MUSIKTECHNIK

Musikmesse 2014: RMEの新型オーディオ・インターフェース、Fireface 802はどのようなコンセプトで誕生したのか 〜 RME マックス・ホルトマン氏インタビュー

今年のMusikmesseで発表されたRMEの新製品、Fireface 802。USB/FireWire接続の定番オーディオ・インターフェースとして、10年以上売れ続けているFireface 800の後継機にあたる製品です。Fireface 800の後継を待ち望んでいた人は、きっと多いのではないでしょうか。しかし、発表されたFireface 802の仕様を見ると、同社のフラッグシップ・オーディオ・インターフェースとして人気のFireface UFXとひじょうによく似ています。はたしてFireface 802は、どのようなコンセプトで開発され、Fireface UFXとはどのような棲み分けで販売されるのか、Musikmesse会場でRMEのインターナショナル・プロダクト・マネージャー、マックス・ホルトマン(Max Holtmann)氏に話をうかがいました。

RME - Fireface 802 Interview

Fireface UFXとの大きな違いは、入力ゲインがアナログ・コントロールになった点

——— 今回発表された新製品、Fireface 802は、Fireface 800の後継機という認識でいいのでしょうか。

MH そのとおりです。Fireface 802が発売されれば、Fireface 800は生産完了となります。いまのところ、Fireface 802は約1ヶ月後の発売を予定しています。

Fireface 800の後継機に関しては、かなり前からアイディアがあったんですよ。もう10年以上発売し続けている製品ですし、そろそろリニューアルしてもいいんじゃないかと。我々は常に製品開発を行っているので、正確にいつからFireface 802の開発をスタートしたかというのは難しいですが、大体1〜2年前からプロジェクトはスタートしたと思います。

——— 入出力の仕様は、Fireface UFXと酷似している印象ですが、両機の違いについておしえていただけますか。

MH まず、声を大にして言っておきたいのが、マイク・プリアンプやAD/DAコンバーターのクオリティを下げるようなことはしていないということです。たとえば、Fireface 802のダイナミック・レンジのスペックは118dBAとなっていますが、これはFireface UFXと同等の値であり、そのほかのスペックに関してもほとんど一緒だと思います。日本の方々は、細かい数値をすごく気にされますが(笑)、ぜひ比較してみてください。

ではいったい何が違うのかというと、最たる違いとしては、マイク・プリアンプのゲインがデジタル・コントロールではなくアナログ・コントロールになっている点が挙げられます。Fireface UFXは、マイク・プリアンプのゲインをはじめ、すべてのパラメーターはデジタルで制御する設計になっていますが、Fireface 802のマイク・プリアンプのゲインは、フロント・パネルのノブを使って、+6〜+60dBの範囲で手動で設定する仕様になっているのです。これは大きな違いです。

なぜこのような仕様にしたかといえば、それは単純にFireface 800の操作体系を踏襲したかったからです。Fireface 800の入力ゲインをノブを使ってフロント・パネルから操作するというデザインは、多くの人たちから親しまれています。その正統な後継機を開発するにあたって、評価されている部分はしっかり踏襲した方がいいのではないかと。

マイク・プリアンプのコントロールに関しては、デジタルとアナログ、どちらも長所があると考えています。デジタル・コントロールには高い利便性がありますし、アナログ・コントロールは無段階でなめらかにゲインを設定することができます。デジタル・コントロールよりも、Fireface 802のようなアナログ・コントロールの方が好みという人は少なくないでしょう。

RME - Fireface 802 Interview
RME - Fireface 802 Interview

——— その他の違いというと?

MH Fireface UFXには、コンピューターに繋がないで使用できるスタンドアローン・モードが備わっていますが、Fireface 802は同じような仕様にはなっていません。しかし、Fireface 802はUSBクラス・コンプライアント・モードに対応しているので、iPadとTotalMix FX for iPadを使用すれば、コンピューター無しでも使用することができます。従って、決してスタンドアローンで使用できないわけではなく、Fireface UFXとは少し仕様が異なる“オールモスト・スタンドアローン・モード”が使えるという感じでしょうか(笑)。

あとは、Fireface UFXのようなカラー・ディスプレイは無いですし、USBストレージにダイレクトに録音できるDURecといった機能も備わっていません。

——— 内蔵のDSPの処理能力に関しては?

MH Fireface UFXとまったく同じです。従って、TotalMix FXで出来ることに差はありません。

——— 最初、Fireface UFXの下位モデルかと思ったのですが、そういった位置づけの製品でも無さそうですね。

MH 我々としては、どちらが上とか下とかは考えていません。マイク・プリアンプのゲインをアナログでコントロールしたい人は、Fireface 802の方を高く評価するでしょうし、どちらが上でどちらが下かというのは、みなさんが決めることです。

Fireface 802のキャッチ・コピーとして、我々は“Legend Reborm”を掲げているんですが、これがそのままこの製品の開発コンセプトなんです。Fireface 800というのは、RMEにとってマイルストーンとなった特別な製品です。10年以上、多くの人たちに支持され、売れ続けているオーディオ・インターフェースというのは市場にはほとんど存在しません。そんな特別なオーディオ・インターフェースを、現代の技術で設計し直し、装いも新たに世に送り出そうと。この先10年を見据えたオーディオ・インターフェース、それがFireface 802なんです。

30ch入出力の信号を扱う程度であれば、ThunderboltやUSB 3.0ではなく、USB/FireWireで十分

——— コンピューターとの接続インターフェースとしては、引き続きUSBとFireWireが採用されていますね。ThunderboltやUSB 3.0を採用するアイディアは無かったのでしょうか?

