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製品開発ストーリー #31:Arturia DrumBrute 〜 100%アナログ音源の新世代フレンチ・ドラム・マシン、満を持してデビュー!

10月初旬に突如発表され、大きな注目を集めたArturiaの新製品「DrumBrute(ドラムブルート)」が遂に明日(12月23日)、国内でも販売が開始されます。

DrumBrute」は、Arturiaが約3年の研究開発期間を投じて完成させた新世代ドラム・マシン。17種類のドラム/パーカッション・サウンドを生成する音源部は100%アナログ回路で、ドラム・マシンながらBruteシリーズ直系のSteiner-Parkerフィルターも搭載しています。フル・アナログ回路ということで、つい音源部に目がいきがちな「DrumBrute」ですが、メーカーが同じくらい強くアピールしているのは、シーケンサーの使いやすさと機能。BeatStepシリーズを元に開発されたというシーケンサーは、TRスタイルのステップ入力とリアルタイム入力の両方に対応し、パート単位とグローバルの2段階でかけられる『スウィング』、1つのパターンから様々なバリエーションを作り出すことができる『ランダムネス』、トリガー・ポイントを前後にオフセットできる『マイクロ・タイミング』など、使いでのありそうな機能を数多く搭載しています。

フル・アナログ音源のドラム・マシンでありながら、定価70,000円(税別)と高いコスト・パフォーマンスも魅力の「DrumBrute」。発売前に来日したArturiaのエリア・セールス・マネージャーのアントワーヌ・バリー(Antoine Barry)氏に、同機の開発コンセプトと詳細について話を伺いました。

Arturia - DrumBrute

100%アナログ回路の音源を搭載した「DrumBrute」

——— 「DrumBrute」の発表は10月初旬のことでしたが、Bruteシリーズのドラム・マシンが登場するとは思っていなかったので、なかなかインパクトがありました。開発はいつ頃スタートしたのですか?

AB 約3年前のことです。ですからけっこう時間がかかりましたね。

——— 約3年前というとMicroBruteの発表直後ですが、開発のきっかけは何だったのですか?

AB MiniBruteMicroBruteの開発動機と同じなのですが、アナログ音源のドラム・マシンの敷居がとても高かったからですね。我々は、できるだけ多くの人たちにアナログ音源のドラム・マシンを提供したいと考えたんです。市場にはアナログ音源のドラム・マシンが無いわけではありませんでしたが、かなり高価で、気軽に入手できるものではありませんでしたから。また、操作性の面でも不満がありました。ヴィンテージ・マシンの操作はとてもシンプルですが、最近の製品はインターフェースが煩雑で、とにかく使いにくい。操作子のレイアウトも意味不明だったり……。そう感じることはありませんか?(笑) ですから100%アナログ回路の音源を搭載し、操作性に十分配慮した現代のアナログ・ドラム・マシンを作ろうと考えたのです。

——— 開発チームはBruteシリーズと同じですか?

AB 音源部は、Bruteシリーズのチームが設計しました。一方、シーケンサーやインターフェース部分に関しては、BeatStepシリーズのチームが開発を行っています。我々はBeatStepシリーズの開発を通して、シーケンサーのノウハウをかなり培うことができました。「DrumBrute」では、BeatStepシリーズのコンセプトを元に、より進化させたシーケンサーを搭載しています。ちなみに開発チームは現在、BeatStepシリーズの新しいファームウェアの開発に取り組んでおり、「DrumBrute」の開発で得たノウハウは、今度はBeatStepシリーズにフィードバックさせる予定です。

——— 開発コンセプトとしては、アナログ回路の音源を搭載し、操作性に優れたシーケンサーを備えたドラム・マシンという感じでしょうか。

AB 最も重要なコンセプトは、音源部が100%アナログ回路であるということです。それと使いやすく、ユーザーの創造力を刺激するようなシーケンサーの実装。また、パラ・アウトやDIN SYNC端子など、ユーザーが欲しそうな機能は省くことなく搭載しようと考えました。そういった部分を端折ってしまうことで、機材の可能性は一気に狭まってしまうものです。そして高いコスト・パフォーマンスを実現することも、「DrumBrute」での大きなチャレンジでした。

Arturia - DrumBrute

Arturiaのエリア・セールス・マネージャー、アントワーヌ・バリー(Antoine Barry)氏

使い手のクリエイティビティを刺激する充実のシーケンサー

——— 「DrumBrute」の概要をおしえてください。

AB 「DrumBrute」には、ドラム/パーカッション・サウンドが計17種類用意されています。音色は完全にアナログ回路で生成しているので、すべて同時に発音させることが可能です。シーケンサーは64ステップ仕様で、いわゆるTRスタイルのステップ入力とリアルタイム入力の両方に対応しており、計64種類のパターンをメモリーすることができます。シンプルで非常に使いやすいシーケンサーなんですが、“これが欲しかった!”という機能がいくつも盛り込まれていると思いますよ。本当に良く出来たシーケンサーで、個人的にもかなり気に入っています。

——— それでは音源ではなく、先にシーケンサーについて話を伺います。具体的にはどのような機能が備わっているのですか?

