関連リンク:
iTunesプレビュー – “Across Time & Space”
MUSIC
いま、大注目の女の子DTMer、COR!S(コリス)。大学時代、趣味でDTMを始めたという彼女は、何気なく応募したアレンジ・コンテストで最優秀賞を獲得。そのすぐ後には、江崎グリコ主催のコンテスト『ポッキークリエイターズ』音楽部門でこれまた最優秀賞を獲得し、一躍関係者の注目を集めました。『マジカル・アレンジメント・ツアー! 2012』で最優秀賞を獲得した作品は、mishmash*Julie Wataiのアルバムに収録され、間もなくしてYun*chiの作品でプロの作家デビュー。人がうらやむ、まさに順風満帆な“DTMライフ”を送っている女の子です。
そんな彼女が今月、ソロ名義としては初めての作品『Across Time & Space』を発表。“四次元”をテーマに制作されたこの作品は、空想癖のある女の子(= COR!S)が時空を超えて旅するエレクトロニック・ファンタジー。映画のサウンドトラックを彷彿とさせる美しい旋律に、Native Instruments Massiveでつくられたゴリゴリのシンセ・サウンドが絡む、これまでに無かったタイプの作品に仕上がっています。ボーカルや作詞・作曲・編曲だけでなく、レコーディングからミックス、マスタリングにいたるまで、COR!SがSteinberg Cubaseを使い、すべてひとりでつくりあげた完全なDTMアルバムであることも注目です。
そこでICONでは、女の子DTMer:COR!Sにロング・インタビューを敢行。DTMを始めたきっかけから現在使用している制作システム、そして『Across Time & Space』のプロダクションにいたるまで、じっくりと話をうかがってみることにしました。かなり長い記事になってしまいましたが、ぜひ途中に挿入してあるSoundCloud音源を聴きながらお楽しみください!
——— アルバムの話に入るまえに……。COR!Sさんは小さいころ、ピアノとか何か楽器をやられていたんですか?
COR!S ずっとエレクトーンを習っていました。親にやらされたというか、気づいたら通っていた感じで……。3歳くらいから。
——— 3歳から!
COR!S もちろん、最初はリトミックというか、踊ったり歌ったりとかしていたんですけど。
——— ご両親としては、女の子だし何か楽器をやらせようという感じで。
COR!S ふつうはピアノだと思うんですけど、(エレクトーンのほうが)いろいろなことが身につくからいいんじゃないかみたいな。リズムとかベースもやりますからね。すっごい嫌な時期とかもあったんですけど、演奏するのは好きだったので、結局大学の一回生まで教室に通っていました。
——— エレクトーンって、そんなに長く習い続ける楽器なんですね。
COR!S 何か気がつけばずっと通ってしまっていて。何となく、これはずっと続けるものだと思っていたんです。
——— 自分ですすんで音楽を聴き始めたのは?
COR!S エレクトーンを習っていたからか、小さいころから音楽を聴くのは大好きで。教育テレビの番組を毎日観て、ひとりで歌って踊っていました。小学校のときに好きだったのは、やっぱりディズニーで、あとはモーニング娘。も。わたし、中学校2年生のときに、モーニング娘。のオーディションを受けたこともあるんですよ(笑)。
——— おおお。ってことは、目立ちたがりやだった?
COR!S いや、ぜんぜん。すっごいおとなしい、どちらかというとネクラな感じでした(笑)。でも小学校5〜6年の2年くらい、ストリート・ダンスを習ったことがあるんです。友だちが習っていて、カッコいいなと思って。
——— オシャレは?
COR!S 派手な格好というか、オシャレをするのは小さいころから好きでした。
——— では中学校くらいまでは、エレクトーンを習って、音楽を聴くのが好きなふつうの女の子だったと。
COR!S そうですね……。マンガもまったく読みませんでしたし、ふつうの本も、わたしは活字がダメなので(笑)、ぜんぜん読みませんでした。本は、いまでも本当に読めないんです(笑)。あ、映画は好きでしたね。ディズニー、ジブリ……。ミュージカル映画も大好きで、特に『巴里のアメリカ人』がお気に入りなんです。大好きな作曲家、ガーシュインの曲が使われているので。
——— ディズニーやジブリといった映画の影響は、今回のアルバムにも出ている感じがします。
COR!S そうですね。ファンタジーが大好きなので、そういうところで共通点はあるかもしれない。
——— ファンタジー好きなんだと自覚したのは?
