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アレックス・ゴファー、自身のスタジオとシンセサイザー・コレクションを語る

90年代以降のフランスのエレクトロニック・ミュージック・シーンを牽引してきた才人、アレックス・ゴファー(Alex Gopher)。80年代半ば、ロック・バンド Orange(メンバーの2人は、後にAirを結成)のベーシストとしてキャリアをスタートさせた彼は、90年代初頭からダンス・ミュージックの制作を開始。1995年には名作『Gopher E.P.』をリリースし、その名を世界中のクラブ・シーンに一気に知らしめました。そのころからDJとしての活動も本格化させ、1999年には待ち望まれていた初のソロ・アルバム、『You, My Baby & I』をリリース。プログラミングはもちろん、生楽器の演奏からエンジニアリングに至るまで、ほぼすべてをひとりでこなしたこの作品は、世界中の音楽ファンの間で高く評価されました。その後も精力的な活動を続け、いまもなおフレンチ・ミュージック・シーンの第一線で活躍し続けています。

先々週、フランスを訪れた際、Oto Machinesのデニスさんの紹介で、アレックス・ゴファーのプライベート・スタジオにおじゃまする機会を得ました。ここではそのときのもようをレポートしたいと思います。

Alex Gopher
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建物のエントランス

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アレックス・ゴファーのスタジオの入り口

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スタジオ全景

Pro Tools|HDをレコーダー/エディターとして使い、Trident 80Cでサミング

——— 噂には聞いていましたが、すばらしいプライベート・スタジオですね。

AG このステュディオには2006年に引っ越してきたんです。最初は隣りの部屋を仲の良いEtienne de Crécyとシェアしていたんですよ。でも、お互いに仕事が増えてきたので、2011年に私が単独でこの部屋を借りたんです。Etienneは、まだ隣りの部屋にいるので、TR-909が必要なときに借りに行ったりしていますね(笑)。ここでは基本的に自分のプロダクションを行っているんですけど、たまに他のアーティストの作品を手がけることもあります。

——— 音はけっこう出しても問題ないんですか?

AG 上階に住んでいる人は画家なんですが、昼間は仕事に出ているので、ぜんぜん大丈夫ですね。それにこの部屋は少し奥まったところにありますし。スピーカーはGenelec 1030Aで、そんなに大きなものではないですから。

——— スタジオに入って、まず目を惹いたのがコンソールです。これはTridentですね。

AG そう。1992年製のTrident 80Cです。たぶん最後に生産されたものの1台じゃないかと思います。サウンドもルックスもとても気に入っていますね。動作もまったく問題ないですよ。

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1992年製のTrident 80C

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DAWは、Avid Pro Tools|HDシステム。I/Oは、192 I/Oが2台。Pro Tools以外に、Ableton LiveやApple Logic Proを使うこともあるという

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モニター・スピーカーは、Genelec 1030A

——— このコンソールは、どういった使い方をしているんですか?

AG 32chのインプット・チャンネルには、よく使う楽器やアウトボードが常に立ち上げてあります。そしてフレーズが出来たら、Avid Pro Tools|HDシステムにチャンネルごと録音するんです。そして編集などを行った後、最終的にミックスする際は、Pro Toolsの出力を24chパラで、Trident 80Cのテープ・リターンに立ち上げて、アナログでサミングするんですよ。ただ、実際のミックスはPro Toolsのミキサーで行い、Trident 80Cのテープ・リターンのフェーダーは0dB固定ですね。ファイナルの2ミックスは、再びPro Toolsに録ります。

——— Trident 80Cを、キーボード・ミキサー兼サミング・ミキサーとして使用しているわけですね。

AG そんな感じですね。ミックス時は、サミングするだけでなく、EQも使いますけど。Pro Toolsの中でミックスしてしまったほうが便利なことはわかっているんですけど、最後はどうしてもコンソールでミックスしたいんですよね。これはずっと変わらないです。

いちばんのお気に入りは、John Bowen Synth Design Solaris

——— シンセサイザーのコレクションもかなりのものですね。

AG ツマミを触って音作りをするのが好きなので、いまだにハードウェアがメインなんですよ。もちろん、便利なのでソフトウェア・インストゥルメントも使いますけど、割合としてはハードが7でソフトが3という感じでしょうか。エフェクトに関しては、プラグインが8でアウトボードが2という感じですけどね。

——— ここに置かれているシンセサイザーの中で、特に気に入っているものというと?

