AES 2012 San Francisco
AES2012: 噂の“アーケードDAW”、Slate Pro Audio「Raven MTX」をチェックしてきました
AES直前に予告動画が公開されたSlate Pro Audio社の大型新製品「Raven MTX」は、代表であるスティーヴン・スレート自らデモを行い、大変な注目を集めていました。
ちょこっとムービーを録ってきましたので、まずはそれからご覧ください。
「Raven MTX」については、こちらで説明していますので、そちらを参照していただきたいのですが、簡単に言ってしまえば大型のタッチスクリーンを搭載したDAW用コントロール・サーフェース。Pro Toolsなど、代表的なDAWのほとんどに対応し、録音〜編集〜ミックスといった操作を指先で直感的に行えるように設計されています。もちろん、タッチスクリーンの手前には、キーボード&トラックボール(マウス)が配されているので、細かい操作はこれまでどおりそれらを使って行うことが可能。キーボード&トラックボールの両脇には、デジタル・コントロール&100%アナログ回路のモニター・セクションも備わっています。
それにしても、実物はかなりインパクトがあります。予告動画が公開された直後、「アーケード・ゲーム機みたい」という声がチラホラ聞かれましたが、まさしくそんな感じ。タッチスクリーン操作を補完する役割を持った専用の「Raven Software」には、作業の息抜き用にパックマンやスパルタンXなどを搭載した方がいいのではないかと思います。
気になるタッチスクリーンの操作感なのですが、予告動画では材質などにかなりこだわったと説明されていましたが、指先の滑りや反応はごくごく普通といった感じ。フェーダーを操作しようと指先を縦に動かすと、少し引っかかる(あまり滑らかではない)感じもしました。ぼくの脇にいた人も同じようなことを感じたのか、スティーヴン・スレートに「うーん、あんまりスムースじゃないね」とか言っていたのですが、それに対してスティーヴンは、「それは指先の腹で操作しているから良くないんだ。爪を立てて操作してみてくれ」と反論。それを聞いたぼくは、さっそく爪を立てて操作してみたのですが、確かにその方が滑りがよく、より細かい操作が行えました(笑)。まぁ、これから改善されていくのかもしれませんが、タッチスクリーンの操作感は「それなり」といった感じです。iPhoneやiPadなど、Apple製デバイスの滑らかさ/反応の良さを期待していると、ガッカリするかもしれません。
また別の人は、「これ、タッチスクリーンが大きすぎるんじゃないの? 一番上のプラグインのところまで手を伸ばすのが大変だよ」と言っていました。確かに、人によっては少し高めの椅子を用意した方がいいかもしれません。さらに別の人は、「おもしろいアイディアだけど、キーボードの脇に1本だけでも物理フェーダーが欲しかった」と言っていました。確かに1本あると便利かもしれませんが、それはこの製品のコンセプトに反するので、たぶん取り入れられることはないでしょう。
勝手に解釈してしまっていますが、この製品の大きなコンセプトは、物理的な操作子と視覚的なフィードバックを一体にすることにあるのだと思います。アナログ機器と比較した、ソフトウェアとコントローラーを組み合わせたデジタル・システムの一番の問題は、操作を行うのはコントローラーに備わったフェーダーなどでも、視線はそれらではなく、コンピューターの画面に向けなければならないことでした。「操作するもの」と「目で確認するもの」が乖離してしまっていたのです。昔のアナログ機器、たとえばミキシング・コンソールではもちろん、そんなことはありませんでした。どうにかして、昔のアナログ・コンソールのような感覚でDAWをコントロールできないか……この思いを突き詰めていったら、タッチスクリーンを搭載したこのスタイルに行き着いたということでしょう。
手前のキーボードの両脇に用意されたモニター・セクション。左側には、USB端子やiPhoneやiPodを直接挿せるDockコネクターも用意されています。スティーヴン・スレートはポケットから自分のiPhoneを取り出して装着、音楽を再生してアピールしていましたが、リリース時はLightningコネクターになるのでしょうか。
強引に後ろに入って行って、背面を撮影。本体には、アメリカでは評価の高い(でも日本ではイマイチの)Lynx社のオーディオ・インターフェース「Aurora 8」が搭載されていました。オプション・カードによって、Pro Tools|HD/HDXシステムにダイレクトに接続できるオーディオ・インターフェースです。
背面には、開発と製作に携わった方々のサインが。スティーヴン・スレートの熱い思いが伝わってきます。
後方には、「Raven MTX」の心臓部となるMac Proが置かれていました。もしかしたら、Mac Proも内蔵しちゃってるのでは?と思ったのですが、そんなことはありませんでした。Mac Proと「Ravem MTX」は、モニター・ケーブルとUSBケーブル、そして「Aurora 8」用のDigiLinkケーブルで繋がっていました。Mac Proを内蔵していないんだったら、「Aurora 8」も別に内蔵しなくていいんじゃないの?と思ってしまいますが、モニター回路との接続のことを考えると、内蔵してしまった方が配線がシンプルになるのでしょう。レコーディング用のオーディオ・インターフェースは、別途用意して使用するスタイルなんだと思います。
「Raven MTX」、今回のAESコンベンションの目玉であることは確かで、Slate Pro Audioブースは常に多くの人でごった返していました。スティーヴン・スレートの力の入りようもハンパなく、Slate Pro Audioブースには他にソフトウェア/プラグインのデモ用のノートPCが1台置かれていただけで、あとは「Raven MTX」のみ。Dragonなどはどこにも見当たりませんでした(笑)。それにしても「Raven MTX」、要注目のシステムです。
Slate Pro Audio
ICON: AES2012: Slate Pro Audio、マルチタッチ・スクリーンをフィーチャーしたDAWコントロール・システム、「Raven MTX」の予告動画を公開