COR!S うーん、いつだろう……。自分で曲をつくりはじめてから、“あ、やっぱり好きなんだな”と気づいたというか。たぶんずっと好きだったとは思うんですけど、ぜんぜん意識はしていなくて、自分で気づいたのはつい最近のことですね。
——— 好きなことに理由はないと思うんですけど、それでも自分はファンタジーのどのあたりに惹かれているんだと思います?
COR!S わたしはゲーマーというわけではないんですけど、ちょこっとゲームにハマった時期があって。小学生のときにゲームボーイ、そのあとNINTENDO64を買ってもらって、『ゼルダの伝説』にすごくハマったんですよ。でも、ゲームにハマったというよりは、『ゼルダの伝説』の音楽と景色にハマったという感じで。音楽が聴きたくて、景色が見たくて、そのためにゲームをやるというか。そしてゲームの中の世界には限りがあって、あるところよりも先には進めないじゃないですか。わたしはその先の世界を空想するのが好きで……。夜ふとんに入ったあとはたいてい、その日にやったゲームのさらに先の世界を空想してましたね。あの先にはどんな世界があるのかなって。
——— 空想好き。
COR!S あ、でも、女の子としては本当にふつうでした。まったく目立たないふつうの子で。
——— 大学は音楽とは関係のない学部に?
COR!S そうです。本当は音楽に力を入れている学校に行きたくて、そのためのレッスンに通ったりもしていたんですけど、親からNGが出てしまって。
——— え、3歳からエレクトーンを習わせたのに。
COR!S 社会人として世の中に出るまえに、いきなり音楽の世界に飛び込むのはダメって。なので情報系の学部に進学しました。ちょうどそのころにパソコンで曲をつくれるということを知って、その世界に少し近づけるかなと思って……。コンピューターのプログラミングの授業は苦手だったんですけど、映像制作の授業もあって、もしかしたら自分でつくった音楽をつけれるんじゃないかなと思い、わたしはそれ系のゼミを選んでました。
——— 実際に音系の講義もあったんですか?
COR!S それが残念ながら音系の講義はほとんどなかったんです(笑)。音楽の歴史みたいなのは少しあった気がしますけど。
——— 自分で曲をつくりたいなと思い始めたのは?
COR!S エレクトーン教室で、自分で曲をつくるレッスンというのも何回かあって。そういう発表会もあったんです。
——— あ、エレクトーン教室では作曲も習うんですね。
COR!S でも、作曲について何かを習うというわけではなく、自分でメロディーをつくったら、それをもとに先生がふくらましてくれるというか。その程度のものだったんですけど、何か楽しいなと思ったんです。それで家でもひとりで曲をつくり始めたんですけど、録音をどうするかというのが悩みで。最初はカセット・レコーダーを置いたりして録っていたんですけど、ぜんぜん納得いかなかったですね(笑)。
——— それでどうしたんですか?
COR!S 何かもっと本格的にやってみたくなって、さっきも言ったとおり何となくパソコンで曲をつくれるということは知っていたので、そういうことをおしえてくれるスクールを探したんです。そうしたら心斎橋の楽器屋さんで、DTMスクールをやっているのを知って、すぐに通い始めたんですよ。それが大学三回生のときですね。
——— 大学に通いながら。
COR!S そうです。月に2回だけだったんですけど、結局2年くらい通っていたと思います。
——— そのDTMスクールは、どんな内容だったんですか?
COR!S パソコンとMIDI鍵盤があって、先生がマンツーマンで打ち込みかたをおしえてくれて。あ、なるほどなって。
——— 家に自分のパソコンはあったんですか?
