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JAPAN EXPO: 「HATSUNE MIKU ENGLISH」がお披露目された『初音ミク・カンファレンス』初日レポート…… 英語版初音ミクはMac版もリリース!

フランス・パリで開催されているジャパン・カルチャーの大規模な博覧会、JAPAN EXPO(2013年7月4日〜7日/於・パリノール見本市会場)。14回目となる今回、来場者数/出展者数は前回よりもさらに増えている印象で、ものすごい盛り上がりを見せております。

会場内には複数のイベント・スペースが設けられ、さまざまな催しが同時進行で行われるのですが、3日目となる昨日は、クリプトン・フューチャー・メディアの代表取締役である伊藤博之氏による基調講演、『HATSUNE MIKU Conference』が行われました。

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この『HATSUNE MIKU Conference』は、3日目と4日目の2日間にわたって行われ、第1回目の昨日のテーマは、“From Software to Culture Phenomenon”。音楽制作ソフトウェアに過ぎなかった初音ミクが、なぜ音楽以外の創作にも用いられ、社会現象となるまでに広がっていったのか、ムービーなどを交えて詳しく語られました。会場となったJapan Expo Stageは、JAPAN EXPOのイベント・スペースでは2番目か3番目に大きな会場なのですが、客席はほぼ満席。フランスだけでなく、ヨーロッパ各国から、初音ミク/VOCALOIDカルチャーに興味のある人たちが詰めかけていたようです。

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伊藤氏は、最初にクリプトン・フューチャー・メディアについて簡単に紹介。音楽制作ソフトウェアの開発と販売を行う会社としては、「日本で一番」とアピールしたあと、VOCALOIDの開発に取り組むきっかけについて語りました。

「私たちは、バーチャル・インストゥルメントというパソコンの中で楽器の音色を生成するソフトウェアをたくさん扱ってきました。ピアノやドラム、オーケストラなど、ほとんどの楽器がバーチャル・インストゥルメントとしてリリースされたのです。

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でも、ひとつだけ足りない楽器がありました。それはボーカルです。そんなときにヤマハで、人間の歌声を合成するVOCALOIDという技術を開発していることを知りました。まだVOCALOIDという名前も付いていない頃です。ヤマハとはすぐに意気投合して、当社でVOCALOID製品をリリースすることになりました。そして生まれたのがMEIKOです。MEIKOは、最初の日本語のVOCALOIDで、最初にキャラクターがデザインされたVOCALOIDです。キャラクターは当時、当社に勤めていた社員が描きました」(伊藤氏)

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そして2006年のKAITOを挟み、2007年、クリプトン・フューチャー・メディア開発のVOCALOID第3段、初音ミクがリリースされます。

「初音ミクでは、新しいVOCALOID 2という技術を用いたため、前の2つと比べると音質がとても自然になりました。また、元の音声の提供者を、アニメの声優さんにお願いしたことで、声もよりかわいらしくなったのです。

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リリースするや否や、初音ミクはインターネット・ユーザーに衝撃を与えました。本物の人間のように歌うバーチャル・シンガーとして、初音ミクの作品はネットで共有され、一気に拡散していったのです。その結果、動画共有サイトでは数十万曲の動画が投稿され、初音ミクが歌うオリジナル曲は10万曲はあると言われています。また、後で紹介する初音ミクのコンサートは、毎回チケットが売り切れるなど、今や初音ミクは、創作の新しい形として注目されているのです」(伊藤氏)

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初音ミクがなぜここまで支持されるようになったのか。伊藤氏は、この現象を読み解く鍵は、“創作連鎖”にあると語ります。

「オリジナルのパッケージ・イラストを元に動画を制作する人が現れると、今度はその動画に登場する衣装でコスプレをする人が現れる。そういった“創作連鎖”が、イラストやアニメーション、3Dモデルとインターネット上でどんどん広がっていき、結果としてミクは“創作連鎖”のハブとして機能するようになっていったのです」(伊藤氏)