AB ドラム・マシンの基本機能として、シーケンスをシャッフルさせる『スウィング』がありますが、「DrumBrute」ではパートとグローバル、2段階でかけられるようになっています。例えば、ハイハットだけパート単位の『スウィング』でハネさせ、グローバルの『スウィング』で全体のグルーヴを調整する…… といったことが可能です。

そして打ち込んだパターンから新しいパターンを生み出す『ランダムネス』という機能も備わっています。普通『ランダムネス』というと、ベロシティやハネ具合をバラけさせる機能だったりしますが、「DrumBrute」の『ランダムネス』ではトリガー・ポイントをランダマイズします。従って、シーケンスが空のパートには作用しません。この機能を活用することで、1つのパターンからいくつものバリエーションを作り出すことができます。そしてこの『ランダムネス』も『スウィング』同様、パートとグローバルの2段階でかけることができます。

Arturia - DrumBrute

「DrumBrute」の右上部。上側にはSteiner-Parkerフィルターの操作子、下側には『スウィング』と『ランダムネス』、『ビート・リピーター』の操作子が備わっている

——— 『スウィング』を調整する“Swing”ノブと『ランダムネス』を調整する“Randomness”ノブの右側に、4段階(1/4、1/8、1/16、1/32)のタッチ・ストリップのようなものが備わっていますね。これは?

AB これは非常に便利なコントローラーで、Rec時には記載されている音符の間隔で、一気にトリガー情報を記録できるボタンとして機能します。例えば、4分打ちのキックを入力する場合、“1/4”と記されている部分に指を置くだけで、4分音符間隔でトリガー情報を記録することができるのです。16分のハイハットの刻みなんかも入力が面倒だったりしますが、“1/16”という部分に指を置くだけで一気に入力できます。また、Rec時ではなくプレイバック時に使用した場合は、連打用の『ビート・リピーター』として機能します。

先ほどの『スウィング』と『ランダムネス』、そしてこの『ビート・リピーター』の3つを総じて、パターン・エフェクトと呼んでいます。

——— パターンごとにステップ数を設定することもできますか?

AB もちろんです。“Last Step”ボタンでパターンの長さを設定することができます。1ページあたり16ステップなので、4ページ使えば64ステップになります。16ステップのパターンを後の3ページにコピーして、ページごとに微妙にパターンを変えたりといったことも可能です。ポリリズム・モードに入れば、パートごとに異なるステップ数を設定することもできますよ。

——— リアルタイム入力にも対応しているとのことですが、その場合はクオンタイズを切ることもできるのですか?

AB はい。正確にはステップ間を100で割ったレゾリューションになります。そしてグルーヴを微調整したいときに活躍するのが、『マイクロ・タイミング』という機能です。『マイクロ・タイミング』を使うと、“Swing”ノブによって、ステップ間を100で割ったレゾリューションでトリガー・ポイントをオフセットできるのです。もちろん、『スウィング』後のトリガー・ポイントを前後にオフセットできるので、本当に微妙なグルーヴを作り出すことが可能です。

——— パターンを繋いでソングを作ることもできますか?

AB できます。最大16種類のパターンを繋いで、最大16種類のソングを作成することが可能です。

Arturia - DrumBrute

“808派”と“909派”のために、キックは2種類用意

——— 音源部は100%アナログ回路とのことですが、どのように音色を決定していったのでしょうか。やはり往年のヴィンテージ・マシンの音色を参考にしたのでしょうか?

AB ヴィンテージ・マシンの音色も参考にしましたが、「DrumBrute」は過去の製品を再現したマシンではありません。最終的には付き合いのあるアーティストにも意見を訊きながら、人間の耳で音色を追い込んでいきました。アーティストは偏りがないように、制作メインの人とライブ・メインの人、双方の意見を訊きましたね。アーティストへのインタビューは、「DrumBrute」の音色を決定する上で、とても大きかったと思います。

——— 各音色を決定するのもそうですが、ドラム・キットとして全体のバランスを取るのは大変だったのではないですか?