COR!S 大学の勉強用に買ったWindowsノートを持っていたので、自分でもすぐにDTMスクールで使っていたのと同じSteinberg Cubaseを買って、最初はエレクトーンを入力用に繋いで(笑)家でもやり始めました。いま考えると、Cubaseで使うには厳しいスペックのパソコンだったんですけど。
——— DTMスクールで打ち込みかたをおそわって、家で復習して……。
COR!S そうですね。それで曲づくりの楽しさに目覚めてしまったというか。もうメチャクチャ楽しくて、それまでの人生でやってきた何よりも楽しかったんです(笑)。
——— どのあたりが楽しかったんですか?
COR!S 自分の頭の中で鳴っているものを、どこまでも再現できるところですかね。エレクトーンだと限られていたんですけど、パソコンだとどこまでも再現できた。これは本当に無限だなって。
——— 最初はMIDIで音源を鳴らして。
COR!S そうですね。でも、いちばん衝撃的だったのが、リバーブの効いたクラップの“パーン”っていう音、あれをオーディオを使ってつくるというのをおしえてもらったとき(笑)。それまで、わたしの中には“弾く”という概念しかなかったので、音を“貼る”ということを知って、DTMに無限の可能性を感じたんです。それからはMIDIだけでなくオーディオも多用するようになりました。
——— 頭の中に鳴っている音を、すぐにパソコンで再現することはできました?
COR!S けっこうすぐできるようになりました。だから通い始めて間もなく、先生に“君はもう来なくていいよ”と言われたんですけど(笑)、それでもずっと通ってましたね。やっぱりちょっとしたテクニックとか、そういうことをおしえてもらえたので。それに1回の時間がすごく短かったですし、月に2回でしたから。とにかくDTMには貪欲でした(笑)。
——— 最初はどんな曲をつくっていたんですか?
COR!S いろいろつくりましたね。歌ものもつくりましたし、BGMっぽい曲もつくりましたし……。ずっと家に籠ってやってました。
——— DTMをやっていることを大学の友だちは知っていたんですか?
COR!S いや、話してもたぶんわかってもらえないと思ったので、そんなに言ってなかったです。ふつうだったら、大学時代は友だちと買い物に行ったり、遊びに行ったりすると思うんですけど、そういうこともまったくしなくて。一刻も早く家に帰って打ち込みしたい!みたいな(笑)。これはいまでもそうですね。
——— 聴く音楽のほうは、小さいころのディズニーやモーニング娘。からどんなふうに変わっていきましたか?
COR!S 中学校のときは友だちの影響で洋楽にハマりました。アヴリル・ラヴィーンとかブリトニー・スピアーズとか、それこそヒット・チャートに入っているような音楽。ストリート・ダンスをやっていたこともあって、リズムのある曲が好きでした。いっぽうで映画音楽も好きで、ずっと聴いていましたね。
——— 現在の作品に通じるエレクトロな曲を聴き始めたのは?
COR!S ケミカル・ブラザーズの『Star Guitar』をラジオで聴いたのが最初です。あの空間的なサウンドと、展開しないでずっと進んでいく感じがおもしろくて。エレクトーンだと、ああいうループ音楽の発想はないじゃないですか。すごくおもしろいなと思って、あの曲がきっかけでいろいろ聴き始めた感じですね。
それで高校生のときに、レコード屋さんでたまたまCAPSULEを知って、それからはインターネットでテクノっぽい曲とかゴリゴリ系の音楽をあさって聴くようになりました。
——— そういうエレクトロな音楽を好きになって、クラブとかは?
COR!S ほとんど行ってないです。すっごくマジメな子だったので(笑)。だから大学時代の友だちも、わたしがこんなことをやっているのを誰も想像できないと思います。
——— アイドルになりたい願望は、モーニング娘。のオーディションを受けたときで終わり?
COR!S そうですね。あれは衝動的な行動だったと思うので(笑)。その後は別になりたいというのは……。でも、大学時代にAKB48が流行って、自分の中でアイドル再ブームがやって来たんですよ。それで知り合いのネット・アイドルの女の子に曲を書いて、プロデュースごっこをしたりしていました(笑)。
——— 自分の曲を発表し始めたのは?