AG 難しい質問ですね(笑)。どれか1つを選べと言われたら、いまだったらJohn Bowen Synth Design Solarisですかね。ご存じのとおり、これは新しいシンセサイザーなんですけど、昔のシンセサイザーのようなサウンドから、これまで聴いたことがないようなサウンドまで、音色のバリエーションが本当に広いんです。それこそ制限なく音作りができるというか。モジュレーションは縦横無尽にパッチできますし、そのサウンドが“強い”のもいい。フィルターも、Minimoogのラダー・フィルター、Prophet-5 Rev.1と2のSSMチップ、Rev.3のCEMチップ、Oberheim SVFなど、かなり充実しているんですよ。John Bowenは、Prophet-VSやコルグ WAVESTATIONなどの開発に携わってきた人物なので、PPG的なデジタル・サウンドも得意ですし、MinimoogやProphet-5的なアナログ・サウンドもすばらしいです。ただ、音作りは決して簡単ではなく、シンセサイザーの原理や仕組みを理解していないと難しいと思いますね。

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いちばんのお気に入りというJohn Bowen Synth Design Solaris

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コンソールに向かって左側に置かれたラック。上から、最近手に入れたというARP QUADRA、ローランド RS-505、ヤマハ CS-60

——— Solarisは、日本ではまだまだ知られていません。

AG ヨーロッパでもそうです。ごく一部の人しか使っていませんね。しかし最近はこのシンセサイザーが本当に気に入っています。新しく手に入れたシンセサイザーがいちばんのお気に入りというのは、いつものことなんですけど(笑)。あっちのスタンドに置いてあるARP QUADRAも、つい最近手に入れたものなんですよ。だからとても気に入っています(笑)。どちらか1台を選べと言われたらSolarisを選びますけどね。QUADRAは、ちょっと変わったキーボードですから。

——— イタリア産のセミ・モジュラー・シンセサイザー、Grp Synthesizer A8もありますね。実機は初めて見ました。

AG これは2009年にメーカーから直で手に入れたんですけど、22台生産された中の1台です。確か、ハンス・ジマーも使っていますよね。仕様的にはセミ・モジュラー・タイプのシンセサイザーで、パッチ・コードを繋がなくともスイッチで簡単にパッチを切り替えられるのが便利なんですよ。MIDI端子も最初から備わっていて、ステップ・シーケンサーが内蔵されている点も気に入っていますね。オシレーターは全部で6基入っているんですけど、サウンドの傾向としてはMoogっぽいです。私は内蔵のステップ・シーケンサーでプログラムして、ベースとして使うことが多いですね。チューニングもすごく安定していますから。以前、モノフォニック・シンセサイザーをいろいろ買い集めようかなと思っていた時期もあったんですけど、これを手に入れてからあまり興味が無くなってしまいました。約6万ユーロと高かったんですが、それだけの価値はあるシンセサイザーですね。最近は、よりコンパクトなA4も欲しいんですよ。

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世界に22台しかないというイタリア産セミ・モジュラー・シンセサイザー、Grp Synthesizer A8。内蔵シーケンサーで鳴らし、ベース用シンセサイザーとして活躍しているという。手前に置かれているのは、A8用のキーボードとして使われているEnsoniq SQ-80

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Grp Synthesizer A8の背面。MIDI入出力を装備。チューニングもひじょうに安定しているとのこと

——— RSFのblackboxやMutable Instruments Ambika、Shruthi、Oto Machines BISCUITといったフレンチ・シンセサイザーもありますね。

AG blackboxは、Kobol専用というわけではなく、鍵盤のポリフォニックの演奏をモノフォニックのCV出力に変換できる便利なキーボードなんですよ。実際には上手く動作しないことも多いんですけど(笑)。KobolとPolykobolはずっと探しているんですけど、なかなか状態の良いものが見つからないですね。AmbikaとBISCUITは2つとも大好きで、よく使ってますよ。

——— サンプラーは何を使っているんですか?

