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AKAI MPCシリーズの次期フラッグシップ・モデルでは、組み込み機器用のWindows Embeddedが採用され、再びスタンドアローン・マシンになる?

音楽制作系の情報サイト Create Digital Musicと、独De:Bug誌のWebサイトが、AKAI Professional MPCシリーズの次期フラッグシップ・モデルでは、Windows Embedded(組み込み機器用のWindows OS)が採用されるようだと伝えています。

AKAI Professional - MPC Windows Embedded

Image via Create Digital Music

去る2014年4月2日から4日まで、アメリカ・サンフランシスコでMicrosoftの開発者会議“Build”が開催されましたが、そこで行われた講演の中で、MPCシリーズの試作機が紹介されたもよう。その部分だけを抜き出したムービーがYouTubeにアップされていますが、その試作機はMPC Renaissanceのような筐体で、液晶ディスプレイのかわりに大型のタッチ・スクリーンが備わっています。

これだけだったら、単にMPC Software用のWindowsタブレットがマウントできるようになったMPC Renaissanceの可能性もありますが、ある開発者がMPCユーザーのオンライン・フォーラム“MPC Forum”に書き込んだリーク情報によると、その試作機はIntelベースのハードウェアだったとのことです。

● “Build”で紹介されたMPCシリーズの試作機は、Core i5のCPUを積んだIntelの「ネクスト・ユニット・オブ・コンピューティング(NUC)」をベースにしたハードウェアで、動作にあたって外部のコンピューターは不要だった。

● ソフトウェアはハードウェアに最適化され、当然Eメールなど(の余計なこと)はできない仕様のため、優れた動作を見せていた。

● 必要に応じて、外部ディスプレイやキーボード、マウスなどを接続することも可能だった。

● タッチ・スクリーン操作だけで、USBメモリからすべてのサンプルを読み込むことができた。

さらに講演の中で紹介されたスライドには、大型のディスプレイとコントローラーが統合された、NumarkブランドのDJ用機器の試作機も含まれていたとのことです。

AKAI Professional - MPC Windows Embedded

Image via Create Digital Music

“MPC Forum”に書き込まれたリーク情報から推測すると、“Build”で披露された試作機のOSは、Windows Embeddedだと思われます。Windows Embeddedは、組み込み機器用のWindowsで、産業用機器(自動販売機やレジなど)や医療用機器、輸送機器などで使われているOS。名前にはWindowsとついていますが、ユーザーがWindowsのUIを目にすることはほとんどなく、もちろん自由にソフトウェアをインストールしたりすることはできません。従ってユーザーは、コンピューターではなくスタンドアローン機器のような感覚で使用することができます。

現行のMPCシリーズは、昔のようにスタンドアローンで動作する機材ではなく、コンピューターあるいはタブレットと組み合わせて使用するハイブリッド・タイプの製品となっています。同じようなハイブリッド・タイプの製品には、Native Instruments MaschineやArturia Sparkなどがあり、DAWとの親和性の高さや価格の安さといったメリットがありますが、一方で煩わしい点がいくつかあるのも事実です。当たり前ですが、コンピューターを繋げなければ使用できませんし、電源を投入してすぐに使えるものでもありません。必要ないのにOSやソフトウェアのアップデートを促されたり、同じコンピューターで音楽制作以外のこと…… たとえばWebブラウズやEメールなどができてしまう点をマイナスだと考える人もいるでしょう。

以上のようなことを踏まえると、Windows Embeddedの採用は電子楽器の世界においても、コンピューター・ベースの製品とスタンドアローン機器の両方のメリットを享受できる、理にかなった選択肢のひとつと言えそうです。MPC Softwareは既にWindows OSで動作しているわけですから、それをWindows Embeddedに移植して、「NUC」ハードウェアなどとともにMPC筐体に搭載してしまうのは、さほど難しいことではないでしょう。もちろん、MPCのWindows EmbeddedにAbleton Liveをインストールしたり、Eメールをチェックしたりすることはできませんが、コンピューターを接続することなく、電源投入後直ちにMPC Softwareが使用できることにメリットを感じるクリエイターは少なくないはずです。ちなみに業務用音響機器では、既にEmbedded OSは当たり前のものになっており、ライブ用/放送用デジタル・コンソールの多くで採用されています。

AKAI Professional - MPC Windows Embedded

Image via Create Digital Music

“Build”で披露されたMPCシリーズの試作機について、AKAI Professionalから公式なコメントはありませんし、Windows Embeddedの採用も現段階では推測に過ぎません。しかしながら方向性としては十分考えられるものだと思いますし、「スタンドアローンで動作するMPC」の復活にぜひとも期待したいですね。