MUSIKTECHNIK
日本映画界を代表する録音技師、中村淳さんの「火星探査車」のようなPro Toolsラック
昨日、映画の録音技師、中村淳さんの仕事場にお邪魔してきました。中村淳さんは、『突入せよ！ あさま山荘事件』（2002）、『日本沈没』（2006）、『あしたのジョー』（2010）、『愛と誠』（2012）、最近では伊藤英明主演の話題作『悪の教典』など、数多くの作品の録音を手がけてきた日本映画界の大御所です。
中村さんはまた、日本の映画の撮影現場で、マルチチャンネルで同録を始めた最初の録音技師でもあります。DAWを撮影現場に持ち込まれたのも早く、PowerBook／MacBook ProとMagmaの拡張シャーシの組み合わせは、これまで何式も使い潰してきたとのことです。
そんな中村さんに昨日、最新の“録音マシン”を見せてもらったのですが、これが非常にカッコ良かったのでここでご紹介します。
いかがでしょう。火星探査車みたいでとてもカッコ良いです。これは現在、中村さんが録音時に使用しているPro Toolsシステムで、特注ラックの中に、ヤマハ DM1000（デジタル・ミキサー。収録／モニター用に使用。MADI入出力用のMini-YGDAIカード、MY16-MD64を装着）、Magma ExpressBox 4（PCIeカード×4拡張シャーシ。Pro Tools|HD CoreカードとAccelカードを装着）、Avid HD MADI（Pro Tools|HD用MADIインターフェース）、ローランド S-MADI（REAC-MADIコンバーター。Digital Snakeの入出力をMADIに変換するために使用）、SSL MADI-X8（MADIルーター／スプリッター）といった機材が収められています。
DM1000の上側には、Pro Tools HD Softwareが走る17inch MacBook Pro用の可動式トレーを装着。ラック手前にも、Apple Wireless KeyboardとMagic Trackpadが貼付けられた可動式トレイが取り付けられています。
録音時のヘッドアンプ／ADコンバーターは、ローランド Digital Snake S-1608。ここに収録用のマイクが入力されます。S-1608は役者さんが演じる場所のすぐ近くに設置され、中村さんは収録音をしっかりモニターしなければならないため、少し離れた静かな場所に陣取ります。以前は太くて重いアナログ・マルチ・ケーブルを引き回していたそうですが、Digital Snakeを導入してからは細くて扱いやすいCAT-5eケーブルでよくなったため、配線もずいぶんラクになったとのこと。そしてこのCAT-5eケーブルのREACは、ラック内のS-MADIによってMADIに変換されます。
少し前まではS-MADIとHD MADI、HD MADIとDM1000（MY16-MD64）が相互にMADI接続されていたそうですが、それだとルーティングが固定されてしまうため、「どうにかしてMADIの各チャンネルを自由にルーティングできないか」とずっと考えていたとのこと。そんなときに登場したのがSSLのMADI-X8で、3台のMADI機器（DM1000、S-MADI、HD MADI）をすべてこの機材に繋げておくことで、コンピューター上で自由自在なルーティングが可能になったとのことです。
システムの概要は以上のような感じなのですが、どうしても注目してしまうのが、そのラック。大径の車輪は、撮影現場内の移動のしやすさを重視して選定されたとのことで、タイヤが大きいぶん、段差による衝撃を吸収する役割も果たしているとのこと。また、MacBook Pro用の可動式のトレイは、中村さん自らアルミを削り出して製作したとのことです。
撮影現場での使いやすさを追求し、頻繁にアップデートされる中村さんのPro Toolsラック。現在はPro Tools|HDXシステムへの移行を検討しているとのことでした。
