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アイドル・ソングのつくりかた #2:CHEEBOWさんのアイドル・ソング作曲講座 第1回 〜 “予想は裏切って、期待は裏切らない”曲をつくる 〜

第一線で活躍されている作曲家さんやアレンジャーさん、プロデューサーさんへのインタビューをもとに、アイドル・ソングの作曲法に迫る連載、『アイドル・ソングのつくりかた』。第1回目は、イベント“アイドルソングハッカソン”から誕生した現役プログラマー・アイドル、ハックガールズのインタビューを掲載しましたが、今回からは何回かにわたって、多くのアイドルを手がけている“週末音楽家”のCHEEBOWさんに、アイドル・ソングの作曲法について具体的にレクチャーしていただきます。まずはその手始めとして、CHEEBOWさんがアイドル・ソングをつくり始めたきっかけと、作曲時に考えていることについてうかがいました。(Special Thanks to FabCafe

CHEEBOW

週末音楽家、CHEEBOWさん。コンピューター・プログラマーとして活躍する傍ら、夢眠ねむ、愛乙女★DOLL、Doll☆Elements、Jewel Kiss、T!P、丸山夏鈴、逢沢ありあ、Honey Squashなど、多くのアイドルに楽曲を提供している(WebTwitter

1:曲づくりを始めたきっかけ

ぼくは小さいころにピアノを習っていたとか、そういうのは一切ないんです。それなのに曲をつくり始めたのは、自分でプログラムしたゲームに音楽を付けたかったから。中学のときに、日立のベーシックマスター レベル2というマイコンを買ってもらって、十代はゲームのプログラムに明け暮れていたんですよ。ゲームが動くようになれば当然、音を付けたくなり、家にあったエレクトーンでメロディーをつくって、それをBASICで入力し始めたんです。それがコンピューターを使った曲づくりのスタートですね。

でも、ベーシックマスター レベル2は、単音しか鳴らすことができなかったんです。それでもぼくは、どうしても和音を鳴らしたくて、思いついたやりかたが、和音の構成音をものすごいスピードで発音させる方法。ドミソという和音を鳴らしたい場合は、ドとミとソをものすごいスピードで発音させると、なんとなく和音っぽく聴こえたんですよ(笑)。で、さらにその上でメロディーを鳴らしたりとか。あと、中にリレー回路が入っていたんですが、それが制御されるたびに“カチッ、カチッ”と鳴るわけですよ。それを利用して、パーカッションがわりに使ったりとか、いろいろと無茶なことをやっていましたね。さんざん酷使した結果、ぼくのベーシックマスター レベル2は壊れてしまいましたけど(笑)。

そして高校に入るのと同時に、新しいコンピューター、ヤマハのMSXを手に入れたんです。あえてヤマハのを選んだのか、たまたまヤマハだったのかは憶えてないんですが、ヤマハのMSXにはシーケンサー的なプログラムが付いていたので、BASICで打ち込まなくても曲が作れたのがよかったのかもしれません。もちろん、ゲームのプログラムも続けていて、どちらかというとそっちのほうがメインだったんですが、ヤマハのMSXのおかげでDTM的な曲づくりも始めることができたんです。

つくる音楽は、ゲーム・ミュージック的なインスト曲が中心で、あとはフュージョンが好きだったのでそういう感じの曲とか、もちろんYMO。高校では吹奏楽部に入ってホルンをやっていたんですが、なぜ吹奏楽部に入ったかといえば、譜面が読めるようになりたかったから。中学時代から曲づくりを始めて、エレクトーンで一生懸命メロディーをつくったりしていたわけですけど、やっぱり譜面が読めたほうが絶対にいいんじゃないかと思ったんです。そして吹奏楽部に入れば、譜面のことをおしえてもらえるんじゃないかと単純な発想で。

曲づくりに関しては、ずっとヤマハのMSXでやっていたんですが、どうしてもドラムをうまく鳴らせなかったので、リズム・マシンを買いました。そしてリズム・マシンをマスターにして、MSXとシンクして鳴らしていましたね。

Hackgirls

CHEEBOWさんの現在の制作環境。DAWは、自作のWindows PC上で走るSteinberg Cubase。最初にヤマハのMSXを購入して以来、DTM機材はほとんどヤマハ(Steinberg)製とのこと

