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Arturia本社スタッフに訊く、NAMMで発表された2種類の新製品:小型版Spark「SparkLE」と、15,000円以下で販売されるミニ鍵キーボード「MiniLab」

アナログ・シンセサイザー MiniBruteが絶好調、1月のNAMM Showでは「SparkLE」「MiniLab」という2種類の新製品を発表し、勢いに乗るフランスArturia社。先日は初のiPad用アプリ「iMini」もリリース、こちらも大きな注目を集めました。そんなArturia本社から、エクスポート・マネージャーのデニス・ダ・シルヴァ(Denis Da Silva)さんが来日しているとの情報をキャッチ。ひじょうに短い時間でしたがお話しを伺うことができたので、インタビュー記事としてまとめてみました。

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——— 今回の来日の目的は?

DS 今回は楽器店のスタッフのトレーニングのために来日しました。主に新しい「SparkLE」の操作方法をレクチャーしにやって来たのです。いつもは東京の楽器店ばかりになってしまうので、今回は名古屋と大阪の楽器店を10店舗くらい回りました。名古屋は初めてだったんですが、東京とも大阪とも違ってとても興味深い街ですね。大阪は2回目で、あの街はファンタスティックで大好きです(笑)。ぼくは日本が大好きなので、トレーニングが終わった後も、プライベートで約1週間過ごす予定なんですよ。ですので街で見かけたらぜひ声をかけてください(笑)。

——— Arturia社の最近のニュースのひとつが、1月のNAMM Showで発表された「SparkLE」です。Sparkもそれほど大きな機材ではないと思うのですが、今回なぜコンパクト・バージョンをつくろうと考えたのですか?

DS Sparkは我々の予想を上回るヒット製品になっているんですが、ここでさらにユーザーの裾野を広げたかったんですよね。というのも、Sparkユーザーから、“スタジオで使うにはちょうど良いサイズだけど、ライブに持って行くにはちょっと大きすぎる”という意見がよく聞かれたんです。それだったら、コンパクト・バージョンのSparkを出せば、ライブ・アーティストやDJといった人たちにも使ってもらえるんじゃないかと。

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——— Sparkと新しい「SparkLE」の違いをおしえてください。

DS 筐体の大きさと操作子の数/レイアウトが違うくらいです。ソフトウェアは同一なので、サウンドや“出来ること”は基本的に同じです。操作子に関しては、パッドの数は8で同じなのですが、Sparkではパッドごとに備わっていた3基のエンコーダーが、「SparkLE」では右上にあるだけになっています。このエンコーダー、ユーザーに話を訊くと、“こんなにたくさん要らない”という人が少なくなかったんですよ(笑)。ですから「SparkLE」では割り切って、右上に3基だけ搭載することにしました。あとはSparkに備わっているLCDディスプレイも「SparkLE」には無いですね。つまり「SparkLE」には、情報を表示するディスプレイは無いということで、すべてはコンピューターの画面で確認するということになります。最初はこの仕様、どうかなと不安だったんですが、NAMM Show会場で「SparkLE」に触れた人に話を訊くと、“こっちの方がプレイに集中できていい”という反応が多かったのでホッとしました。また「SparkLE」は、Sparkが備えているMIDI端子もありません。

——— ソフトウェアと機能は同一で、サーフェースだけが凝縮された仕様という感じですが、「SparkLE」だけの新機能というのは無いのでしょうか?

DS 新しいSpark Software v1.6では、いろいろな機能を簡単に切り替えることができるショート・カットが強化されたのですが、「SparkLE」では最初からそのアップデートを考慮してサーフェースがデザインされているため、ショート・カットへのアクセスはこっちの方が使いやすいかもしれませんね。それと16個のステップ・シーケンサー・ボタンが鍵盤としても使えるようになったのですが、その切り替えに関しても「SparkLE」ならば“TUNE”スイッチ一発で行えます。

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——— Sparkのライバル機であるNative InstrumentsのMaschineは先日、Maschine 2にアップデートされ、サンプリング・リズム・マシンの老舗AKAI Proからは、MPC RenaissanceやMPC Studioといった意欲作が登場しました。このような“コンピューターとハードウェアを融合したグルーブ・マシン”の人気が高まっている理由については、どのようにお考えですか?

