MUSIKTECHNIK

AKAI製ヴィンテージ・サンプラーならではのタイム・ストレッチ/ピッチ・シフト・サウンドを再現したフリーのDSPソフト「Akaizer」

その独特なサウンドで、いまだファンの多いAKAI製ヴィンテージ・サンプラー。S950やS1000といったヴィンテージ・サンプラーのタイム・ストレッチ/ピッチ・シフト・アルゴリズムを再現した、「Akaizer」というDSPソフトウェアが無償で配布されているのはご存じでしょうか。

Ben Burchett - Akaizer

Ben Burchett氏が開発した「Akaizer」は、S950/S1000/S2000/S3000といったAKAIのヴィンテージ・サンプラーで採用されていた“Cyclic”アルゴリズムによって、タイム・ストレッチ/ピッチ・シフト処理を実行するDSPソフトウェアです。最近のDAWソフトウェアに搭載されているタイム・ストレッチ/ピッチ・シフト機能はとても高品位で、数%程度の変化であれば極めて自然な結果が得られますが、AKAI製に限らず昔のサンプラーは、サンプルを細かく切り刻んでそれを繰り返す/間引くという単純な“Cyclic”アルゴリズムが採用されていたため、ちょっとした処理でも少なからず音質が変化してしまいました。「Akaizer」は、ヴィンテージ・サンプラーの“Cyclic”アルゴリズムによる独特な音質の変化を、エフェクトとして利用することができるたいへんユニークなDSPソフトウェアです。

「Akaizer」はプラグインではなく、スタンドアローンのアプリケーションとして動作します。使い方はシンプルで、任意のオーディオ・ファイルを読み込み、各種パラメーターを設定してプレヴューの音質が気に入ったら、あとは新しいオーディオ・ファイルとして書き出すだけ。読み込むことができるファイル・フォーマットは、WAVとAIFFの2つです。

「Akaizer」には、“CLASSIC”と“REVISED”という2種類のアルゴリズムが搭載されています。“CLASSIC”は、AKAIのヴィンテージ・サンプラーの処理を忠実に再現したアルゴリズムで、音程の変化はほぼ完璧ですが、タイミングが微妙に揺れるという特性を持っています。一方“REVISED”は、“CLASSIC”を改善したアルゴリズムで、タイミングが揺れるということはほとんどありません。その代わり、音程が微妙に変化してしまうことがあるようです。実際に試した限り、基本的な質感は同じなので、音程がハッキリした楽器などの素材は“CLASSIC”、ドラム・ループなどタイミングが変化しては困る素材は“REVISED”で処理するのがいいでしょう。

AKAI - S1100

2種類のアルゴリズムの選択のほか、「Akaizer」には以下のようなパラメーターが用意されています。

● TIME FACTOR:タイム・ストレッチの割合を設定。50%に設定すれば尺は半分に、200%に設定すれば尺は倍になる。設定範囲は25%〜2000%(デフォルトは100%)。

● CYCLE LENGTH:“Cyclic”アルゴリズムで切り刻むサンプルの長さ設定。短い値に設定すると、“Cyclic”アルゴリズム特有のフランジャーのような金属感のあるサウンドになる。設定範囲は20〜2000(デフォルトは1000)。

● TRANSPOSE:ピッチ・シフトの値を半音単位で設定。-12を設定すればオクターブ下に、+12を設定すればオクターブ上になる。設定範囲は±2オクターブで、-24〜+24(デフォルトは0)。

そしてPLAYボタンで読み込んだオーディオ・ファイルを再生、STOPボタンで停止、LOOP ON/OFFボタンで再生時のループのオン/オフを切り替えることができます。PREVIEWボタンをクリックすると、パラメーター設定に基づいて処理が実行されサウンドをプレヴューすることが可能。納得のいくサウンドが得られたなら、SAVE FILE…ボタンでオーディオ・ファイルとして書き出すことができます。なお、「Akaizer」の各パラメーター/操作ボタンには細かくショート・カットが設定されているので、それを覚えれば素早く操作することも可能です(詳細は付属のReadmeファイルを参照のこと)。

2013年1月のバージョン・アップを最後に、しばらくアップデートされていない「Akaizer」ですが、Mac版は最新のMavericksでも問題無く動作しました。「Akaizer」は、Mac/Windows/Linuxに対応し、Ben Burchett氏のWebサイトから無償でダウンロードすることができます(気に入って使い続ける方は、Ben Burchett氏に寄付をお願いします)。