2:洋服ではなく、音楽で女の子をコーディネートする

音楽はいろいろ聴いていたんですが、最初にアイドルにハマったのは、おニャン子クラブです。高校3年のときに『夕やけニャンニャン』を見て、一気にハマってしまいました。それで自分もアイドル・ソングをつくりたくなったんですけど、いまのようにネットで歌い手の女の子を探すわけにはいかなかったので、仕方なく自分で歌っていました(笑)。ヤマハのカセットMTRを買って、それはMSXやリズム・マシンとはシンクさせずに、2トラックにオケ、残りの2トラックにボーカルとコーラスを入れて。アイドル・ソングづくりのスタートですよね。

自分がなぜ、おニャン子クラブにハマったのかを考えてみると、それは音楽体験が新鮮だったからだと思うんです。ご存じのとおり、おニャン子クラブからはさまざまな派生ユニットが誕生し、主要メンバーはソロ・デビューをはたしました。うしろゆびさされ組、ニャンギラス、うしろ髪ひかれ隊、新田恵理、国生さゆり……。毎月毎月、たくさんの楽曲がリリースされるわけです。現在のAKBグループみたいなものですよね。そしてリリースされる作品は、決して単調なものではなく、モータウンっぽい曲もあれば、テクノっぽい曲もあって、実にバリエーション豊かだったんですよ。その音楽的な振れ幅が、自分にとってはひじょうに新鮮な体験だったんです。

おニャン子クラブの作家さんで、いちばん好きだったのは後藤次利さんです。いまでもぼくの音楽の神様ですね。当時、後藤さんが何かのインタビューで、“自分は洋服ではなく、音楽で女の子をコーディネートするスタイリストのようなものだ”というようなことをおっしゃっていて、なるほどなと思ったんですよ。だから作品ごとにまったく違う曲調で、バリエーションが豊かなんだなと。当時、おニャン子クラブ関連作品のリリース量はすごかったわけですけど、追いかけていても本当に飽きませんでしたから。“音楽で女の子をコーディネートする”という考え方は、いまでもぼくのアイドル・ソングづくりのベースになっています。

3:イメージとは違うタイプの曲を与えてあげることで、アイドルの別の魅力が出てくる

だからアイドルの曲をつくるときは、“この子たちがこういう曲をやったらどうなるんだろう”と、自分自身が楽しんでいる感じですね。いちアイドル・ファンとしても、ずっと同じような曲ばかりやっているグループよりは、作品ごとにまったく違う曲調のグループのほうが好きだったりします。そのほうがおもしろい。それにまったく違う感じの曲を与えてあげることで、そのアイドルの知らなかった一面や魅力が出てくることもあるんですよ。かわいい曲ばかりやっているアイドルで、いまいち伸び悩んでいる場合、それまでのイメージとは真逆の曲を与えてあげることで、足踏みしている状況が一気に打開されたりとか。かわいい曲が合っているような子でも、カッコいい曲をやらせてみると別の魅力が出てきたりするものなんです。

T!P

栃木をベースに活動するアイドル・グループ、T!P(オフィシャル・サイト

たとえば最近、栃木のT!Pというアイドル・グループに曲を書いたんですけど、アイドルらしいかわいい曲を歌っている子たちだったので、続けて同じような曲だとつまらないなと思い、ぼくはちょっと強めの曲を書いてみたんですよ。それがけっこう好評だったので、プロデューサーから次の曲も依頼されて、“こんどはどんな曲調でもいい”と言ってくれたんです。“よしきた!”と思って(笑)、これまでのT!Pのイメージとは真逆の感じにしてみようと思ったんです。具体的には、マイナー・アップテンポで、大人な雰囲気の曲。そして詞に関しては、“田舎に住む女の子たちが、退屈な日常に飽きて渋谷を訪れるが、そこにも自分たちの居場所はなかった……”というストーリーを作詞家さんに伝えて書いてもらって。そして出来上がったのが、『マーメイド』という曲なんです。

曲調も雰囲気もこれまでとは真逆な感じの曲なので、最初は彼女たちもファンも戸惑ったと思うんですよ。でもライブで『マーメイド』をやっているのを見たら、T!Pのメンバーがこれまでになかった表情を見せてくれたんです。それはすごく魅力的な表情で、これは成功だなと思いましたね。あと、T!Pは栃木のデパートでも歌っていると聞いたので、ちょっと昭和テイストな曲調にしてみたんですよ。それがよかったのかわかりませんが、デパートで『マーメイド』をやると、おじいちゃんやおばあちゃんがCDを買ってくれるそうです(笑)。