MH そういう考えは最初からありませんでした。みなさん勘違いされているんですが、ThunderboltやUSB 3.0を採用したからといって、オーディオ・インターフェースとしての性能が良くなるわけではありません。それらは単なるコンピューターと接続するためのインターフェースに過ぎないのです。それだったら汎用性のある、みなさんにとって便利なインターフェースを採用するのがいちばんです。確かに、Thunderboltを採用すれば、“RMEが遂にThunderboltのオーディオ・インターフェースを発表した!”と、最初は注目されるかもしれません(笑)。しかし我々としては、みなさんから注目を集めるために新しいインターフェースを採用するのではなく、一昔前のOSを搭載したWindowsマシンでも使える、本当に有用なインターフェースを採用したかったのです。世の中にはSamplitudeやSequoia、Pyramixなど、Windowsでしか動作しない優れたDAWが多いですからね。それにFireface 802の30ch入力/30ch出力というオーディオ・シグナルをハンドリングする程度であれば、USBやFireWireで十分です。

ただ、Fireface 800との違いとして、Fireface 802のFireWire 800ポートは、中身はFireWire 400という仕様になっています。Fireface 800ではFireWire 800ポートを搭載して、これが名前の由来にもなっているんですが、FireWire 800は高速な反面、互換性の問題があったりするんですよ。代表的なのがAppleのチップ問題で、MacのFireWireポートでは9割以上の機種でTexas Instruments社のチップが採用されているんですが、あるとき一時的にAgere社のチップが採用されたんです。このパーツ変更により、Fireface 800との接続に問題が生じてしまったんですよ。このようにFireWire 800という規格は、チップが変わるだけで互換性の問題が生じてしまう、あまり安定しているとは言えない規格なんです。従って今回、端子だけはFireWire 800のものを残し、中身はFireWire 400とすることにしました。FireWire 800用のケーブルは広く普及していますし、Thunderboltコンバーターを利用する際にも便利ですからね。Fireface 802のチャンネル数を扱う程度であれば、FireWire 800を採用する意味はありません。

——— Fireface 802というネーミングに関しては?

MH みんなで話し合って決めたんですけど、Fireface 802はFireWire 800に対応していないわけですから、Fireface 800 MKIIとかではなく、名前を変えなければならない。しかしFireface 801というのは何かピンとこなかったので、最終的にFireface 802にしたんです。

RME - Fireface 802 Interview

——— 今後、Fireface 402も登場するのでしょうか?

MH いまのところ、その計画は無いです。Fireface UCXがFireface 400のポジションにある製品だと考えていますから。まぁ、将来のことはわからないですけどね。

——— RMEが将来的にThunderbolt対応のオーディオ・インターフェースを開発することはありませんか?

MH いや、将来のことはわかりません。ただ、今回の製品に関していえば必要無かったというのは確かです。Thunderboltは、搭載しようと思えばすぐにでも搭載できるんですよ。Intelからチップを買って、それをインプリメントするだけでOKなわけですから。一方、優れたUSBのインターフェースを開発するには、時間もお金も労力もかかります。

——— 最近はDanteやAVB、RAVENNAといったネットワーク・オーディオの規格が話題ですが、それらへの対応に関しては?

MH 我々は、もう何年も前からネットワーク・オーディオに関する研究を続けています。結論から言えば、我々がDanteを採用することは絶対にありません。AVBに関しては、Appleが既にインプリメントしていますし、興味はあるのですが、現時点では採用することはないでしょうね。なぜ、それらの規格の採用に否定的かと言えば、メーカー各社の思惑がいろいろあって、インターフェースの規格としてまったく十分ではないと感じているからです。Dante対応のミキシング・コンソールと、他社のDante対応のマイク・プリアンプを接続しても、実際にはコンソール側から上手くパラメーターがコントロールできないものがほとんどですよ。Danteは最初、AVBをサポートすると言っていましたが、何年経っても実現できていない。RAVENNAも最近、AES67としての規格化をアナウンスしましたけど、私は多分上手くいかないと思っています。

我々としては、現時点ではMADIが最も優れた規格であると考えています。たとえば、そのレーテンシーも、MADIは平均6マイクロ・セコンドです。一方、Danteは約1msのレーテンシーが生じます。また、接続してからマイク・プリアンプのパラメーターがコントロール可能になるまで時間がかかります。MADIの場合は、接続した瞬間からコントロールできるようになります。

ただ、MADIが完璧だと思っているわけではありません。MADIは、ポイント・トゥ・ポイントの規格ですし、その上のレイヤーとなる規格について研究開発を続けている最中です。現在はMADIをメインに製品展開をしていますが、決してそこで止まっているわけではないということですね。