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ここで伊藤氏は、クリエイターの創作を支援するクリプトン・フューチャー・メディアの取り組みとして、「piapro」と「MIKUBOOK.com」を紹介。

「「piapro」には、音楽だけでなく、歌詞やイラストなど、さまざまなコンテンツを投稿することができます。そしてそれらのコンテンツは、「piapro」の別のユーザーが使ってもよいというルールを提供しています。こうした環境を整えることにより、「piapro」ではたくさんのコンテンツが生まれ、現在では70万点以上のコンテンツが投稿されています。また「piapro」では、クリエイターが著作権の心配をしなくて済むように、「piaproキャラクター・ライセンス」というライセンス契約をつくり、万人に対して初音ミクのイラストの2次使用を認めています。ただしこの契約では、初音ミクを商売に使ってはならないこと、他の方を誹謗中傷したり、公序良俗に反するような行為を禁じています。ただ、それ以外の2次創作は、公式に認められています。

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そして初音ミクのファンが世界中に広がっていることを踏まえ、世界中のファンが交流するためのコミュニティ、「MIKUBOOK.com」というサイトも開発し、運営しています」(伊藤氏)

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このあと伊藤氏は、「初音ミクによる“創作連鎖”が上手く表現されている」として、Google ChromeのCMムービーを紹介。その後、初音ミクの世界が音楽やインターネット上のコンテンツだけにとどまらず、雑誌や小説、オモチャ、モーター・スポーツ、コンビニエンス・ストア、ゲームなどにも広がっていることを、写真を交えて紹介しました。現在ではステージ上に初音ミクを投影したコンサートも行われ、日本だけでなく、アメリカや台湾など世界中で開催されたことを紹介。このコンサートのムービーは、最終日のJAPAN EXPO会場で上映されるそうです。

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そして講演の終盤、伊藤氏は「初音ミクに関する現在進行形のプロジェクト」として3つのニュースを紹介。11月にシャトレ座で上演されるVOCALOIDオペラ、『THE END』のパリ公演を告知ムービーを流しながら紹介した後、8月30日に横浜アリーナで開催される大規模イベント『マジカルミライ2013』を紹介しました。

「『マジカルミライ2013』では、音楽制作やお絵描きのワークショップのほか、“初音ミク文化”を語るシンポジウム、初音ミクに関する技術や製品の展示なども行い、さらには大きなコンサートも企画しています。チケットはフランスだけでなく、世界中からWebサイトで買えるようになっていますので、この夏、ぜひ日本に遊びに来てください」(伊藤氏)

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ここで伊藤氏は、熱心に聴き入っている聴講者に、あることを呼びかけます。

「私たちは、みなさんが初音ミクを見るためだけに、日本を訪れることが難しいことも知っています。初音ミクのコンサート開催を望むメッセージは、世界中から毎日当社に寄せられています。できる限りそういった声に応えたいと思っているのですが、私たちは初音ミクのファンが、世界のどこに、どれだけいるのか正確には知りません。そこでお願いがあります。みなさんがどこにいるのか、私たちにおしえていただけないでしょうか。そのための投稿フォームを、MIKUBOOK.comに用意しました。ぜひ、MIKUBOOK.com/FindMeから登録してください。どこにどれだけのファンがいるか知ることは、今後コンサートを企画する際に大きな助けとなります。特に初音ミクのコンサートは、準備に大変な時間がかかるため、どこか一都市だけのコンサートはできません。しかしヨーロッパにたくさんのファンがいることがわかれば、ツアーで各国を回ることが可能になるかもしれないのです。どうかこのキャンペーンを他のファンにも広げてください」(伊藤氏)

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そして最後、「初音ミクに関する現在進行形のプロジェクト」の3つめに紹介されたのは、長らく待ち望まれていた英語版初音ミク、「HATAUNE MIKU ENGLISH」。一昨日、突如Webサイト(MIKUENGLISH.com)がローンチされ、ネット上では既に大きな話題となっていましたが、その詳細について伊藤氏が初めて公の場で語りました。

