MUSIC
コルグ MS-20 miniとボス RC-30でつくられる、即興のループ・ミュージック 〜 久々の新作『Loop Music』を発表したホサカアカネ インタビュー
そのキュートでストレンジな作風で、熱烈なファンの多い電子音楽家、ホサカアカネ。彼女が久々の新作、『Loop Music』を発表しました(bandcampで無償ダウンロード配信)。『Loop Music』は、ここ最近彼女がSoundCloudで発表していた即興のループ・ミュージックを集めた作品で、最終的なエフェクト以外はすべて、コルグ MS-20 miniとボス RC-30だけでつくられています。そこでICONでは、これまでプログラミングで曲づくりをしていた彼女が即興音楽を始めたきっかけや、ループ・ミュージックの制作方法について話を訊いてみることにしました。ぜひ『Loop Music』をダウンロードしてご一読ください!
とりあえず出してみた音が次の音を引っ張ってきてくれる
音が次の音を呼び込んで、世界がどんどん広がっていく感じ
——— アカネさんが即興のループ・ミュージックをつくり始めたきっかけは何だったのですか?
ホサカ アカネ これまではずっと、Apple Logicを使って打ち込みで曲づくりをしていたんです。でも、だんだん楽しくなくなってきたんですよね……。昔は楽しかったのに何でだろう?と考えてみたんですが、たぶんDAWの便利さに便乗して曲をつくっているだけだからだと思ったんです。DAWを使えば、視覚的にトラックに入っている音がわかりますし、次の小節で鳴るフレーズもわかる。じゃあ次の小節には、頭のフレーズをペーストして、その次はそれを繰り返して…… といった感じで曲づくりをしていたわけですけど、そういう作業って結局、“DAWを使っている”というよりは“DAWに使われている”だけなのではと思ってしまって。もちろん、しっかり作曲する力やオリジナリティを持っている人にとっては、すばらしいツールだと思うんですけどね。DAWによって、自分の作曲力やオリジナリティの無さに気づかされたというか、もうちょっと土台となる部分をしっかりさせなきゃと思って。それで一度DAWからは離れて、音楽修行として即興をやってみることにしたんです。
——— では、最近は即興のループ・ミュージックばかりで、以前のようなスタイルでの曲づくりは行ってないのですか?
ホサカ アカネ はい。昔のようなスタイルで曲をつくるのはお休みしています。即興のループ・ミュージックで音楽修行を積み、いつでもどこでも自分が納得のいく音楽がつくれるようになったら昔のようなスタイルに戻ろうかなと。でも、そんなこと言ってると一生かかっても戻れない可能性があるので(笑)、しばらくして“そろそろ大丈夫かな”という気持ちになったら、少しずつ昔のスタイルでもやっていこうかなと思っています。
——— 即興のループ・ミュージックは、コルグ MS-20 miniとボスのルーパー、RC-30だけでつくられているんですよね。
ホサカ アカネ そうです。いろいろシンセは持っているんですけど、わたし、いちばんリラックスできる居間で作業するのが好きなんですよ(笑)。そうなると、小ちゃくて軽いMS-20 miniがいちばんいいんです。それにMS-20 miniは、いろんな音色がつくれますし、操作もしやすいですし。RC-30も場所を取らなくて、シンプルで簡単なところが気に入っています。
——— シンセサイザーだけで即興するのではなく、ループ・マシンを併用しているのは?
ホサカ アカネ 単純にループ・マシンがあれば記録することができますし、音を重ねることでひとつの曲をつくることができますから。ループ・マシンを使うと、自分自身とセッションしてる気分になれるのがいいんです。
——— シンセサイザーに向かうときは、頭の中に曲のイメージがあったりするのですか?
ホサカ アカネ イメージが頭の中に浮かんでいるときもありますし、いろいろですね。好きな絵が頭の中にあるときは、その作品のBGMとしてつくるときもあります。絵が音を引っ張ってきてくれるというか。頭の中が空っぽのときは、とりあえず出してみた音が次の音を引っ張ってきてくれる感じですね。音が次の音を呼び込んで、世界がどんどん広がっていく感じ。
即興演奏って不思議で、そのときの自分の状態がそのまま音に出てしまうんですよ。それがとてもおもしろい。だから自分でも先が読めないときがあるというか。何も自分を縛るものがないというのも、即興演奏の好きなところです。
——— 具体的なやり方としては、MS-20 miniで音を出して、それをRC-30でループするというだけですか?
ホサカ アカネ MS-20 miniでフレーズを弾いたり、音を出したりして、自分が気に入った音になったらRC-30に録音します。あとはその音を聴きながら浮かんだ音を重ねて、気に入ったらまた録音して…… その繰り返しですね。
——— ボツにする曲もあります?
ホサカ アカネ あります。一応取っておくんですけど、そういう曲は後で聴き直してもちっともおもしろくないですね(笑)。
——— 最後はLogicに録音するのですか?
ホサカ アカネ はい。でもLogicで音を編集することは一切なくて、EQやダイナミクス系のプラグインを使って補正したり、リバーブやコーラス、ディレイといったエフェクトを少しかける程度です。エフェクトに関しては、RC-30内蔵のものを使うこともあります。
——— 出来上がった曲は、定期的にSoundCloudにアップされていましたね。
ホサカ アカネ せっかくならたくさんの人に聴いてもらいたいと思ったのと、自分がつくった曲を他の人たちはどう感じるか知りたかったからです。
——— システム図を手書きしたアートワークがかわいかったです。
ホサカ アカネ パッと見て、わたしが何をやっているのかわかるジャケットにしようと思って自分で描きました。
——— そして先日、SoundCloudにアップされていた即興ループ・ミュージックを集めたミニ・アルバム『Loop Music』をリリースされました(『Loop Music』は、bandcampで無償ダウンロードできます)。
ホサカ アカネ 以前出したアルバムを聴いて気に入ってくださったイギリスの音楽家、Graham BooseyさんがSoundCloudもチェックしてくれていて。それで即興ループ・ミュージックも気に入ってくれて、Booseyさんのレーベル、Wrieuw Recordingsからリリースしようと誘ってくれたんです。即興ループ・ミュージックに関しては、これまで80曲くらいつくったんですが、自分でも気に入っている曲、頭の中にビジュアルが浮かぶ曲を6曲選んで収録しました。ジャケットは、これまでのアートワークを少しカラフルにアレンジしています。
——— 今後の予定をおしえてください。
ホサカ アカネ Booseyさんがクリスマス・コンピレーション・アルバムをつくられる予定で、そこに参加させていただくことになりました。でも、即興ループ・ミュージックでクリスマス・ソングをつくれる自信がないので(笑)、即興の要素を持った打ち込みの曲を久々につくろうと思っています。まだまだ即興演奏の力は付いてないのですが、いまの段階でどの程度以前と違った曲がつくれるのか、ちょっと怖くもあるのですが、自分自身楽しみでもあります。
——— 最後に、最近になっている機材はありますか?
ホサカ アカネ いまはMS-20 miniにかなり満足しているので、そんなにないんですが、コルグさんが開発しているというARP Odysseyは少し気になってますね。