AG もう何年も前からサンプラーは使ってないですね。サンプラー的なことは、Pro Toolsのオーディオ・トラックやソフトウェア・インストゥルメントで事足りています。たまにTeenage Engineering OP-1を使うくらいですね。

——— この中でいちばん長く使っているシンセサイザーというと?

AG Moog Memorymoogですかね。これも本当にすばらしいシンセサイザーです。シンセサイザーの音色は、基本的にはゼロから作るタイプなんですけど、作った音はなるべくメモリーするようにしています。その点、Memorymoogのようなメモリーできるシンセサイザーは便利ですよね。

——— 3割くらいはソフトウェア・インストゥルメントを使っているとのことでしたが、どんなものを使われていますか?

AG Native Instruments KOMPLETEと、あとはフランスのメーカーのもの……うーん、何ていうメーカーか忘れてしまいました(笑)。

——— Arturia? UVI?

AG そうそう、UVIです。E-mu EmulatorをイミュレートしたEumulation IIはよく使っています。あとはFairlight CMIをイミュレートしたDarklight IIxもいいですね。これもよく使っています。

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レアなフランスRSFのキーボード、blackbox。右側に見えるのは、Teenage Engineering OP-1

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おなじみMutable InstrumentsのAmbika

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同じMutable InstrumentsのShruthi。左側にはローランド SVC-350の姿も見える

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Oto Machines BISCUIT

スプリング・リバーブのあの独特なサウンドをプラグインで出すのは難しい

——— 最近の曲作りのやり方をおしえてください。

AG もうずっと変わっていませんよ。使いそうな楽器の電源をすべて入れて、最初にTR-808やOberheim DXでリズム・パターンを作り、それに合わせてGrp Synthesizer A8のベースをシンクさせる。ぜんぶ内蔵のシーケンサーを使って。そして適当にシンセサイザーを鳴らして、上モノのフレーズを重ねていくんです。鍵盤を弾くのは決して上手くはないんですけどね。ここにあるキーボードは、ARP QUADRA、ローランド RS-505、ヤマハ CS-60以外ほとんどMIDIが付いているので、Pro ToolsのMIDIトラックにレコーディングしていきます。A8を手に入れてからはすっかり出番が減ってしまっているんですけど、MIDIシーケンサーとしてFuture RetroのMobiusを使うこともありますね。やっぱりハードウェア・シーケンサーは直感的でおもしろいので、以前はコルグ MS-20と組み合わせてよく使っていたんですよ。いまはコルグ Maxi-Korg 800DVをたまに鳴らすくらいですけどね。Pro Toolsのほかに、Ableton LiveやApple Logic Proもインストールしてあって、曲作りのときはそれらを使うこともあります。

そして楽曲の基本となる部分が出来たら、私の場合は生楽器を録音していきます。もともとベーシストなので、生楽器を演奏するのが好きなんですよ。隣りに小さなブースがあって、そこにはドラム・セットも置いてあり、ギターやベース、ボーカルなどがレコーディングできるようになっています。もちろん、それらはレコーディング後にPro Toolsでエディットしますけどね。電子楽器ばかり使っていると、どうしてもアコースティックな音が欲しくなるんですよ。

最後はリズム・マシンやシンセサイザーの音もぜんぶPro Toolsにレコーディングして、Tridentとアウトボード、プラグインを使ってミックスします。

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Future Retro Mobius

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後方に置かれたラック。上からSequential Circuits Drumtraks、ローランド TR-707、Moog Memorymoog、コルグ DELTA、Oberheim OB-8

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そのさらに左側には、Oberheim DX、コルグ Maxi-Korg 800DV、ローランド TR-808などが置かれている

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AKAI MPC1000とAvid Mbox 2

——— ミックスは専門のエンジニアに頼まれるのですか?