「最後に、開発に長い時間がかかっている初音ミクの英語バージョン、「HATAUNE MIKU ENGLISH」についてお伝えします。私たちが新しいVOCALOID製品を開発する際に心がけていることは、“音楽制作に必要なものをすべてパッケージにして提供する”ということです。これまでのVOCALOID製品の多くは、音楽制作に必要なものが十分に含まれていませんでした。私たちは、この“音楽制作に必要なものをすべてパッケージにして提供する”ということを実現するために、長い時間をかけて製品の開発を行ってきたのです。

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「HATAUNE MIKU ENGLISH」には、英語で歌う初音ミクの音声データベースが収録されています。声優は、日本語バージョンと同じ藤田咲さんです。従って日本語バージョンと同じ声質で、英語で歌わせることができます。

製品には、私たちが開発したVOCALOIDエディターで、VSTにも対応した「Piapro Studio」が付属します。これがあれば、(ヤマハ純正の)VOCALOID Editorが無くても、初音ミクの歌声を作成することができます。従来の製品に比べ、英語の歌詞の入力がとてもスムースにできる点が特徴です。また、VSTプラグインとして機能するので、(DAWソフトウェア上で使用することで)伴奏に合わせながら歌声を作成することもできます。この2つの組み合わせによって、ボーカル・パートをとてもスムースに作成することが可能になります。

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さらに「HATAUNE MIKU ENGLISH」では、ボーカル・パート以外の伴奏なども作成できるようになります。私たちのパートナー企業の協力により、音楽制作に必要なDAWソフトウェア(PreSonus Studio One Artist 2.5 Piapro Edition)が付属します。また、ピアノやドラムといったソフト音源のプラグインも複数付属します。これにより、楽曲のすべてを作成できるようになります。

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つまり「HATAUNE MIKU ENGLISH」には音楽制作に必要なものがすべて含まれており、このパッケージを購入するだけで、その日から音楽制作を開始できるというわけです」(伊藤氏)

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ここで伊藤氏は、さらなるビッグ・ニュースを発表。「HATAUNE MIKU ENGLISH」は、Windows版だけでなく、Mac版のリリースも予定されているとのこと(発売時期は未定)。詳細については明かされませんでしたが、「Piapro Studio」のMac版の開発の目処がついたということでしょうか。

「「HATAUNE MIKU ENGLISH」では、従来のWindows版に加えて、長く要望されていたMac版もリリースされます。音楽のクリエイターはMacユーザーがとても多く、これは日本もヨーロッパも変わりありません。Mac版のリリースにより、初音ミクを使うクリエイターがさらに増えていくことを期待しています。Windows版、Mac版とも、発売日に関しては後日発表します」(伊藤氏)

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ここで「HATAUNE MIKU ENGLISH」のデモ・ソングが披露されました。楽曲制作を担当したのは、札幌在住のbsc a.k.a. kuniさんで、曲は『Come Together』。楽曲制作には「Piapro Studio」が用いられたとのこと。伊藤氏によれば、「HATAUNE MIKU ENGLISH」のデモ・ソングを披露するのは、これが初めてとのことで、そのことが伝えられると会場内は大きな拍手が湧きあがりました。

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「「HATAUNE MIKU ENGLISH」の開発には、とても長い時間がかかりました。データベースの開発だけでなく、「Piapro Studio」の開発、そしてMac版の開発に大変な時間がかかりました。しかし長い時間がかかっただけあって、ひじょうにクオリティの高い製品に仕上がっていると自負しています。発売に関しての詳細は今後アナウンスしますが、海外向けにダウンロード販売も予定しています。「HATAUNE MIKU ENGLISH」に関しては、MIKUENGLISH.comをチェックしてください」(伊藤氏)

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講演が終わると、会場は大きな拍手に包まれ、伊藤氏は写真とサイン攻めにあっていました。この『HATSUNE MIKU Conference』は、最終日に“Art & Entertainment”というテーマで2回目が行われる予定になっています。

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ちなみに会場では、「HATAUNE MIKU ENGLISH」のステッカーが配布されており、さっそくMacBookに貼り付けてしまいました。

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