AB おっしゃるとおりです。非常に苦心した部分ですね。単体で聴くと良い音色でも、キットで鳴らすと打ち消しあう帯域が出てしまったり、妙な位相のズレが生じてしまったり……。そのあたりは複数の回路パターンを用意して、時間をかけて調整していきました。音量はもちろんこと、いくつかのパラメーターに関してはユーザーに開放しているわけですから、どんな設定値でもドラム・キットとして破綻しないように考慮しています。

——— キックのみ2種類の音色を用意したのは?

AB 答えはシンプルで、世の中には808派の人と909派の人がいるからです(笑)。キックの音色をどちらかに寄せるのは嫌だったので、それだったらそれぞれのフレーバーを持った音色を両方とも搭載してしまおうと。一方はピッチに、もう一方はディケイにこだわった音色になっています。これでどんな音色か想像がつくのではないでしょうか(笑)。

——— リバース・シンバルが用意されているのもいいですね。

AB リバース・シンバルは、「DrumBrute」の特徴の1つだと思っています。現在主流のダンス・ミュージックでは、リバース・シンバルはアクセントとして欠かせない音色になっていますからね。でも、開発当初は搭載する予定はありませんでした。「DrumBrute」は、100%アナログ回路の音源ということをコンセプトにしていたので、いくらトレンドの音色とはいえ実装するのは難しいと考えていたのです。

——— アナログ回路でリバース・シンバルをどのように実現したのですか?

AB 申し訳ありませんが、企業秘密です。というより、わたしもその仕組みについては知らされていません(笑)。開発チームは、“偶然によって実現できた”と言っていました。それでも当初は搭載するつもりはなかったようなのですが、あるアーティストに試聴してもらったところ、“これは良いチョイスになる”と実装を勧められたようです。

——— 本当に“100%アナログ回路の音源”ということにこだわって開発されたのですね。

AB 繰り返しになりますが、フル・アナログ音源というのは、「DrumBrute」の最も重要なコンセプトです。先日も“リバース・シンバルや金物だけでもPCMにするつもりはありませんでしたか?”と訊かれましたが、そういったハイブリッド回路の音源は一切検討しませんでした。だからと言って、デジタル回路の音源を否定しているわけではありません。デジタルにはデジタルの良さがあります。ただ我々は「DrumBrute」で、アナログならではの質感を持ったドラム・マシンを作りたかったのです。今の時代に、そこまでアナログにこだわる必要もないのではないかと言う人もいるかもしれません。しかし我々は、この愛着の持てるアナログ・サウンドを、できるだけ多くの人たちと共有したかったのです。

Arturia - DrumBrute

——— 出力段にBruteシリーズでお馴染みのSteiner-Parkerのフィルターを搭載したのは?

AB これは奇をてらったわけではなく、Steiner-Parkerのフィルター特性がドラムによく合っていると思ったからです。Steiner-Parkerは、とても興味深い特性を持ったフィルターです。一般的なフィルターは、レゾナンスを上げていくと低域が失われていきますが、Steiner-Parkerのフィルターはレゾナンスを上げていってもボトムがキープされるのです。従ってクラブで大音量で鳴らしながらフィルターをかけても、グルーヴはしっかり保たれます。なおSteiner-Parkerのフィルターは、マスター・アウトに対してのみ作用し、パラ・アウトにはかかりません。

——— 安易にデジタル・エフェクトを搭載していないのがいいなと感じました。

AB 我々が「DrumBrute」でこだわったのは、アナログならではの質感です。その後のエフェクトはユーザーに委ねた方がいいと考えました。それに想定していたターゲット・プライスを実現するため、余計な機能は極力搭載しないようにしたのです。パラメーター変化をシーケンスさせる機能もあった方がいいんじゃないかという意見もありましたが、そうなると別にデジタル・プロセッサーを搭載しなければなりませんし、「DrumBrute」ではコスト・パフォーマンスの方を重視したのです。

——— 開発にあたって苦労した点というと?

AB やはり音色を決定するプロセスでしょうか。ヴィンテージ・マシンの再現ではないわけですから、音決めにはかなり時間がかかりました。シーケンサーの開発も苦労しましたが、BeatStepシリーズという叩き台があったので、音決めほどは大変ではありませんでしたね。

——— アントワーヌさんが個人的に気に入っている機能をおしえてください。

AB 何と言ってもシーケンサーですね。『スウィング』、『ランダムネス』、『マイクロ・タイミング』といった機能によって、複雑なグルーヴを簡単に作り出すことができます。自分で打ち込んだパターンを再生するだけでなく、偶発的にパターンを生み出せる点は、他のドラム・マシンと比較した「DrumBrute」の大きなアドバンテージですね。1回いじり始めると、誰かに声をかけられるまで止まらなくなります(笑)。でもそれって、こういう機材では重要なことですよね。

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