AES New York 2011

AES: Softube ニクラス・オデルホーン氏に訊く

最近、日本でも人気のプラグイン・デベロッパー、Softube。最新作のSummit Audio TLA-100Aも大好評のようです。

Softubeは大学時代の友人4人組でスタートしたというおもしろい会社で、メンバーは全員イケメン&長身。十分モデルでも食っていけそうなのに、こんな素晴らしいプラグインを作ってしまうんですから、その恵まれた才能に嫉妬してしまいます。そんなちょっと憎たらしいけどナイス・ガイ、Softubeのニクラス・オデルホーン(Niklas Odelholm)さんに話を訊いてみました。

——— Summit Audio TLA-100Aをプラグイン化することになったきっかけは?

NO Softubeのメンバーは皆、TLA-100Aが大好きだったので、何年も前からSummit Audioにアプローチしていたんだよね。“自分たちにプラグイン化させてくれないか”って。でも、彼らはそれを嫌がった。そんなことをしたらハードウェアが売れなくなってしまうじゃないかってね。しかしぼくらが熱心にアプローチするうちに、彼らの考え方も変わってきたんだ。プラグインを出すことが、ハードウェアの良いプロモーションになるんじゃないかって。それでようやくプラグイン化することができたんだ。非常に満足のいくものに仕上がったし、大好きなTLA-100Aをプラグイン化できてとても嬉しいよ。

——— 既存のハードウェアをプラグイン化する際は、Softubeサイドからメーカーにアプローチするのですか?

NO Summit Audioのようにぼくらからアプローチすることもあれば、メーカー・サイドから話が来るときもある。ただ言えるのは、スタート・ポイントがどっちであっても、僕らは自分たちが本当に好きなものしかプラグイン化しないということ。“あれをプラグインで出したら売れるだろうな”とか、そういうことは考えないようにしているんだ。なるべくね(笑)。

——— TLA-100Aの良さというと?

NO 何より誰でも簡単に使えるのが素晴らしいよね。それにそのサウンドは、この上なくスムースだ。また、ノブを適当に回すだけでも“正しい音”が得られる。本当によく出来たアウトボードだよ。

——— Softubeのプラグインは、日本でも非常に高く評価されています。既存のハードウェアをプラグイン化しているデベロッパーはいくつもありますが、その中でSoftubeが特に秀でている点というと?

NO シミュレートしようと思ったハードウェアを分解し、パーツ・レベルからモデリングしていくという手法自体はどこも一緒だと思う。でも、Softubeのプラグインはとても数学的に出来ているんだ。それが他との違いかな。

Softubeのメンバーは4人とも、数学を専門としている。学生時代は数学しか勉強していなかったと言ってもいいくらいで(笑)、大学では信号処理の修士号を取得した。そんなバックグラウンドがあるので、ぼくらのプラグインのアルゴリズムはとても数学的なんだ。言い替えれば非常に正確とでも言えばいいのかな。ぼくらのように数学的なアプローチでプラグインを開発しているデベロッパーは他には存在しないと思うよ。ぼくの知る限りはね。

——— シミュレート対象となるハードウェアはどうやって手に入れるのですか? 特にヴィンテージものだと、状態の良いものを手に入れるのは大変なのではないでしょうか。

NO もういろいろだね。自分たちが持っているものをそのままシミュレートすることもあるし。TLA-100Aの場合は、Summit Audioから新品を送ってもらったよ。

——— 今回のAESでは、Pro Tools 10とPro Tools|HDXが発表されました。Pro Tools|HDXについてはどういった印象をお持ちですか?

NO Pro Toolsの大きな進歩だよね。間違いなくPro Toolsは正しい方向に進んでいると思う。それにHDXカードは、何年も使っていけるハードウェアとして仕上がっているのが素晴らしいと思った。Avidもそれを目指して開発したんだろうけど、見事に成功したと思うよ。

——— DSPベースのPro Toolsはもう出ないのではないかという話もありました。すべてネイティブになるんじゃないかと……。

NO セミプロ・クラスだったらネイティブでもいいと思うけど、ポストプロダクション・スタジオのような大規模な現場ではそうはいかないよ。ハイエンド・ユーザー向けにはDSPベースのシステムは必須だ。

——— SoftubeのプラグインはすべてAAXに対応しますか?

NO もちろん。今のところの予定では、11月1日にリリースする。最初のバージョンから全プラグイン、AAX DSPとAAX Native、両対応だよ。64bitへの準備も万全で、Pro Toolsが64bit化したら、すぐにでも対応バージョンをリリースできる。

——— とても早い対応ですね。

NO いつかは言えないけど、AAXに関してはAvidが開発に着手して間もない頃から、いろいろ意見を訊かれていたんだ。ぼくらはそれに対してフィードバックを返したりしていたんだよ。だからそのアーキテクチャーは熟知していたんだ。でも、実際に開発に着手したのは2〜3ヶ月前だよ。

AAXプラグインの開発は、それほど難しいものじゃない。TIのDSPに思ってもみなかったような制限があったので戸惑ったけど(笑)、それを乗り越えたら後は簡単だった。

——— 新しいPro Tools|HDXでは、浮動小数点演算が採用されました。このことがサウンドに与える影響についてはどう考えていますか?

NO 確かに整数演算と浮動小数点演算では技術的な違いがあるんだけど、僕らはその違いが音に現れないようにプログラミングしている。同じプラグインだったら、TDMとRTASでサウンドに違いが出るなんてことがないようにね。でも浮動小数点演算だと、無制限のヘッドルームが得られる。ユーザーにとっては、音の違いよりもこっちの方が大きいんじゃないかな。

——— Softubeは、Brainworxのbx_digitalをTDM化するなど、外部の仕事も受注していますよね。

NO いや、最近はもうやっていない。スタッフが4人しかいないからね。いまは自分たちの仕事に専念しているよ。

——— 日本ではTeenage EngineeringのOP-1が大ヒットしているのですが、このメーカーの人たちのことは知っています?

NO OP-1はぼくらも大好きだよ! 非常にユニークなシンセサイザーだ。Teenage Engineeringの連中のことはよく知っている。OP-1同様、とてもクールな連中で、たまにご飯を食べに行ったり、お酒を飲みに言ったりしているよ。

——— それにしてもスウェーデンのメーカーは最近勢いがありますね。

NO ぼくらの国には寒くて暗い冬があるからね。家に籠って何かをやるしかないから、OP-1やプラグインが出来てしまうんだ(笑)。

——— 次のプラグインも非常に楽しみなのですが……。

NO もちろん、いろいろやっているよ。でも具体的な製品名は言えない(笑)。楽しみに待っていて。