COR!S 3年くらいまえから、SoundCloudやmixiのDTM系のコミュニティにアップし始めて。最初はぜんぜん反応はなかったんですけど、今回のアルバムにも収録した『星空ワルツ』という3拍子の曲をアップしてから、いろんな人が声をかけてくれるようになったんです。今回、リミックスで参加していただいたAZUpubschoolくんも、『星空ワルツ』をmixiで聴いて声をかけてくださって、一緒にやろうって。SoundCloudは、海外の人からの反応が多いですね。どうやってわたしの曲にたどりつくのかはわからないんですけど(笑)、ビート・メイカーの方とかが直接メッセージくれたり。
——— そして2012年には雑誌主催のアレンジ・コンテストで最優秀賞を受賞しました。このコンテストに応募してみようと思ったのは?
COR!S 雑誌をパラパラ見ていたら、コンテストを見つけて。わたし、何がきっかけで知ったのかは忘れてしまったんですけど、Julie Wataiちゃんのことは大好きで、ずっとブログを追いかけていたんですよ。かわいい人だなって。で、Julieちゃんがフィーチャーされた曲のアレンジ・コンテストということで、これは応募しないわけにはいかないだろうって(笑)。本当に締め切りの直前だったんですけど。
——— ああいうコンテストって、たぶん相当レベルが高いと思うんですけど、その中での最優秀賞はすごいですよね。
COR!S 受賞の連絡をもらったとき、たまたま東京にいたんですけど、嬉しさと驚きで固まってしまいましたね。まさか受賞できるとは思ってなかったので……。
——— 受賞曲の『グラドルを撃たないで』のリミックス、mishmash*Julie Wataiのファースト・アルバム(『mishmash*Julie Watai』)にも収録されていますが、けっこうハードな仕上がりですよね。
COR!S あのころはスクリレックスとか、ちょうどダブステップにハマり始めた時期だったので、そういうテイストにしたいなと思って。“グラドル”という華やかだけどたいへんそうな仕事をテーマにした曲だったので、わたしは華やかさの中にちょっと毒を入れてみようかなと。でもいま聴くと、必死な感じがひしひしと伝わってきます(笑)。
——— その後、江崎グリコ主催のコンテスト『ポッキークリエイターズ』でも、音楽部門で最優秀賞を受賞(受賞曲『Give me ♡ POCKY!』は、こちらで聴くことができます)。
COR!S “POCKY”ということばさえ入っていれば、あとは何をやってもいいという自由なコンテストだったので、かなり楽しんでつくりましたね。受賞したのは嬉しかったんですけど、賞品がポッキー111箱だったのには驚きました(笑)。
——— うらやましい。
COR!S でもわたし、チョコレートが苦手で(笑)。だからみんなに配って配って……(笑)。
——— その後、Yun*chiの2枚目のミニ・アルバム、『Shake you*』収録の『Road*』でプロとしての作家デビューをはたします。
COR!S わたし、インディー時代からYun*chiさんの大ファンだったんです。とは言っても、ライブを見たことがあったわけではなく、当時Yun*chiさんのブログに貼ってあったSoundCloudの音源を聴いたりしていただけなんですけど……。でも、本当にわたしが求めていた声というか、“こういうボーカルを探していた!”と思ったのがYun*chiさんだったんです。わたしにとって本当に理想的なボーカリストでした。だからTwitterで、いちファンとしてアプローチし始めたんですよ。しまいには1曲、オリジナル曲をプレゼントしてしまって。それに対して、まさか反応があるとは思ってなかったんですけど、わたしの曲をすごく気に入ってくれたみたいで、事務所の人からオファーがきたんです。
——— こんな曲を書いてほしいというリクエストはあったんですか?
COR!S いや、まったく。これまでYun*chiさんには2曲書いたんですけど、どちらも自由にやらせてもらいました。わたしの中には、Yun*chiさんに歌ってほしいメロディーとサウンドが明確にあったので、それをカタチにして提出したんです。
——— レコーディングには立ち合われたんですか?
COR!S 立ち会ってません。パラで書き出したオーディオ・データをネットで送ったあとは、すべて東京で。スタッフのかたとはメールやSkypeでやり取りして……。すごい時代ですよね。それでも曲が形になっちゃうので。
——— そして今回、ファースト・アルバム『Across Time & Space』を発表されたわけですけど、このタイミングでソロ作をリリースしようと思ったのは?
