている1176LNやLexicon 224はそのまま使えるというわけです。一度電源を落として、再度電源を入れた場合はどうなるかというと、ルーティングは以前の状態で立ち上がります。ただしプラグインの情報に関しては、すべて消えてしまいますね。しかしこれも、将来的にはどうなるかわかりませんよ。もしかしたら、Apolloの電源を落として、再度電源を入れた場合でもプラグインの情報が復活する可能性もあるかと思います。そうすれば、Apolloが完全なデジタル・プロセッサーとして機能するようになるわけですが……現時点では“Maybe”ということにしておきましょう(笑)。
それとApolloには、UADの状態をDAWのファイルに記憶させるための“Console Recall”というプラグインも用意されています。
——— それはどういったものですか?
YN VST/RTAS/AUフォーマットのプラグインである“Console Recall”は、Apolloのルーティングの設定や立ち上がっているプラグインの情報などをすべて記憶してくれる、いわばユーティリティー的なプラグインなんです。こういうハードウェアの設定って、普通はその機器の中に保存するもので、あるいはコンピューター内に保存するにしても、専用のファイルを作成することになってしまいますよね。しかしそれだと、DAWのセッションとの関連付けが無いので、再現性が落ちてしまうんです。DAWのセッションを呼び出したはいいけど、Apolloの設定はどれだったっけ?って(笑)。“Console Recall”を使用すれば、Apolloのすべての設定……ファンタム電源のオン/オフやヘッドフォン・ボリュームの値など、それこそすべての設定をDAWのセッションの中に保存することができます。ですから何年も前のセッションを再び立ち上げる際も安心です。
——— Apolloの開発は、いつ頃スタートしたのですか?
YN 正味3年くらいかかりました。この類の製品としては、かなり時間がかかっていると思います。
——— 何にそんなに時間がかかったのですか?
YN 一番時間がかかったのは、FireWireやThunderboltといったデジタル・インターフェースの設計ですね。普通、オーディオ機器にこういったインターフェースを搭載する際は汎用のチップを利用するものなんですが、Apolloに搭載されているデジタル・インターフェース回路は、完全に自分たちで設計したものなんです。
それに最初の段階ではFireWire接続のことしか考えていなかったんですが、開発途中でThunderboltという規格が出てきて、これには絶対対応させたかったので、そこで思っていた以上に時間がかかったというのもあります。
ただ、3年間というのはデジタル回路の設計に要した時間であって、Apolloという製品全体で見れば、これは10年がかりの製品と言っていいと思いますね。マイク・プリアンプ回路には我々が培ってきたノウハウが詰まっているわけですし、UADのDSP部分も同じです。我々のアナログの開発チームとデジタルの開発チームがフルに参加して取り組んだ製品は、このApolloが初めてですね。
——— Thunderboltに絶対に対応させたかったというのは?
YN 規格として非常に優れていますし、今後絶対に普及すると思ったからです。それとこれは強調しておきたいんですが、ApolloのThunderboltは“フル規格”です。最近発表されたThunderbolt対応のビデオ・インターフェース……あえて製品名は出しませんが(笑)、あれなどはThunderboltをフルにサポートしていません。もちろん、その製品だけを接続するのであれば十分なんですけど、たとえばディスプレイや電源を多く消費するThunderbolt機器などを接続した場合は、上手く動作しないと思います。その点、ApolloはThunderboltをフルにサポートしているので、どんな接続方法にも対応します。その良い例が、FireWireポートのハブとしての活用で、ApolloはThunderboltでコンピューターと接続した場合でもFireWireポートを利用することができるようになっています。要するにコンピューターとApolloはThunderboltで接続し、ハードディスクなどはApolloのFireWireポートに接続すればいいわけです。ApolloにはFireWireポートが2基備わっていますから、かなり使いでがあると思いますよ。
——— 内部で使用しているSHARCは、従来のUADシリーズとまったく同じスペックですか?
YN 一緒ですね。特に処理能力が上がっているわけではありません。従って、現行のUADプラグインはすべて使用することができます。
——— Universal Audioのアウトボードの中にはADコンバーターを積んだものもありますけど、ApolloのAD/DAコンバーター回路はそういったものがベースになっているのですか?
YN アナログのコンポーネントを含め、我々がこれまで培ってきた回路がベースになっているわけですけど、基本的にはApolloのために新たに開発したものと言っていいと思います。ただ、サウンドの傾向などは一緒ですね。我々のマイク・プリアンプは、できるだけクリーンなサウンドを目指して開発しています。音色やキャラクターは、マイク・プリアンプで付加するのではなく、プラグインで付加してほしいという思いから、そういう設計になっているわけです。一方、AD/DAコンバーターに関しては、高品位なことはもちろんですが、レーテンシーを抑えることを第一に設計を行いました。この部分にも現在手に入る最高峰のコンポーネントを使用しています。
——— リリース時期と価格についておしえてください。
YN Thunderboltオプションは少し先になりますけど、Apollo自体は来月の終わりには出荷できると思います。Apolloには2コアのDuoモデルと、4コアのQuadモデルがあるんですが、Duoモデルが2,000ドル前後、Quadモデルが2,500ドル前後を予定しています。Thunderboltオプションは、500ドル前後という感じでしょうか。
——— それと今回のNAMMでは、Plugin AllianceとSonnoxがUADプラグインをリリースすることもアナウンスされましたね。
YN そうなんです。我々は昨年、初めてUADプラグインのSDKをオープンにしたんですよ。それで最初に名乗りを挙げてくれたのが、Brainworxさんなんです。今回のNAMMでは、みなさんに人気のあるSonnoxさんもリリースをアナウンスしてくれたのでとても嬉しいですね。今後、UADプラグインを開発するデベロッパーはどんどん増えていくと思います。
——— Plugin AllianceやSonnoxのプラグインは、どのような販売形態になるのですか?
YN Sonnoxさんのプラグインは我々のプラグイン同様、Universal Audioのオンライン・ストアで販売することになると思います。Plugin Allianceのプラグインに関しては、まだどうなるか決まっていません。
——— ところで、今回のデモ・ステージに古いEmulator IIと、発表されたばかりのArturia MiniBruteがあるのはなぜですか?
YN FABというプロデューサー/エンジニアをご存じですか? クィーン・ラティファやジェニファー・ロペスといったアーティストを手がけている人なんですけど、今回のApolloのデモは彼にお願いしているんです。FABは、我々と古くからの付き合いがある人で、Apolloもかなり初期の段階から試してもらっているんですよ。既に実際のセッションでもApolloを使用していただいていて、今日のデモはその辺りの話が中心になっています。というわけで、Emulator IIとMiniBruteは、完全に彼のセレクションなんですよ(笑)。あの状態の良いEmulator IIは、我々の社員の持ち物なんですけどね(笑)。
——— 最後に一言お願いします。
YN Apolloは、ハードウェアとして最強ですし、Thunderbolt対応ということでフューチャー・プルーフも完璧だと自負しています。プラグインもこれ以上ないくらい充実してきましたし、ぼくらもリリースするのが待ち遠しいですね。
フックアップ: 【速報】 NAMMショー2012でUniversal Audioが、UADプロセッシング搭載のオーディオI/O “Apollo”を発表!
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Universal Audio: Apollo