もうひとつ例を挙げると、これも最近手がけた愛乙女★DOLLの研究生グループ、Luce Twinkle Wink☆の『刹那ハレーション』という曲も同じですね。愛乙女★DOLLには、Luce Twinkle Wink☆と、らぶ☆けんStellaという2つの研究生グループがあって、どっちのオリジナル曲を最初にリリースするか、ファンの数で競っていたんですけど、結果Luce Twinkle Wink☆が勝ったんです。それでぼくが彼女たちの最初のオリジナル曲を書くことになったわけですけど、Luce Twinkle Wink☆はライブではずっと愛乙女★DOLLの曲をやっていたんですよ。ぼくも何度かライブは見ていたんですが、彼女たちは愛乙女★DOLLのかわいい曲を気に入っていたようすでしたし、ファンもそう感じていたと思うんです。しかしぼくは違って、彼女たちにはかわいい曲ではなく、勢いのあるカッコいい曲が合うような気がしていたんですよ。それに彼女たちの中の3人は、テレビ・アニメ『ブラック・ブレット』の劇中曲を歌う天誅ガールズとしても活動しているので、アニメ・ファンからしてみれば、いかにもアイドルらしいかわいい曲だとガッカリしちゃうんじゃないかと。それで出来上がったのが、『刹那ハレーション』という曲なんです。『刹那ハレーション』というタイトルも、アイドル曲というよりはアニソンっぽくていい感じじゃないですか。でも、実際の『刹那ハレーション』は、アニソンとはまた違う仕上がりになっているんですけどね。この曲によって、Luce Twinkle Wink☆の別の魅力を引き出すことができたと思っています。

4:『予想は裏切って、期待は裏切らない』

もちろん、アイドルが持っているイメージとは違ったタイプの曲にすると、ガッカリするファンがいるのも事実です。でも、リリース直後にみんなにウケる曲って、長いスパンで見るとそんなに良くなかったりするんですよ。リリース直後、あんまり人気がなくても、1年くらい経ってからすごく評価されたり。だからファンの反応はチェックしますけど、“良くない”、“好きじゃない”という人が多くても気にならないですね。逆にそういう反応が多いということは、狙いどおりファンの予想を裏切れているということなので、嬉しかったりします(笑)。

だから、ぼくが曲づくりのときに考えているのは、『予想は裏切って、期待は裏切らない』ということなんですよ。たとえば最近だと、タイトルのほうが先に発表されるわけじゃないですか。それでTwitterとかをチェックすると、発表された『刹那ハレーション』というタイトルをもとに、ファンの人たちが“たぶんこんな感じの曲なんだろう”とか予想しているわけですよ。ぼくはその予想を裏切りたいんです。で、最初は予想と違ってガッカリしたとしても、聴き込むうちに好きになってくれたら狙いどおり。『予想は裏切って、期待は裏切らない』というのは、こういうことなんです。

なので最近は、作曲家/編曲家としてだけでなく、サウンド・プロデューサーとしてクレジットしてもらうことも多いですね。音だけでなく、場合によっては衣装やライブ中の表情にも口を出したりします。

繰り返しになりますが、アイドルは決まりきったことをやり続けても、おもしろくないと思うんですよ。毎回、ファンの予想を裏切ってくれるほうがおもしろい。また、アイドル自身も、違ったタイプの曲をやることで自分の魅力を再発見したりするんです。そして自分の魅力を再発見することで、彼女たちの表現の仕方も変わってくるんですよ。

CHEEBOW

5:mixiのコミュニティがきっかけで、作曲家デビュー

これまでぼくが書いた曲は、アイドルや同人の歌い手さんの曲を合わせると、もうすぐ100曲になります。作家デビューは2007年のことで、グラビア・アイドルの森下悠里さんに歌っていただいた『まいっちんぐマチコ先生 Go!Go! 家庭訪問!!』というVシネマの劇中曲が最初ですね。当時、ぼくはmixiの作曲系のコミュニティに入っていたんですが、監督さんがたまたまぼくのプロフィールを見てコンタクトしてくれたんです。“昭和テイストな曲にしてほしい”というリクエストで、『It’s まいっちんぐ Story』 と『つつんであげる』という2曲を書きました。でも、この仕事に関しては、あくまでもVシネマの劇中曲という認識で、アイドルに曲を書いたという意識はあまりないですね。