COR!S 最近はずっと歌ものをつくってきたんですけど、ちょっと違うことをやりたくなって……。サウンドトラック寄りのインストというか、そういう音楽をつくりたくなってきたんです。それで、集大成というわけではないんですけど、歌もののひと区切りとして、まとめて出しておきたいなと。
——— “第一期COR!S”のまとめとして。
COR!S そんな感じですね。
——— とてもコンセプチュアルな内容になってますね。
COR!S アルバムとおしてのコンセプトは、“四次元”なんです。時間も空間も飛び越えた非現実のファンタジーというか。それでタイトルも『Across Time & Space』と。
わたし、ピーターパン症候群的なところがあって、あんまり大人になりたくないというか(笑)。過去の情景であったり、郷愁を覚えることにときめきを感じるんですよ。それで、むかし憧れていたおとぎの世界へ、時間も空間も飛び越えて行けたらいいなという。
——— 子どものころのほうが楽しかった?
COR!S 子どものころって、そのほとんどが空想や想像でできあがっていたわけじゃないですか。時間もゆっくり流れていたような気がしますし、いまは気づかないような発見もたくさんあった。だけど大人になるにつれて、忙しい現実社会のなかで暮らしてるわけですから当然なんですけど、おとぎの世界を空想する余裕なんてなくなっていて。その余裕のなさをつらく感じた時期もあったんですけど、音楽をつくることで、あのころの気持ちを取り戻せるような気がしたんです。自分の音楽をつくれば、それこそ幼稚園時代とか、子どものころに空想していた世界に行けるかなと。そういう想いからつくった作品が、この『Across Time & Space』なんです。
——— 『星空ワルツ』以外の曲は、この作品のために書き下ろしたんですか?
COR!S いや、『星空ワルツ』のほかにも、『Biscuit Time』と『Across Time & Space』は一度SoundCloudで公開しています。最初の3曲、『Intro』、『時空の扉』、『テレパシー』は新たに書いた曲ですね。
——— 最初の『星空ワルツ』を書いたときから、先ほどお話しされていたようなコンセプトは頭にあったんですか?
COR!S ありました。わたし、むかしからリアルな恋愛の歌とかには興味はなくて、ずっと空想めいた曲ばかりつくっていたんです。
——— リミックスを除いたオリジナル曲は6曲で、いわゆるミニ・アルバム的な内容になっていますね。
COR!S 6曲というのはたまたま。6曲目ができた段階で、『Across Time & Space』の世界はできあがったんじゃないかなと。
——— 最後に2曲リミックスが入っていますが、不思議とオマケや付け足し的な感じはせず、自然な流れで聴くことができますね。本編のリプライズ的に聴けるというか。
COR!S AZUpubachoolくんも三浦コウくんも、わたしの世界をわかってくれている方なので。だから何もリクエストせず、好きにリミックスしてもらいました。最後に時計の音が入っているのが、とても気に入っています。
——— 歌詞もすべてご自身で?(『Across Time & Space』の収録曲の歌詞は、こちらの特設サイトに掲載されています)
COR!S はい。頭に浮かんだワードを先に並べて、メロディーと同時進行でつくっていきました。
——— ジャケットは?