DS 我々は、単なるトレンドだとは考えていません。現在のミュージック・プロダクションの中心は間違いなくDAWですし、新しい製品を開発する上で、コンピューターとのインテグレーションというのは絶対に無視できないファクターです。そして特定のソフトウェアの一体感のある操作を実現するには、汎用のキーボード・コントローラーやコントロール・サーフェースでは無理がある。特にこういうグルーブ系のソフトウェアでは、パッドを中心に据える必要があるからなおさらです。そうやって考えていくと、Sparkのような製品が生まれ、それが人気を集めるというのは必然のことなんだと思っています。決して一時的なトレンドではありません。

——— MaschineやAKAI ProのMPCシリーズなどと比較したSparkのアドバンテージというと?

DS 一番は、3種類のサウンド・エンジンを搭載していることでしょうね。Sparkは、我々独自の“TAE”技術によるアナログ・モデリング、マルチ・レイヤードPCM、そしてフィジカル・モデリングと、まったく異なるサウンド・エンジンを3種類搭載しています。アナログ回路のビンテージ・リズム・マシンのサウンドを再現するにはモデリングが最適ですし、PCMのエンジンを使えばユーザー・サンプルを鳴らすこともできる。さらにフィジカル・モデリングを使用することで、モデリングやPCMでは難しい金属っぽい響きのサウンドを作り出すことができます。Sparkでは、これらのサウンド・エンジンを自由に組み合わせて、グルーブを生み出すことができるのです。

第二の特徴としては、シンプルなワーク・フローということでしょうか。Sparkの使い勝手はとてもシンプルで、マニュアルを熟読しなくても直感的に操作することができます。もちろん、中身はひじょうに複雑なので、いくらでも凝った音作りが可能ですけどね(笑)。要はiPhoneなどと同じで、表面の操作体系がシンプルというだけです。このシンプルなワーク・フローは、ライブ・ユースにとても適しています。タッチ・センシティブ仕様のXYパッドである“FXライブパッド”は、ライブ時のエフェクト操作に最高ですし、ルーパーといったエフェクトもインプロヴィゼイションには活躍します。ヨーロッパでは、ライブ・パフォーマンスでSparkとMachineの両方を使うアーティストがけっこういるのですが、それは両方に“ならでは”の特徴があるということなのではないでしょうか。

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——— Sparkユーザーは、ダンス・ミュージックやエレクトリニック・ミュージックのクリエイターが多いと思うんですが、特にこのジャンルの人たちに好まれているという傾向はありますか?

DS “ハウスに強い“とか、“ダブステップに最高”とかアピールできればおもしろいんでしょうけど、ユーザーのジャンルは本当に多岐に渡っていますね。ハウス、テクノ、ダブステップ、ヒップホップ……特定のジャンルのユーザーだけが多いということはないように感じます。Spark Dubstepをリリースしたのは、ダブステップがとても流行っていたからで、Spark Vintageをリリースしたのは、TR-909やTR-808といったレジェンダリーなドラム・マシンの完璧なサウンドを求める声が多かったからです。この2つのソフトウェアは、ユーザーからひじょうに高く評価されていますね。

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——— 「SparkLE」と共にNAMM Showで発表された新製品、「MiniLab」についてもおしえてください。

DS 今回、日本に最終のプロト・タイプを持ってきました。NAMM Showで発表して以降、世界中で引き合いの多い製品なんですが、4月の中旬から下旬にかけて、ようやく出荷できると思います。

「MiniLab」は、USB接続のコンパクトなキーボード・コントローラーです。Analog Experienceシリーズの流れを汲むキーボード・コントローラーなんですが、25鍵のミニ鍵盤を搭載している点と、“Universal MIDI Controller”と謳っていることからも分かるとおり、より汎用性を持たせてある点が特徴です。Analog Experienceシリーズは、キーボード・コントローラーと言うよりは、Sparkと同じようなソフトウェア+ハードウェアのハイブリッド製品という感じでしたからね。もちろん、「MiniLab」にも音源ソフトウェアが付属しているんですが、この製品では“汎用のキーボード・コントローラー”である点を大きく打ち出そうと思っています。

——— なぜ今回、ミニ鍵盤のキーボードを出そうと考えたのですか?