その次、2009年に書いた夢眠ねむさんの『魔法少女☆未満』、この曲がきっかけでアイドル・ソングの世界にどっぷりと入っていくことになります。なぜ夢眠ねむさんの曲を頼まれたかというと、秋葉原ディアステージのスタッフがぼくの本業(コンピューター・プログラマー)関係の知り合いだったんですよ。その人はぼくが作曲活動をしていることを知っていて、ディアステージの女の子に曲を書いてほしいと依頼してくれたんです。曲を書ける人なんてたくさんいるのに、どうしてぼくに頼んだのか訊ねたところ、“こんどのCDは、M3とかの同人イベントで売りたい。それならCHEEBOWさんが詳しいだろうと思って”という答えが返ってきて。すぐに夢眠ねむさんと打ち合わせをしたら、彼女もぼくと同じくMOSAIC.WAVが大好きで、それだったら電波ソングでいこうということで完成したのが、『魔法少女☆未満』なんです。『魔法少女☆未満』は、ファンの方もとても気に入ってくれて、夢眠ねむさんはいまでも“永遠の魔法少女未満”というキャッチ・フレーズを使ってくれている。だから個人的にもこの曲には思い入れがあって、何度ライブで聴いても泣きそうになりますね(笑)。

その後、秋葉原ディアステージではディアステージアイドル部をつくることになって、その曲もぼくが書くようになりました。プロデューサーの桂田誠さんからは、“AKB48のような王道路線でいきたい”という話があったので、それまであまり聴いていなかったAKB48やSKE48をチェックし始めて。そうしたらメチャクチャ良かったので、ぼくもAKBグループのファンになってしまいました。そして最初につくったのが『全力ポジティブ』で、その次につくったのが『青春リアリティ』なんです。ぼくの中では3曲目も考えていたんですが、グループが解散してしまったこともあって、結局それは世に出ることはありませんでしたね。

ディアステージアイドル部のプロデューサーの桂田さんは、現在は愛乙女★DOLLを手がけていて、その流れでいまでもぼくに仕事を依頼してくれているんです。愛乙女★DOLLに曲を書き始めてから、知り合いが一気に増えて、いろいろな人からアイドル・ソングを頼まれるようになりました。

“週末音楽家”を名乗り始めたのは、ぼくは本業はプログラマーで、趣味で音楽をやっているわけですけど、主役のアイドルたちは当然みんな真剣なわけですよ。みんな真剣にやっているのに、ぼくだけ趣味というのは悪いなと思って、ももいろクローバーZからヒントをもらって、“週末音楽家”という肩書きにしてみたんです。音楽家とは言っても、ぼくは作曲や編曲をしっかり学んだわけではないので、音楽的な引き出しがそんなにあるわけではありません。しかし、いろいろな音楽を聴いてきたので、振り幅はあるんじゃないかと自負しています。ロックっぽい曲からテクノっぽい曲、アニソンっぽい曲まで、いろんなタイプの曲をつくりますからね。(次回に続きます)

CHEEBOWさんが選ぶ、自作曲ベスト5

● 夢眠ねむ『魔法少女☆未満』(2009年) …… アイドル・ソングづくりにハマるきっかけとなった曲なので、やっぱり思い入れがありますね。

● 愛乙女★DOLL『GO!!MY WISH!!』(2011年) …… 彼女たち最初のオリジナル曲で、ファンが認めてくれる代表曲なんです。アンコールの最後でやるような曲。最後のサビで転調するんですけど、ライブではその部分で“GO!!MY WISH!!”って叫ぶんです。その一体感が大好きですね。

● 愛乙女★DOLL『壊して、純情』(2011年) …… No.1とは言いませんけど、メロディーとアレンジの完成度が自分の中ではかなり高いと感じています。それと完全にファンの予想を裏切った曲だったんですけど、最終的には多くの人たちに好きになってもらえた曲です。

● Doll☆Elements『ギュッとSTAR!!』(2012年) …… 曲自体もよく出来たと思っているんですけど、彼女たちの振りやパフォーマンスがすごく良いんですよ。だからライブでは爆発的に盛り上がるんです。

● T!P『マーメイド』(2014年) …… 彼女たちのイメージをガラッと変えた曲だと思うので、とても気に入っています。