COR!S 原画は自分で描いて、デジタル化は少しお手伝いしてもらいました。本当はまだまだ世界が広がっているんですけど、今回はそのなかのほんの一角を、時空の扉から覗いた感じ。そのほかの世界は、もしかしたら次作で……。
——— 1曲ずつお話を訊かせてください。1曲目の『Intro』は、アルバムへのイントロダクション。
COR!S そんなイメージですね。2曲目の『時空の扉』からメロディーを引っ張ってきてつくりました。行進っぽいところは、物語のゲートが開いていく感じ……。けっこうリズムを細かく刻んでますね。
——— リズムの打ち込みは、全曲通して細かいですよね。
COR!S そうかも。細かく刻んだリズムが好きなんです。
——— 2曲目の『時空の扉』は、映画のサウンドトラックのうえに歌がのっているような感じです。
COR!S 5分半と長めで、かなり展開していく曲です。絵本っぽい展開を意識していて、最初と最後でぜんぜん違いますね。ストーリーとしては、誰でも子どものころに憧れていたものってあると思うんですけど、そのころにタイムスリップして、憧れていたものがあふれているあのときの景色をもう一度見てみたいなぁ……という歌です。
——— この曲だけでなく、全体にボーカルが歪んでますよね。
COR!S そうですね。そのへんはエレクトロを意識して。歌い上げるボーカルではなく、エレクトロで無機質な感じのボーカルにしたくて、あえて歪ませています。歪ませるエフェクトは、Cubase標準のものやWavesのアンプ・シミュレーターなど、曲によって変えていますね。ピッチをいじったようなエフェクトは、Antares Auto-Tuneです。
——— 3曲目の『テレパシー』は、いまっぽいエレクトロ・チューンですね。
COR!S いちばんエレクトロを意識した曲ですね。生音はピアノくらい。歌詞としては、テレパシーというものが本当にあるかどうかわからないけれど、使えたらいいなという。
——— 曲中飛び交うシンセは何を使っていますか?
COR!S サンプルもありますけど、メインはNative Instruments Massiveです。Massiveは音が太くて、ゴリゴリした音が出るので、とても気に入っています。この曲に限らず、ピアノやストリングスとかだけを使って、きれいに終わりたくないなというのがあって。Massiveのぶ厚くて男前な音(笑)を使うことで、きれいな音と対比させたいなと思っているんです。エレクトロとファンタジーの融合というのは意識しています。
——— 4曲目の『Biscuit Time』は、とてもかわいい曲ですね。
COR!S お菓子をモチーフにしたかわいい曲をつくりたかったんです。でも、別にビスケットが好きなわけではないんですけど(笑)。お菓子って、見た目もかわいいし、美味しくて、食べているときはとても幸せなんですけど、食べて無くなってしまうと何か寂しくなっちゃうじゃないですか。その感じをモチーフにすることで、楽しい時間が終わってしまう寂しさを表現したかったんです。アルバムを聴いた人からは、この曲がけっこう評判がいいですね。
——— 5曲目の『星空ワルツ』は3拍子の曲。
COR!S 最初にメロディーが思い浮かんで、それがたまたま3拍子だったんです。この曲は本当にキラキラした感じにしたかったので、音色もそういうイメージのものを選んで。ベルのようなキラキラした音色をつくるときも、けっこうMassiveを使っていますね。
——— この曲も、ワルツですけどリズムが細かいですね。
COR!S ですね。グルーヴを出したいなと思って。
——— そしてオリジナル曲最後の6曲目、『Across Time & Space』はタイトル曲らしい大作。
COR!S 6分ちょっとありますね。第1章、第2章と、組曲のように展開していく感じ……。最初に全体の構成を考えるのではなく、頭に浮かんだイメージのまま、どんどんつくっていきました。最初はインストにしようかなと思ったんですけど、ボイスも入れて。歌詞は、2曲目の『時空の扉』は子ども時代の憧れを歌った曲なんですけど、この曲はまだ見ぬ未知の世界へ進んで行くというイメージの曲で、自分が次の音楽、次のステージに行けるように、未来に向かって前向きな内容になっています。
——— 4分過ぎからは、ゲームの戦闘モードに入ったような感じになりますよね。
COR!S ラスボスが現れたような感じですけど(笑)、あそこは困難とか葛藤を表現しているんです。未来に向かって行くのって、そう安易なことじゃない思うので……。
——— オーケストレーションは、どこかで学ばれたんですか?
COR!S いや、完全に独学です。そういう曲を聴くのが好きなので、自己流でどうにか……。むかし吹奏楽をやっていたので、楽器の編成とかはなんとなくわかるんですけど、それでもアレンジにはすごく時間がかかりますね。メロディー自体は2〜3日でできるんですけど、アレンジは納得がいかないと何度もつくり直したりします。
——— ICONのインタビューなので、機材についてもおしえてください。DAWはずっとCubase?
COR!S そうです。最初に買ったときはバージョン5で、6を飛び越えていまは7を使っています。パソコンはApple iMacです。
——— オーディオ・インターフェースは?