DS 日本人もそうだと聞いていますが、みんなミニ鍵盤が好きなんですよ(笑)。しかしそれはとてもよく理解できます。プロデューサーやDJの多くは、ミュージック・クリエイターではありますが、キーボーディストではないですからね。彼らは大きなキーボードを好みません。デスクの上には、コンピューターのキーボードやマウス、デスクトップ・スタイルのシンセサイザーやガジェット類が置かれているので、入力用のキーボードは小さい方が都合がいいんです。もちろん「MiniLab」は、キーボードがミニ鍵盤というだけで、ベロシティにも対応していますし入力用としては十分な性能を備えてます。

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——— NAMM Showで実機を見て、その薄い筐体デザインがとても気に入りました。

DS 私もお気に入りです。今回、日本で回った楽器店のスタッフたちも、コイツを取り出すと、“うわ、かわいい!”と言ってくれました(笑)。デザインは、もちろんアクセル・ハートマンです。「SparkLE」もアクセルの仕事ですよ。

——— Analog Experienceシリーズは、様々な種類の操作子がたくさん備わっているという印象でしたが、「MiniLab」の鍵盤の上にあるのは8個のパッドと16基のエンコーダーというのが分かりやすくていいですね。

DS 先ほども言ったとおり、汎用性を重視した結果、このようなデザインに落ち着きました。このパッドはドラム専用に見えますが、プレイ・コードというユニークな機能が備わっていて、プリセットしたコードを鳴らすことも可能になっています。ダンス・ミュージックのプロデューサーやDJから、こんな機能が欲しいと前々から言われていたんですよ。もちろん、ベロシティにも対応していますし、便利に使える機能だと思います。

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——— 音源ソフトウェアは、Analog Experienceシリーズと同じAnalog Laboratoryが付属するのですか?

DS いいえ。Analog Laboratoryよりも進化した「Analog Lab」という新しいソフトウェアが付属します。コンセプト的にはAnalog Laboratoryと同じですが、サウンドの数がかなり増えています。Analog Laboratoryのユーザーも心配要りません。無償で「Analog Lab」にアップデートすることができます。

——— 「SparkLE」と「MiniLab」の価格について、おしえてください。

DS 「SparkLE」は日本では32,000円前後なので、Sparkのおよそ半額ですね。実は「SparkLE」、販売されているのはまだ日本だけなんですよ! ヨーロッパやアメリカでは、これから販売が開始されるんです。

——— なぜ日本で先行販売されているんですか?

DS 生産は中国で行っているので、そこから最も近い国だからです(笑)。中国からヨーロッパやアメリカへは船便で送っているので、けっこう時間がかかるんですよ。

価格の話に戻ると、「MiniLab」の販売価格は日本では15,000円を切るんじゃないかと思っています。こんなに良く出来たキーボードと「Analog Lab」の2つで15,000円以下というのは、かなりお買い得なのではないでしょうか。「Analog Lab」は、単品販売の予定は無いので、欲しい方はぜひ「MiniLab」をお求めください(笑)。

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——— 「iMini」についてもいろいろ訊きたかったのですが、もう時間が無くなってしまいました。

DS 我々は長年アナログ・シンセサイザーをモデリングしたソフトウェアを開発してきましたから、そのiOS版をリリースするというのは必然的な流れだったと思います。みんなiPadのことが大好きですからね。その第一弾がMinimoogだったというのも、妥当なセレクションだと思います。実は今回、私はiPadを持って来てないんですよ。私は正直、あのアプリについてはあまり詳しくないんです(笑)。

——— 4月にはMusikmesseが開催されますが、そこでも何かニュースはありますか?

DS 現在、Sparkと同じソフトウェアとハードウェアを組み合わせた新しいハイブリッド製品の開発を進めています。Musikmesseでお披露目できるかどうかは分かりませんが、ぜひ期待していてください。

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フックアップ: Arturia

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