AG ぜんぶ自分でやります。自分の作品だけでなく、他のアーティストのミックスも頼まれてよく手がけていますよ。

——— アウトボード・ラックには、Klark-Teknik DN 780と並んでレアなDN 50もマウントされていますね。

AG スプリング・リバーブです。私はスプリング・リバーブが大好きなんですよ。その上にはコルグ GR-1もありますし、Trident 80Cの下にはイギリス製のBritish Springというレアなマシンも置いてありますよ。これは1970年代に製作された真空管回路のスプリング・リバーブなんですが、本当に良い音がするんですよ。スプリング・リバーブのあの独特なサウンドをプラグインで出すのは難しいですね。

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コンソール右側に置かれたラック。上からAlesis MuliMix 8 Line、Line 6 Mod Farm、同じくLine 6 Echo Farm、MindPrint En-Voice、コルグ GR-1、Eventide Reverb 2016、Klark-Teknik DN 50、同じくKlark-Teknik DN 780、Universal Audio 1176、同じくUniversal Audio 2-610

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——— いま欲しい機材ってありますか?

AG そうですね……。特定の機材というより、しっかりマスタリングできる環境を整えたいですね。音響面もしっかりさせるのもそうですし、マスタリング・コンソールなども導入したいです。マスタリング系の機材ですと、フィンランドのKnif Audioのアウトボードが欲しいですね。あの会社の真空管EQは本当にすばらしいんですよ。

——— シンセサイザーはもう十分ですか?

AG もうたくさん持ってますからね(笑)。でも、このまえのNAMM Showで発表されたElektronのAnalog Rytmには興味があります。とてもおもしろそうなリズム・マシンですよね。それとコルグがリメイクしているというARP Odysseyも気になっています。

——— ローランドのAIRAはいかがですか?

AG 興味はありますけど、私は本物のTR-808を持っていますし、TR-909のサウンドが欲しいときもEtienneから本物を借りることができますから(笑)。でも、ライブでそれらのマシンを使うときはいいかもしれない。TR-808もTR-909も繊細なマシンなので、できることならライブ会場に持って行きたくはないですからね。

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——— 新製品の情報は常にチェックされるタイプですか?

AG ここには最新のものはあまり無いですけど、やっぱりマシン好きなので常にチェックはしています。しかし私は、いろいろできる機材よりも、単機能のものが好きなので、なかなか“欲しいな”と思う機材には出会わないですね。

——— 日本では年々、古いアナログ・シンセサイザーが手に入りにくくなっている感じがするんですが、フランスではいかがですか?

AG それはフランスというかヨーロッパでも同じですよ。どんどん値段が上がっていってますし、数も少なくなっています。だからeBayをチェックしたりとか……。でも日本にはFive-Gがあるのでうらやましいです(笑)。

——— 最近の活動についておしえてください。

AG 現在は次のアルバムを制作している最中です。内容としてはクラブ向けという感じではなく、ホーム・リスニング向けの電子音楽になってますね。古くさいシンセ・サウンドと、ソフトウェアで生成されたかのような現代的なシンセ・サウンドをミックスしながら作っています。どうにか2〜3ヶ月後には作業を終えて、年末にはリリースしたいと思っています。リリースしたら、また日本にも行きたいですね。最後に行ったのは1年半前なんですけど、本当に大好きな国ですから。

——— DJをするときはPCを使っているのですか?

AG いや、CDです。CDJでプレイするのが好きなんですよ。私はレコードでDJを始めた世代なので、どうもPCでプレイするのが好きではなくて……。だってDJブースでオフィス作業をしているみたいじゃないですか(笑)。

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スタジオの入り口付近

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レコードや資料などが置かれている

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ターンテーブル

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Crumar Multiman-S / Orchestrator

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ヤマハ RX5