COR!S ずっとヤマハのAUDIOGRAMを使っていたんですけど、つい最近、Universal Audio Apollo Twinに替えました。同年代のアーティストとして、とても尊敬しているTeddyLoidさんが使っていて、すごく良いという情報をいただいたので。AUDIOGRAMと比べると、パソコンへの負担も少ないですし、音もクリアになった印象です。アンプ系のプラグインがいっぱい付いてきたんですけど、かけ録りするのは好きではないので、それは使ってないですね(笑)。
——— 今回のボーカルのレコーディングはすべて自宅で?
COR!S はい。ポップガードも使っていて、後ろには手づくりのリフレクション・フィルターが付いています。最初のころは毛布をかぶったりして、ふとんの中で歌を録っていたんですけど(笑)。
——— あと使っている機材としては、マイクとスピーカーとヘッドフォンくらい?
COR!S そうですね。スピーカーはヤマハのHS7で、ヘッドフォンはAKGのもの。コンテストの賞品でもらったTeenage Engineering OP-1や、VestaxのDJコントローラーとかも持っているんですけど、ぜんぜん使えてないですね。OP-1、すっごく難しいんですよ(笑)。でもおもしろいので、いつかライブで使ってみたいと思ってるんですけど……。
——— Cubaseで使っている音源をおしえてください。
COR!S そんなに持ってないです。シンセはMassiveがほとんどで、あとはCubase標準のHALion Sonicも使いますね。音色がたくさん入っていて、サウンドもきれいなので。生音はNative Instruments Kontaktのライブラリーで、ストリングスはSession Stringsを使っているんですけど、ちょっと他のものにしようと思っています。基本的にストリングスやピアノに関しては、スタジオで録音された音源を使うようにしていて、そのほうが空間を表現できる感じがしますし、ノイズっぽい音も入っていたりするので……。
——— ドラムは?
COR!S ドラムは、完全にオーディオ・トラックへの単音サンプルの貼り付けですね。細かいハイハットとかも1音ずつ貼り付けています。
——— 貼り付けるのは、どんなサンプルなんですか?
COR!S 売っているものとか、ダウンロードしたもの。お気に入りの音色だけフォルダにまとめてあります。
——— サンプラーを使わずに、オーディオ・トラックに直接貼り付けるのはなぜ?
COR!S サンプラー、よくわからないので使わないんです。使ってみたい気持ちはあるんですけど……。まだ手を出せてないというか。
——— ベースは?
COR!S たいていMassiveです。音色はデフォルトをちょっといじって。わたし、ベースを打ち込むのがすごく苦手で、人の曲を聴くときにベースだけを集中して聴いたりして勉強しています。
——— 特にこだわっている音色とかあります?
COR!S うーん、なんだろう……。やっぱりオーケストラ系ですかね。だからSession Stringsの音には納得していないので、他のものに替えようかなと。あとはさっきも言ったとおり、生音と電子音の両方を必ず入れるようにしています。
——— よく使うエフェクトは?
COR!S 歪ませる系ですね。アンプ・シミュレーターとか、真空管のサチュレーターとか。ボーカルだけでなく。シンセもよく歪ませて使っています。そういうものを通すことで、尖った感じの音や生音っぽい感じの音をつくれるので。
——— 曲づくりのフローは、けっこう固まっている感じですか?
COR!S やっぱりメロディーから浮かぶことが多いですね。外を歩いているときとか、家で何かしているときに良いメロディーが浮かんだら、ボイス・レコーダーに録っておいて。そしてパソコンのまえにむかって打ち込んでいくと。最初に入力するのはメロディーで、次にビートを決めてから、上ものを打ち込んでいきます。パソコンのまえに座った時点では、けっこうイメージはできあがっていますね。
——— 完成したファースト・アルバム、仕上がりには満足していますか?
COR!S そうですね。現時点での自分の限界にはチャレンジしました。今回、初めてミックスからマスタリングまですべて自分でやりましたし……。でも、ミックスとかはまだまだ改善すべき点があると感じているので、これからも精進してきたいです。
——— つくり手として、どのあたりを聴いてほしいですか?
COR!S サウンドは、エレクトロとシンフォニーが融合したところを聴いてほしいです。あとは歌詞。歌詞にすごい想いを込めたので……。
——— どこかのレーベルから発表するのではなく、自分のレーベルからリリースしたのは?
COR!S やっぱり、人のレーベルだと、しっくりこなかったので……。自分のプライベート・レーベルでやろうと。
——— メジャーから作品を発表したいとか、そういう野心はない?
COR!S うーん、ないですね(笑)。本当に頭の中に浮かんだものをカタチにして発表して、それを受け入れてくれる人たちに聴いてもらえれば。
——— 次は歌ものではない作品をつくりたいとのことでしたが。
COR!S そうですね。サウンドトラックというか、インスト系というか。将来的には映画音楽やゲーム音楽もやってみたいなという夢があります。だからCORNELIUSのサウンド・プログラムだけでなく、『攻殻機動隊』の音楽なども手がけられている美島豊明さんのように、マルチに活躍されているアーティストさんは本当に憧れですね。
——— ぜひ歌ものも続けてほしいですね。
COR!S いや、また気が変わったら自分で歌うかも(笑)。人にも曲を提供していきたいですし、歌ものも並行してやっていけたらと思っています。
——— COR!Sさんは、大阪をベースに活動されているわけですが、東京に行こうと思ったことは?
COR!S ないですね。こっちに仲間がたくさんいますし、いまはデータでやり取りできてしまいますから。
——— 最近はどんな音楽を聴いています?
COR!S ジャンルはさまざまですが、同年代のアーティストさんが多いですね。あとはDTMを始めるきっかけとなったDE DE MOUSEさんやRAM RIDERさんは、いまでもよく聴いていて、ずっと好きなサウンドです。それとあいかわらず映画やゲームのサントラもよく聴いています。
——— いまは音楽以外は興味ないですか?
COR!S Webデザインや写真、映像とか、たくさん興味はあるんですけど、なかなか手を出しきれない状態です。自分のミュージック・ビデオとかつくれたらいいなぁって思ってますけど……。音楽とはぜんぜん関係のないアート作品とかもつくってみたいです。
——— ファッションは?
COR!S ファッションも好きです。最近は紫とかピンクとか、うすい色、パステル・カラーの洋服が好きですね。ブランドには全然こだわりがなくて、気に入ったものを買うようにしています。基本的にアイテム単体で選ぶので、どんなジャンルのお店でも関係なく入ります。だからファッション・ビルだとぜんぶ回らないといけないのでたいへんなんですよ(笑)。
——— 他のインタビューで、東京に行ったときに6%DOKIDOKIに行ったみたいな話もありましたね。
COR!S KAWAii原宿系も好きです。ああいうお店は、わたしが知る限りこっちにはぜんぜんないですね。それっぽいファッションの人はたまに見かけますけど……。
——— COR!Sという名前の由来は?
COR!S これはあだ名なんです……。名前がどんどん変化していって、最終的にCOR!Sに(笑)。みんながCOR!Sちゃん、COR!Sちゃんと呼ぶので……。自分でつけたというよりは周りにつけてもらった名前ですね。
——— 長々とありがとうございました! 次作も楽しみにしています!
来る2014年7月19日(土)、東京・北参道のストロボカフェにおいて、COR!Sをゲストに迎えたICON初のトーク&ライブ・イベントを開催します。当日は、ヤマハミュージックジャパンのSteinberg Cubaseマーケティング担当の青木陽菜さんにもご登場いただき、COR!Sが普段どのように制作を行っているのか、Steinberg Cubaseの画面を見せてもらいながら公開インタビュー。トークの後は、COR!S初のソロ・ライブも披露していただきます。大阪在住のCOR!Sのライブが東京で観れる貴重な機会なので、Cubaseユーザーの方もそうでない方も、ぜひご参加ください! 入場料/1ドリンクともに無料です!
● 日時:2014年7月19日(土)18:00開場/18:30スタート
● 会場:北参道ストロボカフェ(東京都渋谷区千駄ヶ谷4-3-10 ニューベリー千駄ヶ谷 B1)
● 料金:無料(1ドリンクも無料)
● 予約:Peatix
● 主催:ICON
● 協賛:Steinberg